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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
8 禁書に纏わる紆余曲折
126/128

1 王女が揃うと……らしい

「……姉様?」


 謁見の間でオリガ達の帰りを出迎えてくれたのは、ルブルス国王だけではなかった。

 姉二人がいるのは想定内だが、嫁に行った異母姉二人が揃っていたのは意外だったのだ。怪訝な表情をしたオリガに対して二人の異母姉は僅かに口元を緩めて微笑みを返してくれた。黙っていれば双子だけに、二人の容姿はとてもよく似ている。


「おかえり、オリガ。白竜には会えたの?!」


  国王(父親)の言葉を待つ事なく口火を切ったのは、異母姉のタマラだった。

 社交的だが色々と配慮や礼節が至らない事実も相まって、国内のツィブルカ公爵家へと嫁ぎ先を決められた双子の片割れだ。もう片方の異母姉ロザーリエは慎ましやかに控えている。思慮深く大人しい方だけあって、隣国の王族へ嫁いだ身だ。

 オリガの記憶の限り、以前は瓜二つのタマラを嗜めるのが日課のようにしていた異母姉だが、身分が変わるとそう言う訳にも行かないのだろうか、ロザーリエは口元に笑みの形を作り黙ったままだ。


「陛下、ご紹介をされては如何でしょうか?」


 そこへオリガの姉ペトラが鉄壁の笑顔で、国王に圧をかけた。きっと『お前がサッサと仕切れ』とでも言いたいのだろう。と、オリガは思う。それに気がついているのかどうなのか、国王は『うん、そうだな』と、独り言のようにして応えた後、エリック殿下に異母姉二人を紹介して、ペトラに目をやると『後は頼む』と言わんばかりに鷹揚な感じで頷いた。

 ペトラは国王に応えたと皆にわかるように頷いてみせた後、オリガの横に立つ異国の王子に向かい口を開いた。


「ご無事の帰還お慶び申し上げますわ、エリック殿下。白竜とはお会いになれましたか?」


「ご助力ありがとうございました。私自身はお目にかかれなかったのですが、配下の者たちとオリガ妃殿下が白竜に会えたと聞いております。唯、ルブルス国にとっては残念な事もありました」


 エリック殿下の言葉に、国王とその娘達の視線がオリガへと降り注いだ。


 オリガは、溜息をそれとできるだけ分からないように短かめに吐くと、気合を入れ直して帰りの道中に用意していた報告をするのだった。





「ちょっと、ユリウスを壊したですって?!」


 真っ先に反応したのは、 ツィブルカ公爵夫人(タマラ)であった。

 叱責される事は重々承知していたオリガだったが、それはこの異母姉からではなかった。


「オリガ、貴女はルブルスの国宝を壊して帰って来たというのですか?」


 それに追従するように、第三王女ペトラが声を発した。オリガが最も叱責を受けるだろうと踏んでいたのが自分と顔だけそっくりで、王位継承者最有力候補と目されているこの姉だったのだ。


「あらあら……」


 少し困ったようにオリガペトラを交互に見る第四王女ターニャが思わずと言った様子で声を発して、持っていた扇子で口元を隠した後、バツが悪そうな流し目をそっとエリック殿下へと送るのがオリガにも見えた。

 そして、瞑目して自身の後頭部を撫でていた国王が口を開きかけたその時、再び公爵夫人タマラが捲し立てた。


「どう言う事なの? その魔導士はどうしてそんな事をしたのよ?」


 オリガは用意していた回答を伝える事を躊躇い、それは微妙な間を生んだ。

 隣国プルルスから来た魔導士の話をするのなら、それは異母姉に対する当て擦りのようではないか。オリガの沈黙に、ペトラがよく通る声で告げた。


「何を質問されるか帰路の間に考える時間はあったのでは?」


 ペトラの言い分はもっとである。オリガとて実際に件の魔導士と話をしたし、回答も考えていた。唯、この場に異母姉がいる事は思い至らなかったと言う事だろう。


「あら、オリガは今から話そうとしていたのよね? 姉様達もゆっくり聞かなければ、ね?」


 ターニャがそう言って、オリガを庇うような事を言ったが、多分異国の王子向けのアピールだろうなとオリガは思った。チラチラとエリック殿下を見ている様子がオリガの予想を確信に近づけた。とは言え、なんだかんだでオリガの味方をしてくれる姉ではある。


「魔導士は、白竜に対して良い感情を持っていなかったのです」


「どう言うこと? 白竜に恨みを持っていたとでも言うの?」


 オリガのいう事全てに質問で返すタマラ。もっと端的に答えて見せろと言いたげなペトラ。そんな二人とオリガの間を取り持つ風のターニャ。

 オリガへ助け舟を出そうとしたのか、そこへエリック殿下が口を開いた。


「隣国のプルルス国には白竜を忌避する風習があるとお聞きしたのですが、ルブルスは違うのですか?」


 エリック殿下の言葉に、王女達の視線が彼の方へと注がれた。

 そして、それまで黙っていた異母姉ロザーリエが口を開いた。


「ユリウスを破壊したのは、ウルバーノ……なのですね」


 ロザーリエはそう言うと、オリガから目を伏せるようにした後、小さく『ごめんなさいね』と唇を動かした。

 どうやらプルルスの姫になった聡い異母姉はオリガが言い淀んだ事の全てを理解したようだ。


「ウルバーノ……プルルス国からロザーリエ姉様と共にルブルスに来た魔導士ですか。確か交流目的で箱舟に同乗する許可を先日陛下から与えられた者ですね。彼がユリウスを破壊したと?」


