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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
4 第二王子の聖廟探訪
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4 王子のお節介

 メロの種を採集した王子は、袋に詰め直して『今度は塩も加えたいものだ』と言いながらアリソンに返してくれた。ジェフリーも微笑みながらアリソンに礼を言う。


「アリソン嬢のお陰で飢えずに済みました。ありがとうございます」


「いえ、とんでもないです。……こちらこそ非常食ありがとうございます」


 瓢箪から駒が出たようなもので、メロの種が荷物に入っていた事すらすっかり忘れていたアリソンである。寧ろこちらこそ調理してくれてありがとうございますなのだ。そんな内心を誤魔化すように笑うと、ジェフリーは少し驚いたような表情をした後『いえ、とんでもないです』と言い、素早く焚火に薪を足して掻き回した。


 護衛騎士の耳が赤くなった様子を目敏く見つけていたのは、ヴィンセント王子だった。


 目を少し見開いた後、嬉しさが溢れたように口元を緩めた。そして、それを俯瞰で捉えて『おやおや、これはまた』と、無表情で人知れず呟いたのは、王の秘書官と名乗った精霊クリスだった。こうして樹海の夜は更けていった。




 ……これはまた。


 翌朝、魔獣シャンゴの襲撃を受けた場所まで戻ってきた第二王子一行だったが、そこには魔獣も第二魔法師団員も残っていなかった。当然、アリソン達が乗っていた馬車も無い。


「避難してしまったのでしょうか?」


「……うん、魔獣シャンゴに食われた様子は無いから、そのようだな」


 アリソンの独り言に近い質問にヴィンセント王子が応えると、地面に顔を近づけ匂いを確認しているようであった。それで何か解るのか……アリソンは首を傾げて王子の様子を見つめる。


「私は上空から、付近を確認しましょう」


 クリスがそう言うと、風魔法を使い上空高くへ飛んでいく。


「今の秘書官殿は、腕の良い魔導士なのですね」


 ジェフリーが、上空に飛んだ秘書官クリスを見上げてそう言う。王子は襲撃跡の残る木々を見ては匂いを確認している。


「今の……秘書官殿……ですか?」


 アリソンがジェフリーに返すと、護衛騎士は少しの沈黙の後に『前の秘書官は……国王陛下と共に聖廟へ向かう途中に死亡したそうなので……クリスならそんな心配は無さそうだなと……』と、少し淋しそうな表情で返した。


 まあ、クリスは精霊ですものね……


 アリソンはジェフリーにつられたように、クリスを下から眺めた。アリソンの生まれる前からブレイク公爵の契約精霊だ。クリスの能力は主にメイドとしての働きでしか知らないアリソンだが、頼りになる事は間違いない。

 徐々にクリスの姿が大きくなり、地上に降り立った。


「この近くには魔獣シャンゴも魔法師団の方もいませんでした」


 もしかしなくても、はぐれちゃった……?


 アリソンの不安が眉間に反映された。ジェフリーは落ち着いたもので『そうですか』と、応える。


「どうだった? 魔法師団の皆は城へと帰ってしまったかな?」


 ヴィンセント王子が爽やかにそう言いながら、アリソン達の方に戻って来る。彼の護衛騎士は困ったように笑い頷いた。


「ヴィンセント殿下の予想が当たってしまいましたね……」


 えぇ……?!


 アリソンは眉間の皺を一段深くして王子と護衛騎士の話を聞いた。帰ってしまったとは一体どう言う事であろうか……


「唯、城に帰ったかどうかは未だわかりませんよ、殿下」


「うん、だが昨日は此処で野営をした形跡は無いようだし、血の匂いもしないから、適当に切り上げたようだ。きっと、シャンゴと使い魔契約していた者が魔法師団員の中にいたのだろうな」


「つまり、自作自演という事ですか?」



 ええええぇぇぇっっ?!



 クリスの質問に、アリソンは出かかった叫びを逃すように口をぱくぱくと動かして『アリソン様、お口が弛んでおりますよ』と、クリスに注意される。


「まあ、第二魔法師団は第一王子派が多いからな。第二王子が隊を失って、何の成果もなく帰還してくれれば第一王子派には都合が良いだろうな」


「……そんな」


「成程。それならば、付近に野営の跡が無い事も頷けます」


 アリソンの非難を遮るようにクリスが応えると、『アリソン様、鼻かみますか?』と言いハンカチを差し出す。

 

 うぅ……


 つまり、第二王子に同行した魔法師団員は、王子の名声を落とす為に、自分たちで騒ぎを起こしてから来た道を引き返したと言うことらしい。今頃は樹海に入る前に泊まった街まで戻っているのだろうか。アリソンは首を振り、憤り筋をみゅみゅと鍛えた。ジェフリーが横で慌てて『貴女は無事に公爵家まで送り届けますから!』と言い、腕を上げたり下げたりしたのだが、アリソンは次に放たれたヴィンセント王子の言葉にそれどころではなくなるのだった。


「ところで……秘書官殿は精霊なのかな?」



 ぴょぉぉぉぉぉぉおっ!



