第94話 フェルナンド子爵
エルディア様をロープでぐるぐる巻きに縛り上げ、セルジオさん達を連れてダンジョンを出る。
縛り上げるのはセルジオさんに止められたのだけど、騒がれると面倒だとカレンとメインが制止を振り切り猿轡まで噛ましてしまった。
他の使用人さん達は苦笑いしていたが、誰も止めようとする気は無いようだった。
今は、そのロープの端を咥えたティガに引き摺られて運ばれている。
そのままの状態でギルドのカウンター前を注目を集めながら通り過ぎ、転送魔方陣でブランシュネの町に戻った。
セルジオさんの話ではエルディア様の父のフェルナンド子爵様は、もう治めている町に戻っている頃だろうと言うことなので、クレアさん達とは一旦別れ、僕、ルーナ、エリーの3人とティガで子爵様を訪ねる事にした。
フェルナンド子爵様が治めている町は、このブランシュネの町から北西にある漁業が盛んなフイシュの港町。
波が荒い為、海水浴等の観光都市としては難しいが、この辺りの海で採れる魚介は、とても美味しく、高級料理屋等で、よく取り扱われている。
人口は凡そ3万人、それほど大きい町ではないけど、結構豊かな町だということだ。
エリーに運んでもらい、フイシュへ向かう。エリーが竜の姿になった時は、セルジオさん達が目を丸くして数秒硬直していたけど、背に乗って空を飛んだときは感動で言葉を失っていた。
十数分ほどでフイシュの近くに到着し、歩いてお屋敷に向かっているのだけど、ティガに引き摺られて運ばれているエルディア様を見た町の人達が吃驚して動きを止めて注目してくるので、かなり気まずい……
屋敷の前に到着すると、セルジオさんを先頭に使用人さん達に囲まれて、屋敷のロビーへ案内され、セルジオさんが子爵様を呼びに行ってくれた。
「おお、エリー殿ではないでおじゃるか? もしや、第7婦人の話、考え直してくれたでおじゃるか?」
セルジオさんと一緒に戻って来たのは雪だるまのように真ん丸な顔とお腹をした、50才前後のチョビヒゲの人だった。
この人が子爵様? 第7婦人ってどういう事?
「そなたがこ奴の父であったか。第7婦人の話ははっきりと断ったであろう? 今日はこ奴について話があるのじゃ」
エリーはティガの咥えたロープの端を手に取り、そのままエルディア様を子爵様の前に投げ落とす。
「エルディアではないでおじゃるか? どういう事なのか、きっちり説明して欲しいのでおじゃるよ」
エリー、そしてセルジオさん達が、今回起こった事の経緯を話し、セルジオさん達は子爵家から離れる意向を伝えた。
「と、云うわけで、あまりにも腹が立ったからのう、殴り飛ばしたのじゃ。詫びを入れる気はないが、どうしたい? 我を捕らえるか?」
「エリー殿を捕らえる事は出来ぬでおじゃるよ。そんな事をすればメリウス様に顔向けが出来ぬでおじゃる」
「案ずるな、国王に手出しはさせぬ。これは我とそなたの問題なのじゃ」
「それでも捕らえる事はしないでおじゃるよ。エルディアは以前から問題ばかり起こしていたでおじゃるからな。いつかはこういう目に遇うと思っていたでおじゃるよ。そうならないように教育はしてきたつもりでおじゃったが、結局この馬鹿者の考え方は直すことが出来なかったようでおじゃるな。セルジオ、ナルセス、ナトル、ターニャ、スージー、お前達が我が家から出ていく必要はないでおじゃる。出ていくのはこの馬鹿者でおじゃるから」
子爵様は少し悲しげな表情で、そう語って、エルディア様のロープを切った。
いつの間にか気がついていたエルディア様はロープが解けると、立ち上がる。
「はあ!? 何言ってんの? 俺が居なかったら誰があとを継ぐんだよ? テルザスに継がせる気か? あいつはまだ10才だぞ?」
起き上がって直ぐに怒り始めたエルディア様。今にも子爵様に飛び掛かりそうな勢いだ。
「テルザスが居なくてもお前には継がせるつもりは無いでおじゃるよ。お前になど継がせたら、この町は滅びてしまうでおじゃるからな」
「ふざけるな!」
頭に血が上ったエルディア様が子爵様に飛び掛かる。
すると、子爵様はその体型からは考えられない速度でエルディア様の側面に回り込み、華麗に肘を顎にヒットさせ、ダウンさせた。
うそ? 不覚にも一瞬動きを見失ってしまった……なんであんなに早く動けるの?
