2 ヤマダサンのお料理教室
お菓子をダシに、ヤマダサンが釣れた事で、私のアルブス語学習が本格的にスタートしたかに見えたのは始めだけで、すぐに綻びがでた。ヴァレンタイン伯爵家が究極の自給自足一家で、料理本に記載の食材の多くが伯爵家には無かったからだ。
その代わりにとばかり、ナタリーが用意してくれる代替食材は、本物を取り寄せるよりも入手が難しそうな秘境の珍味的な物が殆どであった。そして、味はオリジナル食材と似ているが、色や形が全く異なり、特に極彩色なものが多かった。
一度ナタリーに、どうやってこの摩訶不思議な食材を手に入れているか訊くと『庭で栽培したり、飼育しています』と言い、ダチョウの様な生き物が産んだかなり大きめの卵や、頭が三つある山羊の様な生き物や、日陰を避けて移動する花などの不思議植物達を見せてくれた。ヤマダサンが飼育している動物達を見て『美味そうナ……』とヨダレをてろりと垂らし、動物たちを怯えさせてしまってから、ヤマダサンは畜舎に近寄らないようにとナタリーに言い含められていた。
一つ判明したのは、アリソンのプリンは真っ当な材料を用意すれば、馴染みのあるプリンができるきちんとしたモノだった。
ハムちゃん、やっぱり良い子だった……
まぁ、多少回り道になるかも知れないが、代替食材の名前や特徴もわかると前向きに捉えてヤマダサンに判らない言葉を確認しながら、パンチの効いたお菓子を日々作る事になった。料理と言うより、実験と呼んだ方がしっくりくる。しかも代替食材は、味重視の為、食材の下処理や調理方法が本来の食材と違うものも多々あり、結局手を動かすのは殆どナタリーであった。
結果的に日々お菓子を食する事ができてヤマダサンはご満悦なようだ。
私はカタコトながら、ナタリーやジャックと会話できる機会が増えたのだが、私のアルブス語がヤマダサンの話し方にかなり寄ってしまったようだ。意思疎通ができるので、個人的には満足していたが、ジャックとナタリーには不評であった。
「ナタリー。今日はこのお菓子を作りたいゾ。材料はあるのかナ?」
私が覚えたアルブス語を使うと、ナタリーはというと、哀しげな表情で『私も上級精霊語が話せれば……』と、言う。
ジャックは、表情こそ変わらないものの『家庭教師をつけた方がよろしいかも知れませんね』と、言う。
「ヴァレンタイン伯爵が死んだから、ヴィンセント王子のお願い終わると、私は貴族じゃないのデ……二人と話せれば、私は良いヨ」
お互いを神妙な面持ちで見合わせたジャックとナタリーは、『私めがシャロン様に教えます』と二人示し合わせたかのように声を揃えて言い出し、思いがけず、二人からそれぞれ講義を受ける事になった。
乗馬、ダンス、ピアノと歌唱がナタリー担当。
テーブルマナー、話し方、手紙の書き方がジャック担当。
そして、アルブス国の歴史をナタリーの夫にこれから頼むと言う。
ありがたい話に水を差すようで申し訳なくなるが、いらないヤツが入っている……ダンスとか、ピアノとか、歌唱とか……でも言えない。
そんな事言ったらナタリー泣いちゃうかも……
「魔法の事も教えて欲しいですゾ」
私がそう言うと、二人揃って予定の講義が全部終わってからと言われてしまい、それ以上我儘を通すわけにも行かないかと、大人しく頷いた。
「嬢ちゃんに言葉教えなくて良くなったんだナ」
ヤマダサンが、声を発する。尻尾をぴっこぴっこと左右に揺らすと、ナタリーが『そうですね』と答えた。
「ンンン〜。あのさァ〜。えっとさァ〜。お菓子はこれからも作るんだよネ?」
それとっても大事だよネ……
「勿論ヨ」
私がそう言うとヤマダサンは私の側に来ると『じゃあ、少しだけ魔法教えてあげるナ』と、上級精霊語で言うのだった。




