004
「女の嫉妬ほど醜い、と師匠は仰っていたが男の嫉妬も充分醜いと思います」
盛大にため息をつく。
アカデミーに到着してからと言うものため息をしない状況がほとんどなかった。
エミリアに連れられて、指導教員達が待つ職員室に足を運んだエルク達一同は、完全武装した男子生徒によって通せんぼされていた。
「う、噂は本当だったのかよ。あのエミリア嬢が知らない男と腕を組んでいるなんて」
「うそだ! 嘘だと言ってくれ。これは悪い夢だ」
エミリアの許婚宣言は瞬く間にアカデミーに広がったのであろう。彼女に思いを寄せていた男連中が真相を確かめるべくして集まってきたのであろう。
そして、その噂が限りなく真実であった証拠を叩きつけられて、膝から崩れ落ちる者や血涙を流して走り去っていく者が現れ始める。
「うわぁ。……なんだか申し訳なく感じてしまうんだが」
「良い機会です。ここいらで色々と皆さんには諦めてもらいましょう」
エミリアの容赦ない言葉に同じ男として、彼らに同情を抱かずにいられなかった。
理由はともあれ、彼らは逃がさないと腕にしがみ付くエミリアに想いを寄せていたはず。いつかは己の熱い思いを彼女にぶつけ、あわよくば恋仲になれる瞬間を想像していたはずだ。それなのに、許婚なんて者が突然現れ、知らない内に失恋を余儀なくさせられたのだ。これを哀れと呼ばなくてなんて呼ぼうか。
そんな中、登校時にエルク達を囲んでいた連中を引き連れて、一人の男子生徒が二人の前に躍り出る。
「やぁ、エミリア。未来の旦那であるマルス・ブラウンが迎えに来たよ」
その場で肩膝を着き、エミリアの手を取って口付けを落とす。手の甲に口付けを落とす礼式は「あなたを愛しています」と言う意味合いを持ち、舞踏会や位の高い者が求愛する礼式とされている。
エミリアは口づけされた手の甲をふき取り、目を細めて告げる。
「……マルスさん。ご好意はありがたいのですが、私には既に生涯を共に過ごすと誓った相手がいますので。ね、あなた」
「だれがあな、って!」
直ぐに否定の声を上げようとしたのだが、絡まれていた腕から激痛が走って上手く返答できなかった。
「それでは、そちらが例の許婚なのですね。失礼だが、名を聞かせてはくれないだろうか」
「エルク・クルセイドです」
「エルク・クルセイド? その名前、どっかで聞いた事があるような……」
マルスの言葉に「でしょうね」と頷く。なぜなら、エルクとマルスは面識があった。マルスは覚えていないかも知れないが、エルクは確りと覚えている。
何せ、マルス・ブラウンはアカデミー時代の頃に色々とお世話になった中心人物の一人なのだから。
「砂埃のエルクと言えば、思い出してくれますかね?」
「砂埃? ……あっ!? お前、泣き虫エルクか」
大声で紡がれたその名を聞いて、マルス達同学年の連中は動揺を隠し切れずにいた。自分達が知る泣き虫エルクはこの状況で堂々と振舞えるような男ではない。注目の的になれば必ず涙目を浮かばせて、挙動不審となってしまう。それが、皆が知っている泣き虫エルクであった。
「懐かしいですね。マルスさんもお元気で? またお会いできて嬉しいですね」
苛められていた相手であったが、五年も経てば気に留める必要もない。それよりも懐かしい人物とこうして再会できた事に喜びを感じたエルクは余っていた腕を差し出して握手を交わそうとするのだったが、その腕はマルスによって払われてしまう。
「はっ。誰かと思えばあの泣き虫エルクちゃんかよ。お前さ、弱い事を自覚してアカデミーから去ったんだろ。今更どの面ぶら下げて戻ってきやがった。恥を知れ、恥を!」
そうだ、そうだ。と賛同するように野次が飛ぶ。
アカデミーに通っていた彼ら彼女らはいずれ訪れるであろう戦いに備えて切磋琢磨していた。この国を護る為に心血を注ぎ、恐怖から家族や仲間を護る為に長年鍛錬を積み重ねてきたのだ。
そのアカデミーからエルクは去った。それはアカデミーで鍛錬していた彼ら彼女らからしてみれば、立派な裏切り行為。我が身可愛さに敵前逃亡を図った裏切り者にいい感情を持ち合わせているものは誰もいなかった。
