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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
4 第二王子の聖廟探訪
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3 自給自足生活

 アリソンは目下平謝り中である。


 困り顔した護衛騎士ジェフリーと苦笑いの第二王子ヴィンセントがお互いの顔を見合わせていた。そう、彼らはアリソンの放った水魔法みずげいで綺麗に飛ばされた者同士だ。それどころではなかったアリソンは気が付いていないが、クリスが二人の落下時に結界を展開してくれた事もあり無傷な二人だ。

 二人は目で会話をする。恐らく……


 J:『どうしましょうか?』

 V:『どうすると言っても……』

 J:『殿下の許しがなければ、アリソン嬢も……ほらっ』

 V:『ほらって……』

 J:『頑張って下さい……ほら』

 V:『……ほら?』


 Jがジェフリー、Vがヴィンセントだ。こんなやり取りだったかは定かでは無いが、概ねあっている筈だ。そして、覚悟を決めてヴィンセント王子が口を開いた。


「ほら……まあ、怪我が無くて良かった」


 ヴィンセントはそう言うと、まるで合いの手でも入れるかのように彼の護衛騎士が『そうですね、無事で良かったです!』と、やや大きめの声で応える。アリソンは地面に突っ伏すような体制で、両手を前に揃えて俯いた姿勢を崩さない。おおよそ公爵令嬢とは思えない姿である。


「アリソン様。もう“ドゲザ”は止めたほうが宜しいのではないでしょうか?」


 クリスがアリソンの前に屈み、彼女の脇に両手を入れると軽々と持ち上げて立たせると、服の汚れを風で落としつつ手のひらの汚れを懐から取り出したハンカチで拭いてやる。アリソンの眉間には皺がくっきりと刻まれ、焦茶色した瞳は潤んでいるのが見て取れる。


「無事ですから! 私も殿下も平気ですから!!」


 ジェフリーがそんなアリソンを見て一段と大きめの声をあげて手を上へ下へと振り続けた。


「ハンカチありますか?」


 クリスはジェフリーに向かい、手を出した。


「え、ええ」


 ジェフリーは懐からハンカチを取り出して、クリスに渡す。そして、秘書官クリスはジェフリーのハンカチでアリソンの顔をぐりんぐりんと拭いてやった。『みゅ』だの『きゅ』だの音が漏れ聞こえるが、クリスはそんな音などお構いなしである。


「鼻もかみますか?」


 クリスがそう言うと、アリソンは首をぶんぶんと横に振って『大丈夫でふ』と言い、王子と護衛騎士を安堵させるのだった。


「さてと……すっかり暗くなってしまったな。馬車の方に戻るのは明るくなってからにしようか」


 ヴィンセントがそう言うと、手慣れた様子で焚き火の準備を始め、ジェフリーが追従した。クリスは有能ぶりを発揮して、ひっそりと結界を展開してくれた。先程からアリソンに出番はない。

 

「食べ物があれば良かったな……」


 ボソッと呟いたヴィンセントに対して、ジェフリーがサッと非常食を取り出す。『僅かではありますが……』と申し訳なさそうに言いながらアリソンにも渡してくれる男前ぶりである。しかも、それなりに動いたので非常食も美味しい。もきゅもきゅと咀嚼しながら、アリソンは自分ばかりが役に立つどころか迷惑をかけていると凹む一方である。

 唯、咀嚼をすると無心になる。そして味わい尽くすと、凹んでいた事を思い出して再び凹む。アリソンは色々残念な公爵令嬢なのだ。


 アリソンは、何か食べ物でもと自身の荷物を漁ってみるものの、出てくるのは本や筆記用具類ばかりだ。ヤマダサン懐柔用のお菓子すら出てこない。唯、アリソンの手に見慣れぬものが一つ触れた。


 えっと……これは、確かメロの種。声は低くならなかったヤツ……


 アリソンは、出立前に同僚からもらった種がつまった袋を取り出した。一日十粒食すとお肌には良い成分とか……これは果たして腹の足しになるだろうか?


