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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
3 第一王子従者(仮)の日常
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7 捜索からの潜伏

 エリック王子の荒れた部屋を確認した後のヘイワード師団長の動きは早かった。伯爵家の使用人と、師団員と共同でエリック王子捜索部隊を編成させた。

 ヘイワード師団長は、私に大人しく部屋に閉じ籠っていて欲しい様子だったが、私は王子の部屋を片付けたいと伝え、師団長に渋々ながら了承してもらった。結局この惨状を直す役割は最終的に自分に回ってくるだろうなという予想半分、何か視える品があるかも知れない期待半分だ。師団長は何故かラルフを私の側に残して王子捜索の指揮を取るからと言い去って行った。


「こいつはまた荒らされましたねー」


 ラルフは部屋の様子を見て開口一番そう言う。こんな時は、彼の緊張感が無さそうな言い方に救われる気がする。今のところ私はガリ王子に対して無事を祈りたくなるくらいに友好的な関係を築けている。コルデリア妃やファーガス侯爵には抱けない感情だ。


「何か探していたのでしょうか……?」


「どうでしょうねー。とりあえず、無くなっているものがあるのかどうか……分かる範囲で確認しましょうか」


 私とラルフは、惨状を片付けながら無くなっている品があるのか確認して行くが、今のところ気がつくものは無い。何かが視える品もない。


「そう言えば……エリック殿下は昔何日か行方知れずになったそうですよー」


「狩猟……ですか?」


「そうです。ご存知だったんですねー」


「先日、コルデリア妃のメイド……クロエ女史から聞きました。ファーガス侯爵領で狩猟中に起きた事件で、コルデリア妃がエリック王子に執着する原因になった……と言っていました」


「あぁ、この前離宮に行った時ですね。その行方が分からなくなった事件、クザン伯爵領(ココ)で起きたそうなんです」


「なんでも、エリック殿下捜索が始まって二日後に、血塗れで喰い千切られたような殿下の服が見つかって、魔獣に襲われて死んでしまったのだろうって使用人の間では諦めムードだったそうです。ところがそこから更に二日後に無傷で見つかったと館に連れて来られたと言う事で、物凄い奇跡って大騒ぎになって……まコレは先程仕入れた話ですがね」


「エリック王子、見つかった時は服を着ていなかったのでしょうか……」


「うーん、使用人の人達の話ではその辺りまではわからなかったですねぇ」


 まぁ、エリック王子が六歳の頃といえば……十八年とか前の話だ。人の記憶も曖昧にもなるし、人伝いの部分があれば更に曖昧な情報が増えたり減ったりもするだろう。そんな会話をしながら、王子の寝所は粗方片付いてしまった。


「失くなった物ってありましたか?」


「いえ……」


 あー。駄目だったな……


「まあ、今日はここまでにして、第三師団の方に結果だけ伝えに行きましょう」


 ラルフは駄目な事が多いのはよくあるものだと、王子を捜索中部隊が聞いたら怒りそうな事を言いながら、第三師団員が詰所として使っている部屋に入る。後に続いた私は部屋に入ると既視感に襲われた。



『コルデリア、エリックは事故で混乱している。休ませてあげなさい』



 あ……ここは絵本で視えた部屋か。


 私は“暁に哭く夜鷹”(絵本)が視せたものを頭から引っ張り出していた。少年リュカに手を引かれた光景……そして、何かに怯えていたコルデリア妃。そして現れたファーガス侯爵。


『色は同じか……服を整えさせよう』


『よかった、無事なのね!』


『エリック!』


『ファビアン、またその本読むのか? 外で遊ぼうぜ』




 ……ファビアンがいつの間にかエリックになってる……?


 そこから想像は進んだ。『色は同じか』は目と髪の色の事を言っていたようにも聞こえる。そうすると、行方不明から生存が絶望視された二日後に発見されたのはファビアンと言う名の少年だったのではないだろうか。


 だとしたら、エリック王子はもう……この世にいないのか?

