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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
3 第一王子従者(仮)の日常
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12 抜け道出たらドランがコケた

 私は閉ざされた階段の口を見上げながら、どうしてアデルはあそこまで迷いもなく地下室へ突進して行ったのだろう……と、思っていた。ミシェル・ドランが監禁されていると確信していたのであれば、もう少し周囲に誰かいないかを警戒して地下室へ向かっても良い筈だと思ったのだ。いくらアデルがお育ちが良いお嬢様だとは言え、頭の中がそこまでお花畑ではない……と、信じてあげたい。


「アデルさん、地下室に入った時に仕掛けが閉まっていてたのに中に人がいた事でもあったのですか?」


「え、ええ……そうね。あの人……ルルーシュ辺境伯と母様を見た事があるもの」


「閉じ込められていた訳ではなくて?」


「ええ。そうではない筈よ」


 アデルの記憶が正しいのなら、見落としている抜け道があるか、中から開ける仕掛けがある筈だ……どっちだろう。


「では、地下室をもう一度確認しましょう。何か見落としているのかもしれません」


「ええ……そうよね」


 階段を再び降りて、地下室には戻ったアデルと私の二人は、手分けして室内に隠し戸の類がないか確認し始めた。私はアデルから少し離れてからダンに話しかける。


「ダンは瑠璃ちゃんみたいに壁をすり抜けたり出来る?」


“儂にはできないのぃ”


 うーん、駄目か……


 その時、ダンが羽を広げて私の肩からゆっくりと離れた。羽ばたきもせず浮いている姿は、さながら凧のようだ。もちろん毛玉だが……


“お嬢ちゃん、壁の向こうから風が吹いてくるのぃ”


「わかるの?」


 私は、壁の周辺を見回しつつ仕掛けらしきものを探した。その間にもダンは風力に押されて壁から離れて行く。


”……お嬢ちゃん、そろそろ儂、拾って欲しいのぃ“


 ダンの言葉に振り返れば、毛玉は既に部屋の中央近くに浮かんでいた。このまま流されるとアデルの後頭部に到達しそうだ。私は早足で灰色の毛玉に近づき、手で包み込んでやると『疲れたのぃ。ちょっと休むのぃ』と、言った後にゆっくり私の肩に移動した後、静かになった。

 その時、何気なく目をやった床面に描かれた図柄が私の目にとまった。


「アデルさん」


 私はアデルを手招きで呼び寄せて『この図柄……魔法陣でしょうか?』と尋ねた。


「何かはわからないけど、魔法陣ね」


 そうしておもむろにアデルは手をかざして魔力を込め、魔法陣は淡い緑色に発光した。と、思いきや壁面の一部がさながら観音開きのように動き出し、先が暗くて見通せない廊下が現れた。


 あらら……


「行ってみましょう!」


 アデルは、先程までの事を忘れたかのような笑顔で、私の手を取って廊下に向かう。そんな彼女を見ながら、このお嬢さんは脊髄反射みたいに動くので、迂闊に何かを見せたりするのは止そうと思って後に続こうとした。その矢先に、階上から音がした。


 ドン


「今の音は……」


「誰かが入口を開けたみたいね」


 アデルはそう言うと、地下室の中央に取って返して再び魔法陣を起動し廊下を石壁で塞いだ。そのあと彼女は、実験で使う薬剤を入れると思しき大きめの容器を手にした。


「それ……どうする気ですか?」


「襲われたら反撃できるでしょう」


「……とりあえず、置きましょうか」


 私はアデルの手から容器を取り上げて、元の位置に戻し『危ないですよ。ミシェル・ドランさんだったらどうするんですか?』と諭した。彼女は不満そうに頬を膨らませたが、従ってくれた。


 そうしている間にも、階上から此方へ向かう足音は徐々に近づいてくる。私はアデルが変な事をしないか注意しつつも足音に耳をそばだてた。とりあえず足音は一人分みたいだ。人影が見えるようになり、眼鏡をかけた男が見えて私たちの方を見た。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 目の前にいる男が、女性顔負けの悲鳴を上げてひっくり返った。両手に持っていた薬草や紙の束が派手に舞い上がる。隣にいるアデルから『ちょっと……もう、何なのよっ』と呟くのが聞こえる。


「大丈夫ですか?」


 私は盛大にひっくり返った男に声をかけると、男は慌てて散らばった品々をかき集め始めつつ首を縦に振った。


「もうっ……手伝ってあげるわよ」


 アデルがそう言いながら、男の取り落とした品を集めてやると、ややぶっきらぼうに『ほら、ちゃんと持っておきなさい!』と言いながら男に持たせてやった。


 ……やっぱり、ツンデレなのか?


 男は眼鏡を手の甲で持ち上げて、私達を見た。黒い髪はボサボサで、ややぽっちゃり体型をした壮年と思しき男性。眼鏡から見える瞳の色は、オレンジに近い琥珀色だった。


「ええと……あなた方は?」


「私はルルーシュ辺境伯の姪アデルよ。あなたは?」


 アデルがそう言って首を傾げると、ぽちゃりちゃんは驚いた顔をして見せた。


「私は、ミシェル・ドランと申します」


 男はそう言うとペコリと頭を下げた。




「いやぁ……びっくり致しました。上の仕掛け閉めずに寝てしまったのかなと思って」


 手に持っていた品を机に並べて、ドランはそう言うと、手の甲で眼鏡を持ち上げた。どうやら、二階にある別室で寝ていたところに私達がやって来たようだ。


「ドラン男爵。あなたは魔法薬開発の研究者で、オリヴィエの部下……なのでしょう?」


 アデルがそう言うと、首を勢いよくアデルに向けたかと思うと『オリヴィエ……さま』と呟いた。


「今、ルルーシュ辺境伯の所に来ているわよ」


 それを聞いたドランは『え……あの方がここまで来られているのですか?』と、驚いてみせた。


「貴方がルルーシュ辺境伯の下で魔法薬開発をさせられていると聞いているのだけれど……オリヴィエにそう伝えたのではなくって?」


 アデルが首を傾げてそう言うと、ドランはぽかんと口を開けた。


「ええと……私は魔法薬開発を邪魔する為に辺境伯の館に入ったのですが……」


 アデルとドランは『どう言う事?』という表情を作ってお互いの顔を見合わせたのだった。


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