第27話 大都市ワルシャワ
ナレフカから森を迂回しながらハイヌフカに入り一泊。
ハイヌフカからワルシャワまでは200kmほどの距離だ。
途中、ビシュクフという街を経由して、3日ほどで到着した。
郊外では魔物も出没したが、都市に近づくと商人や護衛の冒険者、旅行者などの姿が増え、魔物を見かける頻度は極端に少なかった。治安が維持されているのだ。
ワルシャワでは都市部を囲うように、中型都市が円を描くように複数点在し、王宮のある居住区画は、外部の者は立ち入れない。
トーマーシュとタケミは、ワルシャワの北東、ゾンブギに滞在する事にして、都市内を散策していた。
「俺っちはブレイズ屋の出店申請をしてくる。適当に街でも見て回ると良い」
トーマーシュはそう言って宿を出て行った。彼はどこの街でもそうやって店を出すことでお金を稼ぐ事が出来る。
「どうしようかな、、とりあえず防寒装備を見て、それから魔法屋でも見てみるかな」
タケミはここに到着するまでの道中で、トーマーシュに色々な話を聞いた。
便利な魔道具とマジックアイテムのおかげで、本職の専門魔導士は減ってきているのだとか。
高額だが、魔法の才が無くても効果を発揮する魔道具は本当に重宝する。
特に、アリーシャの居ない今、ケガを直す方法は魔道具以外に無いのだ。
それに、素手で倒せないタイプの敵が出てきたらアウトだ。
所持金は、、、、道中で魔物を狩りながら進んで少し増えたが、
銀貨315枚と金貨63枚だ。予算として多いのか少ないのかもわからない。
まずは武器屋と防具屋に行って、装備品の相場をチェックすることにした。
「おい、そこの。そこのお兄さん」
不意に呼び止められ、タケミは足を止める。
「・・・・・え?僕?」
耳栓をして音を防いでいたが、近くの音はある程度聞こえる。アリーシャのくれた耳栓はほんとにありがたい。
「そう。お前さん。ちょっとおいでなさい」
怪しい老婆が露店街の隅に座っている。あからさまに怪しい占い師という感じだった。
「どれ、アンタ見てやるよ。」
そういって老婆はジッとタケミの顔を覗き込む
「いや、いいっす。そういうの」
そう言ってタケミは立ち去ろうとしたが
「アンタ、異世界のモンだね?」
老婆のその一言で足を止めた。
「・・・・・・・・・」
タケミは警戒したが、老婆の意図が分からないので沈黙していた
「身構える必要は無い。さ、そこへ座りな」
促されるままにタケミは老婆の前に座る。
机に置かれた水晶が怪しく光っている。
占いなど信じるタチではない。だが、よく考えればここは異世界。
未来を見通したり、思考を読んだりといった能力が、魔法によって行われたとしても不思議ではない。それならば、この世界においての占いというのは、信ぴょう性のあるものかもしれないと思ったのだ。
「アンタ。異世界人だね。まだこの世界へ来たばかり。」
(そんなこと、、、どうやって・・・)
「どうやって分かるのか?フフフ。これは占いとかじゃない。ただ雰囲気でそう思っただけさ。この世界の住人とは少し違うなってね。」
(なんだ、そんなことか。確かに、老婆のように歳を重ねていれば、過去に異世界人に逢った事があっても不思議ではないよな)
タケミは少しがっかりした。
「おや、がっかりしたかい?いや、アンタが異世界人だと当てたのは確かに人生経験だが、今からアンタを占ってやるってのは本当さ。タダでいい、これはアタシにとっても運命なのさ」
老婆はそういって、水晶を見つめた。
「・・・最近、仲間と別れたんだね。冒険を共にした仲間と」
老婆はポツポツと話し始めた。
「でもそれは一時的な別れだ。いずれまた逢える。生きてりゃね。アンタ駆けっこが速そうだ。旅先でなにか面白いものを見つけたら、その子に届けに行けばいい。今生の別れじゃあないさ」
老婆の言っているのは、アリーシャの事だろう
「でも、もう一人。別々になった人が居るね。その人とは、、、もう会えないねきっと」
タケミはドキっとした。
(まさか、、、ミリアか?)