「お前のような奴が今更ノコノコ戻ってきたところで、何にもならないんだよ。裏切り者はここから去れ」
一気に周囲が敵地と化してしまう。マルスの怒気を孕ませた言葉に大勢の者が賛同し、怒りと軽蔑の眼差しをエルクに送る。挙句には「帰れコール」が始まり、エルクを歓迎するものは誰一人として現れなかった。
「皆もこう言っていることだし、帰っていいかな?」
「ダメに決まっているでしょ。どうにかしてよ、この騒動」
「どうにかしろって言われてもな」
一度、騒ぎが起ってしまうと鎮圧を図るのは困難である。暴力で解決する事は簡単であるが、後で色々と尾が引いてしまったら面倒な展開に発展するのは間違いない。出来るだけ穏便に解決したいところであるが、バカ騒ぎしている一同を止める手段をエルクは持ち合わせていなかった。
「分かっただろ。アカデミーの皆は誰一人してお前を歓迎していない。どうせ、エミリアの事だって汚い手を使ったに違いない。そんな奴に愛しい我が妻を渡すわけにはいかない」
「……なんか、随分と面白い方向に成長したんじゃないかな? 俺の知っているマルスさんってあんなにピエロっぽかったっけ?」
「そんな暢気な事を言っていないで、少しは言い返してよ。エルクは最愛の妻の私が寝取られても良いの!?」
「だから、夫婦じゃないんだけどな」
勘弁して欲しかった。
この年頃になると色恋ごとでトラブルが起こり易くなるといわれたが、まさにその通りであった。
虐められていた張本人とでくわしたり、アカデミー時代のエルクを知っている連中に色々とバカにされる事は予想していたが、こう言ったケースでトラブルになるとは考えもつかなかった。
「……一応伝えて置くが、許婚問題はあなた方がどうこう騒ぎ立てたところでどうにもなりません。ここは冷静になって大人しく引いてはくれないでしょうか」
「あん?」
マルスの瞳に更なる怒りの炎が点される。
今の発言は要約すると「無関係のあなた方が、どんなに吼え様と無駄な事」と捉える事が出来る。まさか、各下の泣き虫エルクからバカにされる発言を受けると思っても見なく、怒りの炎が一気に燃え上がったのだった。
「泣き虫エルク。お前、この五年で随分と生意気になったみたいだな、あ!」
「バカみたいに語尾を強く言えば恐がると思っているんですか? 程度が知れるから、辞めたほうがいいですよ。せっかくの色男が台無しです」
「きさま……。調子にのるのもいい加減にしろ!」
もはや我慢の限界と言いたげに、額に血管を浮かばせていたマルスが予告もなく、右拳をエルクの左頬目掛けて殴り付ける。
至近距離での奇襲攻撃にマルスは確実に捉えたと思ったんだが、エルクがマルスの右ストレートを難なく弾いてしまったのであった。
「なっ!?」
これに驚愕の声を上げたのは周囲のものであった。自分達でも視認できるか分からないギリギリの速さでの攻撃を泣き虫エルクは難なく防いだ。しかも未だにエミリアに抱き寄せられているので、下手な迎撃や回避行動は出来なかったはず。マルスの奇襲攻撃を腕一本で完全に防いだのだ。
「さすがにそれはないんじゃないかな、マルスさん」
「す、少しはできるようになったみたいだな。……表に出ろ、泣き虫エルク。久しぶりにお前を教育してやる」
「丁重にお断りさせていただきます」
憤るマルスの誘いを一蹴する。
これに一番早く反応したのは隣にいるエミリアであった。
「ちょっとエルク。ここはマルス君の誘いを受ける場面じゃないの」
エルクがどれほど実力を上げたかは定かではないが、マルスよりも実力が上であろう事は父のソルトから聞いていた。曰く「彼がアカデミーで本気を出したら面白くなるだろうな」らしい。どんな事を想像していたのか分からないが、ほくそ笑むソルトの表情が印象的であった。
だからこそ、この展開は渡りに船。エルクの実力を見る事が出来るいい機会と思ったのだが、当のエルクはやる気がない。それでは困るエミリアはエルクに物申したのであった。
