第93話 モンスターパニック
ダンジョン探索2日目。
今日は、ティガ達従魔も一緒に探索をする。昨日1日、部屋魔法に入りっぱなしだった所為か、ティガ達は朝からやる気に満ち溢れている。
昨日は何故、ティガ達を戦わせなかったのか、と言うと、理由は簡単、ティガが強すぎて僕達の修行にならないから。
流石は、草原の覇者と呼ばれる獅子王ライオネルというべきか、元々強力なモンスターで、金ランク冒険者の上位クラスと同等以上の強さなのに魔力操作で身体強化が出来るから、まだ成長途中だというのに、もう成体のライオネルより強いんじゃないか? ってくらいに強い。
はっきり言って、この階層のモンスターなら まとめて相手してもティガが勝つ。
最近では、ルーナやエリーに手合わせに付き合わされて度々悲鳴を上げているけど……そのお陰もあって、ティガはメキメキ強くなっている。
ルーナ達と違って、ティガには戦闘を見守るなんて事は出来ない。本能なのか、誰よりも先にモンスターに向かって行こうとする。仕方ないので、1日は我慢してもらって修行に当てたのだ。
ちなみにユキとチュン助は元々それほど強力なモンスターではないので、強くなってもゴブリンジェネラルくらいだろう。
とりあえず、ティガには、まだ本気で戦わないように注意をして、探索を進める。
今日は従魔達が一緒だから戦闘がかなり楽で、2時間ほど掛かると思っていた分岐地点まで、1時間半で戻って来た。
ティガは思い切り暴れられないからか、少し退屈そうだ。
この辺りにも、ちらほら別の冒険者パーティーの姿が見える。
「やっぱり昨日より人が増えてるね」
「今が稼ぎ時だからまだ増えるわよ。きっと」
「こういう時期は、問題事が起こりやすいから気を付けようね」
「大丈…夫、何かあっても私達が居るか…ら」
このパーティーにはルーナ達が居る。本当に何があってもどうにでもなりそうだよね。
分岐のもう1つの道の方へ進み、暫くすると、他の冒険者パーティーの姿は殆ど無くなった。
この辺りのモンスターはさっきまでの区域に比べて少し強くなっている所為だろうな。なんて考えながら先に進んでいると、突然、従魔達が揃って足を止めた。
『ご主人、おかしいのだ。この先にとんでもない量の生き物が集まってるのだ』
ティガからそう、思念が送られてくる。
その直後に、僕達の進む方向から、冒険者らしき男の5人組が走って来ているのが見えた。全員壊れた防具を身に付けている。
「危なかったなぁ」
「ああ、間抜けが引き受けてくれて助かったぜ」
「おい」
そんな会話をしながら走る5人組が僕達に気が付き、口をつぐむ。
今の会話、それとこの先に沢山の生き物が集まっている。この事から僕達の脳裏に連想された事は1つだった。
「ちょっと、あんた達。今の話し詳しく聞かせなさい」
クレアさんがいち早く冒険者達に近寄り、5人組の1人の顎先に槍をチラつかせ詰め寄る。
「な、なんだ……あんた達には関係ねぇだろ?」
「このまま、首の風通しを良くされたいの?」
ルーナやエリーも加わり相手の退路を塞ぎ話を聞いてみると、僕達の想像通り、彼等はモンスターパニックを引き起こし、逃げている最中だった。
モンスターパニック。ダンジョンや野外で、モンスターと戦闘になり、戦闘時間が長くなりすぎると、仲間を呼ばれたり、血の臭いを嗅ぎ付けたりして、モンスターが対処出来ないほど集まってしまう現象。殆どの者は囲まれる前に逃げるのだけど、大抵の場合モンスターに捕まり補食されてしまう。
最悪なのが、この人達は逃げる最中に偶然見掛けた他の探索者にモンスターパニックの事を伝えずに擦り付けをしたのだ。
「こんのぉ、最低野郎!」
話を聞いたカレンが力一杯握りしめた拳を、男の顔面にめり込ませる。