「もう一人は、おそらく遠いところへ旅に出る。長い旅だ、戻って来るのは難しいほどにね。まあ、それはアンタの人生においてそれほど重要じゃない。」
タケミは老婆の言葉の続きを聞くのが少し怖くなった
「アンタ、自分が強くなりすぎる事に対して、なにか不安があるようだね」
(そんなことまでわかるのか、、、)
「僕、、、異世界人で、神様の加護を受けてるんだけど、それが強力過ぎて・・・」
老婆はタケミの言葉を聞いて、声を出して笑った
「そうかいそうかい。確かに、アンタのその力は神の加護だね。強力ではある。しかしね、気にしなさんな。世界は広い。アンタがどんなに強くなっても、手の届かないほど凄い奴らはたくさんいる。アンタを悩ませているその力を、すっきりさせたきゃ、闘技場に行きな。」
「闘技場?」
「ああ、ワルシャワから南へ300km。クラフクって街にね、ダンジョンがあるんだ。そこに闘技場があるよ」
「ダンジョンに、闘技場。そこへ行けば悩みが晴れるって?」
「ああ、アンタが逆立ちしても敵わない強い奴らがたくさんいる。ダンジョンもね。
どんだけ強くなったって、簡単に踏破出来るもんじゃない。そこへ行けばアンタの漠然とした不安なんて吹き飛ぶさ。自分が強くなり過ぎたなんて、思い上がりだった。ってね」
老婆の言葉は、タケミの漠然とした不安の本質をついていた。
老婆の言葉が本物なら、タケミの不安は杞憂に終わるし、タケミがどれだけ努力して強くなっても届かないほどの高みがあるなら、出会ってみたい。そう思った。
「ねえ、そのダンジョンってのは、なんなの?」
タケミは老婆に尋ねる
「ああ。深淵の入り口。魔王の寝床。永遠の牢獄。色々な呼び方があるが、ダンジョンの近くには人が集まり、営みが生まれ、都市が出来る。ダンジョン都市は冒険者の集まるメッカであり、そこに集まる冒険者は一味も二味も違うよ。」
「魔王の寝床、、、、?」
老婆の言葉の一つが気になり、タケミはその言葉を口にした。
「ああ、この大陸西部には《西の魔王》という存在が居るが、過去にも魔王は存在し、またそれを討伐した勇者も存在した。魔王の死んだ場所にはダンジョンが生まれるとも言われている。真偽は分からないけどね。ダンジョンは魔物を生み出し、ヒトを中へ誘う。そのヒトを喰らって、魔王は復活の力を蓄えるのだという者も居る。大陸西部にいくつもダンジョンがあるからね。そんなに魔王がごろごろ居てたまるかいって話だがねぇ」
老婆は笑って言った。老婆自身は、ダンジョンがかつて魔王という存在が討伐された跡地で、復活の時を待っている魔王の寝床だという説には、懐疑的な様子だ
「クラフクの闘技場と、、、ダンジョンか。」
トーマーシュはスロハキアを越えてハンカリーへ行こうと言っていたが、その前に目的が出来た。
そうだ、あのビアティ・オーゼルですらBランク冒険者なのだ。
Aランク、さらにその上のSランク冒険者ともなれば、もっともっと強いはず。
この大都市ワルシャワにもSランク冒険者が居るかもしれないが、闘技場やダンジョンなら、その確率はもっと高い。
老婆の占い、、、というか見通す力は本物だった。
タケミは老婆に礼を言い、金貨を数枚置いてその場を離れた。
そのあと一日中露店街を見ながら街並みを見て回ったが、不思議ともう、タケミの心はいくらか軽くなっていた。




