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外伝勇者の弟子  作者: 柊柳
帰還
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006

 イリア戦に勝利したエルクは無事に転入の許可を頂く事が出来た。教師陣営からはエルクが使用したドリルに大変興味を示したのか、最初と打って変って積極的にエルクと関わろうとしている。エルクも初めは追い払おうとするのだが、教えた所で使える者はいないだろうと踏んで小位置時間ほど教師陣営に自分の能力を説明したのであった。


「つまり、なんだ。お前が使ったさっきの魔法は地属性の上位版に値する属性の魔法なのか?」


 一通り説明を終えるとエリックが問うて来る。

 属性に関しては曖昧にしか説明していないのに、話しを聞いただけでその点に気付いた事に感心するエルクだった。


「へぇ。さすがですね。その通りです。俺が使った魔法は地属性の上位版に当たります。わが師や勇者様達はこれを鋼属性と名付けておりました」

「属性とは四大属性意外に存在するものなんですか?」

「むしろ、何で属性が四つしかないと思い至ったのか、俺は知りたいのですが……。イリア様、もう傷は大丈夫なのですか?」

「あれぐらい掠り傷です」


 それは嘘だろう、と小さく呟く。あの戦いで手心を加えたつもりはない。

 無防備だった腹部にこれでもかと、全力で蹴り付けたのだ。いくら魔法で治療したと言え、そう易々と復帰できるはずはないのだが、目の前の女性は無邪気に瞳を輝かせてエルクの説明会に嬉々として聞いている。


「そんなことよりも、魔法は火・水・風・地の四大属性しか存在しないと教えられたのですが、それは嘘だったんですか?」

「嘘といいますか、当時はまだ確認できた属性はその四つしかなかったんでしょうね。俺が知る限りでは、光と闇を初め鋼や氷、雷、樹属性、全部で六属性は確認しています」

「そ、そんなにも……。どうして、他の属性は認知されていないんでしょうか」

「使える人が極端に少ないからじゃないですか? 俺も師匠に指摘されて鋼属性を習得できたクチですから」


 魔法と言えば四大属性に変換して行使するのが基本と教えられていた。魔力自体を自身の強化に使用する無属性魔法も存在するが、多く知られている魔法は属性変換魔法とカテゴライズされている魔法である。

 だからこそ、四大属性意外の属性が存在すると言う事は、魔法学を根本的に変えざるを得ない革命的な話しである。


「仮にですが、私があなたから教われば鋼属性の魔法は使えるのですか?」


 イリアの言葉に期待に満ち溢れた視線がエルクへ集まる。アカデミーの教師に就職したといえ、彼ら彼女らは元々戦闘のプロとして見込んで雇われた経歴を持つ。

 イリアのように魔法を探求する者もアカデミーには多くいるであろう。そんな魔法に執着し続けた者達が子供の様に瞳を輝かせてエルクの返答を待っている。


「……正直なところ、分かりません。ただ言えるのは、鋼属性は地属性の上位版。地属性に属さない者は使えないと言うことだけは言えます」


 頭を振るエルクの答えに残念がる一同。未知なる魔法に触れられる機会を得られると思っただけに意気消沈する者がほとんどであった。一人を除いて。


「つまり、この中では私だけが鋼属性を得られる可能性があるという訳ですね」

「平たく言えば、そうなりますね」


 決闘時に実況者が言った事を思い出す。

 イリアは四大属性を自由自在に操る事が出来るらしい。

 鋼属性は四大属性の一つ、地属性の上位版。教師陣営の中で鋼属性が使える可能性を持つ者はイリア・X・ブレイバーただ一人。

 その事実を知ったイリアは、しばし思考を巡らす。

 エルク・クルセイドは一度アカデミーを去った裏切り者。しかし、彼は魔法の新たな可能性を持運んでくれた新たな風。戦闘技術はアカデミー生が束になってかかったところで相手にならない域まで達している。

