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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
4 第二王子の聖廟探訪
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8 使い魔契約

 ヤマダサンの嗅覚のうりょくにより発見されたアリソンは、魔法師団員が増えた事で更に仕事が無くなった。日中はひたすらクリスの風魔法で運ばれ、夜も特段の仕事がなく手持無沙汰である。自作の魔法陣数種を魔法師団員に作る事くらいしか無く、リクエストに応じて量産する日々を送っていた。

 実は物凄く喜ばれている事を知らない当人アリソンだが、突如現れた魔法師団員達の間で人気者になる公爵令嬢を見て、護衛騎士ジェフリーは心穏やかではない。そして、それに目敏く気がつくのは彼とは昔馴染みの師団長オスカー一人だけであった。


「……お前、年下が好きだったのか……」


「…………」


 驚きを含んだオスカーの呟きに無言を貫くジェフリー。


「……俺の娘はやらんぞ」


「…………ああ、わかっている」


 護衛騎士ジェフリーは『それはあり得ない』と、即答しない程度に紳士である。

 こうして、人知れずに拗らせた男達の夜が更けていく。


 第二王子は相変わらず見つからないのだが、王子が生きているという事だけはわかっていた。ジェフリーがヴィンセント王子のシロオリの花を所持していたのだ。花は枯れていないので、樹海のどこかで無事な筈だ。一行は、王子を探しながら、王子と共通の目的地である北の聖廟を目指していた。余談ではあるが、ジェフリーのシロオリの花は王子の手元にある。

 道中、魔獣は少なからずいるものの、ヤマダサンが合流してからは、気配はすれども襲撃を受ける事はなく進んでいた。


 そうして進む事、四日目の朝方であった。


「アリソン、何か来たゾ。起きるんだゾ」


 ヤマダサンが尻尾でアリソンの顔をさわさわと撫でると、『みゅぅ』と音がした。ヤマダサンは更に自身の頭をアリソンの頬にぐりぐり擦り付けた。


「んー。ヤマダサン?」


 彼女の母親ほどではないが、アリソンの寝起きはよろしくない。ヤマダサンは次はコレとばかり、肉球でアリソンの頬をやや強めに押して『何か来るから早く起きるんだゾ』と、繰り返した。



 ***


 ソレは音を立てず、闇に紛れて獲物を狩ろうとしていた。前に此処まで来た連中は、見通しの悪い日中に狩りを始めたせいで、殆ど散り散りにばらけてしまい、獲れた獲物は少なかった。今度は、一匹ずつ確実に狩り獲ってやろうとソレは徐々に群れの端にいる獲物に近付く。獲物は夜目が効かない事をこの何日かでソレは学習している。


 ソレは何の音も立てず、狙いと定めた獲物に大きな爪を振り下ろし、音を立てないように自身の元へと引き寄せた。一瞬薄い膜を潜るような感覚を味わったが、脚元には事切れた獲物が有る……筈であった。


 ソレの脚には、爪で裂かれたボロが絡み付いていたが、それだけだった。思惑が外れて、ソレは不快に思うも、音を立てないように野営地を再度見た。焚火の傍に先程はいなかった獲物が一匹いる。どうやらこちらの方を見てはいるが見えてはいないようだ。ソレはほくそ笑む。やはりこの獲物たちは夜目が効かないのだ。音を立てずに、消耗させてから蹂躙するのが良いだろう。日が昇るまではまだ時間がある。ソレは爪に絡み付いたボロを地面に落とし、再び一団の中で最も狩りやすい獲物を探した。


 ***



 焚火の傍には、魔法師団員が白い顔で目を凝らして結界の外にいる何かをその目で捕捉しようとしていた。震える手には、公爵令嬢アリソンから貰った近距離転移用の魔法陣が握られている。ブレイク公爵家の契約精霊クリスが、風を使い起こしてくれていなかったら、命はなかっただろう。冷たい汗が一筋師団員の背を流れ落ちていく。他の師団員も皆クリスの風を受け覚醒している。

 それでも覚醒できなかった残念令嬢だけがヤマダサンに起こされたという訳である……


「ン〜。生意気な奴だナ」


 ヤマダサンはそう言い、結界魔術を起動展開した。クリスが野営地を護る為に用意したものよりも広範囲に設けられたそれは、闇に潜む何かを逃さない為の結界だとアリソンは気がついた。


「アリソン嬢、メロの花を枯らす光をお願いできますか?」


 ジェフリーがアリソンに声をかける。アリソンは頷くと光をひたすら照らすだけの魔法を威力大で放出した。ざわめきのような音が聞こえ、師団員たちは襲撃の主を捕らえていた。


