悪役令嬢、腹を立てる
「つまり精霊契約のチャンスのことを知らせるために会ったのね。」
「そうだ。精霊殿が儂の部屋で寛いでいたときは驚きすぎて取り繕うのを忘れてな。」
「部屋…?寛…!」
「お、王妃様!お気を確かに!」
部屋の中で寛いでいた!?
陛下の部屋で!?
「よく寛げたわね…」
「精霊に権力は関係ないよ。」
「契約者を権力者に出来るからある意味関係していると思うぞ。」
「…確かに。」
高位精霊と契約できたら爵位をもらったりも可能。
権力にがっつり関わっていますねぇ。
精霊自身は何もしていないけれど。
「まあ、再契約の事は本人らには伝えてないのだがな。」
「そうなのですか?何故?」
「また契約できると知ったら反省しないだろう。」
「これでもわたくしたちは後悔しているのですよ。あなたを救えなかったこと。」
…? 救う? 私を? 何から?
「次期王妃が虐めの対象なんて、嘆かわしい話だ。」
「だから精霊契約させようと、泉に行かせたりもしたけど、契約出来なくって。じゃあもう周りが黙るぐらい有能にしようと思って。」
「有能になってからも裏で陰険な虐めがあったから、失敗だったがな。」
虐めから守ろうとしてくださっていたの?
陛下と王妃様が?
だったら婚約解消とか…あ、駄目だ。『精霊がいないから婚約破棄された落ちこぼれ』まで悪化する。虐め深刻化確定です。
「私の為に行動してくださっていたのですか…?」
「ある意味大失敗だったが。」
「本当にごめんなさい。」
ま、また謝罪…
お2人がする必要はないのに!
「フィナ、受け入れてあげて?それを彼らは求めているんだから。」
「でも…」
「人が謝るのは、人の為でなく自分の為だ。許してもらうことで、人は過去の失敗と折り合いをつけるんだから。」
「…ありがとうございます。謝ってくださって。」
「ああ。こちらこそ、ありがとう。」
「ありがとう。フィナイース」
うぅ。罪悪感が…何もやっていない陛下たちが謝らなければならなくて、私もそれを受け入れなくてはならないなんて…
それもこれも全部アンヌさんや殿下たちの所為よ!
今度あったら謝罪させてやる!
フフフ。
愛莉さん小百合さん春奈さん凜華さん、
ラノベ系テンプレ、ざまあヒロイン実行いたします!
楽しみに待っていて…いや、一緒にやってもらいましょう。
嬉々として手伝ってくれるはずです。
ウフフフフフフフフフ。
コンコンコンコン!!
「陛下!お急ぎ報告したいことがございます!」
!!わっ!びっくりした!
陛下が人払いを行い、しばらく誰も入ってくるなと命令されたから、外に意識を向けていなかったから?
滅茶苦茶驚いたわ!
そして、他の皆さまも驚いたみたい。
驚いたように目を瞬かせているわ。
…ルミリアだけはふわふわ浮きながら欠伸しているけれど。
部屋に入ってきたのは衛兵のようで、声で想像していたより、ずっと焦った表情をしていた。
「一体何事だ!」
「謹慎中の第一王子殿下が、同じく謹慎中のアンヌ嬢と共に脱走いたしました!」
……え?
「何っ「はああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」…」
陛下の言葉に被せて叫んだのがルミリア。
さっきまで余裕の様子で欠伸をしていた事が欠片も分からない程、表情は驚愕に満ちている。
「何故逃がしたのです!見張りの騎士はどうしていたのですか!」
王妃様も眉間に皴を刻んだ真剣な表情で叫ばれる。
かくいう私や、給仕をしていたニスト、王城のメイドたちは驚きに声も出ない。
プライドの高い殿下が脱走なんて手段を使うとは思っていなかった。
そもそも精霊のいない殿下はどうやっても騎士を倒せないはず…
「殿下は公務の書類を侍従が運んだ際に、部屋から消えていたことが発覚いたしました。
急いでアンヌ嬢の部屋を確認するもアンヌ嬢も既に消えておりました。」
「早急に対応しろ!」
「はっ!」
バタバタと騒がしくなっていく部屋の外。
私は何故か動けなかった。同時に、体に沸々とした怒りが浮かぶのを確かに感じた。
あなたの謹慎は、あなた自身の軽率な行動が原因でしょう?
婚約、婚姻という貴族の義務を陛下たちへの相談なしに断行して。
国一の公爵家との関係を悪くして。
陛下たちに尻拭いをさせて。
挙句の果てに精霊も失って。
なのにどうして!反省しないのよ!
馬鹿じゃないの?馬鹿じゃないの!?
もう怒った!
自分の過失を認めて、立派な王になってくれるのなら、好きな人と寄り添って生きていくのもいいと思って。
私は救われたのだから、水に流してもいいと思って。
だからちゃんと追放されて、精霊界で過ごして、
冤罪を晴らせなかった私が悪いんだと、殿下が悪いと大声で言いたい気持ちを抑えて!
自己中ということは分かっている。
上から目線だということも。
許してやるって王族に言おうとしていることは不敬だってことも。
でも、どうしても腹が立つ!
力(精霊)を手に入れてから、傲慢になっていくのをすぐそばで見ていた。
いさめて、うっとうしく思われたら遠くから見ていた。
傲慢になっていた。我儘にもなっていた。
しかしそれでも、
周りにいた、彼が認めた力(精霊)を持つ者がいさめて、踏みとどまっていた。
で、そんないさめていた者がいなくなった途端この醜態!
一緒に私を断罪した者たちと引き剥がしたら反省してくれるかもと縋るしかなかった陛下たちに追い打ちかけないで頂戴!!
…?
腹が立つことが湧き出てきて、もう最初と関係ない愚痴が出てきていたわ…。
声に出ていなかったわよね…?
「どうしたフィナイース嬢!大丈夫だ。愚息は直に捕まえる!」
「嫌なこと思い出せちゃったわね。もう今日はお帰りなさい。」
「あ、いえいえ。大丈夫です。ちょっと…あの…苛立っちゃって。」
「当然!あの野郎のこと考えるだけで私もイラつく。」
「そうだろうな…ならフィナイース嬢、今日はもう帰るといい。脱走したエルドルドと会いたくはないだろう。」
「そうね。もうお帰りなさい?久々の謁見で疲れたでしょう。次の精霊祭ではどちらにせよ出会うのだから、今会う必要はないわ。」
「ありがとうございます。」
「お言葉に甘えてお暇するね~。愛しい子たちたちにも手伝うよう言っておくよ。
じゃあ、またね~」
大騒ぎになる城内、やってくる不穏な気配
それをぶち壊すルミリアのノリ