僕もぶっ飛ばしてやりたいけど、今はそんな事をしている場合ではない。
「カレン、こいつらの相手してる暇はないよ」
クレアさんが、カレンに一声かけ、カレンも他の男達を一睨みし、走り出した。
モンスターがこっちの部屋に追い掛けて来ていないと言う事は、まだ擦り付けをされた探索者が戦っている可能性が高い。
今なら助けられるかもしれない。
『ティガ、全力を出して良い。この先で襲われている人を助けてあげてくれ』
「ガウッ!(任せるのだ)」
僕の指示でティガが一足先に、次の部屋へ走って行った。
「ルーナ、エリー、僕達は自分の身は自分で守れるから襲われてる人を助けてあげて」
「…ん、解った」
「仕方ないのう」
ルーナとエリーもティガの後を追って先へ進む。
僕達は、僕達なりに全力で走っているのだけど、ティガとあの2人の足の早さは別格。僕達に合わせて走っていては間に合わないかもしれない。
あの2人とティガがこの階層のモンスター相手にかすり傷1つ負わされる事はないので、その辺りの心配は必要ない。
「さあ、私達も急ぐよ」
「「「はい!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーー
アステル達がモンスターパニックを引き起こした5人組と遇った部屋から2つ進んだ部屋では数組の探索者達が、部屋一杯に群れなすモンスターの大群に襲われていた。
「くそがぁ! さっき走って行った奴等!」
「生きて出られたら覚えてやがれ! ぶっ殺してやる!」
「喚いてる暇があったら退路を確保しろ!」
「ぐぎゃあー!!」
毒づきながら必死に戦う冒険者達。それとは少し離れた場所で1人の若い男を守るように囲み、必死にモンスターを倒しているグループがあった。
「エルディア様は命に変えても無事に帰すんだ」
「「「「はい!」」」」
初老の男性の戟でその部下であろう男女の4人が次々に襲いくるモンスターを一撃の元に斬り倒していくが、部屋を埋め尽くす程のモンスターに少しずつだが、気力と体力を削られ、体はあちこち傷だらけになっていく。
エルディアと呼ばれている若い男は、腰を抜かしているのか、青い顔をしてその場に座り込んで震えていた。
他の探索者達が次々に倒れていく中、このグループだけは傷を負いながらも、誰一人倒れる事なく、しかも背に庇っている男にはかすり傷1つ負わされる事なく必死に戦っていた。
「ああぁーー!!」
「ターニャ!」
しかし、斬っても斬っても減らないモンスターに、遂に防御の一角が崩されてしまった。
ターニャと呼ばれた女性は首元をモンスターに噛みつかれ、それに気が付いた隣で戦っていた両隣の男性が、ターニャに噛み付いていたモンスターの首を剣で突き刺し、モンスターの口が離れた瞬間にターニャをエルディアの方へ下がらせ、ターニャが守っていた位置をカバーするように立ち塞がる。
「くっ! もうダメか!」
「弱音を吐くな! モンスターも無限ではない!」
1人が倒された事で、他のメンバーに諦めの感情が芽生え始めた。
「グァオオオオーーーーーー!!!」
そんな時だった。部屋の一角から激しい重圧を放ちながら体の芯を貫く程のモンスターの咆哮が響き渡った。
それと同時に数十のモンスターが宙を舞う。
直後、モンスターの頭上を駆け、エルディア達の目の前に美しい金色の鬣を靡かせたモンスターが現れた。
このモンスターは他のモンスターとは比較にならない程、強い。
全員が一目見ただけで、自分達はここで死ぬんだ。と、悟る。
しかし、そのモンスターは、エルディア達ではなく、エルディア達を襲っていたモンスターを蹴散らし始めた。
「はれ? ど、どうなってるんだ?」
「私に聞かれても分かんないわよ」