 加えて勇者達が得意としている【変わり身の術】もどきまで編み出していた。恐らくエルクは自分達が知らない技術を多大に有している。彼の持つ技術は宝の山なのだ。

 裏切り者と新技術を天秤に載せ、イリアは結論つける。


「素晴らしいわ、エルク・クルセイド。あなたの持つ技術を是非とも我が国の為に使ってくださりませんか」


 一歩前に歩み寄り、エルクの手を取る。


「はい?」


 驚くべき豹変振りに素っ頓狂な声を上げる。


「先ほどの非礼、大変失礼致しました。まさか、あなたがあそこまでの技術を身につけて戻って来るとは夢にも思わなかったもので。あれほどの技術、どなたから教わったのでしょうか。出来ればそのお方にもお会いしたいのですが」


 掴んだエルクの手を己の胸元に引き寄せ、上目遣いになって問い質す。イリアは自分が男性の気を引く容姿を持っている事を自覚している。欲しい物があるとき、大抵の男は自分の胸の感触と物欲しそうな顔をすれば手に入れる事が出来た。今回も伝家の宝刀で手に入れようとするのだが、エルクは苦笑いを浮かべるだけであった。


「わが師は、既にこの世界にはおりません。勇者様と一緒にご自身の使命を真っ当なされ、本来あるべき世界へと帰っていきました」


 その言葉にこの場にいる者たち全ての者が凍り付く。


「……おい、エルク。お前の師匠ってまさか、ムトウ・ケンジなのか?」

「驚きですね、エリック先生。まさか師匠の名前をご存知とは。……再会した直後の言葉は撤回しないといけませんね」

「ば、バカ野郎。ムトウ・ケンジの名前を知らない者がいるはずないだろう。あの人はたった一人で最悪と言われたあの『ホウセン』を倒した大英雄だぞ。お前、そんなお方から師事を受けていたのか」


 師の戦歴が知れ渡っていた事にエルクは嬉しくて仕方がなかった。暗黒時代当時は勇者達の動きばかり興味を持たれ、同じ様にこの世界に召還された師匠は見向きもされなかった。

 それでも敬愛する師匠は己の運命を受け入れ、自分がやるべき使命を最後まで貫き通したのであった。途中からの同行であったが、師のムトウ・ケンジは数え切れないほどの伝説を作り上げ、絶望の運命と真っ向から否定し続けてきた。中でも暗黒時代に暗躍していた敵、兵魔と呼ばれた化物を数多く葬った経歴を持つ。師が【ホウセン】を悪戦苦闘しながら葬った時など、興奮のあまりに失禁しそうになった事も鮮明に覚えている。


「五人目の勇者と言われたムトウ・ケンジが師匠。それならば、話しが早くて助かりますわ。エルク・クルセイド。あなた、王宮に仕えるつもりはありませんか?」

「……はい?」

「あなたほどの実力とムトウ・ケンジに師事を受けていた経歴を持つならば、我が王も納得していただける事でしょう」

「ちょ、ちょちょっと待ってください。話しが急すぎます。何でそんな話しに飛んだんですか!?」

「今、王宮は優秀な人材を求めています。あなたほどの人材を遊ばせている余裕など、我が国にはありません。報酬は望むままに支払いましょう。なんなら、この私を要求なされても……」


