6 エレノアの手紙
エレノア・パーカーからの手紙は束にしたら、ちょっとした本ほどの厚みがありそうだ。どこかの高貴な身分の女性だろうと思う。
[嬢ちゃん、何かみえたのカ?]
異変を察知したのか、ヤマダサンが声をかける。興味津々といった体で、私の足元を行ったり来たりする。
[コレ。エレノアという女性と私が話していた。それで……]
[中は何が書いてあるんダ?]
ええっと……
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親愛なるシャロンへ
毎日のように会っていると言うのに、突然の手紙で驚いているかもしれませんね。貴女の“瑠璃色の鈴”を初めて見た日の事を思い出すような出来事がありました。
信じられないかもしれませんが、先日王城で、“鈴”を手元に置かれている方々をお見かけしました。“黒”と“赤”でした。
数年後の楽しみを貴女から奪わないよう、今は黙っておきますね。
エレノア・パーカー
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[“鈴”って何のことだろう。あと、“黒”と“赤”もよく分からないね……]
[他の手紙に書いてるかもヨ]
ヤマダサンに促されるように、次の手紙を手に取るが、特に反応はない。
次も反応なし、その次も反応なし、その次も……それをしばし繰り返して、急に別の場所に放り出される感覚が再び訪れた。
さて、此処はどこだろう……庭……かな?
赤髪の男がこちらを見ている。緑色の瞳に見えるのが“私”だ。男の近くにいる赤い小人を見て戸惑っている。赤い小人はいつも高貴な方の傍にいる。
「貴女は今何を見ていたのですか?」
男は目ざとく“私”の動揺を見抜いて、答え難い事を問いかける。“私”は赤い小人を見ないように、敢えて赤髪の男を見つめて口の端を持ち上げ『庭を見ておりました』と伝えた。
あ……
その時、赤い小人が男の耳を引っ張った後、男の耳元に何か囁きかけた。赤髪の男は破顔して『やっぱり』と呟いた後、“私”に微笑んだ。
「エレノア嬢、この子は貴女と目が合ったそうですよ」
“私”の心臓はさっきから早鐘をかき鳴らしている。すると、いつも“私”のそばにいる緑の小人が男の耳元に何かを囁きかけ、男は嬉しそうに“私”の手を取り、顔を近づけた。“私”はこのままでは息ができないと思った。でも、彼から目を離せない。緑色の瞳の中にいる“私”は、彼に捕まった。
「エレノア嬢、“赤い子を連れた王子”と結婚してくれませんか?」
視界が揺らいだと思ったら暗転した。
ここは……?舞踏会……?
華やかな衣装を身に纏った貴婦人たちに手を引く紳士たち。“私”は人の多さに驚きつつ、赤い小人を連れた愛しい人を探す。
「エレノア嬢」
愛しい人の声に“私”の心臓は跳ね上がる。振り向くと、赤い小人を連れて文官服を身に纏っている。大事な式典では、彼は文官服を身につける事が多い。
「レイモンド……様」
「私の力不足を許してください。貴女一人であれば……」
“私”と王子との婚約についてだろう。聞き分けの無い事が言えるほど“私”も子供ではない。ゆっくり口角を持ち上げて、微笑んだ。
「いえ。国の平穏を考えれば自然な事でございます」
「国の平穏を考えれば、エレノア嬢以外の御令嬢は皆不適格だったのですよ」
赤髪の文官は苦い顔でそう言うが、ファーガス侯爵家の影響力を考えれば、“私”こそが不適格だったのではと思ってしまう。所詮は辺境の侯爵家の出で、国への影響力は少ないのだから。
“私”は今日、王太子の婚約者になる。そして、ファーガス侯爵家令嬢も。
再び視界が揺らぎ、暗転した。
[どう? 何かみえたカ?]
気がつけばヤマダサンが見上げている。ヤマダサンの髭がぴこぴこ動く。
[うん。コレを書いた女性は、“赤い子を連れた王子”の婚約者になったみたい。あともう一人。……ナントカ侯爵令嬢。最近聞いた名前だったけど……]
[ナントカ侯爵令嬢?]
[……よくわかんないね]
私は考えるのを諦め、手紙を確認する。
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親愛なるシャロンへ
突然学園を去る事になり、貴女に直接伝えられなかった事が心残りです。
来年貴女が社交会に加わる時には、私も貴女の側にいますから、一緒にお祝いさせてください。
それから、私の夫になる方は赤い“鈴”を手元に置く方です。できれば驚かせたかったのだけれど……紹介できる日を楽しみにしています。
エレノア・パーカー
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[“鈴”は小人の事を指しているのかな……]
[小人って何ダ?]
[ほら、前に絵を描いた]
[ンンン〜。アリソンに渡した絵カ?]
私は『そうそう、ソレ。』と頷いた。赤髪の男レイモンドの近くにいた赤い小人、シャロンの傍にいた青い小人、そしてエレノア・パーカーの傍にいた緑の小人……。ヴァレンタイン伯爵に召喚されて目覚めた日に会った小人たちだった。
あとは黒い小人がいるのか……な?
[ああ、アレ]
ヤマダサンは何だか知った顔である。
私はと言えば、自分は昔から小人が見えていたのだな……と思った。エレノア嬢が見えるという事は、探せば他にも見つかりそうで……
[他に見える手紙はあるのカ?]
[まだ確認できていないのがあるね。ちょっと待ってね……]
残りの手紙を一通づつ検めたが、反応はなかった。




