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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
2 シャロン嬢社会復帰への道
28/128

9 そうだ学校へ行こう

[嬢ちゃん、平気カ?んん〜ちょっとだけ魔力減ったカ?]


 気がつけばヤマダサンが絶妙にあざと可愛いポジションでこちらを見上げていた。随分長い間意識を持って行かれたように思ったが、ヤマダサンに言わせれば一瞬の事だと言う。


[ん、大丈夫だよ]


 体調に変化は無い。ヤマダサンに視えたものを伝えながら、私達は日記を読む事にした。そして、鉛白の魔術師ことネイサン・ヴァレンタイン伯爵の日記は、日記というより研究手記である事がわかった。が、はっきり言うと内容がよくわからない。


 この日記は、 ハムちゃん(アリソン)に渡せば役に立つ……かも?

 それともハムちゃんのお母さん……かな?


 手記の初期は、薬学関係の記述が占めており、ある日を境に魔法陣、特に召喚魔法陣の記述が増えた。ディアナが魔法陣を改修したタイミングなのだろう。手記は私の学んだアルブス国語には馴染みのない単語ばかりであった為、ヤマダサンがざっくばらんな翻訳をしてくれた。


[さっき視えたもので、エレノア王妃の死亡理由は毒殺じゃないかって伯爵に伝えた人がいるみたいなんだけど……そう言う事書いてないよね]


[エレノアって単語は見なかったナ]


[そうだよね……]


 こうして伯爵の執務室探検は終了した。




 翌朝ナタリーは本を大量に持って来た。いや、ナタリーの夫が大量に本を持って来た。

 ナタリーは、ヴァレンタイン伯爵父娘の護衛役として住込み女中となっていた。ナタリーに続いて、入婿である彼女の夫も仕事で暫く家を離れるらしく、ジェキンソン家はジャックの妻が一人暮らしになると言う。

 ジャックの妻も伯爵家に住込んではと私が提案すると、ジャックは懐かしそうに目を細めて『小さい頃からの口癖ですね』と言うと、執事然とした彼にしては珍しく、私の頭を撫でてくれた。

 

「ええと、この本は?」


「シャロン様の教科書ですよ。私が王立学園に入学した時に、ネイサン様が使って良いと貸してくださったのです。」


「まあ……そうでしたか」


 通りで恋愛小説くらいしか部屋に無かった訳だと納得した私は、教科書に触れた瞬間に視界が歪み、何処かに放り出される感覚を味わった。





 これは学校だろうか…大きな建物の中を行き交う同じ制服を着た男女が見える。

 一人の男子生徒が手にしていたペンを取り落とす。それを彼より先に拾い、渡してやると少年の茶色い瞳に“私”が映り込む。


「シャロン様、ありがとうございます」


「いえ、気にしないで」


 ぎこちなく左手で受け取り、礼を言う少年はさながら騎士のようだと“私”は思う。同じ歳とは思えない体格の良さで、“私”よりも頭二つは背が高い。そして、その右手首には腕輪型の魔道具を身につけている。“私”の視線に気がついた少年は右の拳を握り、そして開いて見せた。


「ディアナのお陰で、ここまで動くようになりました。続ければ、いずれ元に戻るでしょう」


「そう、良かったわ」


 “私”が少年に微笑むと、顔を赤らめ目を逸らした。少年が再び絶望以外の表情ができるようになった事を“私”は嬉しく思っている。

 そこに一人の少女がやって来た。黒髪をした小柄な少女。意志の強そうな眉に濃い茶色の瞳はこちらを見つめている。そして、その傍らには黄色い小人がいた。


「ナバーロ先輩、調子はどうですか?」


「悪くない。ありがとう、ディアナ」


 少年がそう言い右腕を見せると、ディアナと呼ばれた少女は慣れた様子で魔道具を確認して満足そうに頷いた。

 “私”が黄色い小人を見ると、小人は悪戯好きのする笑顔で此方を見て、少年ナバーロの髪を束ねた紐を解いてしまった。


「すまない。髪が解けてしまった」


「ああ、丁度いいので腕の動きを見させて貰います。後でヴェロニカ先生にも診てもらって下さいね」


 少年ナバーロ少女ディアナも近くを飛び回る黄色い小人に気付かない。

 そんな様子に“私”の傍にいる青い小人が笑い出し、さやさやと音がした。


 そして視界が揺らいだ後、暗転した。





「ナバーロ……」


「如何されましたか?」


 ナタリーが首を傾げて私の方を見つめる。


「ナバーロという方と勉強していたような気がして……」


 私がそう言うと、ナタリーとジャックは顔を見合わせてお互いの目に喜びをたたえた。


「あと、ヴェロニカ先生?」


「まあ!」


 ナタリーは頬に手を当て『ヴェロニカ先生、懐かしいですわ』と言い嬉しそうに微笑んだ。


「ナバーロ子爵がシャロン様と同じ歳であったと記憶しております」


 ジャックがそう言うと、さっとハンカチを取り出して目元を拭った。


「ふ〜ん、学校行けば何か思い出すかもナ!」

 

 ヤマダサンは、そう言うと私の手の甲に肉球を押し付けると『学校のカフェにあるレモンパイが美味いらしいゾ』と私にだけ解る言葉でこっそり教えた。

 ジェキンソン父娘おやこは今すぐに学校へ行きましょうとシャロンに迫り、ナタリーは獣舎からでっかいトカゲを引っ張り出して来た。


 そうだ、学校へ行こう。そして、レモンパイ食べよう。

 でも、その子は勘弁して欲しい……レモンパイが残念な事になっちゃうから。


「落ち着いて、ナタリー」


 爆速魔獣には乗りたくない私が、ナタリーを宥めるのに多少の時間を要したのだった。


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