悪役令嬢、気合を入れる
どうやら、あのローブは闇属性の魔術師だったらしい。
私たちがギャーギャーと騒いでいた間に小声で詠唱をしていたみたい。
結界は地面の下まではカバーしておらず、影に潜って地面を移動したようだ。
動く影をつつけば魔法が破綻し、引きずり出すことができただろうが、油断していた私たちは直に状況を把握できず、まんまと逃げられてしまった。
「くそっ してやられた。」
「ごめんなさい。私がちゃんと結界を張ってたら…」
悔しそうにする愛莉さんに、凹む小百合さん。
そんな中私は、探索魔法を行使しなければと思いつつ、呪文を思い出すのに四苦八苦していた。学校では、教科書に書いてある呪文を読めばよかったし、精霊のいない私には何があっても出兵命令は出ないから、得意でない呪文はあまり覚えていないのだ。
…そうだ!
「リィさん!クリスティ!探索魔法の呪文解る!?」
「呪文!?」
「あ、私解るわ!」
「教えて!」
小百合さんは知っていた。
急いで教えてもらおうと叫ぶ。
小百合さんは復唱してと前置きし、呪文を唱え始めた。
「我が周りを照らせ、今日日に世界を我に示せ」
―我が周りを照らせ、今日日に世界を我に示せ
小百合さんは設定上ユニーク精霊。ユニーク精霊は一つの魔法が強力な代わりに他の魔法が弱い。少なくとも、強力な魔術師である私の方が探索魔法が強いのが普通だ。
探索魔法は性質上、複数人で行うと混ざってしまう。
イメージとしてはサイト使用者が多すぎてネット回線が混乱する。だ。
それ故に“教えて”の意味を正確に理解した小百合さんは呪文を呪文としてでなく言葉として紡いだ。
「我が身に知らせ我らが世」
―我が身に知らせ我らが世!
我というフレーズが多すぎるし、いっていることほぼ同じでやぼったい呪文だけれども、それでもちゃんと魔法は使える。
しかし、なぜこんな呪文にしたんだ。人が使う魔法形態を確立したい人は確か学校の創立者だったはず…
と、そこまで考えたところで思考を中断する。闇魔法の所為か分かりづらいが、大まかな場所を把握できた。ここから北、町の中心部に向けっての方向にいるようだ。
「見つけれた?」
「大体は。」
「直ぐ出発しよう。」
「待って、ナルハを待たないと。」
「ああ、最初の行動がここまで来て仇に…」
「探索魔法は継続してるだろう、静かにしとこう。」
「ありがとう。」
愛莉さんの気遣いに感謝しながら、目をつむったまま魔法に集中する。
正確な場所が分からずとも、捜索範囲を狭められるこの魔法を止める訳にはいかない。
春奈さんが連れてくる警羅は捜索を手伝ってもらおう。風属性の契約精霊がいるならなおよし。光属性でもいい。
探索魔法は、風属性魔法の方が精度が高い。無属性魔法は魔力さえあれば誰でも使えるが、精度が低い。
私はイメージと違うだろうが、水属性だ。水か無しか使えない。
光属性は、闇属性の反属性だ。使われているのはあくまで人間の魔法であり、精霊ならばその大半を破ることができる。つまり相殺が可能。
闇魔法がなければ、わたしん探索魔法でもっと絞り込みをかけれる。運がよければ特定も可能になる。
とにかく今は戦力不足だ。設定を作ってそれを貴族含む大多数の人間に対して使うことになっているので、人間界ではそれを守らなければならない。私は私が決めた仕返しの方法を変える気はさらさらない。
私の意志は固いんだ!
「おまわりさんこっちです!ってあら?」
「ナルハ!あいつら影魔法で逃げた!」
「ええ!?」
「すいません警邏さん!風か光か、契約している人いませんか!」
春奈さんが警邏と共に戻って来て、小百合さんと愛莉さんが文字通り飛んで行った、のだと思う。
目をつむっているせいで見えないが、風切り音が聞こえて足音が聞こえなかった。
「じょ、上位精霊様!?」
「おい!確か新人に光の精霊様と契約したのがいたよな!?」
「だめです!ちょうど昨日王都へ研修に」
「「運が悪い!!」」
思わず異口同音に叫ぶ二人。
やってきた警邏の契約精霊に光も風もいないことが判明。
別にこの世界では、光属性は珍しい、みたいな乙女ゲームらしい摂理はない。乙女ゲームではあるけれど。
ただ黒髪は珍しい。公式設定に書いてあった。ルミリアに聞いてみたら、
『髪色?この世界は確かにファンタジーで髪色なんていろいろあるけれど、最初は黒髪多かったよ?主に私が原因で。なのになんでか急激に減っちゃって。遺伝子弱いとか私よくわかんないから、親どちらかの色を引き継ぐか先祖返りするか…なんにせよこんなにいなくなるはずじゃなかったんだけれど?』
と本人も分からない様子だった。
いや、今は現実逃避している場合ではない。
つまり動かせるものすべて使って、一応狭まったもののそれでも広い捜索範囲から闇魔法使って隠れている四人を探さなくてはならないわけだ。
「クリスティ、宰相邸に飛んで。ギルバート様…じゃなかったギルバートを連れ戻すために捜索隊を出すように頼んできて。後、その捜索隊に私たちを混ぜてもらうよう頼むのも忘れずに。」
「分かったわ。」
「待て、クリスは残って二人を守れ。私が行く。」
「クリスっていうな!」
小百合さんの反応になにも返さず、愛莉さんは言うだけ言ってその場を去った。
「ここまで来させてごめんなさい。けどもう少し付き合ってくれる?」
「我らはまだ巡回が…」
「お願いします。」
「精霊様がそうおっしゃるなら!」
ナルハさんの申し出を拒否した警邏たちは小百合さんのお願いであっさり意見を翻してくれた。
宰相邸に行った愛莉さんも見るからに精霊だ。飛んでるし無詠唱で魔法を使うし、何なら精霊を呼んで確かめればすぐわかる。国民は大なり小なり精霊信仰を持っているので、恐らく協力を取り付けられる。
「絶対に逃がさない…!」
もともと捕らえるつもりだったのだ。順序が逆になるが、エルドルドを捕まえ、芋蔓式に他の貴族を引きずり出す!
貴族社会で生き抜いてきた私を、あまりなめるな!
フィナは無属性が苦手。しかし地味に使い勝手がいい魔法が多いから、練習はしている。




