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17を理る者  作者: lilhytte
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※不備を見つけた際は誤字報告受付まで。


適当で良いよ、多分ね。



 流れに身を置く重い躰に、動けと向けられる熱が刺さる。

例え、どんなにその身を焦がそうとも、その向きが変わる事はなかった。

仮にそれが、冷えた身体を持っていたなら、流れに逆らい熱に溶ける事も叶ったというのに。






―――



「どう?素敵でしょ?」



 うん。凄く綺麗だ。

そう言ったのは、目前に広がる人の営みが生んだ景色に対してだったか、陽光に照らされ、風に誘われている彼女の横顔に対してだったか、今となってはどうでもよかった。



 だってもう、どちらも存在しないのだから。

今の僕の目には、営みが途絶えた景色しか見えなかった。

何もかもが黒く焼け落ちて、元の形すら残っていない。



ドサッ―――



 僕が落としたのか、僕が落ちたのか。

ポーチの中身は散乱して、自由に走り出した。

追わなくちゃ。






 村の入り口だった場所まで来た時、彼女の声が聞こえた。

村の狩り人達は、いつもここで素振りしているの。子供たちが真似するから、通るのに邪魔になったりしてね?

通してって言ったら、みんなで追って来てさ。あのがきんちょ共、絶対仕返ししてやる~!ってその時は思ったのよね。



 鍛冶のおじさんがいつも言うのよ、お前は早く良い相手を見つけろって。お節介な話よね。私だって探してるわよ!って。でも、村の人はみんな顔見知りだから、良い相手って言われても全員身内みたいなものだし、困るのよね~。



 この前、村長の家の改修が終って、部屋が増えたの。

それで、この部屋を来客用に使う!って村長は言ってたんだけど、来客なんて来ないじゃない!って奥さんに叩かれてて。

家追い出されちゃうんじゃないかなってくらいでさ、村長の奥さんだけは怒らせないようにしようって思ったね。



 2つ先の家の話、覚えてる?そのおばあちゃんがこの前亡くなってね、息子は街に出たからって一人だったんだけど、もっと気を使ってれば良かったって葬儀の時に帰って来てさ。でも、もう遅いよねって泣き崩れて。いつかはみんな死んじゃうんだって言って帰って行ったの。いつか私もこうなるのかな?



 私には、妹と弟が居るからさ、いつも姉なんだからって言われるのよね。

昔は、姉なんだからって言われるの、凄く嫌だったのよ。

でもね?もし、私にも姉とか兄が居たら、きっと、その人が同じ事言われるから、その人も嫌なんじゃないかなって思って。

そしたら、私が姉で良いじゃんって思えてさ。私って優しすぎるのかな?



 えー?好きな人?村には居ないよ。だって、みんな家族みたいなものなんだよ?

そうなの?うーん、でも外の人はちょっと怖いかな。え?君?どうして?

君は、―――。かな?

聞こえなかった?だ~め。もう言わなーい!



 結局僕は、黒い群れの、ただ一つの前で立ち尽くしていた。

詰まる息の隙間から、僅かに感じる焦げた匂いがこれを現実だと言ってくる。



 主よ、彼女はなぜこんな目に遇わなくてはならないのですか!?

彼女が一体、何をしたと言うのですか!?

僕が . . .

月の神に魅入られた罰なのですか?

どうして。どうして . . . ?どうして!



 僕は彼女の後を追う事にした。

さっき、村の外れの方に井戸があるのを見たんだ。

あそこで水を汲んで、身を清められると思う。



 待っていてね、―――。






―――



「どうだい、嬢ちゃん。何か分ったかい?」

「おじいのはなし、むずかしいよ!まほうのことばよりむずかしい!」

「そうかいそうかい、嬢ちゃん。でもな、嬢ちゃんにはこれだけは覚えておいてほしいのさ。

立ち上がるからちょっと待ってな」



おじいをてつだう。

ひっぱってから、つえをわたしてあげる。

おおきなぬのは、ばさばさしてからたたむ。



「おじいがおぼえてほしいことってなに?」

「なーに、おじいが死んだらここに入れて欲しいだけさ。このお墓だ。これなら覚えられるな?」

「うーん?うん。おじいのおはかはこれってこと?」

「いや、まぁそういう事でいいわい。そういうことよ」



おじいのおはかはこれ。

よし、おぼえた!



