9-19『雷楔』
「危ない!」
『アルラァアアアアアアア!!!』
「こんなの……もうレンゲちゃんの意志は関係あるの!?」
無数の落雷を発生させ接近してきたレンゲの触手のような髪が、電撃を迸らせながらメイに襲い掛かる。
四方八方からの予測できない不規則な攻撃に、メイは翻弄され、腕と脚に触手が絡みついてしまう。
「しま……きゃあああああああ!!!????」
「メイ!」
絡みついてきた触手から凄まじい電撃が発せられ、メイの全身に言いようのない激痛が走った。
咄嗟にセイラが大鎌を振るい、メイを拘束している触手を勢いよく切断する。
なんとか電撃からは解放されたが凄まじいショックを受けたメイは力が抜けたようにその場にへたり込んでしまう。
「大丈夫か!?」
「だい……じょうぶ……っ!」
『アァアアアア!!!イヤァアアアアア!!!!』
頭を抱え悲痛に叫び狂ったレンゲの腕に、青白く輝く電撃の刃が構築される。
稲妻もかくやと言うほどの迅速な連撃を大鎌で受け流そうとするセイラ。
雷撃を鎌で受ける度に耐え難い激痛が奔り、押され気味になる。
「前が……見えてないのか……!?」
『ウアァアアアアアアアア!!!!!』
「なっ……うわっ!」
刃を受け止めたセイラに向け、突如額の発光器官が激しく明滅した直後、強烈な閃光と共にもはやビームと言って差し支えない程の光線が照射される。
大鎌の刃でそれを防ごうとするが、尋常では無い熱量と電撃を放つその光線は一瞬にして刃を熱し、照射され続けた大鎌は真っ二つに破壊されてしまった。
破壊される刹那、咄嗟にセイラが身を引くと、地面に着弾した光線は落雷にも似た凄まじい爆発を起こし、広範囲に渡って地面に亀裂が走る。
「これはっ!?」
「地面が!」
異常な地響きと共に周囲の亀裂が青白い光を発し、粉砕された地面が引き剥がされ、宙に浮きあがる。
周囲は青白く発光し、瓦礫の中のひとつに立っていたメイとセイラはレンゲの姿を見逃す。
「アイツ、どこに!」
「ねぇ!ゲートが!」
稲妻が迸り漆黒の暗雲が渦を巻き始める浮遊した地面と地面の間、その下に見えるゲートが更にその輝きを増し、渦の中心から発せられた閃光の柱が天へと突き抜け、稲光のように空の雲を伝播して広がっていく。
「世界各地のゲートと共鳴を始めたのかっ!」
『――』
宙に浮く瓦礫の隙間に、レンゲは浮遊し二人を見つめる。
その手に電撃の槍を形成し、大きく振りかぶると、まるで神が雷を放つかのように途轍もない勢いで投擲した。
鋭く勢いを持った雷撃の槍は二人が立つ地面に着弾し、粉々に粉砕する。
セイラとメイはそれぞれ別の足場へと飛び移り、様子を伺う。
「こちらも飛んで、攻め込むしかない……!」
「行けるのか、メイ」
「うん、やるしかない……レンゲちゃんを助けるためにも!」
強く地面を踏み込み、勢いよく駆け出して足場からレンゲに向けて飛び降りるメイ。
空中で彼女の背部にジェットエンジンが現れ、その推力を用いてレンゲへと突撃していく。
手にはギターを構え、勢いに乗せて振りかぶる。
「吹き飛ばす!」
『ルゥ!』
髪を揺らめかせたレンゲは猛スピードで飛び上がり、まるで戦闘機のような素早さと機動力で瓦礫と瓦礫の隙間を縫うように飛び回り、追撃を許さない。
メイもそれを追おうとするが、その動きと瓦礫に翻弄され追いつけない。
レンゲが振り切ろうとしたその先で、突然彼女の下方からセイラが姿を現す。
「お前の相手はメイだけじゃねぇぞ!」
『ルゥアアアアアア!!!!』
大鎌を振り下ろすセイラ。
