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悪役令嬢、失敗する

私は時々、公爵令嬢としてちゃんとやれていたか自問自答する。

必要な技術を学び、マナーを身に着け、勉学に励んだ。

人脈も公爵令嬢として作ったし(精霊の嫌われ者と揶揄される私には、公爵家の権威を使っても限界があったが)、社交界にも出た(基本悪口の的だったが)。

そして、出来ないことの方が多いが、ちゃんとやっていた。という結論に至る。


では、殿下の婚約者としてはどうだろうか?

ぶっちゃけて言うと、さほど良くない、というか悪かった自覚がある。

政略(というより策略)だったため、好感度は王子ということを含めてもマイナススタートだった。

大事に使われていたブローチを取り返すためなんでもすると言ったら言質をとられて婚約に至ったという、私のミスが原因の一つだとしてもけして好感度プラスから始まらない婚約。

しかもその後私は行方不明となり、それから精霊契約が出来ず、この国に生きるには致命的。

公爵家の権威を恐れて悪口以外の事は無かったが、学校に行き始めてからは、四六時中向けられる視線とこそこそと耳に届く馬鹿にしてくる声に、私はストレスをためていった。

もちろん殿下もわたしを好まず、かかわりは必要最低限だった。


そして私は歩み寄る努力を次第に放棄していった。

なんとか人脈を最低限築けたと思った時、出席必須の授業や行事を除き、食事睡眠以外のほぼすべての時間を精霊について調べることに使った。

契約をあきらめた後は、どうにかして欠点を補おうと他の技能の研鑽に励んだ。

政略婚約なんて一切顧みず、それは婚約者も同様に。

よって、その努力を怠ってしまった私は好意を持たれないだろう。


そう思っていたし、自分が悪いことも自覚していた。


だが…流石にこれは無いだろう。

努力を怠った報いだから、仕方がないよね☆

では済ましたくない。運命の神様という存在はこの世界にはいないので、やり場のない怒りをこのルートを選ぶきっかけになったニストに脳内で『バカヤロー!』と公爵令嬢に有るまじき口調と大声でぶつけることで落ち着かせようと試みる。

―あ、全然落ち着かないこれはまずい。深呼吸深呼吸

すーはーすーはー

よし心頭滅却!忘れろ理不尽への怒り!


「お前!!魔族と契約し国を撃った売国奴のくせに、よくのんきに街に出てこられたな!」

「ここで俺と出会ったこと、後悔させてやりましょう!この卑怯者!」

「精霊の嫌われ者め!粛清してやる!」


あ、やっぱり無理。

誰が売国奴に卑怯者よ!その言葉そっくりそのまま返すわ!

って行動早っ!即切りかかってくるなんて、私が言うのもなんだけれど、冷静さの欠片もないわね!?

あ、結界にはじかれた。


「ありがとう。さ…クリスティ。」

「どういたしまして。これどうする?」


これ―結界にはじかれた衝撃で気絶したワイス・トマス・ノアギルザ(騎士令息)


「クリスティ、フィナイースさん、あれらもどうにかしないと。」


あれら―殿下、ギルバート・リラ・ストシミア、ローブをすっぽりかぶった誰か。


「しっかし、こいつらバカか?路地裏とはいえ大声で口上述べて、逃亡者なんだろ?」

「リィ、あれは自分を正義だと信じ込んでいるからできる芸当よ。」


リィとは愛莉さんの偽名だ。ギリギリ上位精霊に入る火の精霊ということになっている。


「それも解せない。声を聞いて人が集まってしまったら、その人たちが危ないじゃないか。」

「その自分が危険にさらした人を自分で助け英雄面したいんでしょ。『傷を負ってでも民を助ける俺、かっこいい!』みたいな自己満足よ。」


愛莉さんと小百合さんは正論を振りかざして精神的ダメージを与えにかかる。ルミリアにやっていたのでわかると思うが、至って真っ当な意見を本人の前で本人に直接言わず聞こえるように言うことは、ダメージがでかい。

真正面から直接言うと逆切れされる確率が上がるので、一番効率がいいかもしれない。

イイゾモットヤレ!

‥‥‥は!つい素が!


