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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
1 アリソン公爵令嬢の非社交的な生活
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13 時を止める魔法陣

「やあ、アリソン元気そうで何よりだ」


 アリソンは十日振りに魔術研究所長室で、所長と対峙している。但し、メリッサ嬢に変装ふんそうしている。色々この父には言いたい事があった筈なのだが、色々あり過ぎて返答代わりに『みゅ』という音を発するに留まった。


「今日も()()()を鍛えているね」


 ブレイク公爵は、身を屈めてアリソンの眉間を両手で伸ばした。

 ついでとばかり頬を両手で摘まれ、『み゛』と音が漏れた。ブレイク公爵は妻が何か咀嚼している時によくこの動作を行う。曰く、手触りが堪らないらしい……


「父上、わざとジャックさんに席を外させましたね……」


「おや? そんなにあからさまだったかな?」


 あからさまと言うか、無茶苦茶というか、アリソンはほんの数分前に行われたわざとらしいやり取りに思いを馳せた。


 


 ヴァレンタイン伯爵の帰宅が決まってから、執事ジャックは第二王子からの依頼状とメリッサ嬢を伴い魔術研究所を訪れていた。ヴァレンタイン伯爵の館に結界構築をお願いする為だ。

 第二王子ヴィンセントからの依頼状に目を通したブレイク公爵は、満面の笑みで二人に口を開く。


「結界の構築だね。構わないよ。魔術研究所ウチの研究員を二名出そう。メリッサ嬢は知っているかな?レオナルド・クインシー研究員と、アリソン・ブレイク研究員だ」



 父上ぇぇぇぇぃぃ!!!



「早い方が良いよね。今から準備をして午後早々から作業を始めて良いかな?」


 えぇぇ……


「勿論でございます。ご配慮頂き大変恐縮でございます。それでは私めは先に戻り家人に伝えたいと存じます」


「メリッサ嬢、折角だから研究所を案内させるよ」


「……ありがとうございます」




 という小芝居が繰り広げられたのが数分前だ。

 眉間に皺だってできるという物だ。

 

「私と話がしたかったのだろう?」


 ブレイク公爵は青い目を嬉しそうに細めて『何から訊きたい?』と、続けた。


「ヴァレンタイン伯爵の容体については、どこまでご存知ですか?」


「シロオリの花が枯れた事は聞いているよ」


 伯爵の死亡は知っていると……


「ヴァレンタイン伯爵のご令嬢について、教えてください」


「二十年前の出来事は知っているかな?」


 アリソンは首を縦に振った。


「シャロン嬢か……ディアナの方が詳しいのだけどね。二十年前の事件があって、彼女の時を凍結させる魔法陣を用意したのはディアナだよ」


 ええぇ……


 アリソンの眉間に深く皺が寄った。

 時を凍結させる魔法陣など、聞いた事が無い。恐らく禁術指定されているか、母上ディアナが公表していないのだ。母上には公表していない術式が結構な数ある事をアリソンは知っている。


「シャロン嬢の寝台に魔法陣は組み込まれている。アレはね……他に移す事は難しいから伯爵の部屋とシャロン嬢の部屋を交換すると良いよ」


ブレイク公爵言うのであれば、とても真似できない術式なのだろう。アリソンは黙って頷く。


「第二王子の手紙にシャロン嬢の事をどこまで書かれていますか?」


「伯爵が死の直前に召喚したのがシャロン嬢だった事、以前の記憶は無く、意思疎通に上級精霊語が使えるようだという事、物を通して人の過去を視る能力があるようだという事……くらいかな」


 手紙を見ながらブレイク公爵が返す。


「シャロン嬢は上級精霊語を話せたのでしょうか? 物を通して過去を視る力は以前からあったのでしょうか?」


「わからないねえ。親友の第一王妃か、王妃経由でディアナなら何か知っているかもねえ」


 エレノア第一王妃はヴィンセントを出産した後、病死したと聞く。母上は、隣国で共同研究に赴いたままだ。かれこれ半年以上帰ってこない。研究中の彼女(母上)に手紙を書いたとして読んでもらえるのはどの位後になるのだろうか。


 うーん……


「あの、王子の手紙にファーガス侯爵の事は何か書いてありますか?」


「いや、何も書かれていないよ」


 オスカー経由でファーガス公爵家所縁の人間が襲撃に関わっている事はヴィンセントとジェフリーに伝わっていると聞く。王子は父上を信用していないのかも知れないな……と、アリソンは思った。『そうですか』と言いながらも考え事をしている彼女の口元はむにむにと動く。


「みゅ!」


 ブレイク公爵がアリソンの両頬を掴んで引っ張った。


「ディアナ……元気かなぁ。」


 アリソンは眉根を寄せて、『ひゃめてくははい!(止めてください!)』と抗議するが、公爵ちちはどこ吹く風といった様子だ。頭を振って手を振り払うと、公爵はその美しい顔でもって悲しそうな表情を作る。世の多数のご婦人を惑わすその顔も、見慣れるものでアリソンには通じない。


「最後に……結界構築って、どういう事ですか?ちゃんと知っている人を使わないと……ジャックさん達に何かあったらどうする気ですか?」


 アリソンは怒っているアピールをしているのだが、膨れた両頬を公爵の両手で押されて『ぷぅ』と音を立てた。


「クインシー君はね、城の結界維持に関わっているから安心していつもの姿で皆んなに会っておいで」


 こうして終始頬を弄ばれ、ブレイク公爵との再会を終えたのだった。


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