「……俺としては、この戦いをやる理由がないんだけど」
「はん。用は怖気付いて戦えないだけだろ」
「今ので、どうしてそう言う風に解釈できるんだろうかね。脳筋なの? バカなの?」
ああ言えばこう言うエルクの言葉に、マルスの怒りのボルテージは更に上がる。どんな言葉で挑発しても平然と言い返すエルクの態度が気に食わなかったのだ。怒りで平静さを失っていたマルスは、力強く握り締めていた右拳を再度エルクの顔面目掛けて放っていたのであった。
マルスの実力はアカデミーの中でも五本の指に入る実力者。中でも戦闘術は群を抜いており、至近距離の攻撃を受け止められる者は存在しなかった。だからこそ、この一撃は確実に当たると確信していた。先ほどの防御は偶然が重なったただのマグレであろう。
「……はぁ」
だが、マルスの右拳がエルクを捉える事はなかった。小さく溜息を吐くと同時にマルスの右拳を叩き落とし、その反動で顎に手の甲を打ち払った。
攻防一体の早業に何をされたのか頭が追い付かなかった。直ぐに自分が反撃を受けた事に考え至ったマルスは追撃の一撃を放とうと左拳を振り上げるのだが、両ひざから力なく崩れ落ちていくのであった。
「少しだけ脳を揺すりました。直ぐに良くなると思います」
腕にしがみ続けるエミリアを離して倒れ伏すマルスに近寄る。
めんどくさかったと言え、危険度の高い返し技を放ってしまった。師からは無力化させるには一番だが、無暗に使っていい技でないと聞かされていたので内心慌てていたエルクであった。
「お……まえ」
「口が聞けるなら大丈夫かな。……さてと。他に物申したい人はいますか?」
安全確認を済ませたら周囲にいる野次馬を睨み付けて、構えを取る。
これ以上絡まれるのは本意ではない。遅かれ早かれマルスの様に絡んでくる連中は来るだろう。
砂煙や泣き虫エルクとバカにしていた者達を黙らすには、今この場で実力を示すしかない。マルスと一戦交えた事でアカデミー生の実力を大まかに把握した。
マルス程度の実力なら数的不利で戦った所で後れを取る事はないと確信したエルクは、手っ取り早く嫌がった暴力で黙らす事にしたのであった。後顧の憂いはその時に考える事にしたのだった。
「…………」
誰もエルクと目を合わそうとしない。
アカデミーの中でも実力者のマルスを一撃で伸したエルクに啖呵を切る人間はこの場にいないらしい。
「だったら、道を開けてください。邪魔ですから」
人の垣根が左右に分かれて道が開かれる。簡潔に「ありがとう」と周囲のものに告げて、職員室へ歩きだしたのであった。
――***――
「失礼します。エルク・クルセイド入ります」
返事を待たずにエルクは職員室へ入室する。
入ると職員会議の最中であったのか、アカデミーで教鞭を振るっているであろう教師全員の視線がエルクへ注がれる。
「誰かね。今は職員会議の真っ最中だ。用があるなら後にしなさい」
一番エルクの近くにいた男性の教師が注意する。
「それは失礼致しました。ただ、このままでは俺はどのクラスに行けばいいのか、分からないのですが……」
「……ん? もしかして、お前は――」
「転入生のエルク・クルセイド君ですよ。エリック先生」
「転入生? それじゃあ、お前があの……」
エルクの正体を知った教師一同が騒ぎ始める。
その理由を知らないエミリアは疑問符を浮かべて首を傾げるのだが、気にも留めずに話しを続ける。
「あの、が何を意味するか分かりませんが、エリック先生はエルク君の事を知っていると思いますが……。何せ、元教え子なんですよ」
「そうだったな。……久しいな、エルク。活躍は耳にしているぞ」
「ご無沙汰しております。また、あなたの暑苦しい顔を見ることになるとは思いませんでしたよ」
笑顔を繕い、久方ぶりの再会に握手を求めるエリック。
エルクも同じ様に笑顔を繕って、エリックの握手に応じた。
「っ!」
エリックの顔が歪む。交わした握手に込められた力が予想以上に強かったのだ。目線で「何をしているんだ」と訴えるのだが、エルクは笑顔で返すのみ。
