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X-XX

 体を両断されたセイラは、それでも僅かに意識が残っていた。

 黒血は溢れ出し、傷の修復すら叶わない彼女は無慈悲にも消えることのなかった淡い意識の中、二人を見守る事しかできない。


『ウ、ウァアアアアアアアア!!!!!』

「そんな……セイラ……」

「(メイ……逃げ、ろ……)」


 自分を抱き上げたメイの胸元で、セイラは僅かに口を動かし、何とか意志を伝えようとした。

 息も出来なければ、声も出ないのだ。


「……っ!でも……」

「(君が……生きてくれなきゃ……すべての、意味が……)」

『イヤアァアアアアアアア!!!!』


 頭を抱え、泣き叫ぶレンゲだったモノ。

 その叫びに呼応するように背後では、異次元へと続く門の渦がより激しく渦巻き、まるでそれは漆黒の嵐のように辺りに高濃度の因子を巻き起こし、引き剥がした地面や瓦礫を巻き上げ、より宙へと押し上げていく。

 渦の中央からは光の柱と共に悍ましい数の赤黒い腕が這いずりだし、天を掴もうと姿を現し始めていた。


「(もう時間が……止められなかった……ここに居ちゃ……ダメだ……)」

「セイラ……っ」


 涙を流し、訴えかけるセイラの瞳を見つめたメイは、何かを決心したかのように、頷いた。

 セイラの体を優しく地面に寝かしたメイは、立ち上がる。


「(なに、を……)」

「私ね、セイラっていう友達が出来た時……本当に嬉しかった」

『アァアアア!!!』


 泣き叫ぶレンゲが放つ落雷が体を霞めながらも、メイはただ立ち、じっと深淵の渦を見つめた。


「ずっとずっとひとりだった、私を初めて理解してくれた人だった。心の底から、私の孤独を理解して、包み込んで、温めてくれるような……そんな人と友達になれて、幸せだった」


 無数の電撃が襲い来る中、メイは静かに、歩み始めた。

 レンゲが守り続ける、深淵の渦へ向けて。


「だから私は、そんな人が守ろうとした、助けようとした、この世界の為に……あなたが生きているこの世界を、守りたい」

「(ま、さか……っ!やめろ……!やめてくれ!)」

『ウ……ウゥ……』


 数発の電撃が体を襲い、激しい痛みに襲われながらも、メイは歩みを辞めない。

 そんな彼女に威圧されるかのように、レンゲが若干たじろぐような仕草をする。


「今まで出来なかった分……何も成しえず生きてきた分……何も役に立てなかった分……全部、これで清算できるか分からないけど……でも、私の大切な、大切な……セイラの為なら、この身を投げ捨てても、惜しくはないから」


 メイの告げる言葉に、セイラは必死に手を伸ばそうとした。


そんなこと、僕は望んでいない……!


君が居たから、この世界を守ろうとしていたのに……!


君が犠牲になっては、意味がないんだ……!



 そう叫ぼうとした言葉の数々さえ、カタチにならない。


『ウア……アァアアアア!!!』

「……っ!」


 レンゲの放った電撃のひとつがセイラに直撃し、彼女の意識を急激に奪い始めた。




 空に爛々と輝く星羅の瞬きにかき乱される淡い意識。


 壊れたカメラのようにピントが合わない視界。




 宇宙からの引力に引き剥がされる大地。


 夢幻に感じられるこの現実は、あやふやな世界を確かに蝕む。




 片腕と片目しか残っていない無残な肉塊と化した体を必死に捩らせ、セイラは手を伸ばす。


 それはもはや決して届く事の無い大切な存在を、無我夢中に掴もうとする為に。




「これで世界全ての哀しみが消えるなら……私が」


「――っ!」




 閃光が噴き出し天を貫かんとする虚ろな淵の前に立ったメイは、涙を流す事も無く、セイラを見つめた。




 その先には行っては駄目だ。


 ここで命を捨ててしまっては意味が無い。


 どうか行かないでくれ。




 必死に投げかけようとした言葉さえも、形にならず無意味な空気となって漏れるばかり。


 真っ赤に染まり逝く視界の向こうで、淵へと身を投じようとするメイをただ見つめる事しか出来ない。




 セイラはどこまでも無力だった。




「あなたがやっと生きられたこの世界を、私は守りたいから」




 それは違う。


 君がいないこの世界なんて、どこまでも無価値だと言うのに。




「だから、元気でね」


「――っ!」




 セイラは叫ぼうとした。


 あとほんの少し時間があれば、崩れかけた肉体を何とか立ち上がらせる事も出来たかもしれない。


 しかしそんな時間は、セイラには残されてなんていなかった。




「さようなら――セイラ」




 その一言を残して、ホワイトアウトする視界。


 耳を劈くような空気の絶叫に、鼓膜が音を拾う事すら諦める。


 ただ一言残された言葉の残響が脳内を巡るその最中。




 メイは淵へと落ちていった。




「メイ――ッ!!!!!」




 全てが手遅れになってから喉から搾り出された絶叫も、もはや何の意味も無い。




 淵から噴き出した悍ましい血の波が、紅い雨となって降り注ぐ。




「――」




 自らの体から流れ出す黒い血と降り注ぐ赤い血が混ざり合う様を、セイラはただ眺めた。




 それでも空を覆う無数の星羅は、あの子の瞳のように、無慈悲に美しく煌めいた

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