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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
1 アリソン公爵令嬢の非社交的な生活
11/128

10 悪巧みはフードで顔を隠して

 王城内に遺体安置場がある事をアリソンは生まれて初めて知った。


 事の起こりは、銀髪の娘が見せた謎の能力、別名『オメの記憶覗いちゃうゾ(命名:ヤマダサン)』についてオスカーに相談した今朝の出来事だった。


 この謎の能力『オメの記憶覗いちゃうゾ』を身をもって検証する事になったオスカーは、襲撃犯の遺品を使って次の検証を行おうと言い出した。そして何故か、彼は微妙に凹んでいた。

 まぁ、運が良ければ第二王子襲撃事件の黒幕につながる情報を引き出せる。黒幕に繋がる情報が無くても、失うものはないだろうという算段だ。何かわかればメリッサ嬢に変装し続ける必要がなくなるかもしれないとアリソンも淡い期待をもって臨んでいる。


 襲撃犯の素性が辿れる可能性がある武器や衣服は事後調査中の第二魔法師団長が管理しているらしく、それがアリソン達のいる遺体安置場という訳だ。


 城内はといえば、昨日発生した第二王子襲撃事件で持ちきりである。昨日シークレットシューズで苦労して歩いた時に比べ、何だか物々しい感じがする。

 襲撃事件当事者の第二王子(ヴィンセント護衛騎士ジェフリーは、事情聴取に引き回された後、第二王子派と第一王子派の高貴な方々に挟まれ、何故か両派閥の仲を取り持っていると伝え聞く。それに引き換え、当事者でありながら、何を訊いても『気絶していたのでわかりません』の助手一号(アリソン)と、常時寝込んでいる助手二号(銀髪の娘)、意識不明のヴァレンタイン伯爵のもとに訪れる人はまばらで、オスカー以外は身の回りのお世話をしてくれる人だけ……まぁ簡単に言うと、朝からまったり過ごしていたアリソン達である。部屋の中と外の空気の違いに忘れかけていた緊張感が復活する。


 アリソンと銀髪の娘とオスカー、そしてヤマダサンと言うかなりデコボコしたメンバーで遺体安置場の前までやって来た。そして、アリソンと銀髪の娘は、目立たず移動できるようにと魔術師団員見習いの格好をしている。銀髪の娘はそれらしい感じに着こなしているが、小柄なメリッサ嬢はダボつく服に着られてしまっている。


「タウンゼント師団長。何かございましたか?」


 魔法師団員が遺体安置場に赴いたオスカーに声をかける。

 

「見習いを入れたので案内だ。今日は例の事件で皆ピリピリしていてな……一日で辞められても困るから俺を子守に寄越したんだろう」


 オスカーは口の端を釣り上げて、魔法師団員に返した。

 師団員は『一日で辞められては困りますね』と笑うと、安置場の扉を開け、アリソンと銀髪の娘に向かい友好的な笑みを向けて迎い入れた。


 遺体安置場には、人が五名横になれる作りつけの台があり、その内の二つに昨日見たフードの男達が横たわっていた。他の三つは空だ。


「さて、どれを触って見るのが良いのかな……」


 オスカーは顎に手をあてて横たわる二人を見比べる。


[嬢ちゃん、どれを触ったら見えるか解るのか?]


 ヤマダサンが台の縁に器用に飛び乗り、銀髪の娘に話しかける。上級精霊語も流暢なものだ。


[見た目でわかる感じではなくって……光っていたりすればわかりやすいんだけど……」


 銀髪の娘はヤマダサンに笑いかけそう言った。

 ヤマダサンは『ふ〜ん』と言うと、耳をぴこぴこ動かす。


[えっと……武器はないのですね]


[“武器”とは何でしょうか?]


 銀髪の娘は、キョロキョロと台の周辺を見回していた。

 アリソンは辞書を持って来れば良かったと思いながら、分からない単語を確認する。


「あれだ。剣とか、ナイフとかそゆやつだヨ」


 アリソンは、昨日からヤマダサンのほうが上級精霊語を流暢に話す度に凹まされている。当然語彙力もアリソンとヤマダサンとでは雲泥の差がある。無論アリソンが残念な方だ。

 昨晩ヤマダサンと銀髪の娘は一気に仲良くなり、昨夜も遅くまで話し込んでいた。今朝からも一緒に話している事が多い。

 それにしたって、ヤマダサンはどこで上級精霊語なんて覚えたのだろう……


「……剣は第二師団長室だろうな。」


 オスカーが面倒臭そうに灰色の髪をかき上げた。彼の舌打ちが聞こえてきそうである。


[残念ながら、今此処には無いようです。他の品で試してもらえますか?]


