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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
4 第二王子の聖廟探訪
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14 そして出戻る

 ヴィンセント王子を回収もといお迎えに行ったアリソン一行は、再び聖廟に向かう事となった。転移情報を取得する暇も与えられず、ラーウス辺境へと強制転移させられたアリソンでは聖廟に戻る為に、転移術ショートカットは使えない。一旦ラーウス国の辺境まで転移してから徒歩での移動になりそうだと覚悟を決めていた。

 そこに、お詫びとばかりに転移用の魔法陣をくれたのが、ラーウス国の辺境で反省中(データ再収集中)のブレイク公爵であった。『気を付けて行きなさい』と、父親らしい一言を貰ってしまうと、どうしても何か裏があるのではと思ってしまうアリソンであった。


「この魔法陣は、ブレイク公爵家専用だな」


 オスカーが呆れたという顔をして魔法陣を眺めた。王子が面白そうに覗き込み『そうなのか?』と言い、アリソンは居心地の悪さを笑って誤魔化した。転移術は魔力消費量が高めな上に、父のくれた魔法陣は省力化の工夫が一切ない為、オスカーの指摘通り魔力量が足りずに起動できない人が多い出来栄えなのだ。このまま使うと、聖廟前でアリソンの魔力回復の為に一泊確定だろう。できればアルブス王都に帰るところも転移術で済ませてしまいたいアリソンは、荷物の中から筆記用具を取り出し、父の転移用の魔法陣から必要な情報を抜き取り、新しい魔法陣モノを書き起こした。そんなご主人に纏わりつくササキサンの首根っこをヤマダサンがひょいと咥えて移動して行くのだが、アリソンは気が付かない。


 うーん……聖廟に結界があるからこんな術式なのね。


 ブレイク公爵の魔法陣には、結界の干渉を防ぐための情報があった。どうも国家機密らしき情報を平気で描いているあたり、読み解ける人間がいないと思っての事であろうが……アリソンは読めてしまうが故に顔が引き攣る。父の転移術式は後で闇に葬ろうと決めたアリソンである。


 こうして再び舞い戻った聖廟だが、其処に入ることが許されているのは王族だけだ。ヴィンセント王子が『何があるのだろう?』と、言いながら一人聖廟の中に消えて行った。その一端を父の魔法陣から垣間見たアリソンは顔が引き攣り、ジェフリーに『大丈夫ですか?』と声をかけられる。


「ありがとうございます。今のうちに、王都への転移魔法陣を用意しますね」


 アリソンがそう言って誤魔化すと、ジェフリーは『ゆっくり帰れれば良いのに……』と何かが始まりそうな事を小さめに呟いた。残念ながらアリソンは既に聞いていない。


「アレは、先ず気が付いて貰うところからだな」


 オスカーがそう言うと、『シリウスには気付かれていたゾ』とササキサンを尻尾であしらうヤマダサンに指摘されてしまい、密かに凹む護衛騎士であった。


「あの……王都にある私の家なら転移できそうなのですが、構いませんか?」


 そんな様子に気が付かない、アリソンが顔を上げて言う質問に、ヤマダサンが『親の居ぬ間に男共を連れ込みだナ』と言い、アリソンをキョトンとさせた後に、護衛騎士を赤くさせる。


「まあ、我々としては王都まで早く帰れてありがたいな」


 オスカーがそう言い、近くに控えていた魔法師団員達も首を縦に振る。その様子に満足したアリソンは『では、転移先を私の家にします』と言い、魔法陣を描き続ける。ジェフリーの様子には全く気が付かない残念令嬢である。



 そこから待つ事一刻程であっただろうか。ヴィンセント王子が聖廟から出てきた。ジェフリーから『如何でしたか?』と訊かれると、右手を差し出した。


「これを精霊王から頂いた。王位継承者の持ち物だそうだ」


 ヴィンセント王子の手には金色の指輪が一つ。


「精霊王……それはお前に対してか? それとも別の王子の物か?」


 オスカーが皆の気になる事を直球で訊いてくれるのだが、ヴィンセント王子は首を傾げるのみだ。


 えぇ……


 アリソンの眉間に困惑の皺が刻まれる。父の魔法陣を読み解いた時、聖廟に入る事ができるのは王又は王位継承者だと思っていたのだ。王子は何故にそこで首を傾げてしまうのか。


「まあ……これを持って帰れば勅命には従った事になるだろう?」


 と、言いヴィンセント王子は破顔して、アリソンの疑問を煙に巻くのだった。

 アリソンはオスカーに請われて、ブレイク公爵家行きの転移魔法陣を起動展開し、第二王子の聖廟探訪は、実にアッサリと幕を閉じた。



「あーそうダ。アリソンに渡すものがあったんだゾ。解析に役立ててくれってサ」


 聖廟探訪一行がブレイク公爵家の大広間に到着すると、ヤマダサンが背中の魔道具(収納袋)から一冊の本を前脚で取り出した。ヴァレンタイン伯爵令嬢から預かった鉛白の魔術師の研究日誌である。


 うわぁ……。


 五大魔術師の研究日誌など、一介の研究員にとっては宝物だ。アリソンは目を輝かせて頁を繰る。前半は魔法薬の分野か、所々よくわからない内容が続く。そして、ある日を境に出てくる召喚術式の数々。アリソンは、王子や魔法師団員達の存在を忘れて荷物からヴァレンタイン伯爵が死の直前に起動した魔法陣を取り出す。上級精霊語の辞書に一緒に挟み込んでいた紙の束がぽとりと絨毯の上に落ちた。ササキサンがすかさず咥え込んで遊ぶので、そうはさせじとジェフリーがササキサンを抱き上げた。


「アリソン嬢……この絵は?」


 王子が紙の束を拾い上げて、中を検めた後に物凄い勢いでアリソンに詰め寄るので、彼の護衛騎士が慌てて王子を止めた。ササキサンはそんな二人に挟まり脚をばたばたさせている。


「ふぇ……ええと、ヴァレンタイン伯爵令嬢がくれた物です」


「伯爵令嬢が見えたモノを絵にしたのか?」


「……ふぁい。そう聞いておりまふ」


 急な緊張に晒されて、アリソンは噛んだ。

 そして王子の手には、赤、青、緑色した小人達が描かれていた。


「よし、これからヴァレンタイン伯爵令嬢に会いに行くぞ!」


 王子は勢いそのままにヴァレンタイン伯爵家へ向かおうとするので、ジェフリーがササキサンを小脇に抱えたまま止めた。二人の間に挟まれたササキサンが不満気に黒い渦を出現させて魔法師団員達がざわつくと、ヤマダサンが『ちっこいのを放してやれバ?』と言われてしまう。アリソンは急な変化についていけず固まっている。


「あー、盛り上がっている所に水を差すようだが……ヴァレンタイン伯爵令嬢な。今はアーテル国境辺りにいる筈だ」


 面倒臭い空気を敏感に感じ取ったオスカーがそう言うと、ざわつきは収まったのだった。


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