「助かるのか?」
「気を抜くな、今のうちに体勢を立て直すぞ」
「「「は、はい! セルジオ様」」」
金色のモンスターが自分達を襲っていたモンスター達を目にも止まらぬ早さで動きながら蹴散らし、その向こうでは、弾け飛ぶようにモンスター達が宙を舞う。
そんな光景を目の当たりにし、呆けている部下であろう男女の3人。驚きながらもセルジオと呼びれた男性は冷静さを保ち、怪我を負ったターニャに傷回復魔法薬を飲ませ、警戒を呼び掛けた。
数分遅れて、先程モンスターが現れた場所から激しい雷撃が放たれ、別の場所には炎の竜巻が上がり部屋のモンスターを飲み込んでゆく。
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僕達が、モンスターパニックを起こしている部屋にたどり着いた時には半数ぐらいのモンスターがルーナとエリーに蹴散らされた頃だった。
部屋に入って直ぐに、僕達が追い付いた事に気が付いたルーナが僕達の所へ戻ってくる。
「ルーナ、生き残ってる人は居た?」
「…ん、向こうでティガが守ってる…よ。他には居ない…ね」
「そっか、少しでも生き残ってる人が居て良かった」
「じゃあ、後はモンスター片付けるだけだね。アステル君達は、ティガの所に行ってあげて」
クレアさんはそう言うと目に見えるほどの密度で魔力を両手に集めて、雷魔法を放った。
部屋の端から端まで届きそうな激しい雷光が一線、モンスター達を貫いていく。
す、凄すぎる。なんだ? この異常な威力の魔法は……僕の魔法とは桁違い過ぎる……これが才溢れる人の魔法なのか……?
これが合図になったのか、自身の判断なのかは判らないけど、直後、部屋の奥から炎の竜巻を出現し、モンスターを巻き上げ焼き付くしていく。
あれは、エリーだな。あっちは災害級に異常な威力だ……クレアさんの魔法が可愛く見える……
それに続きてルーナも解放させていたシルフィードで、再びモンスターを真っ二つに切り裂いていく。
「アステル、呆けてないでとっとと行くわよ」
「怪我人が居るかも知れないんだから、早く助けてあげないと」
「う、うん、そうだね。急ごうか……」
呆けていた僕はカレンとメインに声を掛けられて、先に走り出した2人の後を追う。
ユキとチュン助が先行し、僕達はティガが居る場所に移動した。
「あなた達、大丈夫?」
「怪我してる人は私が回復しますから言って下さい」
『ティガ、後はルーナ達に任せてこっちに戻って』
カレンとメインが声を掛けると、6人の男女が安堵の表情を見せる。その男女の中に見知った顔の人が居た。
「あれ? 子爵様? なんでこんなところに?」
6人組の中心に座り込んで青い顔をしているのは、立食パーティーと高級宿で僕に話し掛けてきた、ちょっと感じの悪い男の人だった。
「……な、なんだ平民、こんなところで何をしている」
僕が声を掛けると、子爵様は僕を覚えていたようで、前回と同じようにふてぶてしい態度で立ち上がる。
「こんなところで何をしている」は、僕達のセリフだよね? っていうか、助けてもらっといて第一声がそれ?
「ちっ! 貴様らが不甲斐ないばかりに平民に借を作ってしまったではないか。まったく役に立たぬ奴等だ」
「「はっ!?」」「えっ?」
一瞬聞き間違いかと思ったけど、はっきり聞こえた。何? 今のセリフ。
子爵様を守っていただろう5人の男女は全身傷だらけで装備もボロボロ。1人は深い傷を負って起き上がる事も出来ないでいる。命懸けで戦っていたのだろう。
それに引き換え、子爵様はかすり傷どころか、装備も新品のようにまったくの無傷。僕達が来たときには真っ青な顔で座って呆けていただけ。
いったい何様のつもりなのだろうか?
