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転生精霊、自嘲する

「…危なかった……」


春奈がしみじみと小さな声でつぶやいた。

しょっちゅう遊びに来るせいで慣れ親しんだ精霊王城の一室、いつもこの城で話したり遊んだりするときに使う元客間、現転生精霊&精霊王用歓談室だ。

そういえば私、慌てていたせいで転移先設定してなかったな…じゃあ、愛莉が設定してたのか。助かった、転移魔法発動してその場にいる、なんて間抜けなこと、自分たちの足元をすくうことにしかならない。


「取り合えず治療をしないと…」

「というか、安全地帯に転移したが、人連れてきては駄目だったか?此処。」


よくよく考えなくっても精霊界だ、精霊王が許可した人間しか入れないという暗黙の了解がある。

転生精霊は例外だから、でゴリ押すか。


「治療できる精霊呼んでくる。」

「頼む。できることはこっちでやっておくが、止血とかが限界だからな。それに…」


そういって愛莉は口ごもり、喋らなくなった。まあ、何が言いたいかはだいたいわかる。

ちらりと気絶してしまったフィナイースさんを見る。

…本音を言うと、今すぐ彼女の部屋に連れてって寝かせたいが、第三者がここにいるので、それはできない。息子共々、間が悪い奴らだ。


「小百合様?」

「ちょうどいいところに、みーちゃん今どこ?」


偶然通りがかった文官の精霊に声をかけられた。

名前を知られているのはさして疑問を持つことではない。私含め友人や、元々の家族など…遊びに来ることが多い面子は城の精霊たちと面識があり、会話する機会も多い。すると、仲良くなるのは普通の事だ。

透き通った妖精の羽を持つ男性精霊は、疑問に覚えながらも即答した。


「おそらく執務室だと」

「仕事禁止令は?まあいいや。ありがとう。」

「いえ、お役に立てれたなら光栄です。」


そして執務室に直接転移する。

フィナイースさんの事も伝えないといけないし、城で働く精霊の能力は意地でも脳内に焼き付けていた。治癒が得意な精霊を派遣してくれるだろう。

ルミリアは、なぜか書類に手を伸ばした半端な姿勢で停止し、目をつぶっていた。


「いらっしゃい小百合。さっきレースに歓談室に行ってもらったよ。ところでフィナはどうなってる?」

「いやその前に、なんでそんな姿勢なの?」


思わずツッコミを入れると、ルミリアは目を瞬かせて、その後苦笑し姿勢を直した。

何なのそのリアクションは。


「ごめん、皆が来たときからフリーズしてたんだ。そのあと念話でレースに頼んで。」

「なにそれ。…まあ、いまはフィナイースさんの事よね。気絶しているけれど異常は無し。」

「原因は」

「おそらく血を見たショックだね。」


どうやら帰ってきた瞬間から固まっていたらしい、苦笑は固まっていたのを思い出したから?


「治癒が終わったらみんな一旦返すよ。フィナも返して。」

「いいの?」

「フィナは人間同士で勝負したがってたからね。“精霊契約できた”までは大半の人間が行えることだから問題ないけれど、“精霊王との伝手がある”はちょっと普通じゃないでしょ。

 それはこの世界の人間にとって有り得ない程の価値がある。当人が何をしていなくとも、周りが勝負の舞台にあげてくれないよ。」


少し苦々しさを持った表情でそういう。

それはフィナイースさんの願いの為にフィナイースさんを助けられない矛盾に苦しむ内面をくっきりとあらわしていた。

確かに、ここでフィナイースさんを治療して返すのと、何日か滞在させるのには、人の捉え方に差が出てしまう。『滞在を許された、精霊に強い影響力を持つ』とばれれば、彼女は彼女が願った小さな逆襲すらかなわない。


「そのあと、オーランドルに帰してあげて。実家なら安心できるでしょ。」

「わかった…手間かけさせてごめんね」

「謝らない謝らない。」


茶化したように返して笑うみーちゃん。

容姿は変わっても、本質は変わらない。身内が凹んだ時には、明るくふるまうのが彼女の癖だ。


「ねえみーちゃん」

「なあに?」

「どうして…いや、何でもない?」

「‥‥‥そうなの?」

「うん。」


みーちゃんが作りたい優しい世界は、変わらない本質が原因だ。

普通の家庭に生まれたみーちゃんは、極普通に成長した。

会ってみてわかったけれど、みーちゃんの家族は良い人だ。父親も母親も兄弟も。いざってときは叱り、基本自由に生活させ、生きるためにしなければならない義務があることをきっちり教えた。

失敗しやすい子育て法でもある。だけどみーちゃんの両親はそれを成功させた。


みーちゃんは義務感があるが、めんどくさがり屋。それは自分を休ませることができ、周りに迷惑をかけるのを嫌う性格に育った…一時期自分を見失ってワーカホリックになっていたけれど。

みーちゃんの兄弟は親には反抗することが多くとも、自分より弱い人を守ろうとする性格に育った。その分反抗期はとても長かったし、みーちゃんの両親曰くまだ続いているようだが。しかしそれは、親を甘えられる対象であり、本音でぶつかっていい対象とみているからだ。


そんな親の下で育ったみーちゃんは、平和で、互いを支え合う優しい家庭で育ったために、争いや痛みを極端に嫌うようになった。

痛いのは嫌い、怖いのは嫌い、戦いは嫌い、争いも嫌い

臆病といっても過言ではない彼女は、自身の子供たちである精霊、自身が創りだした世界、その世界に暮らす人々…全てに幸せに生きてほしいと願った。


『どうしてこの世界をこんな風にしたの?

 貴方の力なら、意思を統一して幸せしかない世界を創れたでしょう?』


聞きたくても聞けるわけがない。

幸せにも数多の形がある。そして幸せは、与えられ続けるべきではない。意思があるなら、人間なら、自分で探すべきだ。

だって――みーちゃん(かみさま)も、他人の幸せの形なんてわかんないんだから。

(神様にすがるのは、人の性だね…私もやっぱり、人間だ)


まあ、人なら人らしく友人の心配だってしていいよね


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