エルクにとって、エリックは出来れば関わりたくない人間に上げられる。目の前の教師は正論を口にするのだが、行動がそれに伴わない事が目立つ人間であった。簡潔に言うと目の前で集団リンチを目の当たりにしようが自分の生活に影響がない限り、決して介入しようとしない臆病者である。
「できれば、自分の行くべき教室だけでも教えてくれませんかね。こんなところに長々といたくありませんので」
「お前……。っ!」
握手に込められた力が更に強くなったのであろう。平静を装っていた表情が苦悶の表情へと移り変わるのを見て、ようやくエルクがエリックに攻撃している事を知ったのだろう。
「ちょっと、エルク。エリック先生になにをしているのよ。あなたは教師陣も敵に回すつもり?」
先ほども望んでいなかったとは言え、マルスと口論になって喧嘩に発展してしまった。きっと、マルスを慕っている学生達はエルクを恨んでいるはず。それに加えて教師陣も敵に回すのは得策ではない。アカデミー生活を穏便に過したいならばわざわざ煽る様な言い方は謹んで欲しかったのだが、エルクはエミリアの静止を聞くことはなかった。
「まだ、あなたのような人が教師を続けているなんて驚きました。よく続けられていますね」
握手と言う名の握り締める攻撃を解き、心底意外だと言いたげに驚愕の顔を見せて言う。
「それは、どう言う意味だ砂埃のエルク」
「驚きです。凶獣並の記憶力しかお持ちではないと踏んでいたので、俺の事を覚えていないと踏んでいたのですが」
「お前のような無能者は今までにいなかったからな。嫌でも覚えていたさ」
「なるほど。それより、さっさと俺の行くべき教室の場所を教えてくれませんか? まだ、職員会議中なんでしょ?」
「その事なんだが――」
エリックが告げるよりも早く、別の者が割って入って言って来る。
「無能者のあなたを今更ながらアカデミーに入れる理由はないのでは、と私が提言させていただきました」
「失礼ですが、あなたは?」
「イリア・X・ブレイバー。あなたでも、エクスの名はご存知でしょ」
「どうして、王家に連なる者がアカデミーなんかにいるんだよ」
まさかの王都アスタロテを統治している王族の血筋を持つ者の登場に頭痛を覚える。
「魔法学を専門にご指導いただいているんですよ。暗黒時代でも西の勇者様の支援を全力でなさっていたんだよ」
「……あぁ」
エミリアの言葉に思い当たる節はあった。
西の勇者である聖剣の担い手、セイシン・ユキトは一言で例えるならばハーレムの主であった。どんな手段で女性を落としていたのかは定かでないが、西の勇者様の為に補給物資を送って来るものは少なくなかった。まさか、王家に連なる者まで口説き落としていたとは予想外であったが。
「分かったかしら。私の目の黒い内はあなたの様な人間をアカデミーの敷地を跨がすわけには行きません。早々とお引取りください」
「しかし、イリア様。エルク君は正式の手続きを既に済ましているはずです。父ソルトの推薦書だって、既に受理なされているはず」
「普通の人ならば、あなたのお父上である流星の騎士殿の推薦を快く受けるのですが、推薦相手が臆病者と知られているエルク・クルセイドなら話しは変わります」
「どうしてですか!?」
「彼は既にアカデミーを自らの意思で去っています。暗黒時代の当時、退学は認められておりません。それにも関わらず、彼は国の意思を反して敵前逃亡を行いました。そんな人間に教鞭を振るいたい教師などいません」
暗黒時代はとにかく戦える人手を欲していた。
例え無能者でも味方を防ぐ盾として活用するなど使い所は幾らでもあった。
それなのにエルク・クルセイドは臆病風に吹かれて戦う意思を捨て去り、未来を得る為に戦い続ける仲間を裏切った。そんな人間をアカデミーの敷地に入れさせたくはない、とイリアは豪語する。
「だってさ、エミー。そろそろ帰ってもいいかな?」
「ダメに決まっています。どうして直ぐに帰ろうとするのよ。私との学園生活を堪能したいと思わないわけ」
