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※不備を見つけた際は誤字報告受付まで。
適当で良いよ、多分ね。
流れに身を置く重い躰に、動けと向けられる熱が刺さる。
例え、どんなにその身を焦がそうとも、その向きが変わる事はなかった。
仮にそれが、冷えた身体を持っていたなら、流れに逆らい熱に溶ける事も叶ったというのに。
―――
「どう?素敵でしょ?」
うん。凄く綺麗だ。
そう言ったのは、目前に広がる人の営みが生んだ景色に対してだったか、陽光に照らされ、風に誘われている彼女の横顔に対してだったか、今となってはどうでもよかった。
だってもう、どちらも存在しないのだから。
今の僕の目には、営みが途絶えた景色しか見えなかった。
何もかもが黒く焼け落ちて、元の形すら残っていない。
ドサッ―――
僕が落としたのか、僕が落ちたのか。
ポーチの中身は散乱して、自由に走り出した。
追わなくちゃ。
村の入り口だった場所まで来た時、彼女の声が聞こえた。
村の狩り人達は、いつもここで素振りしているの。子供たちが真似するから、通るのに邪魔になったりしてね?
通してって言ったら、みんなで追って来てさ。あのがきんちょ共、絶対仕返ししてやる~!ってその時は思ったのよね。
鍛冶のおじさんがいつも言うのよ、お前は早く良い相手を見つけろって。お節介な話よね。私だって探してるわよ!って。でも、村の人はみんな顔見知りだから、良い相手って言われても全員身内みたいなものだし、困るのよね~。
この前、村長の家の改修が終って、部屋が増えたの。
それで、この部屋を来客用に使う!って村長は言ってたんだけど、来客なんて来ないじゃない!って奥さんに叩かれてて。
家追い出されちゃうんじゃないかなってくらいでさ、村長の奥さんだけは怒らせないようにしようって思ったね。
2つ先の家の話、覚えてる?そのおばあちゃんがこの前亡くなってね、息子は街に出たからって一人だったんだけど、もっと気を使ってれば良かったって葬儀の時に帰って来てさ。でも、もう遅いよねって泣き崩れて。いつかはみんな死んじゃうんだって言って帰って行ったの。いつか私もこうなるのかな?
私には、妹と弟が居るからさ、いつも姉なんだからって言われるのよね。
昔は、姉なんだからって言われるの、凄く嫌だったのよ。
でもね?もし、私にも姉とか兄が居たら、きっと、その人が同じ事言われるから、その人も嫌なんじゃないかなって思って。
そしたら、私が姉で良いじゃんって思えてさ。私って優しすぎるのかな?
えー?好きな人?村には居ないよ。だって、みんな家族みたいなものなんだよ?
そうなの?うーん、でも外の人はちょっと怖いかな。え?君?どうして?
君は、―――。かな?
聞こえなかった?だ~め。もう言わなーい!
結局僕は、黒い群れの、ただ一つの前で立ち尽くしていた。
詰まる息の隙間から、僅かに感じる焦げた匂いがこれを現実だと言ってくる。
主よ、彼女はなぜこんな目に遇わなくてはならないのですか!?
彼女が一体、何をしたと言うのですか!?
僕が . . .
月の神に魅入られた罰なのですか?
どうして。どうして . . . ?どうして!
僕は彼女の後を追う事にした。
さっき、村の外れの方に井戸があるのを見たんだ。
あそこで水を汲んで、身を清められると思う。
待っていてね、―――。
―――
「どうだい、嬢ちゃん。何か分ったかい?」
「おじいのはなし、むずかしいよ!まほうのことばよりむずかしい!」
「そうかいそうかい、嬢ちゃん。でもな、嬢ちゃんにはこれだけは覚えておいてほしいのさ。
立ち上がるからちょっと待ってな」
おじいをてつだう。
ひっぱってから、つえをわたしてあげる。
おおきなぬのは、ばさばさしてからたたむ。
「おじいがおぼえてほしいことってなに?」
「なーに、おじいが死んだらここに入れて欲しいだけさ。このお墓だ。これなら覚えられるな?」
「うーん?うん。おじいのおはかはこれってこと?」
「いや、まぁそういう事でいいわい。そういうことよ」
おじいのおはかはこれ。
よし、おぼえた!