「そのように魔導士殿より話を聞きました」


 ペトラの質問にエリック殿下が落ち着いた物腰でそう言い終えると同時にタマラの『何て事を!』と言う叫びが重なった。オリガが口元を引き結んだと同時に、国王の眉間の皺が深くなったのが見えた。


 ああ、そうか、陛下とうさまも五月蝿いと思ったのだな……。


「そんな魔導士をどうして白竜に合わせたの? 王位継承権保持者としての自覚が足りないのではなくて?」


 ウルバーノがプルルス出身だと知っていればオリガとて同行させなかっただろう。

 乗船していた魔導士の中で、土魔法に長けた者を選んだだけだった。しかし、何をどう言い繕ってみたとしてもユリウス先生は壊れたままだ。


「ロザーリエ姉様、残念です。貴女の立場を悪くさせてしまいますが、この事はプルルスへ抗議致します」


「そうですか」


 ペトラの言葉に異母姉ロザーリエは短く返した。

 ルブルスの姫はプルルス国民から人気が無い。大昔にプルルスから白竜を北へと逃したのがルブルス王家と言う伝承と共に、白竜を庇う碌でも無い王家としてプルルス国民に認知されているからだ。そしてこの異母姉は、なかなか良くならないプルルスの国民感情を少しでも良くしようと、両王家協議の末にプルルス国第二王子妃になったのだ。


「ロザーリエ姉様、どうしてそんな魔導士を連れて来たりしたの?」


「身一つでプルルスからルブルス王都まで来る訳には行かないからですよ、タマラ姉様」


 タマラは次の口撃相手をロザーリエにしたのか今度は彼女に詰め寄った。それを事務的にペトラが躱す。


「貴女はどうなの、ペトラ。その魔導士の事、把握していて止めなかったのなら貴女も王位継承権保持者としてどうなのかしら?」


「何か王位継承権保持者に未練でもおありですか? ツィブルカ公爵夫人」


 ペトラはオリガとは違い、売られた喧嘩を買うつもりなのか皮肉めいた言い回しで冷たい笑みをタマラに返した。痛いところを突かれたように一瞬タマラは顔を歪め、それをサッと扇で隠した後に、『国を案ずる臣として申し上げたまでの事ですわ』と、嘯いた。


 タマラが異母妹達に難癖をつけるのは、国王ちち初孫むすこを次期王に指名して欲しい一心なのだろう。次の王位継承権保持者には誰が相応しいのかとここ一年前から口癖のように言っている。思いが見えすぎて透けて見えるどころではない。丸見えだ。いつからだろう、公爵夫人タマラの傍には精霊がいない。


「陛下、私はユリウス先生修復方法を探りたいと思います」


 オリガがそう言うと、ルブルス国王は殊更大きく溜息を吐いた。


「ユリウスが居なければ禁書庫には入れない訳だが、探すアテはあるのかな?」


 そう、ユリウス先生が居なければ禁書庫の扉は開かない。

 帰路の間、アルブス国の魔術師が教えてくれた真偽の程も定かではない情報に縋るしかない。


「ユリウス先生……ユリウス・ルバーシュ卿の足跡を辿る事が修復に繋がろうかと思っております。彼は昔プルルスの侯爵家に養子に出されていたそうなので、プルルスへ向かおうと思っています」


「オリガ、貴女は公務を放棄してプルルスへ向かうと言うのですか?」


「まぁ、それが王位継承権保持者のお考えと言うの?」


 オリガが言い終わるや、ペトラとタマラから等しく批判めいた言葉を投げられた。


 上等である。先程から、非難ばかりで解決策を模索する様子のない二人にオリガなりに腹を立てていたのだ。まぁ、悪いのは自分オリガだと自覚もしているのだが……。


「王位継承権は要りません。私の望みはユリウス先生の修復です」


 オリガがそう言うと、ペトラは目を細め、タマラは『まぁ!』と口元を扇子で隠した。

 きっと扇子の下は笑みが漏れている事だろう。


「ちょっと、オリガ。そんな事言うものではないわ」


 ターニャが困ったようにオリガに声をかけつつ、二人の姉にも『オリガも大変だったのよ』と、言いながらもエリック殿下が気になるのか時々そちらを見ている。


「やれやれ、娘達が集まると……もう口を挟む間も与えて貰えぬよ」


 国王がそう言い後頭部を撫でてエリック殿下に向かってそう言うと、見目麗しい異国の王子はにっこりと笑い、『華やかなのは良い事です』と返したので、王女達は揃って口を閉じたのだった。



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