「学園生活よりも冒険に勤しみたい。こんな低レベルの場所にいたら、腕もなまりそうだし」
「聞き捨てならないわね、エルク・クルセイド。このアカデミーが低レベルですって?」
「癇に障ったのなら謝りますが、その通りですイリア様。先ほど、マルス・ブラウンとお手合わせしたのですが、なんなのですかあのレベルは? 戦場に立たせたら即死レベルですよ、あれ」
正直言ってマルス・ブラウンは話しにならなかった。
誰もマルスの事を止めなかった事を思い出すと、それなりの実権を握っていた事は推測できる。実権を握っていたという事はそこそこの実力がなければならないはず。
それなのに関わらず、ほんの少し挑発したら簡単にのって来るし、右ストレートの動作も大きい。何より最後の返し技に何の反応も見せなかった事が大きかった。反応を見せなかったと言う事はエルクの攻撃速度を見切れていなかったはず。あの程度の攻撃速度も見切れない様では戦場に投入させた所で足手纏いになるだけ。
「彼ら彼女らは、まだ実践訓練を積んでおりません。それに、これからは十代の彼ら彼女らを戦場に投入させる時代は来ないでしょう」
「……流石に実践訓練をまだ積ませていないのは問題だろ。せっかく、ギルドなんて制度を設けているんだから、もう少し実践に近い訓練を積ませてあげるべきじゃないんですか?」
「素人のあなたが偉そうに言ったところで、方針が変わる事などありえません。無能者は疾く去りなさい」
「……エミー。王家に連なるイリア様も帰れって言っていることだし、やっぱり――」
「帰る、何て言ったら本気で怒るからね」
「……えぇ」
理不尽である。個人的にはイリアの「帰れ」と言う言葉に賛同して、とっととアカデミーから消えたかった。にも関わらず、隣に立つ幼馴染様はそれを許してはくれなかった。
「イリア様はどうしたら、エルク君をお認めになられるのですか?」
「万が一、億が一ありえないと思いますが、この私に勝ったら認めなくもありません。最も、そんな事はありえないと思いますが」
「だって」
「だって、ってそこで俺に話しを振るなよエミー。なに? 戦えと。俺に戦えと言うのか、エミーさんや」
「うん。エルクなら楽勝でしょ。勝ったらご褒美を上げるから、ね」
「……変な度胸が付いたんじゃないか。母さんに似ていたぞ、今の」
「そうかな。それよりもやるの? やるんだよね。ね!」
「相手がやるなんて、一言も言っていないんだけど」
「あら。あなたが私と戦いたいというなら、是非とも胸を貸して上げるわよ。本物の実力と言う奴を拝ませて上げるわ」
「ほらほら、イリア様だってああいっていることだし……」
「けどなぁ」
戦う気などなれない。
相手がどれほどの実力の持ち主かは定かでないが、ここで戦うメリットなど何一つない。それを見定めてエミリアがご褒美云々と言ったのかも知れないが、彼女の言うご褒美を素直に受け取ったら、あっと言う間にゴールインしてしまいそうで恐い。
「受けてやれよ、エルク。彼女に少しぐらいいいところを見せても罰は当たらないぞ」
まさかの意外な人物、エリックがエルクに戦う様に薦める。
「意外でしたね。エリック先生なら、お前なんて相手にならないから時間の無駄だ、と言うと思ったのですが……」
「言った方がよかったか?」
「いえ。……素直に吃驚しただけです。意外だったもので」
「同じ事を二度も言うな」
「大事な事などで二回言いました」
「てめぇは」
「……ま、このまま我侭言っても逃がしてくれないしな」
戦う以外の選択肢がない事に呆れつつ、エルクはイリアの申し出を了承する事にした。
「わかりました、イリア様。エルク・クルセイド、謹んでその申し出をお受けいたします」
「決まりですね。あなたに魔法の真髄を叩き込んであげますわ」
「そいつは楽しみです」
自信満々に胸を張るイリアにエルクは愛想笑いを浮かべるのみ。
後に、この決闘方式がアカデミーの名物になるなどエルクは愚か、教鞭を振るうイリアも思っても見なかったのであった。




