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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
6 ハムちゃんの冒険譚
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12 精霊王曰く

 白い小人が斜め掛けにした鞄の留め具を外して、中からアリハムを連れ出した。ハムスターに小人がしがみつき、飛んでいる姿はまあまあコミカルである。アリハムは宙に浮いた脚をしたしたと振りながら私の肩の高さあたりをふわふわと上下している。これはこれで可愛い。


「面白い姿になって返って来たなぁ……」


 そこへ、少し低めの心地良い声がしたかと思うと、一匹の鴉が降りて来た。それに合わせるように、何もない筈の空間に丁度良い感じの止まり木が出現して、鴉はそこに降り立った。白い小人が鴉の傍へと飛んでいき、何か囁いたようで、鈴が鳴るような音がする。


「ふーん。変な魔法陣に魔力をねぇ。アルブス国王候補は落ち着きが無いなぁ」


 どうやら、鴉が白い小人と話をしている。

 手元にいるアリハムは後脚で立ち上がると前脚を前にぱたぱたと動かしている。何か言いたいのだろうか……?

 私は首を傾げて『どうしたの?』と、両掌の上で動くアリハムに訊ねた。間を空けずに白い小人が私の眼前まで飛んできて私の髪を引っ張った。どうやら鴉のいる止まり木の方へと進んで欲しいようで、私が手を伸ばせば鴉に触れることが出来る距離で髪を引っ張ることを止めてくれた。


「こっちも変わっているなぁ。死んだ者の身体に魂が定着したの……か」


 鴉は私を上へ下へと見た後にぶるんと身体を震わせた。


「死んだ者の身体……」


 とっても嫌な話が始まる気がするが、訊かない訳にはいかない。そんな強制力を感じながら、私は鴉の言うことを反芻した。アリハムが掌の中で、溶けてバターになるかもと言う勢いで、ぐるぐると回っている。


「先ずは自己紹介しようか、私は精霊の森を管理している。精霊王と呼ばれている者だ」


 鴉は止まり木の上で胸を逸らすと、その身体と同じくらい黒い瞳を瞬いた。


「初めまして、シャロン・ヴァレンタインです」


 私がそう言い少し頭を下げると、鴉も頭を下げ会釈のような動きをした。精霊王は律儀な鴉なのかもしれない。


「立ち話もなんだねぇ。とりあえず、座りなさいよ」


 鴉がそう言うと、私の真後ろから風を感じて振り返ると、木の切り株のような椅子が出現した。ここに座りなさいよと言う事らしい。私が椅子に座り鴉に向き直ると、鴉は満足したのか首を上下に振った。


「ええと……シャロンだったね。君もアルブスの新しい国王候補だよ」


「国王候補ですか?」


「うん。此処まで来れたからねぇ。聖廟に入るには、精霊に認められていないといけない。但し、契約で精霊を縛るのは駄目だよ。君の相棒は……今日は此処にいないみたいだねぇ」


 白い小人が大きく首を縦に振った。その様子を尻目に鴉は続けた。


「聖廟を抜けて精霊の森まで来た者全てが僕に会える訳ではないよ。精霊の存在をきちんと認識できない者は、此処に運んで貰えないからねぇ」


「……はぁ」


「うーん。君はちょっと反応が薄いねぇ。産まれて間もないからかなぁ……」


 そこまで言うと鴉は止まり木の上で羽を羽ばたかせた。不思議と近いのに羽音は聞こえない。


「ええと……私は何者ですか?」


 目の前にいる鴉の動きが止まり、首をくんにゃりと捻り『そうだねぇ』と呟いてから、頭をぶるるんと音を立てて震わせた。


「君は……産まれて直ぐに、その身体に魂を定着させられたみたいだから……きっと元々は精霊だったんだろうねぇ」


「精霊?」


「ほら、君を此処まで運んでくれた子達いたでしょう?」


「小人達の事ですか?」


「あぁ、そうそう」


 鴉は首を上下に振った。


「じゃあ、この身体は……シャロン・ヴァレンタインは、私ではないと言う事ですか?」


 鴉の話では、私は小人達の一人だったと言う事のようだ。『死んだ者の身体』と先程言われたのは、シャロンがもう死んでしまったと言う事なのだろうか……

 耳鳴りがしているのかと思うくらい静かな瞬間が暫し訪れた後に、鴉は言った。


「その身体に元々居た魂は、もう居ないねぇ。……つまり、死んでしまったのだよ。そこに君の魂が入り込んで……今は魂と身体で少し匂いが違うけど、徐々に馴染むだろうねぇ」


 ヴァレンタイン伯爵が死ぬ間際に行った召喚術はシャロンを目覚めさせた訳ではなかったと言う事なのか……?!

 ジャックやナタリーの顔が頭に思い浮かび、心臓が首元あたりに移動したのではないかと思えた後に、温かいものが目から零れ落ちていった。


「悲しいのかぃ? 産まれ方を選べる者などこの世に居ないのだから、嘆いても変えようはないんだよ」


 鴉はそう言い、首を上へ下へと忙しなく動かした。


 私は……悲しいのだろうか?


 ふと、下を向くとアリハムが私の掌から出て、私の服にしがみ付いて上へと登ろうとしている。その後脚は何度も足場を掴めず空を蹴り、ぴこぴこと動いている。


 ……可愛い。


 私がアリハムの後脚に私の指を近づけてやると、踏ん張りが効いたようで、胸元まで上り此方を見上げて、したしたと後脚を動かしている。


「国王候補同士で仲が良いのだねぇ。いじらしいねぇ」


 鴉はそう言うと、羽を広げて自身の嘴で突いている。見ようによっては、羽で涙を拭っているようにも見受けられる。


「私は、アルブス国王の子供では無いですが、次期国王……候補なのですか?」


 私は、そろそろ体力の限界を迎えようとしているアリハムを両手で掬い上げて、そう言った。


「国王になるのに血筋は関係無いよ。妖精王わたしに会って、王の指輪を受け取れる人なら誰でも良いんだ」


「王の指輪?」


「ああ……精霊達の声を聞き取る事が出来る指輪だよ。一度身につければ取れないし、死んだら消えてしまう国王の証だねぇ。この前、そっちの国王候補に渡しておいたけど、未だ身につけていないようだから……もし、君が代わりに身につけるのなら、君がアルブスの新しい国王だねぇ」


 私はアリハムと顔を見合わせて、首を傾げた。その時、アリハムのお腹が僅かに鳴って、つぶらな瞳を瞬かせて『きゅきゅ』と、エリック王子の近くでご飯を催促するかのように鳴いた。


「まぁ、どちらが国王になっても良いから、早めに決めるんだよ。国王が居ないと、バランスが崩れてしまうからねぇ」


「バランス?」


「国のバランスだよ。とりあえず、今日のところは連れの者達の所へ戻りなさいよ」


 鴉がそう言って飛び立つと、止まり木が消えて、私はアリハムを抱えたまま落下しているような感覚を味わった。いや、本当に落下している。自分の髪が引っ張られているかのように上に見えた。

 私の髪に脚を掛けてダンが羽を広げているが、落下は止まらない。私は片手で斜め掛けにした鞄を手繰り寄せて、中にアリハムを少し乱暴に放り込んで、鞄を両手に抱えた。体重の軽いダンやアリハムは死んだりしない……と、思う。


「……いじらしいねぇ」


 心地の良い声を最後に、私の意識は途切れた。



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