 



「サイラス君、報告は終わったから今日はもう寝ちゃいましょう」


 思考に沈み始めた私にラルフが声をかける。

 私は曖昧に答えて部屋に戻ったのだが、そこには、久方ぶりながらどこか見慣れた青色の小人が腕を組んで、私の描いた絵を下敷きにして机に座っていた。


「あらま……お久しぶり」


 私は青い小人に向かい、間抜けにもそう声をかけていた。

 言葉は通じているのか解らないが、小人は浮かび上がると、私の肩に飛び込みゴソゴソし出した。そして、灰色の毛玉ことダンを引っ張り出した小人は、毛玉を叩いたり引っ張った。程なくして、毛玉が一回り大きくなり、ぶるんと震えて小人は飛ばされた後、ダンの金色の双眸が見えた。


「ごめんなさい。起こしちゃいましたね」


 私がそう言うと、舞い戻った青い小人が不満げにダンの周りを飛んでは羽を毟る勢いで飛びかかろうとする。


「うーん。仲良くしてください」


 私はエリック王子から貰ったクッキーを小人に渡そうとすると、ぺちんと叩き落とされた。


“ソレ、何か薬が入っているから、嫌だと言っているのぃ”


 薬……?


 私は叩き落とされたクッキーを拾い上げ、青い小人を見ると、頷いているようにも見える。


「コレに薬が入っているの?」


 青い小人は首を縦に振った。どうやら肯定しているらしい。『今聞こえたのは……あなたが話したの?』と、私が訊くと、今度は首をぶんぶんと振った。違うと言いたいらしい。


“あー。それは儂ぢゃのぃ”


 羽音がしてそちらを見ると、ダンが金色の瞳をくりくりさせながら、首をぐりんと傾げている。


「ダン……喋れるの?」


“まあ、長生きだから少しは喋れるのぃ”


「小人さんも見えてるよね。言っている事も解るの?」


“まあ、長生きしてたら出来るようになったのぃ”


 あれまぁ……


 ダンはゆっくり私の肩に戻ろうと動くが、青い小人がそれを阻むと何かをダンに訴えているようだ。鈴が鳴るような音がしている。


“お嬢ちゃんの探している坊やの場所を知っているとさ。行ってみるかのぃ?”


 私はダンと青い小人を見たあとに頷いたのだった。




 不夜城と化したクザン伯爵の館から見習い師団員服を着て堂々と出た私は、止められる事もなく、夜道を歩いている。手にはカンテラがあるが、ちょっと離れたらもう暗くてよく見えない。足元にも注意しながら移動となった。


 青い小人には名前がないらしく、些か安直だが『瑠璃ちゃん』と呼ぶ事にした。ダンは移動中寝ると言い、私の肩で睡眠中だ。瑠璃ちゃんの言う事が判らないので、会話もなく黙々と後について歩き続けた。


 しまった……書き置きくらい残しておくべきだった。


 私はこんなに歩くと思っていなかったのだ。空が白んできた。カンテラが無くても周りが見えるようになってきた。目の前には何かは分からないが白い花畑が延々と広がる。


「瑠璃ちゃん……まだまだ遠い?」


 残念な事に、私の方を見た小さな顔は縦に動いた。私は疲労も相まって、大きめな溜息が溢れ『魔法でぴゅーんと移動できたら便利なのにね』と言うと、瑠璃ちゃんがこちらに向かい笑いながら飛んで来て、私の手を両腕で掴んだ。


 ブィン


 虫の羽音かと思うような音がしたかと思うと、私は古びた建物の前に立っていた。

 

「瑠璃ちゃん、今のは魔法?」


 瑠璃ちゃんは、私を見上げて褒めろと言わんばかりに胸を逸らせて頷いた。

 ドアをノックしても、反応はない。開けようにも、鍵がかかっているようで開かない。お手上げだ。


「誰もいないみたい……」


 私が諦めてドアから離れて周りを捜索しようとした時に、ドアが開き、フードを被った男が顔を出した。部屋の窓から見た男のようだ。


「あ、どうも……」


 返事はない。瑠璃ちゃんが男の腕に纏わり付いてしきりに腕輪を触っている。


「えっと……エリック王子ですか?」


 男は溜息を吐き『サイラス、どうしてここに?』と言いながらフードを脱いだ。髪が黒くなっている。


「ええと……クザン伯爵家の部屋から出て行くところを偶然見かけまして」


「ずっと尾行していたのか。気が付かなかったな」


 尾行していた訳ではないが、説明が面倒なので黙っておく事にした。エリック王子は『仕方がない、入りなさい』と言うと、私を中に入れてくれたのだった。


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