表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
3 第一王子従者(仮)の日常
51/128

15 更迭劇の顛末

「裏帳簿の解読は王都に帰還後に行うとして、ジルベール・ルルーシュ。卿を更迭する」


  筋肉ダルマ(オリヴィエ)がそう告げると、ルルーシュ辺境伯は『馬鹿な……一介の監査官に何の権限があってそのような横暴がまかり通るのか……』と呟き、白くなった顔をオリヴィエに向けるのだが、膝をついたその姿では様にならない。


「実は、このような物を預かっておりましてね」


 オリヴィエはそう言うと、懐から一枚の紙を広げて辺境伯に見せた。それは明らかに高そうな紙に飾り文字が綺麗な品。表彰状か何かだろうかとアデルの横から眺める私だったが、辺境伯はそれを見て今度は両手を床に付けて突っ伏してしまった。四つん這いで床を見ながら小さな声で『そんな馬鹿な……あり得ない』と呟く声が聞こえる。紙面を見た秘書官たちの中数名も辺境伯と同じようにへたり込んでいる。


「アーテル国王陛下の委任状ですか……監査官殿、辺境伯領はどうなるのかな?」


 エリック王子がそう言うと、リュカが息を飲むのが見えた。


「領民の生活に変動なきよう、相応しい代行領主を任命した上で、王直轄領になるでしょうね。任命権は、この通り私に委譲されていると……」


 監査官がそう言うと、ドラン男爵に向かって肩を叩くと『宜しく頼むよ、領主代行殿』と言いニヤニヤとしている。ドラン男爵は『ヒィ!』と軽く悲鳴をあげた。

 泡を食ったようにアタフタしているドラン男爵に向かってアデルが『情けないわね、落ち着きなさい!』と、一喝したら男爵ぽちゃりちゃんは大人しくなった。


 あらまぁ……


「では領主代行殿、地下に囚われている女子供の保護に参りましょうか?」


 エリック王子がそう言い微笑むと、ドラン男爵は眼鏡を手の甲で押し上げて『ええ勿論です』と答えたのだった。




 その後、ドラン男爵はあくせくと働き地下牢の女子供を辺境伯の本館に保護した。私やアデル、リュカも手伝い辺境伯の館は俄かに賑やかになった。最初は戸惑っていた辺境伯の館で働く人々を纏めあげたのは、アデルだった。保護された娘や子供達の中にリュカと顔見知りが数名いたとの事だ。


 そんな中、執事がドラン男爵に対し来客を告げ、ドランは応接室に向かった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 あ、ドラン男爵だ。


 私とアデルは顔を見合わせた後、アデルを追いかけるようにして応接室へ進む。そこには数日ぶりに会う茶髪の第三魔法師団長の前でひっくり返るドラン男爵がいたのだった。


「何をしているのよっ、全く情け無い!」


 アデルはドランを起こして、ヘイワード師団長に対して美しい所作で挨拶をした。師団長も折り目正しく挨拶を返している。そして師団長は、侍女の姿をした私を緑の双眸でガン見した。


 ……これは、不味い感じなのか?


「サイラスだな……無事で良かった」


 師団長はそれだけ言うと、ドラン男爵に何か耳打ちして二人で出て行く。並んで歩く二人は、まるで既知の間柄のように思わせる。取り残されたアデルが私に『何だったのよ一体』とツンツンしているが、私もよく分からないので首を傾げるしかない。


「あー、サイラス君? ちょっとエリック殿下とオリヴィエさまを呼んで来てくれるかな? 僕等は執務室にいるから」


 ドラン男爵は振り返り私にそう言うと、ヘイワード師団長と共に辺境伯の執務室へ向かうようだ。私は頷くと、二人の行方を探そうと女子供がいる広間を目指した。広間ではリュカが忙しそうに動いている。何故かエリック王子も一緒だ。


「エリック王子、ドラン男爵が執務室にきて欲しいそうです。あと、ヘイワード師団長が来ています」


「おや、お役御免かと思ったが……分かったよ」


 エリック王子はそう言い、私とリュカを残して去って行った。


「お役御免って何だ? お前は何か知っているのか?」


 リュカが目を細めて私にそう言った。そう言われたところで私もよく分からないので首を振る事しかできない。リュカは『まあ、そうだよな』と言い、彼自身も何かを払うように首を振るのだった。


