14 逃亡計画
ナタリーは帰宅早々ジャックと私を前に切り出した。
「シャロン様をいち早く確保する為に、ファーガス侯爵家は今度こそヴァレンタイン伯爵を排除に動くでしょう」
ジャックは硬直し、私はそんなジャックを見て心が凪ぐのを感じた。
「ナタリー、何故私は一緒に排除されないの?」
「シャロン様……記憶に無いかもしれませんが、シャロン様は王族の方々と肩を並べる程魔力が高いのです。そして貴族年鑑の年齢はさておき、未婚の適齢期女性です。より強い権力との繋がりを得る為の手札にとして利用されると思います」
あら、まあ……
「そうなのですね。魔力と爵位の高さに相関関係があったなんて……存じませんでしたわ」
私は多少の驚きをもってナタリーとジャックを見るが、いつも通りの至って真面目な様子だ。どの家に嫁に出されそうか候補まで挙げてくれた。魔力の強さが合わないと、子供が産まれないのだとか……そんな事は私にとっては初耳だ。ピアノとかダンスとか唄とか乗馬よりも先に教えて欲しかった。
「ネイサン様を殺した者たちのところへシャロン様を渡す訳にはまいりません。ここは私がブレイク公爵の所へご相談にまいります」
ジャックがそう言うと、ナタリーが止めた。
「いけません。無防備に外に出て捕まるような事あれば、伯爵家に展開された結界内に入れるよう利用されてしまいます」
え、何その物騒な話……
「オスカー魔法師団長の助けを借りて伯爵家から脱出してもらいましょう」
ナタリーはそう言うと、ヤマダサンに声をかけて何やら話をし、ヤマダサンは『ヨシ、行ってくるゾ』と言って外へと消えた。
「魔法師団に応援を頼みました。罠を貼り、賊を捕らえます。その間シャロン様には隠れていただきます」
ナタリーは『忙しくなりますね』と目を輝かせせて言うのだった。
そして翌朝、オスカーと魔法師団員の面々がヴァレンタイン伯爵家を訪れた。人数が妙に多いのだが、ナタリーもジャックも気にする様子は無い。
「ではシャロン様、こちらの魔法師団見習いの制服に着替えて頂きます」
そう言うと、魔法師団見習いの少年から服を剥ぎ取ってしまった。私は流石にこれは少年が可哀想に思えたのだが、少年の満足そうな笑顔に本人が幸せなら良いかと思い直した。少年はナタリーに引っ張られて退出して行く。
程なくして現れたのはナタリーに連れられた……私によく似た銀髪の……先程笑顔で引っ張られて行った少年であった。
「しばらくの間、シャロン様になりすましてもらいます」
「まあ」
私は、色々な思いを総括したら、あまり思いのこもってなさそうな感嘆詞が出てきたのだった。ナタリーの計画は、少年シャロンと魔法師団見習いのシャロンが入れ替わり、私は王城へ潜伏後にブレイク公爵を頼る……と。少年シャロンのほうは、伯爵暗殺の刺客を網を張って待ち受けると言う。何とジャックも背格好の近い魔法師団員が成り代わると言う。ナタリー曰く『安全第一』だとか。
そんなに上手く行くものなの……?
私の心配をよそに、どんどん進む話。そうしているうちに、とどめ色した飲み物を渡される。横を見ればジャックも同じように手にはとどめ色の液体の入ったグラス。
「これは髪色を一時的に変える魔法薬です。味は保証しませんが、効果はひと月ほどです」
少年シャロンは爽やかにそう言いつつ、『鼻をつまむと良いですよ』と不吉なアドバイスで締めくくった。
私はアドバイス通り鼻をつまみ一気にとどめ色の液体を飲み干した。
おぉぉぉぅ……っ! 激まず!!
私は妙な腐敗臭に近い香りが鼻から抜けていき、全身の毛穴からどっと何かが噴き出すような感覚を味わった。そして、『効いてきましたね』というシャロン少年の言葉を聞きながら自身の髪が濃茶に変わったことを確認した。隣のジャックはどういう訳だか髪が紺色だ。
そこへオスカーが私に向かい歩み寄り、ネックレスを手渡し身に付けておくようにと言われた。何でも瞳の色を青くする魔道具だそうだ。片方ずつ違うのは流石に目立つからだろう。言われた通りに身につけると、首元が僅かに温かい。肩こりに良さそうな感じだ。
あらまあ……確かにこれなら……
魔法師団見習いの姿で髪と目の色が変われば、随分と印象も変わるものだ。更にナタリーが髪を貴族の令息風にまとめてくれた。この姿で今日はオスカーや魔法師団員たちと王城へ戻る事になる。
「ナタリーは大丈夫なの?」
「ブレイク公爵が刷新してくださった結界があるので、ヴァレンタイン伯爵家には簡単に侵入はできませんわ。伯爵家は自給自足で数ヶ月暮らす事も可能ですから……これはもう、持久戦ですわね」
キャンプを楽しむような調子ですもの……
この時私は知らなかったが、私とジャックの身代わりで伯爵家に滞在するメンバーに壮絶な選抜戦が繰り広げられたのだとか。
「タウンゼント師団長には、その間に事件を解決していただければと存じますわ」
オスカーは明らかに嫌そうな顔をしつつ『善処しよう』と応えたのだった。
こうしてジャックと私はヴァレンタイン伯爵家を出て再び王城に向かう事になった。