 詰め寄るイリアの対処に困惑する。予想外の展開にどう切り替えしていいのか分からないでいた。

 答えは既に出ているのだが、決して逃がさないと言いたげに強く握り締めるイリアの強引さに呑まれてしまったのだった。


「さぁ。どうですか? こう見えても私はお買い得と思いますが、如何でしょう? なんなら、今日の夜にでもお試しに――」

「――ちょっと待った!」


 急展開についていけなかった教師陣営の中を掻き分けて、エルクとイリアの間に割ってはいる者がいた。自称エルクの妻であるエミリアだった。


「……学生は自習だと記憶していましたが? エミリアさん」

「夫が寝取られそうになったのに大人しくしている妻はいません」


 未だに繋いでいる二人の手を振り解き、親の敵を見る様な怒気を孕んだ眼でイリアを睨む。


「あら。あなたのような小娘がエルク・クルセイドの妻ですって? まだ男を悦ばせた事もない生娘じゃ相手もしてくれないわよ」

「なっ。……ふ、ふん。そう言う事はこれから二人で学ぶからいいんです。イリア先生のように誰にも身体を許す軽い女にエルクは渡しません」

「だ、誰が軽い女ですって!? こう見えても私はまだ未経験よ」

「その歳でまだ何て……。誰も女性として見てくれていないんですね、御可愛そうに」


 止まる事無く続く口論に見守っている教師陣営は目の当たりにする修羅場に心を躍らせていた。特に女性陣は滅多にお目にかかれない修羅場に目の色を変えて注視している。近くにいる者と肩を並ばせて今後の展開を予想しあう者達まで現れる始末であった。


「な、なぁ。流石に公衆の面前でそう言った類の言葉を使うのはどうかと思うのだが」


 これ以上は聞くに堪えなかったエルクが止め様と試みるが、教師陣営の殆どが彼の行動をこう思ったであろう。それは悪手だと。

 エルクの言葉に二人の矛先は彼に注がれる。


「エルク。こんな年増なんかよりも、同い年の私と一緒になったほうが絶対にいいわよね!」

「何を言っているの。エルク・クルセイドは私のような年上のお姉さんと一緒になるほうがいいに決まっていますわ」

「……え。い、いや。どうしてその二択になるわけ? 俺、結婚するつもりなんて全くないんだけど」


 まさかの二人ともごめんなさい、第三の選択肢を切られる。

 どちらかを選ぶであろうと思っていた教師陣はエルクの返答に驚愕するのみ。

 二人とも見目麗しい女性である事は確かであった。そんな女性からアプローチされているのに、見向きもしないエルクの鋼の精神に「これが鋼属性の効果か」と可笑しな感想を抱く。


「納得いかないわ。こう見えても私は、それなりに男性に求婚される身よ。私のどこが不満なわけ? 歳? 歳だからダメなのよ」

「いやいや、イリア様。そもそも会ったその日に求婚させられるこっちの身も考えていただきたいのですが」


 そりゃそうだ、と今更ながら納得する教師陣営。

 あまりにも魅力的なお誘いに自分ならば即了承するだろうとエルクのヘタレっぷりを責めたのだが、よくよく考えてみると会って直ぐ結婚などありえない話しだ。


「だからって、エミーと結婚するつもりも毛頭ないんだけどね」

「な、何でよ。私達は親公認なのよ。二人の行く末を妨げる障害は何一つないのよ」

「だから、エミー。キミは別の男が好きじゃなかったの?」


 エミリアは再会した日、自分の初恋はまだ拗れていると言っていた。エルクは幼い頃、エミリアがどれに恋心を抱いているか聞いていた。それが自分でない事を知っている身としては、彼女の行動は理解に苦しむ。


「うっ」


 その言葉にエミリアは言葉を止めざるを得なかった。

 確かに自分の初恋の相手はエルク以外の名前を告げていた。しかし、それはエルクの気を引く為に母ミーシャが施した策略であった。幼馴染が別の人を好きになると知ったら、きっと自分の思いに気付いて好きになってくれる、と母ミーシャは言ったのだった。

