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悪役令嬢、”敗者の町”に行く

「ここの階段を下りるみたい。」

「うわあ、足場悪いねえ。」

「フィナイースさん、足元気を付けて。」


王都南東の郊外、一応城壁内にあるがもはや使われておらず、ホームレスや犯罪者が寝床にするほど治安が悪いぼろぼろの町。地名は勿論ないので、“敗者の町“という俗称で呼ばれている。

その一角の路地裏の最奥、地下に続く階段の上で、わたしたちは立ちすくんでいた。

精霊だとしても、転生者だとしても、女の子なんだから怖いものは怖いし汚いところは嫌いだ。結界張ってもらっているからいいものの、そうでなかったら酒と薬のにおいでギブアップしただろうことも想像に難くない。


(今度陛下に此処の対処をする必要があると申し上げなければ…)

これ以上の放置は駄目だ。

守りのユニーク精霊(という設定)のクリスティこと小百合さんがいるから姿すら結界で覆い隠し、完全に遮断することで難を逃れているが、ここの治安の悪さは異常だ。

ここに来るまでの15分で喧嘩を見た回数なんて片手の指の数では収まりきらない。

ばれないのが分かっていて通り過ぎるだけなのに、緊張感では有り得ない程汗をかいた。


「なんでみーちゃんはここにいけだなんて…」

「ていうか把握しているのに動かなかったの?」

「どうやら、何回か手を加えて無くしたことがあったみたいだが、その度その度別の場所で発生してしまうらしい。しかもこの問題は広い世界の中で各地で起きてしまうため、毎度毎度統治者に改善を要請するにとどめているようだ。」

「陛下は知っているの!?」

「知っていたからといっても変えられる問題じゃないんだよ。せっかくうまく統治出来ていても、ここへの出兵で破綻してしまうかもとか、考えてもしょうがないようなifを考えて対処する必要があるのが王なんだから。」

「ベストよりベターを取ったってことか。」


愛莉さんと小百合さんは一歩踏み出した。

足元が悪すぎたからか、今私は小百合さんに抱えられている。

もっといえばお姫様抱っこされている。

飛んで降りているので別に揺れたりはしないし、超低空飛行で運んでもらっているので、とんで壁を越えたときよりは怖くない。


しかしまあ、よくもここまで荒廃させれたものだ。

むしろどうやったらこうなるのか教えてほしい。

ノートに描かれていた地図で分かったが、そうでなければこの階段も見つけることができなかった。それだけ巧みに隠されていた。それほどしなければ、安全を確保することができないのだろう。

それに書かれていたコメントも気になる

『あの子に手伝ってもらって』

『これを渡してね』

これとは風呂敷包みだろう。普通より厚手な風呂敷で包まれたものの中身は分からないが、サイズは子供のリュックサックぐらい。今は春奈さんが持っている。


階段の一番下まで来て、ふわりと着地する。

古びた扉…の残骸と、その残骸の向こうでつぎはぎのぼろぼろの布が垂れ下がり、扉代わりをしている。


コンコバキィ!!


「あっ。」


春奈さんがノックしようとしたら、すでに残骸だった扉だ。

ボロッとしたそれは軽い衝撃で粉々に砕けた。


「ちょっと誰だい!戸を壊したのかは!」


戸は元々壊れてたでしょ?と現実逃避気味に思う。

内側からドンドンという音がして…


「帰っておくれ!」

「「「「布ォ!」」」」


バサッと扉代わりの布を掴んで引きちぎる。

ボロボロだった布の継ぎ目じゃない部分から真っ二つになった。

出てきた女性はドンドンとした足音に似合わぬ、腰の折れ曲がったすっごく年老いたおばあさんだった。

白髪をまとめて、古びた服を着て鋭い眼光でこちらを睨んでいる。


「ああん?誰だい?」


誰だいって怒鳴りつつ聞いていたのに、いざ見てみたら少し、ほんの少し態度が和らいだ気がする。


「すいません。みーちゃんに紹介されてきたのですが…」

「みーちゃん?知らないね!帰れ!」


門前払いくらいそうなんだけれど

ここに行けとだけ言われて、それ以上は何も言われてない。


「ルミリアに言われてきました。」

「だぁかぁらああぁ、誰だねそいつは!あんたらみたいなのがこんな肥溜めに用などなかろ!帰れぇ!」


おいいい!?

ルミリア!私たちにどうしろっていうの!?

第一このおばあさん誰よ!?


「精霊王に言われてきました!」

「はっ?」


大げさに騒いでいたおばあさんは大声で小百合さんが叫んだのを聞いて固まった。

(‥‥‥あっ)

まずい…この国の人々は基本的に信心深い。

犯罪者やホームレスの人とかは無神論者や魔王信者すらいるが、神殿が配給だったり月一で無料治癒魔法だったりをやっているので(犯罪者を除くちゃんとした医療を受けられない人が対象)、敗者の町ですら神殿を守ろうとする。

つまり精霊王『様』と付けないだけでも、住民は


「おまえら!馬鹿か!『様』を着けな『様』を!」


ああ、交渉決裂か?

部屋の中に戻ってしまった。

というより布も無くなって部屋の中丸見えだけどいいの?


「早く入ってこい!聞かれても知らないよ!」


………?


「おまえさんら!内緒話のやり方すら知らないのかい!」


え?

内緒話って…交渉成立?

