第95話 目標と将来設計
アステル達がエルディアの件が終わりフェルナンド子爵家を後にした頃、リオングループはダンジョンを他のどのパーティーよりも奥へと進んでいた。
こちらのパーティーはサトスとダナンを前衛に置き、フェリシアとアリシアが後衛、前衛にはリオンとクリュス、後衛にはリイナがサポートに付いている。
「よし、今日はこの辺りで野営するか」
「だぁー、今日も疲れたぁ」
「座り込む前に結界とテントの設置! キリキリ動く」
リオンの言葉で気を抜いて座ろうとしたサトスとダナン。クリュスが尻を蹴飛ばし発破を掛ける。
「リオンさん、クリュスさん容赦無さすぎじゃねぇっすか?」
「うむ、鬼嫁だ、鬼嫁。リオンさんも大変ですね。家でもあんな感じですか?」
「分かるか? 幼なじみだから余計に遠慮がなくて大変だぜ。お前らも結婚したら絶対に嫁の尻に敷かれるからな」
「……それは確定っすか?」
等と野営の準備をしながら3人が小声でひそひそやっていると、後ろから無言で指を鳴らす音が聞こえて来た。
「鬼嫁って誰の事かなぁ?」
振り替えると目尻をヒクヒクとしながら、とても良い笑顔のクリュスが立っていた。
「くだらない事言ってないで、さっさと設置しろぉ!」
「「「はいっ!」」」
ひそひそ話を後ろで聞いていたクリュスが両手に炎を宿して爆炎を撒き散らし、リオン達は蜘蛛の子を散らすようにバラバラに走り、逃げ惑う。
「今日も同じパターンで追い掛けられてますね」
「あれ見てると、ここが危険なダンジョンって事、忘れそうになります」
「あはは、和んで良いっしょ」
「でも、クリュスさんが可哀想じゃありませんか?」
「そうですよ。まだ新婚さんなのに扱いが酷いです」
「大丈夫、あれはあれでクリュスっちも楽しんでるからねぇ。本気で怒ってたらリオンは兎も角サトスとダナンは今頃消し炭になってるっしょ」
それはそうだなと、妙に納得させられるフェリシアとアリシア。設置組は放置して料理を作り始めた。
「フェリっちもアリっちも結構冒険者が様になって来たよねぇ。まだ半年とは思えない程、よく動けてるっしょ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「同じ後衛のリイナさんに褒められると嬉しいですね。うちはほら、私達以外、全員前衛みたいなものだし」
アリシアの言葉で3人はアステル、ルーナ、エリーを脳裏に浮かべウンウンと頷く。
「エリーなんて本当は後衛のはずなのにガッツリ前に出て戦いますからね」
「あれで前衛は向いてないとか言ってるし、信じられないよ」
「ガチの殴り合いでルーナっちと互角に渡り合ってるんっしょ?」
「そうなんですよ。私達に修行をつけてくれてる合間に2人でよく組み手やってるけど、動きが人間の動きじゃないです」
「最近やっと目で追えるようになりましたけど、たぶん本気でやったら影すら見えないと思います」
「あはは、絶対に敵には回したくないっしょ」
冗談混じりに話をしながら料理が完成。設置組も戻ってきた。
「あー腹減ったぁ」
「今日も旨そうな飯だな」
「うむ、フェリシアちゃんとアリシアちゃんがこっちに来てくれて良かった。ダンジョンでまともな飯が食えるのは幸せだ」
「アステルに比べたらまだまだですけどね」
「なに言ってんだ。フェリシアちゃんの手料理が食えるって事が大事なんだ。こっちのグループで良かったぁ。フェリシアちゃん、結婚して毎日俺に飯を作ってくれないか?」
「またですか? お断りします。そんな事は私達の見分けがつくようになってから言って下さい」
「ぐはっ!」
サトスはこの探索中4度目の玉砕。もう他のメンバーはこのやり取りに慣れたのか見向きもせず普通に食事をしている。
「ごっそさん。今日も旨かったぜ」
「ありがとうございます。私達、教えられるばかりだから、これくらいしか役に立てませんけど」
戦闘の役には立てていない。そう自覚して心苦しいフェリシアは苦笑いで頬を掻いている。