 アリソンがそう言うと、銀髪の娘は頷くと男が身に付けたベルトのバックルに手を置き首を傾げた。心なしか腰が引けている。アリソンにはその気持ちがよくわかり、心の中だけでエールを送る。


[どう?]


 銀髪の娘はヤマダサンを見て首を振った。何も見えなかったようだ。

 フード、靴とあちこち触ってみても見える情報はないようで、もう一人の男にも同じようにペタペタと触っては首を傾げる仕草を繰り返す。彼女は順応が早く、もう死体に触る抵抗は無くなったらしい。

 唯、収穫はなかったようだ。


「駄目みたいだナ。他の持ち物無いのカ?」


 ヤマダサンが猫らしく後ろ足で耳をぽりぽりと掻くと、オスカーが長めの溜息をついて『仕方ない。ついて来てくれ』と言うと、三人と一匹は遺体安置場を後にした。

 

 オスカーは、徐々に建物が無骨な感じのする方向に足を進めて行くと、とある扉の前でノックをした。返事が無く、再度ノックしても返事は無い。ここが件の第二師団長の部屋なのだろうかとアリソンは思った。

 無人の部屋に滑り込むようにして入ると、昨日見たものらしき剣が執務机の横に置かれた箱の中に、無造作に突っ込まれていた。


「帰って来られたら面倒臭いから、さっさと試そうか」


 オスカーがそう言うと、剣を銀髪の娘に手渡した。

 銀髪の娘は剣を受け取り、頷いた後、箱の中にあるもう一本の剣にも手を触れた。


[何か見えた?]


 アリソンは期待を込めて訊ねると、銀髪の娘は『部屋に戻って話したい』というと、素早く部屋を出た。後にヤマダサンが軽快に続き、銀髪の娘に纏わりつくようにして歩いている。ヤマダサンの事だ、待ちきれずに見えた内容を催促しているのだろう。お菓子をねだる時と同じで尻尾をふりふりするのだ。


 犬っぽいよヤマダサン……


そんなヤマダサンのふりふり尻尾を眺めつつ、オスカーとアリソンも部屋を後にした。




「さて、何か見えたのかな?」


 オスカーは部屋に戻ると、開口一番そう言った。

 銀髪の娘はヤマダサンに『説明は任せるから』と言うと、今朝方手に入れた筆記用具類を手に何か描きはじめた。


「フードを被った男が二人いたってサ」


 ヤマダサンが、髭をぴこぴこ動かしてそう言った。


「遺体安置場にいた二人の事か?」


「んにゃ、別の二人だってサ。一人は偉そうな感じで何か喋ってたけど、もう一人は一言も喋らなかったって。そんで、喋らなかった方の男がいなくなった後、偉そうなヤツが何か言ったってサ」


 ヤマダサンの説明は正直よくわからなかった。それはオスカーも同じようだ。まあ仕方ないと言いたげに肩を竦め『話の内容まではわからない……か』と言った。


「ヤマダサン」


そこに、銀髪の娘が声をかけた。手には数枚の紙を持っている。

ヤマダサンは、『あ、もうできたカ〜?』と言いながら耳をぴこぴこさせる。


[言っている事が分からないので、参考になればと絵を描きました]


 銀髪の娘はそう言った後に、手にした紙を机に並べて見せた。

 並べられたのは三枚。アリソンは、息を飲んで絵を眺めた。


 凄い。


 一枚目の絵は、フードの男が二人いた。明らかに手の込んだ意匠を凝らしたフードを被った男と、その右側にいるフードを被った男。この短時間で写実的な絵を描いたのかと驚く程見事なものであった。

 二枚目の絵は、ヤマダサン曰く偉そうなほうの男の絵……の、一部。手の部分を拡大したものだ。その指には、指輪の紋章が確認できるレベルの精密さで記載されている。

 三枚目は、足を拡大したものだ。これも偉そうなほうの男のようだ。靴にも複雑な紋様が描かれている。


「こいつはまた、凄いものが出てきたな」


 オスカーは、口の端を僅かに釣り上げてそう言った。

 

「えっと……やっぱり指輪……でしょうか?」


 紋章から、出自が判ったのではないか……と、アリソンは思った。残念ながら社交に一切の労力を割かなかったアリソンには、この絵を見てもどの家の紋章か分からない。


「ああ、ファーガス侯爵家の紋章だ」


 オスカーはそう言うと、指輪の紋章を指した。

 銀髪の娘は一枚目の絵の右側にいる男を指して、『この人は途中でいなくなった。何も話しなかった』と言った。そして、ファーガス侯爵家の指輪を身に纏う男を指すと、


「ヴァレンタイン伯爵のへやにいる…ぜんいん…お…ころせ」


 と、言った。




 えー……




 蜂の巣を突いてえらい目にあうと言うが、アリソンはメリッサ嬢の扮装が解けると安易に検証に乗った事をここに来て初めて後悔したのだった。

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