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精霊召喚の娘  作者: 鰀目唯香
6 ハムちゃんの冒険譚
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11 残された者達

「アリソン嬢。それに、……サイラスは今頃何処にいるのでしょうか?」


 榛色の髪をした美青年が、手に ハムスター(第二王子)を膝に乗せて手ずからメロの種を渡す。その顔は、どんよりと暗い。心なしか彼の翡翠色に近い双眸も、やや暗めに見える。そんな事に気づいているのかわからないが、ハムスターはメロの種を両手で受け取ると咀嚼し始める。


 しゃくしゃくしゃくしゃく……


「アリソン嬢の居場所を ササキサン(使い魔)に訊いても『ふしゅう』と言うばかりで、一向に教えてくれません。どうも私は嫌われているみたいで……」


 てしてしてし……


「ああ、すみません。もう一粒食べますか?」


  ハムスター(第二王子)に指をさわさわと触られ、再び殻を取ったメロの種を手渡す。すると、先程と同じように、メロの種を両手で受け取ったハムスターが咀嚼を再開する。


 しゃくしゃくしゃくしゃく……


「バーン侯爵がササキサンを手なづけている所なのですが……中々難しいみたいです。せめてヤマダサンのように意思疎通が図れれば良いのですが。」


 てし……てし……てし……


「駄目ですよ、あんまり食べ過ぎは良くないとバーン侯爵や……サイラス君からも聞いていますから。ああ、お水ですか?」


 青年が魔力で水を生成して掌で受けると、 ハムスター(第二王子)は青年の指に掴まり後脚をピンと伸ばして、爪先立ちに近いポーズで踏ん張って水を飲んでいる。ハムスターの後脚がぷるぷるするのはご愛嬌だろうか。

 そして、それを傍で眺める榛色の髪をした美青年がもう一人……

 こちらは深い青色をした双眸を伏目がちにしていて、その様子はさながら恋焦がれる女性の事を頭に思い描いているようにも見える。


「……エリック殿下。先程ヴィンセント殿下の食事は終わりましたので、今日はこれ以上与えてはいけませんよ」


「まだ何も言っていないのだが……」


 同じような髪色をした二人の美青年は、 ハムスター(第二王子)を囲むと同じ様に何かを思い悩んでいるような表情で、ヴィンセント第二王子ことヴィンハムの一挙手一投足を観察している。一人は消えたブレイク公爵令嬢の事が心配で気もそぞろで、もう一人は、餌付けがしたくて仕方ないか……アークライト伯爵の見立ては、確かエリック王子は サイラス(侍従)との禁断の恋に焦がれているとか。個人的には心底どうでも良い話題ではあるが、伯爵令嬢サイラス公爵令嬢アリハムは急ぎ捜索しなければ先へも進めない。

 ヘイワード師団長が配下の師団員を率いて周辺を調査してくれてはいるが、ダンの羽根を持つ彼も、追跡魔法が何故か働かないのでローラー作戦くらいしか手の打ちようが無い筈だ。大した人員数も居ないこの状況下では、結果は運頼みだ。


 いや……先にあの ヴィンハム(阿呆)を元に戻してからユリウス卿を巻き込んで捜索する選択肢もあるかもな。


 出立前にユリウスなにがしの情報を王立図書館で入手させていたオスカーは、ユリウス・ルバーシュはルブルス国の王族という情報を掴んでいた。ユリウスは記録の誤植と思えるほどかなり昔に社交会から身を引いたようだ……いずれにしても精霊の森についても何か知っている可能性が高いだろう。オスカーは、ユリウス巻き込み作戦に舵を切ろうと一人心に決めた。