「とにかく、捕縛しましょ。城に連れ帰らなきゃ。」

「私あいつは守りたくなーい。」

「火は二次災害が出そうだからクリスティがやってほしいんだが…」

「頑張クリス!」

「クリスっていうな!」


言い争い(?)はしたものの、やりべきことが分かっている小百合さんは結界を張る。

設定上彼女は守りのユニーク精霊であるため、対象に様々な結界を張ることが能力となっている。

今回の結界は、私たちを守った透明な物ではなく、水色の半透明の物が殿下たちの周りに現れた。

同時にそれよりサイズが小さいものの、同じ色の結界がワイスを覆うように現れる。

…色がある理由は、現状を相手に視覚的に理解させるためだろうか。


結界が張られてワンテンポ後、殿下や宰相令息、謎の人物は後ろを振り返ったり頭上を見上げたりして、囲まれていることに気づくと騒ぎ始めた。


「裏切り者!魔族に国を撃った売国奴め!ここから出せ!!」

「裏切り者はどっちの事よ!社会的弱者を寄ってたかって虐め続けた卑怯者!!」


殿下…もう敬称はいらないか。エルドルド…殿?は直情的に動き、結界を両手でバンバンと叩きながらこちらを罵る。

対しこちらは春奈さんが大声で怒鳴り返し、愛莉さんや小百合さんが頷いて同調している。


「ふっ、叫ぶことしかできないのなら、育ちが知れているな。」

「いや、それは隣にいるそいつに言いなさいよ。」


ギルバートさ…じゃなかった。宰相令息は私たちをあおろうと試み、自身が担ぎ上げている隣の人にクリティカルヒットしている。

いわゆる『お前が言うな!』状態だ。


「なぜ殿下がそのようなことを言われなければならない!」

「あんたの目と耳は節穴か!?」


それに対してエルドルドとギルバートは本気で疑問を浮かべたようで憤慨の表情になり、根拠のないことを言うのはやめてもらおう!とでも言いたげに的外れな発言をし始める。

小百合さんは本気で引き始めた。近くにいるので小声で言っている「ないわぁ…」という声が聞こえてくる。

全く持って同感だ。


「とりあえずはこのままにしときましょ。手間が省けたと思えば問題ないわ。」

「こっちのは気絶しているし、手っ取り早く王城に送るぞ。クリスティ、これ解除してくれ。」

「この二つ同じ魔法だから、こっち解いたらあっちも解けるよ。」

「じゃあ警邏でも呼んでくる?」


捕縛した彼らをどうするか話し合いつつ、視線は外さないようにする。

この会話中にも大声で叫んでいるから集中を削がれる。少し黙ってくれないかしら?


「ともかく、警邏を呼ぶなら私が行くわ。人間だしフィナイースさんみたいに魔法も使えないし役に立たないもの。」


注釈すると彼女は「ともかく、警邏を呼ぶなら私が行くわ。人間(という設定)だしフィナイースさんみたいに魔法も使えない(ことになっている)し役に立たないもの。」といっている。

そこで愛莉さんが軽く頷いたのは信憑性をあげるための演技だ。


「精霊二人に魔法使える人一人いるなら問題ないよね?」


春奈さんがこっちを向いてきたので、私も視線を合わせて返す。


「ええ。これでも人一倍魔法は使えるのよ。今まで精霊がいなかった分不便だったからね。」


笑ってそう返すと、春奈さんは満足げに微笑み自然に視線を戻し、固まった。

その態度をおかしく思っていると、なぜか変な表情で微妙に顔をゆがめてこちらを再び見、結界の方を指さす。

私はつられてそっちを向いた。


「ぷふっ」

「ふっふふふ」


耐えきれなかった春奈さんと小百合さんが噴き出す。

それにつられて私と愛莉さんも耐えられなくなり、


「…ふふっ」

「あっははは!」


遂に笑い出す。

そこには、目をこぼれんばかりに見開き、顎が外れたように口をぽかんと開くエルドルドとギルバートがいた。

元の容姿が端正で、誰もが美少年と思う姿であることで余計ツボにはまり、笑いが止まらない。


「なぜ貴様が精霊といる!?」

「ぶっ!?ごっほごほっ」


そのうえ笑っている私たちなど見えていないのか、悲鳴のような声をあげるので、笑いの波が再びやってくる。

それもあり愛莉さんは遂にむせる。

それでも笑いが止まらないのか、笑い声がしなくなってもせき込む音が止まらない。もはや過呼吸を心配するレベルだ。


「いやいやいやいや、どんだけフィナイースさんをなめてたの?」


小百合さんは一周回って冷静になったようだ。

そして自分は精霊アピールのためにふわふわと飛んでいき、何の抵抗もなく結界を通り抜け、その後Uターンして戻ってきた。

それをエルドルドとギルバートは穴が開くように見つめていた。

それを面白いと思ったのか根性で笑いを収め、まだプルプル震えているもののせきを止めた愛莉さんは、パチンと指を鳴らして火をともした。無詠唱で魔法が使えるのは精霊だけだ。

振り子のようにバッとこっちに視線を切り替えてくる二人に愛莉さんはまた吹き出しかけたが、何とか収めたようだ。

すると私の手を取って結界に近づいた。小百合さんの襟首も掴み、二人の前にやってくる。


「ほら、これを見ろ。どこからどう見ても契約紋だろ。」


契約紋は、色を見て判断できる。

模様はそれぞれ違うが、色は精霊の属性で決まる。

黄は光、紫は闇、赤は火、青は水、土は茶、風は黄緑、植は緑

ユニークは、白だ。

 私と小百合さんの左手に刻まれた紋は、同じ模様で白である。

――偽造だけどね


「…私警邏呼んでくる。」


その後静かに笑いから復帰した春奈さんは大通りに向かって歩き出し、角を曲がって見えなくなった。


「さあ、観念しなさい!」


小百合さんはドラマのように芝居がかった仕草でビシッと人差し指を突き付ける。

愛莉さんはまた手に火をともしている。逃げるなという文字が背後に見えるようだ。





けれども、気は緩んでいた。

二人はぽかんとしたまま動かない、一人は気絶中、最後の一人は分からないがどんなに強い精霊と契約していたとしても、転生精霊の二人に向かって攻撃しないだろうと思っていた。


―去れと我が身よ我等が身よ!


忽然と消え去った四人を見て、自身らの失策を認めざるを得なかった。


戦闘モードと通常モードの落差が激しい転生精霊は、通常モードのとき日本人の精神で意識が戦いから乖離します。よって切り替えてなかったら呆然と立ち止まってしまうこと多々あり!

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