 まさか、当時の策略が裏目に出て娘の大きな障害になるとはこの時、夢にも思わなかっただろう。

 どうする、とエミリアは考える。ここで初恋の相手はエルクだ、と言う事は簡単だ。けれども、今そんな事を言ったところで、エルクが納得するわけがない。


「えと、あの……。その」


 いい殺し文句が思いつかず、視線を彷徨わせる。


「もういいですか? 本意じゃなかったですがアカデミーに再び通う事になったんだ。せっかく学ぶ機会が増えたんだから、授業を受けたいんですが」


 早くこの場から去りたいエルクが告げる。これ以上、この場に留まったら不利になるのは必須。


「そうだな。一日、自習にする訳にもいかないよな。お二人もこの案件は後日に当事者同士で話し合う、って事で宜しいでしょうか」


 取り纏めようとするエリックの一言にエミリアとイリアは頷くのみ。二人もこれ以上続けたところで進展はないと踏んで、この場は一旦引く事にしたのだった。


「エルク。お前のクラスなんだが、俺が受け持つクラスで構わないな?」

「問題ありません」

「ちなみに、副担任はイリア先生でエミリア・ブリューナクと同じクラスだけど……問題ないよな」

「……いつか、あんたとは決着をつけないといけないようですね」


 握手の意趣返しのつもりなのだろう。宜しくないクラス編成に物申したかったが、既に問題ないと言ってしまった為に、今更「問題あり」とは言えない。まんまと騙されたエルクはいつかエリックに復讐を遂げる事を固く誓ったのであった。




 ――***――




「あなたが、エルク・クルセイドですね?」


 職員室のドアを開けると、仁王立ちしている女性が目の前に立っていた。

 またか、とげんなりするエルク。せめて教室まで行かせて欲しいと切に願う。


「……あれ? リンスちゃん? どうしたの。今は自習じゃなかったっけ?」

「あなたがそれを言いますか、エミーさん。私はエルク・クルセイドに用があるのです。エルク・クルセイド、少しお時間を頂いても?」

「悪いが、教室に行ってクラスメイトに挨拶をしないといけないんだ。またにしてくれ」


 会釈してリンスと呼ばれた女性の脇を通る。


「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」


 しかし、彼女はエルクの裾を掴んで素通りするのを阻止した。


「なんだよ? またにしてくれって言ったじゃないか」

「あなた。女性がお誘いしているのに断るなんて、女心が分かっていませんね」

「あいにく、師匠からも女心については教わらなかったからね」


 女難で痛い目にあっていたから、師匠を反面教師として学んでいた事は言う必要はないだろう。


「……なんで私がこんな男と」

「何か言ったか?」

「いえ、こちらの話です。それよりも、あなたに用があるのでお時間をください」

「だから無理だと言った。後日にしてくれ」

「大事な用なんです。いまお時間が欲しいんです」

「だから、これから転入の挨拶をしないといけないと言った。いま時間を割くことは出来ないんだよ」

「私がお誘いしているんですよ。何で、二つ返事で返さないんですか!」

「知るかよ! だいたい、何者なんだよあんたは」

「私はリンスレット・スカイウォーカー。あなたの妻になる女よ!」


 高らかに宣言するリンスレットの言葉に、半径数キロないの空気に亀裂が走る。

 何度目か分からない驚愕の声を上げたかったところだが、背中越しから感じる圧力を肌で感じて叫ぶ事が出来なかった。


「エルク。どう言う事かな? 妻の私がいながら、別の女も娶るなんて――よっぽど死にたいのね、あ・な・た」

「王家に連なる私が一緒になってあげるって言ったのに、他の女に靡くなんて王都アスタロテを敵に回したいのね、エルク・クルセイドは」


 口調は変わりない。振り返れば満面な笑みを浮かべている。

 けれど、二人の背中から怨念に近い邪悪の炎が立ち上っているのをエルクは感じ取った。

 ここで下手な言い訳をしたら、間違いなく冥土へ叩き込まれる。

 慎重に言葉を選んで言わないといけないのだが――。


「し、知らない知らない。だいたい、彼女とは初対面だし。何で求婚されたのかも分からないし。ちょ、ちょっとリンスレットさん、説明して。彼女達に説明して差し上げて」

「だから、お時間をくださいって言ったのに……。簡単に言いますと、あなたの血筋が欲しいんです。私たち一族の未来の為に」


 いったい何時になったら転入の挨拶が出来るのだろう、と思いつつリンスレットの訳あり話を聞く事になったのだった。

 ちなみに、脳内師匠に対応策を聞いたところ「ハーレムは男の夢だが、上級者向けだ」と望まない答えが返ってきたので、思わず殴り飛ばしてしまった。

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