 生臭かったし……今日出すのは止めておこう。


 アリソンが、取り出したメロの種が入った袋を仕舞おうとした時に、ヴィンセントが彼女に声をかけた。


「アリソン嬢、その袋は……もしかして、お菓子かな?」


 アリソンの眉間に悲哀の皺が刻まれた。何故持ってこないのか、お菓子を……と。


「いえ……これは魔術研究所の同僚から貰った魔法薬の原料です。メロの種というものなのですが……」


「そうなのか……食用になりそうな品だろうか?」


 ヴィンセント王子は育ち盛りらしい。やや期待のこもった目でメロの種が入った袋を見つめる。


「確か、火を加えて塩を振れば美味しかったかと聞き及んでおります」


 そこにクリスが澄ました顔でそう言うと、ヴィンセントの目はキラキラと輝いた。


「今日は塩が無いが、折角だから試してみよう!」


 こうしてアリソンは黙って王子にメロの種を献上した。

 王子は器用に火魔法と風魔法を同時に駆使して種を空中に留めつつ火を入れると言う高等技術を披露した。第一魔法師団長のオスカーに言わせれば技術の無駄遣いだが、アリソンから見れば羨ましい事この上ない技術であろう。


「うん、美味い。粒は小さいのが残念だが……」 


 そう言いながら、ヴィンセントは皆も良ければと香ばしく炙った種をアリソンたちにもすすめた。


 美味しい。


 アリソンは咀嚼しながらそう思った。種の外皮も剥き易くなっているところがまた心憎い。非常食としての可能性……アリだ。これはミルズにも伝えておこう。アリソンは先程まで凹んでいた事をすっかり忘れてメロの種を咀嚼した。


 炙りを逃れたメロの種が地面に落ちて芽を出したのだが、三人はその時咀嚼に夢中で気がついていなかったのだ。


「……美味いな。もう少し食べるか? ……アレ?」


 ヴィンセント王子の声に、ジェフリーが『どうしました?』と、王子の方を見る。


「……これは一体?」




 アリソンは咀嚼を終えて、ようやく二人の様子が目に入り、彼らの目線を追いかけて緑色したくりーちゃー(化物)が二人に襲いかかる瞬間を捉えていた。


 みょぉぉぉぉぉっ!


 その異様な様を目撃したアリソンは声にならない叫びをあげていた。 

 緑のくりーちゃーがヴィンセント王子に絡まり、それをジェフリーが剣で薙ぎ払う事を繰り返すが、徐々に緑のくりーちゃーはデカくなり、ヴィンセントの二倍ほどの高さまで成長して行った。


 “ぴにょん”


 奇妙な音を立てて緑のくりーちゃーが黄色い大輪の花を咲かせた。かなりデカい花がしなりを効かせて王子を横薙ぎに攻撃する。花を頭とするなら、ノリノリで頭を王子にぶつけるような感じ……であろうかか……


 ど……どうしたら。


 アリソンは呆然として、突如現れた機敏に動く黄色い花を見つめていた。


「メロの花は、陽の光に弱いです。朝になれば静かになるでしょう」


 クリスは例によって無表情で、それなりに役に立つ知識を提供してくれるが、朝まで黄色い花の攻撃を避け続けるのは体力的にも厳しいだろう。


「クリス、他に静かにさせる方法はないの?」


 アリソンがクリスに問いかけると『光に弱いです』と応えた。


 よし……


 アリソンは光をひたすら照らすだけの魔法を威力大で放出した。すると、黄色い花は見る間にしぼみ、枯れて行った。


「これは……一体……」


 唖然とするジェフリーの横で『おおっ、メロの種が増えたぞ!』と言いながら、萎れた花から種を取り出す王子。呆然とする護衛騎士の後ろで『よろしゅうございました』と言う精霊。

 そして、メロの種増殖方法を知ったアリソンだった。


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