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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
1 アリソン公爵令嬢の非社交的な生活
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11 執事ジャック襲来

 想像以上に収穫をもたらした『オメの記憶覗いちゃうゾ(命名:ヤマダサン)』の検証結果は、ヴァレンタイン伯爵御一行の城での滞在を長引かせることになった。城外に出たら護りきれないだろうと言うのが主な理由であった。更に、外とのやり取りについても厳しめの制約を設けられた為、アリソンはブレイク公爵へ経過報告できないままであった。その間、他にやれる事がないとばかりアリソンは魔法陣の解読に、銀髪の娘はアルブス国言語の習得に時間を費やす事となった。

 第二王子襲撃の黒幕と目されているファーガス侯爵家だが、今のところ目に見える動きはない。

そして気がつけば第二王子襲撃から一週間が経過していた。


 第二王子ヴィンセントはと言えば、第一王子派と第二王子派の貴族たちに揉みくちゃにされて生気を吸い取られていると言う。昨日久し振りに会った王子は『さっさと聖廟に向かいたい』とぽつりとこぼしていた。ヤマダサンに癒しを求めていたようなのだが、ヤマダサンは塩対応だ。言葉が通じない銀髪の娘が間に挟まれ苦笑いを浮かべる。


 一方通行の愛って……チョット切ない。


 そんな王子と使い魔(ヤマダサン)の様子を見てアリソンは両親を思い出した。夫の愛に対して、夫人はどこ吹く風……嗚呼、既視感。ふと見れば、護衛騎士のジェフリーが生暖かい眼差しで主人と白猫を見ていたのだった。




 翌朝一番、苦い顔をしたオスカーが身綺麗な細身の男を後ろに従えてヴァレンタイン伯爵御一行の部屋を訪れた。男は老年に差し掛かろうかと言う年齢に見受けられる。以前打ち合わせた通り、銀髪の娘はヤマダサンと共に狸寝入りしている。と思えば、本当に寝ているようだ。


「メリッサ嬢、こちらはヴァレンタイン伯爵家の執事殿だ」


「ジャック・ジェキンソンと申します」


 ジャックは折り目正しく挨拶すると、『主人あるじがお世話になっております』と挨拶をした。


 みぃぃぃぃぃっ!!!


「メリッサ・ブラッドショウでございまふ」


 いいだけ動揺したアリソンはやっぱり噛んだ。そして彼女の眉間には残念な皺ができた。


「父君のブラッドショウ子爵にはご贔屓にして頂いております」


 執事ジャックは上品に微笑むというアリソンやオスカーからすれば社交の高等技術を披露した。アリソンは引き攣った笑みを返すのが精一杯で、オスカーは笑みを浮かべる事を早い段階で放棄している。


「本日は主人の御令嬢シャロン様についてご相談したく、参上致しました」


「……はあ」


 ジャックはアリソンもといメリッサ嬢を見つめ、ゆっくり頷くと続きを語り始めた。


「実は、一週間前より、シャロン様が館から忽然と消えてしまわれまして、主人に相談しようにも、賊に襲われ今もって意識不明の重体とお聞きし、主人が長年懇意にしておられるブレイク公爵にご相談したところ、()()()()()()()()()()()の助力を得ては如何かとご提案(紹介状を)頂き参上した次第でございます」


 父上ぇぇぇぃ!!!


 アリソンは色々堪えたものを、全て眉間に皺に深く集約させた。


「わ、私に出来ることがあるのでしょうか……そのぅ、ゆ、誘拐でしたら、魔導師団の方が適任なのではと思いまして……」


 ジャックは、そう言うメリッサ嬢を見つめ『ごもっとも』と言わんばかりに頷いて続けた。


「実は、シャロン様は二十年前に解毒の困難な毒に犯され、主人であるヴァレンタイン伯爵のお力で、時を凍結され眠り続けておりました」


 えぇ……


「一週間前になりますが、女中がシャロン様のお部屋を掃除中に忽然と消えてしまいました。その時、女中は召喚術式を感知したと申しまして……藁にも縋る思いで此方へ参った次第です」


「召喚術式を感知できるとは、優秀な女中なのだな」


 オスカーがそう言うと、ジャックは『恐れ入ります』と言いつつ、メリッサ嬢を見つめる。その真剣な面差しにアリソンは目を逸らす事が出来なくなり、固まった。

 さながらナントカに見つめられたハムスターだ。


「シャロン様が消えたと言うことは、どこかに召喚されたのではと女中と話をしてはおりましたが、何分素人同士ですので答えが出てくる訳でもなく……召喚術式に知見のある方にご相談できればと思うのでございます。私を含め家人は皆、唯々シャロン様のご無事を祈る次第でございます」


 ジャックはそこまで言うと、懐からハンカチを取り出し目元をサッと拭った。


 はぁ……


 厄介な話だ。召喚された側から召喚元を辿る研究はあまりされていないので、先人の手掛かりは期待薄だ。第一、そんな事ができるかどうかも怪しい。


 ……シャロン?


 アリソンはどこかでその名を目にした。ここ最近の出来事だ。

 思考の沼に沈むだけ眉間の皺も深くなる。アリソンは無意識に件の伯爵令嬢の名前を口の中で反芻していた。


 何処で見た?

 シャロン・ヴァレンタイン……



“我、此処にシャロン・ヴァレンタインを召喚する”



「あれだ!」


 アリソンは、オスカーとジャックの驚く様も気にせず勢いよく立ち上がると、ヴァレンタイン伯爵が最後に起動させた魔法陣を見る。

 魔法陣には、『シャロン・ヴァレンタイン』の身体を召喚するという記載があった。



「あのぅ、シャロン様はそちらで白猫と眠っている女性でしょうか?」



 アリソンが指し示す先を見たジャックが滂沱の涙を流し猛スピードで駆け寄った為、ヤマダサンの猫パンチを受けた。


「あぁぁ!! ありがとうございます!」


 頬を押さえてそう言った執事ジャックに向かって、『お前、もしかしてそう言うの好きなタイプ?』とヤマダサンが一歩後ろに身を引くのだった。

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