 み゛ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


 襲撃の主は人の三倍程の上背を持った大きな漆黒の毛を持つ狼にも似た獣であった。苛立ちを隠そうとせず、金の瞳を細めて見せアリソンを震え上がらせた。


 ソレは一番弱い獲物を目敏く見つけ、音もなく襲いかかった。標的にされたのは、年若い魔法師団員の男。魔法陣に魔力を込めて転移して襲撃を躱した。そこに、魔獣が獲物を狩り獲る瞬間を狙い、ジェフリーが風魔法で跳躍し、手にした剣を魔獣の眉間めがけて突き立てた。


 ソレは瞬くと、ジェフリーの剣を音を立てず躱して後方へと跳躍し、闇の渦をジェフリーへ向けて放つ。


「あれは……シニャのようですね。だいぶ大きい個体ですが」


 クリスがそう言うと、ジェフリーを問答無用で風で吹っ飛ばした。若干痛そうではあるが、ジェフリーは直ぐに起き上がった。


「シニャ……」


 アリソンは描き終えた魔法陣を年若い魔法師団員に託し、起動展開を頼むと、記憶を辿る。シニャは、遭遇する機会など殆どない幻の魔獣だ。国が消える時に現れるとされ、不吉の象徴とも言われる。黒い体毛に覆われた金眼の魔獣で、闇を好む。以前見た文献からはその程度の情報しか得られなかった。


 アリソンの後方で、眩しい光の玉が浮かび上がり、辺りを照らした。先程の魔法師団員が、アリソンの渡した魔法陣を上手く起動できた事に息をついたアリソンは、契約精霊に質問をした。


「クリス……シニャには何か弱点ないの?」


「わかりません」


 えぇー……


 アリソンは眉間に皺を寄せつつ、別の魔法陣を描き出す。その間にも、魔法師団員やジェフリーが魔獣シニャに攻撃するが、どれも不発に終わる。振り払われた師団員が、勢いよく転がる横で、ジェフリーは、体を捻ると体勢を立て直していた。


「クリス!」


 アリソンの呼び声に、契約精霊は風を駆使して転がされた師団員たちを止めた。彼女の手は忙しく紙に新たな魔法陣を描き続ける。


「オスカー、援護を頼む」


 ジェフリーはそう言うと、再び魔獣に向かい剣を振るう。寸法が全く違う魔獣と護衛騎士なのだが、護衛騎士の剣には魔力が乗せられているらしく、他の師団員達の攻撃と異なり、魔獣は彼の剣を明らかに嫌がっているようである。そこに、オスカーが放った土の足枷が魔獣の後脚を捕らえ、動きが抑えられた。そして、ジェフリーの剣が魔獣の前脚を斬る。


“忌々しい”


 魔獣シニャはここに来て初めて唸り声をあげた。魔獣の周囲には、闇の渦が複数浮かぶ。狙いはジェフリーだ。そこに、アリソンは描き終えた魔法陣を魔獣に向けて起動した事で、闇の渦の狙いはアリソンに変わった。


「アリソン嬢、一体何を……?」


 ジェフリーは一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、魔獣の標的がアリソンと判ると、彼女を護るべく、魔獣とアリソンの間に入ろうと足掻く。しかし、アリソンの起動した魔法陣の影響か、近づく事は叶わない。


「コイツは……使い魔契約か」


 オスカーはその様子を見て呟いた後、被りを振り『無茶苦茶だ』と言いながら、ジェフリーの襟を掴んで引っ張った。


「何をするんだ! アリソン嬢を護らないと!」


「違う。今アリソン嬢に護られているのは俺たちの方だ」


 オスカーは、いつも以上に不機嫌な様子を隠さずジェフリーにそう言うと『あのバケモノとアリソン嬢の勝負だ。下手に邪魔をすると、公爵令嬢が死ぬぞ』と、続けてジェフリーの動きを止めたのだった。


 使い魔契約は、主人と未来の使い魔との魔力量真っ向勝負だ。主人と認められる程の魔力を示す事が出来れば、使い魔契約が成立する。途中に横槍が入ったり、主人と認められないと、契約者……この場合はアリソンに契約失敗の咎が降りかかる。それ故に、使い魔契約は予め使い魔になる事を同意している魔獣と行われるものなのだ。敵対している魔獣に対して行うなどオスカーからすれば自殺行為に等しい。


 アリソンは今まで抑える事に力を入れていた魔力の枷を全て取っ払い、金の双眸を見つめた。その傍には、ヤマダサンがアリソン同様魔獣を捉えていた。


「アリソンのくせに、面白いことしたナ」


 ヤマダサンの声は、アリソンには聞こえていないようであった。そして、それはジェフリーやオスカーも同様であった。そして魔獣シニャは徐々にその体躯を小さくし、ヤマダサンよりも小さくなり、アリソンの足元まで進むとお座りの体勢を取った。


 アリソンはぷるぷるしながら、黒くて小さな生き物を腕に抱え地面へたり込んだ。

 こうして謎多き魔獣がアリソンの使い魔になったのだった。


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