 そんな中、相変わらずジェフリーと第一エリック王子は ヴィンハム(阿呆)をどんよりした様子で見つめている。それを尻目に、オスカーは溜息混じりでバーン侯爵に訊ねた。


サイラス(見習い師団員)には私の使い魔を付けているのですが、追跡魔法で追えないのです。天鵞絨の魔術師(バーン侯爵)は何か心当たりはありませんか?」


「……使い魔が既に死んでいる可能性はあるか?」


 後頭部を掻きむしりながらバーン侯爵は言った。もう片方の手には肉塊を握り、目下ササキサンを餌付け中の様だ。


「いえ、それはないでしょう」


 使い魔が死ねば、契約者にはそれが判る。逆も然りだ。ダンが死んだ兆しをオスカーは受け取っていないので自信を持ってそう答える事ができる。


「……妖精の森では追跡魔法が効かないのか? そもそも妖精の森に来る事ができる人間など殆どいないからな。前例すら探せんから、出来ることを試すしか無いな。ともあれ聖廟前に置いて来た俺の使い魔への追跡魔法が効くか試してみよう」


 そう言いながら、バーン侯爵は最後の肉塊をササキサンに放った後に、追跡魔法を展開して、『俺の使い魔は追跡出来た』と、直ぐに教えてくれた。残念ながら、妖精の森にいる魔法師団員で使い魔契約をしている人間はいないので、オスカーを追跡できない原因を見つける事は難しそうだ。手詰まり感ばかりが募る。


 オスカーは目元を摘むと、急に五大魔術師の二人へ確認し忘れていた事を思い出した。昨夜起きた魔獣シャンゴ騒動ですっかり忘れていた……とも言う。


「バーン侯爵。ヴァレンタイン伯爵の研究日誌に、ハムスター騒動の原因となった魔法陣の基らしき記述があるのですが……見て頂けますか?」


 オスカーは、ブレイク公爵家の魔道具から研究日誌を引っ張り出して、伯爵令嬢サイラスが示した頁を開いた。侯爵は『へぇ……ヴァレンタイン伯爵の研究日誌ねぇ』と、眉を跳ね上げるようにした後に目を細めて日誌を受け取った。と、思ったら、日誌をやや離して目を細めている。


「あら、そろそろ老眼かしら?」


 そう言いながらやって来たのは、侯爵よりも歳上であろうアークライト伯爵だ。見た目は父と娘くらいの年齢差に見えるが、実際は母と息子の年齢差だろう。侯爵は黙って日誌を伯爵にも見えるように広げた。


「ここの記述を基に作った魔法陣で二人はハムスターになったらしい。上級精霊語が多くて解らん。ブリジット、アンタなら何か解るか?」


 侯爵が言い返す事もなく、アークライト伯爵を年寄り扱いしないのは珍しい。それは伯爵も思ったようで、彼女はやや拍子抜けと言った表情をした後に、記述を眺めて言った。


「……どうかしらね。この筆跡は、鉛白のネイサン君ね。彼も器用な事を考えた物ね」


「何かお気付きの事ありましたか?」


 オスカーが少しの期待を込めて尋ねる。


「此処にあるのは、あくまでアイディアね。敵地なんかで逃げる時に、召喚術式を応用して小動物へ化けて逃げる方法についての試行と考察。魔法陣も描かれているけど……ちょっと、これで動くとは思えないわね。これを基にこの前見せてくれた魔法陣を作ったのなら、やっぱりディアナちゃんの血を引いているのね。ブレイク公爵令嬢は天才だわ」


 一息でそこまで言ったアークライト伯爵は、バーン侯爵に目を向けると言った。


「ライアン、貴方も判った事があれば言ってよね」


 この二人は、喧嘩ばかりしているのに別れない熟年夫婦か何かのようだ。自分とレベッカもいずれそんな関係になるのだろうか……と、オスカーは思った。


「俺には上級精霊語は解らん。アンタの憧れユリウス・ルバーシュ様ならこれを見せたら判るかもな……そもそもあの魔法陣は召喚術式だっただろう、アンタの方が圧倒的に詳しい」


バーン侯爵は後頭部を掻きむしるとそう言い、腕を組んだ。対するアークライト伯爵は、『ふふふ。上級精霊語なんてこれから覚えれば良いのよ。貴方はまだまだ若いのだから』と、微笑み侯爵に渋い顔をさせるのだった。


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