「それとな、嬢ちゃん。もし、だ。もし嬢ちゃんが大人になって、好きな相手が出来たら。命を懸けて守りたいと思う相手が出来たら、これを渡すんだ。おじいと約束してくれるかい?」



おじいがふくろから、ちいさなはこをくれた。

あけようとしたけど、あかない!へんなはこ!



「それが開けられるようになった後に、好きだと思う相手に渡すんだよ?嬢ちゃん」

「んー、わかった!」

「よしよし。おじいに付き合ってくれてありがとうな、嬢ちゃん」



おじいがおおきいてで、あたまをぐちゃぐちゃにしてくる。

もー、なおすのたいへんなのに!



「それじゃ、嬢ちゃん。おじいは帰るわい」

「うん。またね!」

「うむ。嬢ちゃんもな」



おじいがゆっくりあるいてく。

おじいのおはかはおぼえた。

へんなはこは、あけられてから。

わたしもおへやにかえる!



ふくろのなかは、からっぽ。

おおきいぬのをほしたし、へんなはこはたなにおいた。

まほうのことばもつくえにおいた。



つかれたー!

べっどにとびのった。

すこしはねておもしろい。



ふかふかできもちいい!

まどが、いきをかけてくる。

そとはとりさんがうたってる。



だんだんとおくなって、

やさしくなって

ん―――。






 おや?戻ってきたのに、やけに静かですね。

ひと区切り付いた所で様子を見に行きましょうか。

確か次は、この瓶に移してから . . . おっと、こちらの火は止めて良いですね。こっちは少し混ぜて定着させましょう。



 暫く置いて問題ない事は確認しましたし、様子を見に行きましょうかね。

扉の鍵を外して部屋から出ると、イルリーナの部屋の扉が全開なのが見える。

静かに歩いて行き、中を覗くと気持ちよさそうに眠っていた。



 邪魔をするのは悪いですね。

そっと、掛物を広げて部屋を後にしようとしたところで、見慣れない物が目に入る。

棚に置かれた箱のような物だった。



 どうやらそれは、いくつかの仕掛けによって通常の動作では開かないように見える。

先ず、ウィーチオを疑ったが、彼の財力では手に入る代物ではない。

気になりますね。イルリーナ、少し見せて貰いますよ。



 手に取って確認し、確信する。

これは自身が塔に所属していた頃ですら、稀に見る程度の精度で作られている。

そして、意匠や記された印章から察するに、恐らく数代前の時代の物であり、今から3代前の教皇の時代に許可を得て流通していたものだ。



 イルリーナが何故このようなものを?

思い返してみても、彼女を引き取った際に確認しているのは3つのみ。

指輪型印章、意匠を含んだマント、商人が拾った際に見つけたという、恐らく国章が描かれた馬車の破片。



 少なくとも、昨日までの時点では持って居なかった事からも、今日入手した点は確実。

危険物ではなさそうなのが救いですね。箱の大きさから見るに、良くて宝石の類でしょうか。

いずれにせよ、私の方で調べる事にしましょう。



 置いてあった場所に箱を戻してから、静かに扉を閉めて部屋を去る。

食事の用意をする前に、忘れぬ間にメモを残すため、先に自室へ向かった。



 ヴィーチェが次来た時に聞いてみる事にしましょう。彼女の専門ですし、私の持つルートより良い結果を得られそうです。

メモは適当に目の付いた本に挟んでおく。



 これで良いでしょう。次は、水やりと収穫ですね。

部屋の鍵をかけてから、裏庭へと歩いて行く。

私の可愛い子供たちは元気にしてますかね。






 ゆっくり、ただゆっくりと進む者がいる。それはただ進むだけであるにもかかわらず、関わる全てから抵抗されていた。

しかし、その者に止まるという行動は存在しない。故に、進み続ける。ゆっくり、ただゆっくりと。

それが、この世の定めであるかの如く。






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