「ルルーシュ辺境伯の裏帳簿さ……あれを解読したら、昔の人身売買情報もわかるかな?」


「わかるのかも知れません」


 リュカは私の役に立たない回答に『まあ、そうだよな』と繰り返した。


「“暁に哭く夜鷹”……という話知っていますか?」


 私はファビアンの名前は出せず、まどろっこしくもリュカが視えた童話の名を口にした。リュカはといえば『ああ、俺はあの本はあまり好きではないよ』と言った。


「どうしてですか?」


「……あの本は昔亡くした友達を思い出させる」


 ファビアンだろうか……?


「悲しい終わり方だと聞きました。読んだこと無いのですが……」


 私はアメリア王妃の言っていた事を思い出しながらそう言うと、リュカは『俺も読んだ事ない』と応えた。


「昔、あの本を好きな友達がいて、すごく綺麗な顔してたんだ。王子様みたいでな。ある日突然いなくなったから……薬の実験台で辺境伯に殺されたと思っていた」


「人身売買なら……何処かで生きているかも知れませんね」


 私がそう言うとリュカは『まあ、そうだよな』と繰り返したのだった。私は頷き、再び 筋肉ダルマ(オリヴィエ)を探しに広間を出て行った。


 いないなぁ……


 私は館の中を文字通り駆けずり回ったが、オリヴィエは見当たらない。あんなに大きくて目立つ人間を見かけないなどと言うことがあるのかと、見つけられなかったとドラン男爵に伝える為、執務室へ向かっていた。


 瑠璃ちゃん?


 階段を上がると、執務室へ向かう廊下に瑠璃ちゃんがいた。手には手紙らしき封筒を何束か持っていて、少し不機嫌そうな表情で此方を見ている。


「瑠璃ちゃん、おかえり」


 私がそう言うと、手紙の束を持てとばかり此方へ寄越す。そして両手が自由になると、私の首元に飛び込み、後ろで寝ていたダンを引っ張り出して何か言っているようだ。さやさやと音がしたような気がする。


“うーん、儂のせいじゃないのぃ。怒ると疲れるのぃ”


 ダンが瑠璃ちゃんから逃げるように私の首元をよちよち歩きで右肩へと移動した。


「ダン、瑠璃ちゃんは何て言っているの?」


“お嬢ちゃんの持っている手紙を眼鏡のお兄ちゃんに渡して欲しいんだのぃ”


「誰からかな?」


“初めて会った奴だと言っているのぃ”


 うーん。眼鏡のお兄ちゃんと言えばドラン男爵だろう。取り敢えず持っていくしかないか……


 私は、オリヴィエを見つけられないまま、執務室の扉をノックして中に入った。




 手紙の内、一通についてはドランが悲鳴を上げて中身を盛大に取り落としたお陰で私にも内容が分かった。どうやらミシェル・ドランは男爵から伯爵になるらしい。オリヴィエが見せた委任状と似た紙に似た意匠を凝らした紙面には、ミシェル・ドランに伯爵位を叙すると書かれている。アーテル国王の署名付きだ。

 衝撃が大きかったらしく、ドラン男爵改め伯爵は執務机に突っ伏している。エリック王子とヘイワード師団長はもう一枚の紙面を確認しているようだ。


「ルルーシュ辺境伯を更迭されたと言う監査官殿は、ドラン伯爵を置いて王都へ戻ったようですね。しかも、ルルーシュ辺境伯の捕縛はエリック殿下の采配によるものとして欲しいとありますね。アルブス国民も人身売買被害にあっている疑いがあった事にすれば良いだろう……か」


 あら……まあ……


 師団長は手紙を見つめて溜息を吐くと、エリック王子に向かい『辻褄合わせておきましょう』と言うと、未だ執務机に伏しているドラン伯爵に『貴方もですよ』と言いながら襟首を掴んで猫の子を運ぶように起こした。

 伯爵になったドランは『オリヴィエさま、人使い荒過ぎですよー』としょんぼりしている。何だか哀れだ。

 そして、監査官のようにエリック王子は目尻に皺を作り破顔した後、私に告げた。


「サイラス、お茶を淹れてくれるかな?」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