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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
2 シャロン嬢社会復帰への道
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3 ナタリーの淑女講座

 ナタリー・ジェキンソンは第三魔法師団で諜報活動に特化した隊を率いていた。彼女自身変装して舞踏会に紛れる事もあった為、伯爵令嬢らしい振舞いは良く知っている。二十年前に見事なお手本が身近にいたと言うのも一助となっていたかもしれない。


 シャロン伯爵令嬢が王城で無事見つかり、しかも二十年振りに意識を取り戻したと聞いた時のナタリーは、歓喜に飛び上がった。その後、記憶と言葉を失っていると聞き愕然とし、ジャックの知らない言語を流暢に話すようだと聞き、かつての自身の生業も手伝い、その女性はシャロンではないのでは……と、父の見聞きしたことの真偽を疑った。


 ナタリーは、シャロンに一刻も早く会い、事の真偽を確かめたかった。

 やっと会えたのは父から話を聞いた日から二日後であった。王城の一角にある賓客用の部屋。そこにナタリーが会いたかったシャロンがいた。柔らかな日差しを受けて煌めく銀色の髪、もう見る事は叶わないと思われた双眸、動く事はないと思われた可憐な花を彷彿させる唇。駆け寄る時間さえ惜しい。

 ナタリーはシャロンの手を取り『ご無事で何よりです』と言うと、彼女シャロンの一挙一動を逃すまいと見つめた。そして、見つめられたシャロンは目を閉じた後、少し考えるようにゆっくりと言った。それは本当に小さな声で、手を握るナタリーにだけ聞かせるような声だった。


「ナタリーは……何でも知りたい……の……ね」


 それはかつて美しい伯爵令嬢を質問攻めにした幼いナタリーに対して、シャロンが言った言葉。その時は優しくナタリーの髪を撫でてくれた。その日の記憶が何枚もの絵を集めたかのように蘇っては薄れていく。あの時とほぼ変わらぬ容姿で目の前に立つ伯爵令嬢。気がつけば不審なところを見逃すまいと見つめていた目の前にいる女性の輪郭がぼやけて見えていた。

 ナタリーが二十年の時を経て再び姉と慕う娘に心を奪われた瞬間だった。


 その時、シャロンの手には瞳を潤ませるナタリーの指輪が押し当てられていた。それは、ナタリーが冴えない風貌の文官に振り回されていた頃、憧れの姉(シャロン)と同じような事を言ったその(文官)が贈った指輪だ。その一言が彼女の背中を押し魔法師団を去るきっかけになった。今となっては良い思い出の一品と言えよう。



 ヴァレンタイン伯爵家に戻ってきたシャロンは、やはり記憶が無く、言葉は覚え直しているとかで片言で話す状態であった。言葉だけでなく、一般常識のいくつかも失っているようだ。先日は庭で魔木の傍に寄り襲われるという事があり、ナタリーは内心ヒヤリとした。そして、父が言っていた謎の言語は、上級精霊語と判明した。伯爵(ご主人様)から教わっていたのかもしれないと、ナタリーの中で腑に落ちた。


「私も上級精霊語を話せれば……」


 ナタリーがそう言うと、シャロンは困り顔で少し微笑むのだった。

 やっと目覚めてくれたシャロンには幸せになって欲しい。ジェキンソン父娘おやこの思いはそれ一点であった。そして、彼女の幸せを考えた時に、ヴァレンタイン伯爵の死は何とか公表したくない事柄となった。一代限りの爵位を叙されたヴァレンタイン伯爵の娘であるシャロンは、父親の死亡と同時に伯爵令嬢という立場を失うからだ。彼女シャロンの魔力保有量に集る良からぬ謀略を巡らせる者の手には渡したく無い。

 ヴァレンタイン伯爵の死亡が公表される前にシャロンが良家に嫁ぐ事ができれば、彼女は貴族のままでいられるとジャックと協力し急遽淑女教育を計画する父娘であった。


 幸い(?)シャロンは第一王子エリック第二王子ヴィンセント両方と面識を持てた。ジャックとナタリーの思惑には、この薄幸の麗しい伯爵令嬢の為に、王子のどちらかが嫁ぎ先を融通してくれるかも知れないと言う淡い期待もある。

 ナタリーは、不思議な巡り合わせで、かつて憧れた淑女シャロンにダンスを教える事になったのだ。




 そしてダンスレッスン初日の事……ナタリーは、シャロンを見て固まった。

 取り敢えず軽く踊ってみましょうかと伝えたところシャロンが面妖な動きを見せたのだ。

 手拍子を数泊打った後、両手をゆらゆらと交互に上げたかと思えば、両手を同時に上に、今度は同時に下へと、ゆっくり一回転したら再び手拍子を数泊……


 “ぁととんがとん……”


 その間にも鼻唄混じりでシャロンの足元は円を描くように移動して行く。何かの儀式を行なっているようにも見える。


 “ぁととんがとん……”


「シャロン様……これは一体?」


「……さあ?」


 シャロンは首をコテンと横に傾け微笑んだ。きっとヤマダサンが伝え間違えたのだとナタリーは気を取り直して、基本のステップを教える事にする。


 一度手本を見せると、辿々しめだがステップを真似した。

 シャロンに踏み間違いはない。できれば練習相手に男性がいればと思う。


 ナタリーは、かつて自分にダンスを教えてくれた淑女を思い出す。清楚と艶やかを同居させた人だった。自分に向かって微笑んでくれるその双眸は美しい()()()でとても眩かった。


「シャロン様……とてもお上手です」


 ナタリーは、手拍子を一つ大きく打つとシャロンに休憩を促すのだった。

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