 アリソンは息を盛大に飲み込んだ。口元が引き攣っているのだが、クリスはどこ吹く風という様子であっさりとヴィンセント王子の問いを肯定した。


「はい、そうです。私はブレイク公爵の契約精霊です」


「やはりそうか。公爵の魔力は相当な物だな」


 王子には予想がついていたらしく、納得の表情である。そんな様子を見て、アリソンは脱力した。知っていたなら早く言って欲しかった。隠し事が多いのは苦手なのだ。


「では、我々だけでも聖廟へ急ごうか」


 王子はそう言うと、にっこり笑って見せたのだった。




 こうして、第二王子率いる聖廟探訪部隊はその隊員をガッツリ減らし、王子本人と護衛騎士、公爵令嬢と契約精霊というかなり不思議なメンバー構成で向かうことになった。


 アリソンのコンパス(おみ足)問題は、クリスが遠慮なく風魔法をアリソンの足下に展開させ、立っているだけで移動させると言う状況を作り上げた。

 そして、夜はメロの種を炙って食べて、少なくなったら花を咲かせて採集するという生活が続いた。王子は魔法薬にも知識があり、塩味のある草を移動中に採集し、サバイバル能力の高さを見せつけた。その間、アリソンはと言えば、水浴び代わりにと洗浄用の魔法陣を自作し王子と護衛騎士に感謝されていた。


「うん、たまには肉も食べたいものだな」


 それは、第二魔法師団の面々と離れて二日後の昼、王子が唐突に放った一言であった。


「肉……ですか?」


「うん、肉も食べなければ身体が弱るからな」


 そう言ったヴィンセント王子は、肉を手に入れて来ると意気込み、アリソンとジェフリーに野営の準備を任せると言って狩りに行こうとする。


「……では、クリスを一緒に連れて行って下さい」


「だが、クリスはアリソン嬢の傍が良いようだぞ」


 クリスは王子の言葉を『そうですね』と、肯定する。


「やはり私もご一緒に参りましょう」


 ジェフリーがそう言うと、王子はそれを固辞して『見つけられなければすぐに戻るから』と言い、アリソン達を残して狩りに出てしまった。


「行ってしまいましたね……」


「仕方ありませんね、野営の準備をして待ちましょう」


 アリソンとジェフリーは顔を見合わせ、野営の準備を行いつつ王子の帰りを待つ事にした。流石に慣れたもので、あっさり終わってしまい、二人で焚火を囲む。クリスは結界を張った後は、大人しくしている。


「王子は、お肉が好きなのでしょうか?」


「ええと、優しい方なので、好き嫌いは無いと思います」


 手持無沙汰のアリソンが唐突に訊ねた質問だが、護衛騎士の回答にアリソンは首を傾げる。


「従者や料理人など……責任問題で罰せられないように、好きなものも嫌いなものも仰られないのです」


 ……あぁ、なるほど。


 アリソンは曖昧に微笑んだ。わかったのは、ヴィンセント王子が意外にも気配りの人らしいと言う事だ。ブレイク公爵家の面々は、割と好き嫌いをハッキリ口にしている。一番顕著なのはヤマダサンだが……


「ヴィンセント王子は……肉を、捌けるのですね」


「そうですね。国王陛下の秘書官……前の秘書官から色々教わったのです」


「前の秘書官さま?」


「……私の養父で、とても面白い人でした」


「……そうですか。」


 アリソンは、死亡した話を思い出して尻すぼみになったが、ジェフリーは微笑みながら養父について語ってくれた。肉の捌き方だけでなく、野草や魔法薬の原料になる魔木の類、魔獣の特性や食用にできるものまで。秘書官の影響でヴィンセント王子はかなり逞しくなったらしい。


「素敵な方だったのですね」


 アリソンがそう言うと、ジェフリーは嬉しそうに『ありがとうございます』と応えるのだった。


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