「なに言ってんの? 充分戦力になってるわよ。誰だって最初は初心者なんだから焦らず少しずつ強くなれば良いのよ」
「そうそう、2人ともアタシやクレアの新人の頃よりずっと良い感じだよー。じっくり腕を磨いていけば金ランクも夢じゃないっしょ」
「金ランクかぁ……あまりピンと来ませんね」
「うん、今でも充分稼げてるし、あまり無理して上を目指そうって思えないよね」
「2人はどんな冒険者を目指してるの?」
「私達は普通にご飯食べていければ良いなってくらいにしか思ってないんですよ」
「そうだね。ずっと今くらいのペースでやっていければ良いなくらいしか思ってないよね」
食事もまともに取れず家も無かった時期を過ごしていたフェリシアとアリシアは、今住んでいる家を購入する為の貯蓄はしているが、人並みの生活を送れるようになった現状に満足していて、目標や、将来設計等を何も考えていなかった。
「言っておくけど、一生冒険者で飯食っていくのは無理だぜ? 人間、年取りゃ体力は落ちる。冒険者業なんてやれても40半ばくらいまでだ。女の子なら誰かと結婚して子供を産むとなれば20代後半には引退なんてのも珍しくない。その辺も考えて、若い内にしっかり稼いで貯蓄でもしとかなけりゃ、将来は貧乏生活だ」
そんな2人にリオンは厳しい現実を突き付ける。
「厳しいですね」
「そっかぁ、今だけ普通に生活出来ててもダメなんだね。皆さんは貯蓄とかしているんですか?」
「俺とクリュスは、もう普通に生活するだけなら100歳まで食っていけるくらいは貯めてるぞ」
「アタシはまだその6割くらいかなぁ?」
「俺……貯蓄0だ」
「サトス、貯蓄0で装備が壊れたらどうする気だ? 俺でも装備が壊れたら買い直せるくらいは貯めてあるぞ」
「大丈夫だ。予備が沢山あるから」
それぞれが、貯蓄の有無を教えると、貯蓄0のサトスに注目が集まる。
「サトス、お前はスキルのお陰でどんな武器でも器用に使いこなせるのは良いけどな、ある程度武器を絞って腕を磨かなきゃ器用貧乏になって失敗するぞ」
「それは分かってるんすけど、新しい武器を見るとつい欲しくなっちまうんっす」
「貯蓄0の人と結婚なんて絶対に無理だわ」
「そうよね。お姉ちゃんを任せるならお姉ちゃんが働かなくても人並みの生活を安定させられる人じゃないとダメだね」
サトスの有り得ないセリフにフェリシアとアリシアは呆れたように腕組みして話を合わせる。
「リオンさん。俺、貯蓄するっす。冒険者ランクも上げまくって大豪邸が建てられるくらい稼ぐっす」
「お、おう、そうか……」
あまりの単純なサトスの思考にリオンは引き気味に返事をし、他のメンバー達は呆れて目が点になり、ものが言えなくなっていた。
そんなこんなで、冒険者業の現実を知ったフェリシアとアリシアはとりあえずの目標を銀ランク冒険者、貯蓄を働かなくても50才まで食べていけるくらい貯めるにした。
リオングループの新ダンジョン探索は7日間で終え、大きな成果は無し。
リオンパーティーは指名依頼が沢山溜まっている為、アタランテに帰還し、サトスパーティーはもう暫く新ダンジョンで探索を続ける。
フェリシアとアリシアはアステル達と合流し、こちらもルーナの指名依頼が溜まっている為グランセルに帰る事にした。
最近、迷走して話が書けなくなっていたので、気晴らしに新作を考えて、新作の下書きをしていたら更新が遅くなりました。すいません。
元々、ほのぼのした話が書きたくて【アステルとルーナ】を書き始めたのに、下書きも無しに勢いで書いていたら、方向性の定まらない作品になっている事に気付き、深く反省。やっぱり下書きって大切ですね。
次の話からは、下書きをしてから纏めて投稿する方式にしようと思っているので、次回更新はかなり先になると思います。
新作の方はもう少しで第1章が書き上がりそうなので、また近い内に投稿したいと思っています。気が向いたら読んでやって下さい。




