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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
5 第一王子の外遊
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3 王都を目指す

「うん、皆細身で良かったね」


 向かいに座る王子は満足気に微笑むとそう言った。ヘイワード師団長は相変わらずの無表情だが、対照的にエリック王子はご機嫌である。私は右に偽ルルーシュ元辺境伯、左に結界魔導士に挟まる形で着座している。以前よりもやや狭くなったが、護送用の馬車は後手に拘束されて運ばれた時に比べればはるかに快適である。


 それにしても、向かいに座るエリック王子は、私がガリ王子で良かったと揶揄った事を根に持っているのではないかと思えるくらい満面の笑みだ。口に出した事は無い筈なのだが……

 そもそもヘイワード師団長の図体が大きいので王子側もスペースは少なめなのだ。


「それにしても、樹海を抜ける道筋を選ぶとは盲点だったね」


 王子の言葉に対していつも律儀に返してあげる偽ルルーシュ元辺境伯ことラルフはやや青い顔でどこを見ているのやら、その目は半分程閉じられている。当然ながらヘイワード師団長は黙して語らずだ。ここは私がガリ王子の相手をするべきなのかと思っていたところに、左側から『恐れ入ります』と、声がした。

 左が優秀な人でヨカッタと私はひっそり思うのだった。右は衝撃が収まるまでは役に立たないだろう。



 昨夜の事だが、アーテル王都まで案内役として辺境伯の館を訪れた結界魔導士ポンビーニャは、自己紹介がてら、今後の行程を教えてくれた。


「樹海を抜けて、北西にある非武装地帯を東へ通過する事で待ち伏せを防ぎます」


 地図を広げて指で示しながら説明するのだが、進むほどにドラン伯爵の顔色が悪くなり、ヘイワード師団長は難しい顔をし、それを見た魔法師団員がざわついた。そんな中でもガリ王子は安定稼働の微笑みを浮かべて『面白い』と言ったのだが、正直私はよくわからない。

 ポンビーニャの説明はその間にも続いた。


「非武装地帯に接するバルデ領まで来れば、オリヴィエさまが迎えを出すと仰っていました」


「非武装地帯……とは?」


「紛争の非武装地帯だよ。アーテル国の北郷地域に暮らすナゴ族の子供が七年前に先王を殺害した事が原因で紛争が起きたと聞いたのだけど、あっているのかな?」


 私が遠慮がちに訊ねると、エリック王子が解説してくれた。ラルフの言う通り、アーテルの情勢には詳しいらしい。ポンビーニャは頷くと、『私もそのように聞いています』と応えた。


 七年も王が不在の国って……そもそも安全ではないのでは?


 思えば、ラルフからアーテルの地理や歴史を付け焼き刃でも教えてもらおうとしていた矢先に矢継ぎ早に王妃達に会わされて時間が取れなかったのだ。今更な話だが……


「ポンビーニャは、ナゴ族の血が入っているのかな?」


「はい。非武装地帯の顔役に通して貰います」


 ヘイワード師団長の顔が幾分柔らかくなった。

 この時の私は理解できていなかったが、非武装地帯はナゴ族が多く居住しているので、彼らの文化に明るい案内人がいないと進むのは難しいのだ……と、言うのは後で衝撃が収まったラルフに教えてもらう事になる。


「バルデ領に待ち伏せがいる可能性はどの程度ですか?」


 ここに来て寡黙なヘイワード師団長が口を開いた。


「バルデ領は王都の北接領で、王都から半日もかからぬ距離にある小領地です。待ち伏せの可能性は低いかと思います」


 そこまで言うと、ポンビーニャは出立前に辺境伯の館全体に結界を張ると言い、半ば頭を抱えていたドラン伯爵の首根っこを掴むようにして起こすと『案内お願いします』と、言い執務室を出て行くのだった。どうしてもドランは哀れに見えてしまう人らしい。



 そして、昨夜の会話を昨日のうちに聞いていなかったラルフは、いざ動き出した馬車の中で樹海に向かっていると聞かされ呆けてしまったという訳だ。エリック王子はこの反応を楽しむためにラルフに説明していなかったのでは……と、思ってしまう。


 私は小さな窓から外を見ようとするのだが、場所と角度が良くないらしく、見えるのは地面っぽい色合いの何かだ。


「時に、アーテルは魔獣が多いのかな?」


 エリック王子がそう言うと、王子の玩具ラルフがびくりと動いた。


「産まれてから他国アルブスに行く機会はないので比べる事はできませんが……それなりにいます」


 これも左のポンビーニャがさらりと応えた。


「そうか。そういえば、慧心の魔術師がラーウス国と共同研究を行なっていてね。確か王の健康状態が魔獣の出現に関係あるかどうか……だったかな?」


 慧心の魔術師……ハムちゃんのお母さんか。


「王の健康状態が宜しくないと、魔獣が多くなるのですか?」


 私が口を開くと、エリック王子は首を傾げて『どうだろうね』と言うのだった。


「今は魔獣が嫌う薬草を焚きながら進んでいますので、遭遇する可能性は低いと思います」


 ポンビーニャがそう言うと、右のラルフが大きく息を吐き弛緩するのがわかった。


「薬草……ですか?」


「ええ。ミシェル…ドラン伯爵が持たせてくれたものです」


 ぽちゃりちゃん……


 出発前に彼が大量の薬を私に持たせたのを思い出した。目を血走らせていたが……もしや徹夜で調合したのだろうか?


『これを受け取りなさい。そして、必ず幸せになりなさい』


 何故か私はヴァレンタイン伯爵が彼に言っていた言葉を思い出していた。きっとこれは因果応報という奴だ。そう思う事にした。

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