「それとな、嬢ちゃん。もし、だ。もし嬢ちゃんが大人になって、好きな相手が出来たら。命を懸けて守りたいと思う相手が出来たら、これを渡すんだ。おじいと約束してくれるかい?」
おじいがふくろから、ちいさなはこをくれた。
あけようとしたけど、あかない!へんなはこ!
「それが開けられるようになった後に、好きだと思う相手に渡すんだよ?嬢ちゃん」
「んー、わかった!」
「よしよし。おじいに付き合ってくれてありがとうな、嬢ちゃん」
おじいがおおきいてで、あたまをぐちゃぐちゃにしてくる。
もー、なおすのたいへんなのに!
「それじゃ、嬢ちゃん。おじいは帰るわい」
「うん。またね!」
「うむ。嬢ちゃんもな」
おじいがゆっくりあるいてく。
おじいのおはかはおぼえた。
へんなはこは、あけられてから。
わたしもおへやにかえる!
ふくろのなかは、からっぽ。
おおきいぬのをほしたし、へんなはこはたなにおいた。
まほうのことばもつくえにおいた。
つかれたー!
べっどにとびのった。
すこしはねておもしろい。
ふかふかできもちいい!
まどが、いきをかけてくる。
そとはとりさんがうたってる。
だんだんとおくなって、
やさしくなって
ん―――。
おや?戻ってきたのに、やけに静かですね。
ひと区切り付いた所で様子を見に行きましょうか。
確か次は、この瓶に移してから . . . おっと、こちらの火は止めて良いですね。こっちは少し混ぜて定着させましょう。
暫く置いて問題ない事は確認しましたし、様子を見に行きましょうかね。
扉の鍵を外して部屋から出ると、イルリーナの部屋の扉が全開なのが見える。
静かに歩いて行き、中を覗くと気持ちよさそうに眠っていた。
邪魔をするのは悪いですね。
そっと、掛物を広げて部屋を後にしようとしたところで、見慣れない物が目に入る。
棚に置かれた箱のような物だった。
どうやらそれは、いくつかの仕掛けによって通常の動作では開かないように見える。
先ず、ウィーチオを疑ったが、彼の財力では手に入る代物ではない。
気になりますね。イルリーナ、少し見せて貰いますよ。
手に取って確認し、確信する。
これは自身が塔に所属していた頃ですら、稀に見る程度の精度で作られている。
そして、意匠や記された印章から察するに、恐らく数代前の時代の物であり、今から3代前の教皇の時代に許可を得て流通していたものだ。
イルリーナが何故このようなものを?
思い返してみても、彼女を引き取った際に確認しているのは3つのみ。
指輪型印章、意匠を含んだマント、商人が拾った際に見つけたという、恐らく国章が描かれた馬車の破片。
少なくとも、昨日までの時点では持って居なかった事からも、今日入手した点は確実。
危険物ではなさそうなのが救いですね。箱の大きさから見るに、良くて宝石の類でしょうか。
いずれにせよ、私の方で調べる事にしましょう。
置いてあった場所に箱を戻してから、静かに扉を閉めて部屋を去る。
食事の用意をする前に、忘れぬ間にメモを残すため、先に自室へ向かった。
ヴィーチェが次来た時に聞いてみる事にしましょう。彼女の専門ですし、私の持つルートより良い結果を得られそうです。
メモは適当に目の付いた本に挟んでおく。
これで良いでしょう。次は、水やりと収穫ですね。
部屋の鍵をかけてから、裏庭へと歩いて行く。
私の可愛い子供たちは元気にしてますかね。
ゆっくり、ただゆっくりと進む者がいる。それはただ進むだけであるにもかかわらず、関わる全てから抵抗されていた。
しかし、その者に止まるという行動は存在しない。故に、進み続ける。ゆっくり、ただゆっくりと。
それが、この世の定めであるかの如く。




