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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
3 第一王子従者(仮)の日常
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2 従者選抜

「えっ……シ……シャロン様ですか?」


「この姿ですので、どうかサイラスと呼んでください」


 ラルフはジャックから私の正体を聞くと、しきりに驚いては感心した。なかなかの化けっぷりで、どう見ても見習い師団員だそうだ。


「それにしても……ファーガス侯爵家の誰かがヴィンセント殿下を襲ったなんて……本当なんですか?」


 ラルフは声を潜めてそう言う。今は執務室にジャックとラルフ、私の三人だけなのだが、どこで誰が聞いているかわからないという心情なのだろう。

 ファーガス侯爵本人がバッチリ関わっている事は私とヤマダサンだけが知っている事実だ。そこまでの事を師団長オスカーにも伝えていないので、私は『そうみたいです』とだけ答えた。


「ところで、こちらの調書ですが……もしかして、エリック王子からのご依頼ですか?」


「え、ええと……すみません。ご自身が被害者の調書など、気分が悪いですよね。」


 ラルフがそう言って私から取り上げた調書を、今度はジャックがサッと掠め取る。そして、眉根を寄せて調書を一読した。


「これは……」


「二十年前に起きた事件……の調書……なんですが、何というか内容がかなり薄くて……もしかしたら、残りの調書がこちらに埋もれていないかと思いまして……」


 多分全部燃やされたのよね……


 言い淀みながらも話すラルフの様子からは、第一ガリ王子に口止めされている様子は見受けられない。当事者である私がいるから言いにくいだけのようだ。


「探してみましょう」


 ジャックはそう言うと、執務室の書棚を丹念に確認して行く。その間に私はラルフに訊きたいことを確認する事にした。


「ところでラルフさんはクザン伯爵の事をご存知ですか?」


「“さん”とか要らないです。ラルフとお呼びください」


「では、ラルフも私の事はサイラスと呼んでくださいね。……で、クザン伯爵なのですが……」


「ぁあ、はい。クザン伯爵ね。アーテル国境の辺境を治める伯爵様ですね。確か伯爵の弟が昔不祥事を起こして勘当されていますね。それが原因で一度はかなり評判を落としたらしいんですが……父親、先代のクザン伯爵が色々功績をあげて持ち直したように聞いていますよ」

 

 色々上げた功績の一つが、先程視えた証拠隠滅の一幕だったのか……

 あれ視えたら……クザン伯爵との養子縁組とか……無いなぁ。


 そう言えば……


「さっきの調書にはメイドの名前が残っていなかったですが、エリック王子はどうやってヴェロニカ先生やメイドの遺族にたどり着いたのでしょう?」


「ああ。それは当時の雇用名簿からメイドの名前を探し出して……そこから当時の事を知っていそうな下働きに聞いて……兄がいるとわかって……って、シャロン様ご存知だったんですか?」


「ええ、まあ……で、下働きだった女性が、第二王妃のメイドになったのですか?」


「そうなんですよねー。当時は王太子妃ですが……それにしたって先ず無い人事ですよねぇ」


 ラルフは共感してくれる人を待っていたようにウンウンと何度か頷いた。その間にも、ジャックは黙々と書棚を調べて行く。


「ああぁー、そうだ、クザン伯爵。メイドになったリサの上司がクザン伯爵でした」


 ラルフは急に何かを思い出したかのように、手に持っていた書類の中からわちゃわちゃとさせながら書類を取り出してそう言っては、『ほら、ココなんですけどね』と言って私にそれを見せてくれた。


「これは?」


「えっと、これは当時の結界登録申請書です。魔導士団の詰所なんかに出入りできるようにメイドも登録が必要なんですけどね。リサの申請書、承認者がクザン伯爵になってます。当時は第一魔法師団長だったんですねぇ。ほら、ココっすよ」


 おっと……クザン伯爵……真っ黒です。


 私は『なるほど、流石ですね』と、ラルフを褒めてもち上げる事で引き攣る思いを誤魔化した。そして、概ね私の予想通りだが、ジャックの捜索で見つかったものは無かった。ジャックはやや申し訳なさそうに結果を教えてくれた。既に知っていたとは言えない私は『ありがとう』とだけ声をかけた。


 ラルフは未だ諦めていないらしく、当時を知っていそうな魔法師団員に声をかけてみると言い、執務室から出て行く。私は独自に情報を得られる事を期待してラルフの後ろについて行く事にした。


「うーん、先ずは二十年前の師団員名簿と今のものを比較してみますね」


 ラルフはそう言いながら文書保管庫へ行くと言う。私はその後を追いながらもある物が目に入り、思わず足を止めてしまった。


 黒い……小人だ……


 それは初めて見る小人だった。とても暗い色をしている。私が見ている事に気がついた小人は、踵を返して、近くの部屋の扉へ溶け込んでいった。小人は扉を自由に通り抜ける事ができるみたいだ。いつの間にかいなくなったり現れたりできるのだから、壁や扉もすり抜け自由なのだろう。私は、小人に誘われるようにして、溶け込んで行った扉を開けた。


「何かな?」


 扉の反対側にはガタイの良い男が丁度立っていた。私より頭三つ分くらい大きな男の緑色の双眸が私を見下ろしていて、中の様子は窺い知れない。


「あ……申し訳ないです。部屋を間違えたみたいです」


 私は一歩下がりそう言うのだが、男が一歩私に近づいたので結局距離は広がらなかった。男は『気をつけるように』とだけ言うと、外側に開いた扉をさっと閉めたのだった。


「あれー。どうしましたー? えっと……サイラス君?」


 ラルフが後ろについて来なかった私に気が付いたらしく、バタバタと足音をたてながら戻ってきた。

 そして、その声に反応するかのようにして、先程閉じた扉が再び開き、今度は見た事のある細身の男が現れた。


 ガリ王子……


「ジェキンソン文官、ちょうど良かった。君の意見も聞いておこうと思ってね」


 ラルフは突如遭遇した第一王子に小さく『げっ』と言ったが、私は聞こえないふりをしてあげる事にした。


「君も見習い師団員だね」


 第一王子はそう言い、ラルフと共に私も部屋に招き入れた。中には先程のでっかい男と数名の見習い師団員らしき少年少女が休めの姿勢で並んで立っていた。


「ええっと……エリック殿下、私にご用ですか?」


 ラルフがそう言うと、私の方を見て首を傾げた。


「うん。実はアーテル外交で従者を補充したくてね。ヘイワード師団長が従者向きの見習い師団員を集めてくれていたところなんだ」


「ああ、そうでしたか」


「君はどの子について来て欲しいかな?」


「僕……いや、私……ですか?」


 ラルフは驚き、室内を見回して最後に私をまた見て『いやぁ、僕にはよくわからないですよ。ヘイワード師団長の方がまともなご意見をもらえるのでは……』と困ったという調子で言った。


「エリック殿下のご随意にして頂ければと思います」


 師団長(大きい男)はそう言いエリック王子に頭を下げた。


「そうか……じゃあ、ラルフと一緒に来た君にするよ。名前は?」


 ……うん?


()()()()()()のサイラスと申します」


「サイラスだね。私はエリック・ディオンだ。道中は世話になるよ。よろしく頼むよ」


 私はニッコリ微笑むガリ王子の後ろにいる師団長をガン見したが、私の視線に気がついても、彼の表情は変わらなかった。


「……よろしくお願いします」


 私がそう言うと、真横に立っていたラルフが『あちゃー』と小さめに呟くのが聞こえたのだった。


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