「この者を牢に連れて行くでおじゃる」
「……はっ! かしこまりました」
周りで見ていた使用人さん達も一瞬、起こった出来事が信じられなかったのか、返事が遅れ、冷や汗を流しながら、エルディア様を連行した。
「さて、あの馬鹿者については、後日にフェルナンド子爵家からは離縁した旨、町の者、貴族各位に伝達するとして、皆には迷惑をかけてしまったでおじゃるな」
「いえ、とんでも御座いません」
一瞬見せた鬼の様な雰囲気とはまるで別人のように穏やかな表情でセルジオさん達に話し掛ける子爵様。セルジオさん達はそれに対して深く頭を下げ、礼節をとる。
「これは私の我儘でおじゃるが、お前達のような忠信を失うのはフェルナンド家にとっての損失でおじゃる。私に免じて、これまで通り、フェルナンド家に仕えてほしいでおじゃるよ」
「勿体なきお言葉、感謝いたします。ですが、守るべきお方が縛り上げられるのを見過ごした挙げ句、引き摺ったまま町を歩き、フェルナンド家の家名に泥を塗った責任があります。私には、このままお仕えする事は出来ません。ですので、私が全責任を負いますゆえ、この者達は、どうかご容赦ください」
「「「「セルジオ様」」」」
「お主らに責任は無いのじゃ。引き摺ったのは我の独断なのじゃ」
「今回の事は町の者も気にしないでおじゃろうよ。以前から町の者からも多くの嘆願が来ておったでおじゃるからな。今頃はきっと良くやったと笑っておるでおじゃるよ。エリー殿も気にする事は無いでおじゃる。しかし、そんなに気にするなら第7婦人の件━━」
「それは断るのじゃ」
「くぅー、ダメでおじゃるか……」
今、ここでその話? この人は凄いのか凄くないのか解らなくなってきた。
「第7婦人にはなれぬが、代わりに良いものをやるのじゃ」
エリーはそう言うと、収納魔法から何かを取り出し子爵様に手渡す。
「我の鱗なのじゃ」
「鱗? でおじゃるか? エリー殿のどこにこんな鱗が生えているでおじやるか?」
「お主は知らなかったかのう? 我の本当の姿は竜なのじゃ。その鱗は加工して武器にすれば聖剣とも互角以上に打ち合う事が出来、防具にすれば大抵の攻撃からは身を守る事が出来よう。昔はそれを求めて多くの愚か者どもが我に挑んだものじゃ」
知らなかった。エリーの鱗ってそんな使い道が有ったのか? でも、エリーに挑んだ人ってどうなったんだろ? たぶん人間じゃ勝てる人なんて居なかったろうな……ルーナくらい強い人が居れば鱗の2、3枚くらい取れたかも知れないけど……
「おおっ! それはありがたいでおじゃる。加工して我が家の家宝にするでおじゃるよ」
以外にもあっさりと話を受け入れた子爵様。やっぱり、大物かも知れない。
結局、今回の一件は、フェルナンド子爵様が全て腹に納めてくれ、誰にも責任を追及しないことになり、後日、エルディア様……もう様はいらないか……エルディアさんはフェルナンド家から離縁され、離縁状が国内の王族や貴族に送られた。
うーむ、すごくグダグタになった気がする……今回はちょっとコメディー色を強めに出して書いたつもりですが、どうでしょう?
笑えなかったらごめんなさい。