今のセリフを聞いたカレンとメインも今にも殴りかかりそうな顔で子爵様を睨み付けている。
「あんた、いったい何様の━━」
「良いのです。気にしないで下さい」
カレンが子爵様に詰め寄ろうとした瞬間、初老の男性が2人の間に割って入り、カレンを止めた。
「良くないでしょ!? こいつ、ぶん殴らないと気が済まないわ」
「な、なんだ貴様は、無礼な」
「やめて下さい。そんな事をすれば貴女が不敬で罰せられます。命の恩人にそんな事はさせられません。ここは抑えて下さい」
「ぐっ……」
初老の男性の制止でなんとかカレンは踏みとどまったけど、全然納得はいってないようだ。相手が貴族じゃなかったら僕もぶっ飛ばしてやりたい気分だよ。
「ぐふぁっ!!」
突然、子爵様が錐もみ状に回転しながら吹っ飛んだ。
「え? エリー?」
いつの間にかルーナ達はモンスターを全て蹴散らし合流して、エリーが子爵様を殴り飛ばしたようだ。子爵様はその一撃で意識を失っている。
話を聞いていたのか、ルーナ達も冷たい表情をしていた。
「な、なんという事を……これでは貴女様が罰せられてしまいます」
「ふっ、そのクズが我をどうにか出来ると、本気で思っておるのか? 心配するでない、何かしようものならば塵も残さず消してくれる。そのようなくだらぬ心配より、其奴の治療が先なのじゃ」
エリーはしれっとした顔で、倒れている女性に近付き、回復魔法で女性を完治させた。
他の人達に大した怪我はなかったようで、メインの回復魔法で治っているようだ。
倒れていた女性の意識がはっきりとしてきたので、子爵様は放っておいて、話を聞いてみることにした。
5人の男女は、フェルナンド子爵家の使用人で、普段はエルディア様の身の回りの世話をしている人達だそうで、エルディア様は子爵ではなく、子爵家の長男だった。
初老の男性がセルジオさん5人の中で1番偉い人、眉のハッキリした男性がナルセスさん、髪を後ろで束ねている男性が、ナトルさん、ショートカットの重症だった女性がターニャさん、左右非対称のセミロングの髪の女性がスージーさん。
ダンジョンへは宝物庫もしくは階層ボスの攻略の為に来たということだった。
これは本人に確認してみないとハッキリした事は分からないけど、なんの為にダンジョン攻略をしたかったのかと、いうと、エルディア様は長男でありながら、その性格の所為か、家督の継承順位が1番ではないらしい。
本人は性格が災いしているとは思っていないようで、弟の方が優れていると、父(フェルナンド子爵)が判断していると考え、自分の優秀さをフェルナンド様に見せ付けてやろうと思っていたのではないかとセルジオさんは考えている。
そんな事の為にセルジオさん達が命を掛けさせられたのか……
5人とも、エルディア様の世話をするにあたって、何かあった時の為に戦闘の訓練は受けていたものの、戦闘が専門という訳ではない。
しかし、戦えるものだから、丁度良いと、駆り出されたらしい。
無茶苦茶だな……
「さて、これからどうするかだね」
「あれをここに捨てて帰れば、もうこんな事に巻き込まれなくて済むんじゃない?」
「そんな事をすれば我々の首が飛びます」
クレアさんの言葉にカレンが恐ろしい案を出し、セルジオさんが首を振る。
「エルディア様は屋敷まで連れて帰ります。私は、それを最後にお暇を頂こうと思います」
「俺ももう、耐えられそうにない」
「俺もだ」
「私も、もう辞めるわ」
「私もよ。命懸けで守ってもあの扱いですもの」
「お前達……」
セルジオさん達、全員が同じ気持ちのようだ。
「エリアス様、貴女様の行動を私共は見ておりません。どうか、ご安心下さい。エルディア様はモンスターから攻撃を受けて倒れられたのです」
口裏を合わせてくれるって事かな? でも、そんな事をしたら……
「そんな事をすれば、お主らが罰せられるのではないのか? 案ずるでない、我がお主らの主人に話をつけてやるのじゃ」
「しかし……」
「…ん、エリーなら問題ない…よ」
力ずくって話なら、万の軍でもエリーが取り抑えられる事はない。だけど、それをやったらもう一緒にいられないんじゃ?
「アステル、案ずるでない。力で解決しようとは思うておらぬのじゃ」
「え? なんで僕の考えてる事が?」
「本当にお主は分かりやすいのう」
話はエリーがつけると、いう事で話は決まり、僕達はセルジオさん達をダンジョンの外まで連れて出ることになった。




