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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
3 第一王子従者(仮)の日常
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1 悪い知らせ

 ブレイク公爵の不在はジャックと私がヴァレンタイン伯爵家を出て王城に到着後割と早いうちに判明した。なんでも、朝から隣国ラーウスにいる公爵夫人のところへ向かったところだとか。魔術研究所から帰って来たジャックは、心なしかいつもより元気がないようだ。


 そんなジャックに師団長オスカーは『まあ、ブレイク公爵が戻るまで魔導士団員として、王城に勤めるふりをしておけば良いだろう』とジャックには師団長の執務室で書類の分類を、私には古い書類を保管庫に持っていくようにと言い、ちゃっかり彼の仕事を手伝わせたのだった。

 何でも、ジャックと私が城内を出入りできるよう細工済みなのだとか……身代わりでヴァレンタイン伯爵家に残った見習い師団員のサイラス君として、見習いらしく仕事を手伝う事にする。これは全くの偶然だそうだが、ジャックの身代わりになってくれた人もジャックという名前だそうだ。


 そうして、日も暮れようかという頃、第二王子ヴィンセント達が聖廟に向かう途中で行方知れずになったとの知らせが王子と共に聖廟に旅立った第二師団員によってもたらされた。曰く、ハムちゃん(アリソン)が使った魔法が強力すぎて、王子達と分断されたとか……何のことやら想像できないが、近くにいたヤマダサンが私にだけ解る言葉で『あ〜あ、またやったナ』と言った。


「ブレイク公爵が不在の時に面倒な事になったな」


 オスカーはそう言うと執務室から出て行き、一刻ほどして物凄く苦い顔をして帰って来るなりジャックと私に、第二王子捜索に第一魔法師団が向かう事に決まったのだと告げた。


「私どもはどうなりますでしょうか?」


「捜索には第一魔法師団全員で行く訳ではない。このまま第一魔法師団員のふりをして王城に留まるのが安全だろう。師団員用の宿舎に後で案内させよう」


 ジャックの心配そうな問いに、オスカーはそう言うと『あー。面倒な事になった』と、言いながら師団員に指示を出し、第一魔法師団の詰所がにわかに騒がしくなった。ヤマダサンがいつものように私に聞こえる声で話しかける。


[アリソンを見つけに行って来るゾ]


師団長(オスカー)について行くの?]


[そうだゾ。灰色の兄ちゃんとこの使い魔はゆっくり毛玉だからナ。代わりに働いてやるんだゾ]


 ヤマダサンはそこまで言うと、軽やかに私の腕から飛び降りて師団長に何か話しかけたようだ。その後、師団長が私を手招きし、灰色の毛玉(彼の使い魔)をこちらに差し出した。


「殿下との約束だからな……留守中貴女に預けておくよ。いつも寝ているが、いざと言う時が来れば役に立つだろう」


 私が毛玉に手を伸ばすと、金色の眼をした木兎がヨチヨチ歩きで私の掌に移動して来た。


「赤ちゃんですか? 名前は何と?」


「名前はダン……高齢で普段は大体寝ている」


 ダンはヨチヨチ歩きを続け私の肩までやって来て、首にもたれかかるようにして眠り出した。捜索部隊は翌朝出発だと言う。


 私は宿舎に案内された事でやっと、慌ただしく始まった一日の終わりを感じた。あれほど不味い魔法薬を飲んだのは今朝の事だったか……既に遥か過去の思い出だ。


[そうだヤマダサン、これをアリソンに渡してくれる?]


 私はヴァレンタイン伯爵の研究日誌をヤマダサンに見せると、ヤマダサンは魔道具だと言う背負い袋に日誌を入れろとばかり前足でぽふぽふと叩いて見せた。


[そういえば、灰色の兄ちゃんに視えたものの話したのカ?]


[まだだよ。わかっていない事も多いしね……]


 言ったところで……ねえ。

 私はどうしたものかと思いつつ眠りに落ちた。



 そして翌朝、師団長とヤマダサンを見送った私に見知った顔の男が声をかける。ナタリーの夫、ラルフだ。


「やあ、ちょっと過去の事件で調べ物していてね。第一師団が昔扱った事件の調書なんだけど……」


 どうやら私がヴァレンタイン伯爵令嬢だとは気がついていないらしい。会ったのはほんの一瞬であった為、覚えていないのだろう。ラルフは一枚の紙を取り出して此方に見せる。

 私がそれに触れると、視界が揺らぎ放り出される感覚がやってきた。





 此処は……オスカーの執務室か?

 手には何かの書類。“ヴァレンタイン伯爵令嬢殺害未遂事件”と書かれている。“私”はそれに目を通す。事件は王太子アルヴィン殿下の妻コルデリア第二王太子妃が生活する離宮にて発生。被害者ヴァレンタイン伯爵令嬢は意識不明。茶器に毒が予め塗られていたらしいが、誰によるものか不明。その後、コルデリア妃のメイドであるリサが下働き用宿舎の自室にて被害者に飲ませたものと同じ物と思しき毒物で死亡していたところを発見された。リサの身分にしては高価そうに見える小瓶が部屋から発見された為、証拠品として回収した。後日分析に回すと書かれている。


 “私”はそれを手から出した炎で焼失させると、執務室に置かれている小瓶を摘んでポケットに入れて溜息を吐くと部屋を後にする。回廊を歩く“私”に使用人たちが頭を下げて道を譲る。


 中庭と呼ぶには随分広い緑の広場の真ん中に用意されたテーブルと椅子。そこに腰をかける金髪の娘を見ると“私”は小さく息を飲み込み近付いた。


「まあ、クザン伯爵。どうなさったの?」


 “私”の方を見た青い双眸には何が映っているのか見えない。“私”はポケットから小瓶を取り出してテーブルに置いた。


「これをお返しに参りました」


「これは……何かしら?」


 不思議そうな表情を作り出した金髪の娘は首を傾げてそう言っては、“私”に白々しいと思わせてくれた。


「ご存知なければ差し上げますよ、コルデリア様。死亡した貴女のメイドが自室に所持していたものですよ」


「まあ。ありがとう」


 コルデリアは両唇の端を均等に上へと持ち上げて笑みを作って見せた。この微笑みに“私”の息子達は夢中なのだろうか……


「クザン伯爵、長年の活躍で新たな領地を陛下から賜るとか。おめでとう」


「ありがとうございます」


 “私”はこの王太子妃に頭を下げ、魔法師団での最後の仕事を終えた。





 紙には“ヴァレンタイン伯爵令嬢殺害未遂事件”と書かれている。先程視えた書類とは内容が微妙に違うようだ。私は傍にいるラルフを見て『この書類についてですか?』と返した。

 

「うん、続きがこっちにあるかなー……と思ってね」


 ラルフはそう言い頭を掻いた。外交で隣国へ行く第一王子と、仕事で暫く家を空けると言っていたラルフが薄っらとした線で繋がるのを感じた。古い書類を探そうと、ラルフと共にオスカーの執務室に入る。


「ラルフ君?」


 そこに紺色の髪をしたジャックが声をかけ、ラルフを多いに混乱させたのだった。


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