10 精霊の森
ええっと……
第一王子と 第二王子一行は、無事に北の聖廟を抜けたようだ。樹海とはまるで異なる森まで辿り着いた。どこが違うかと言えば、見える小人の量が異常に多いのだ。
「ここは……樹海と大して変わらないようだな」
「そうだな」
魔法師団員の声が聞こえてくる。皆落ち着いた様子で、やはり大量の小人達は皆には見えていないようだ。ミドリちゃんや白い小人に比べて、色彩が薄いようで後ろが透けて見える。そんな小人が、見えるだけで数百くらい其処彼処でぷかぷかと浮いている。
何だか海月みたい……。
半透明の小人達は、暗がりの中でライトアップした水槽で漂う海月を思い出させた。私は思わず『綺麗』と一番慣れ親しんだ言葉で小さく呟いた。さざ波のような音があちこちから聞こえて来て、目が回ってしまったような気分になる。
キョロキョロと見回していると、エリック王子に再び嗜められる。
「サイラス、君……落馬したいのか?」
そう言うと、動くなと言わんばかりに、私の腰にがっちりと手を回し抱え込まれて一層ぴったりとエリック王子に密着する事になった。それを生暖かい目で見るバーン侯爵に、『あらあら』と言い微笑むアークライト伯爵の目線が何だか気恥ずかしい。
白い小人がアリハムに近づくと、何かを囁き『きゅきゅ』と、言う鳴き声と共にごそごそと鞄の中で動き回る音が聞こえてきた。興奮しているのだろうか?
「……聖廟を抜けてから魔獣の気配が、消えたな」
私とエリック王子の右横を進むバーン侯爵がそう言うと、アークライト伯爵は胡散臭いと言わんばかりの表情で目だけで辺りを見回した後に『野生の勘と言ったところかしら?』と、嘯いた。
私たちの左横を進むジェフリーはやや緊張した面持ちで、ササキサンを抱えたまま周囲に目を配っているが、彼の肩に座るミドリちゃんは笑顔だ。オスカーやヘイワード師団長は終始無言で前を行き、その表情を此方から窺い知ることはできない。
「……通れてしまったね……」
頭上からガリ王子の声がして、私が『そうですね』と返したら、後ろから来る温かい風に私の髪が僅かに揺れた。どうやら王子は笑っているようで、自身の頭を私の肩に乗せて小刻みに震えていた。ガリのくせしてそこそこ重たい上に、僅かにくつくつと籠った声も聞こえて来た。
「そんなに面白いですか?」
「……ああ、済まない。将軍や師団長達に担がれたと解ると笑えて来てね」
頭を持ち上げた王子の言葉を聞こえ終わったと同時に、辺りを漂っていた半透明の小人達に囲まれてさざ波の音が一際大きく聞こえて、身体が浮き上がるような感覚を味わった。
……え?
気がつけば無音になっていて、いつの間にか私の周囲には真後ろにいたガリ王子も含め、誰も居なくなっていた。靄のかかった空間に立っていて、白い小人だけが私の傍にいる。そして、周囲を見回す私の首元をくすぐる感覚がした。
“お迎えだのぃ”
「ダン……お迎えって?」
まさか……天に召されちゃうの?
そう言うお迎え?
“さっきお嬢ちゃん達を妖精王の所へ連れて行くと聞こえたのぃ”
妖精王って……どちら様よ?
首を捻る私の視界に、斜め掛けにした鞄が見えた。そして、私と同じように首を捻ったアリハムが『きゅ』と、鳴くのが網目状の布越しに見えたのだった。