言動がちぐはぐだなこのおばあさん。

あと内緒話のやり方ぐらいわかります!声抑えて!


「し、失礼します。」

「お邪魔しま~す。」

「邪魔するなら帰んな!」


そういう意味じゃないんです!

部屋は思っていたより広かった。敗者の町で地下にこんなスペースを用意できるなら、この町の外で家の一つでも借りられるんじゃないだろうか?この町では生き残ることすら難しそうなのに、この安全な場所でこの面積を独り占めできる点よりそう思う。

家具は少ないし古びているが、机といすが一つずつ、ベットが一つ、箪笥が一つ、竈が一つ、仕切りの向こうは恐らくお手洗いだろう。最低限の生活ができる環境が整っている。来客は想定していないようだが。

おばあさんは部屋に一つだけの椅子にどかっと腰掛け、煙管らしきものを片手にめんどくさそうな視線をこちらによこした。


「で、一体何の厄介ごとを持ち込むんだい?」


厄介ごとであることが確定のような言い方をされた。

といっても、私たちも自分たちが何の用できたのか知らないので、風呂敷包みを渡してみる。


「これ、どうぞ。」


端的な言葉のみで風呂敷包みを春奈さんが差し出す。

横目で一瞥したおばあさんは風呂敷包みをむんずと掴み、乱雑にほどく。

中から出てきたのはキラキラした液体の入る小瓶と、高そうなお菓子、紙袋に入った何かだった。


「…子供扱いするんじゃないよ。」


ぼそりとつぶやかれた言葉はさっきと打って変わって覇気がなく、年相応に見えた。

―――が、それも一瞬でしかなかった。

中身をどさりと机の上に置いて、また大声で話し始める。


「何の用ね!」

「いや、私たちも分からないんです。」

「だろうね!あの御仁は自身の影響力を知っておるしこっちにも配慮する御方さね!」

「それではどっちも用件が分からないじゃないか。」

「手紙かなんか預かっとらんのか!」

「そんなものは…あ」


そういえば、地図を書いておくだけに、丸々ノートを渡す必要がない気がする。

視線を向けると、皆さんもそれに気づいたようで、頷いて首肯してくれた。

なので、正解かは分からないが、ノートを渡してみる。


「やっぱりあるじゃないかい!」


愚痴口と言いながら、箪笥からランプを取り出してノートを照らす。

しかし三十ページぐらいあるノートは、最初の6ページぐらいを占領している詳しい地図以外に一切かかれておらず、手紙でも何でもない。

眉をひそめたおばあさんは長い溜息を吐き、小瓶を掴んで片手でコルクの蓋を外し思いっきりぶっかけた。


「「「「!!」」」」


ノートは発光し、結構なページが燃え尽きたのか焦げた紙片に変わっている。地図が書いてあったところなんてもはや灰だ。

そして残った何ページかには焦げ跡すらなく、キラキラとしていたが、少し経つと黒々とした文字が浮かび上がってきた。

ざっと目を通したおばあさんは、こっちを見て、いかにも微妙な表情で


人間役(・・・)の精霊は、一体誰だい?」


と問いかけてきた。


どうやらルミリアは、私たちの作戦の事をこのおばあさんにばらしたらしい。

つまり、このおばあさんを協力者にしろということだろうか。しかしまた、なんでこのおばあさんを選んだんだ。もうちょっといい伝手は無かったのか?

手紙を雑に扱いながら、声を潜めて効いてきたその人に、ルミリアの人選に呆れながら春奈さんが手をあげた。


「私です。それがなにか。」

「アンタがあたいの孫娘になるのか?」

「は?」


孫…娘!?

待って待って、何がどうしてそうなった!?少なくとも実年齢は貴方より年上だし人間ですらないわ。


「これからアンタは、敗者の町をなんとかでた母親に育てられていたが、借金取りに母子共々連れ戻され、母が死に売られそうになっていたところで母を一時期育てていた血のつながってないあたいに偶然見つけられ匿われた少女らしい。」

「属性盛り過ぎ!?」

「この戸籍が管理されたこの国では、敗者の町以外で無戸籍はいないからね。居もしない母子の存在を納得させるためにはここがいいそうだ。」


確かにこの国には戸籍がある。精霊の湖に行く子供を把握するためだ。

だが統治が行き届いていない敗者の町では子供はほぼ無戸籍と聞いたことがある。

半信半疑だったが、現状を見た今では納得がいく。此処に戸籍なんてものがあるわけがない。


「アンタ普通に生活する価値観を持ってるだろう?つまりはココの価値観を持っていない。よって完全にココ出身だとは言えない。だからお前は借金取りから逃げた母に連れられ人気のない森の小屋で何も知らずに16まで生きて、ココであたいに助けられてあたいの伝手で逃げるんだよ。」

「は、はぁ…」


戸籍がない、親もいない、ちゃんとした外の常識を持つ、そんな春奈さんをこの国の人間として納得させるための苦肉の策だろう。

この国は自国だけで何でも賄える国だから排他的で、外国人を王子捜索に含めるのは敗者の町出身の人より難しい。

しかし、それなら敗者の町を無事出れた人とかにつないで欲しかったと思う。

何でこんなおばあさんを選んだの?


「ちなみにあたいの本当の孫は現カトラウェン家当主の追放された元部下だ。」


そこでつながるのかよ!


私には珍しい長文です!

誤字ってたらすみません!

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