間一髪の所でレンゲはギュンと飛び上がるが、髪の一部を切り落とされる。
さらに上空に飛び上がったレンゲを追い、セイラは背部の触手の間に張らせた皮膜を更に大きく広げ、飛び上がる。
自らを追うセイラに向け、額の発光体と髪の先端から光線を放つレンゲ。
その光線と光線の間を縫いながら、両者とも銃を構えたメイとセイラが追撃を仕掛ける。
『アァアアアア!!!』
「当たった!」
「これで、堕ちて!」
額の発光体に銃弾が直撃し、ひるんだレンゲに向けメイが急接近し、ギターを勢いに任せて振り下ろす。
脳天に超重量のギターが振り落とされたレンゲは大きく体制を崩し、そのままゲート付近の瓦礫へ向けて真っ逆さまに落下した。
セイラとメイはそれを追い、同じ足場へと着地する。
「どうなった!?」
地面へと直撃した衝撃で砂ぼこりと黒煙が巻き上がり、レンゲの姿が確認できない。
「確認しないと……今ならまだ」
「まて、メイ!」
『――』
「なっ……!?」
メイが近寄ろうとした、その時。
黒煙の中から現れる、鋭い触手。
鋭利かつ迅速に飛び出し、襲い掛かる刃物のような触手に、メイは反応しきれず避けることが出来ない。
「っ!メイ!」
「えっ……セイラ!」
動けないメイの体を突き飛ばすセイラ。
直後、その鋭い触手はセイラの左肩を刺し貫く。
『ルゥ……アアァアアアアアア!!!!』
「ぐあああああ!!!」
「セイラ!」
凄まじい電流がセイラの体を襲い、その瞬間、触手の先端が鋭利な刃へと変異し、彼女の腕を引き千切る。
切断された腕はそのまま投げ飛ばされ、眼下の虚の底へと落とされた。
強烈な雷鳴、衝撃と共に眼前の黒煙が吹き飛ばされ、レンゲが姿を現す。
背後には、電撃で形作られた翼と歪な天輪が姿を現し、腕も更に一対増えていた。
その場に浮遊し、ただ静かに二人を見つめるレンゲには、もはや人の面影などない。
「うっ……くそっ……黒血を吸収されて再生を封じられたのか……っ」
「セイラ……腕が!」
切断されたセイラの腕は上手く再生せず、無残な傷口からは血が止めどなく流れ出していた。
それでも残った右腕で引きずるように鎌を持ち、レンゲへと向き直る。
「ごめん……セイラ……私のせいで」
「君を守る為なら平気だっ!レンゲを……助けないと……装置を、止める!」
『ラァアアアア!!!!』
片腕で鎌を引きずったままセイラはレンゲへと突撃していく。
「思い出してくれ……レンゲ!君が、生徒会長として学園を守ろうとしていてくれた、あの頃を……!」
『ウ……ウアァ……アァアアアアアア!!!!』
「だっ、ダメ!セイラ!」
遠心力に身を任せ、鎌を振るおうとしたセイラ。
しかし、レンゲの触手は意図も簡単にそれを弾き飛ばし、そして――。
『アアアアアアア!!!イヤアアアアア!!!』
「――っ!」
「セイラ――!!!」
体制を崩したセイラに向けて振るわれる、刃のように鋭く、雷を纏った刀のような触手。
それは無慈悲にもセイラの左肩から右脇腹に向けて袈裟斬りを繰り出した。
「あっ……はっ……」
刃が肉と骨を断ち、斬り進む感覚と、電撃が同時に体を襲う。
直後、セイラの体は右腕と頭部のみを残し、両断された。
「い――」
『――』
「いや……セイラ!!!!」
無残な姿となり二つに分断されたセイラの肉体は力なく、地面へと落下した。
黒血は傷を塞ぐこともなく、ただ黒い水溜まりを、作り続けるだけだった。
『――結局、こうなるんだな』
追憶の彼方から訪れたその瞳は、静かにひとつ呟く。
収束する運命は再び、ひとつの選択もなき分岐点へと、輪廻した。




