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第90話 高級宿にて

 立食パーティーの会場から出て、ギルベルト様が用意してくれた高級宿のチェックインを済ませた僕達は、昨日まで泊まっていた宿の今日以降の予約をキャンセルし、チェックアウトを済ませる。


 今日の宿泊のキャンセル料は取られるかな? と、思ってたんだけど、今、宿はどこも満室で、キャンセルが出た側から予約が埋るらしく必要ないと言うことだった。


 ちょっと得した気分だ。


 フェリシア達に宿の変更を伝えなくてはいけない為、僕達は明日からのダンジョン探索の為の買い物を済ませ、今日まで宿泊していた宿の前でみんなを待った。


 アイスヘルのダンジョンを発見した時にルーナと少しだけ探索した時に気付いたのだけれど、あのダンジョンは入口付近は、ここと変わらないぐらいの気温だったのだけど、奥の方は気温が下がっていた気がする。


 探索した範囲はそれほど多くはないのどけれど、僕達が探索した最奥の場所は入口より体感で1℃~2℃ぐらい温度が低く感じた。たぶん奥に行くほど気温が下がるのだろう。


 モンスターの強さは、第1階層でグランセルダンジョンの第15階層ぐらい。他の2つよりも難度が高い。


 僕達が遭遇したモンスターはどうやら遥か北の寒冷地にある極寒の国、フィラルド近郊に生息するモンスターだった。ウィレム湖で発見した美味しい魚も、その地で捕れる幻魚(ファントムフィッシュ)と言われる高級魚らしく、新発見のものではなかった。


 僕達が探索した範囲で遭遇したモンスターは、スノーマン、フローズンキューブ、ブリザーベア、スノーワーム、どれもこの国には生息していないモンスターだ。


 スノーマン。体長2m~3mの白い大猿モンスター。力は強く、動きもそこそこ早く、氷のブレスを吐く。


 フローズンキューブ。1m四方の正方形の軟体モンスター。見た目は四角い氷のようだが、柔らかい。動きは遅いが、氷柱を飛ばして攻撃してくる。魔法で攻撃するか、核にダメージを与えないと倒せない。


 ブリザーベア。体長2m前後の白熊モンスター。一撃で大木をへし折る怪力と、傷付けた箇所を凍らせる爪を持つ。素早さはスノーマンと同じくらい。


 ランドワーム。体長1m程のミミズの様なモンスター。地中に潜み、飛び出し様に大きな口を開けて補食しようとしてくる。体長はゴブリン程度だが、伸縮性が高く、人間くらいなら丸飲み出来る。


 スノーマンの肉は美味しいけれど、筋が多くて煮込みにするか挽肉にしないと固くて食べられなかった。


 フローズンキューブの核は無味無臭のジェリーの核って感じで食感は楽しめたな……


 ブリザーベアはちょっと臭みはあったけどここのモンスターの中では1番美味しかった。


 ランドワームは食用じゃなかった。


 今回は長期で探索する予定だから調味料や野菜を多めに用意してある。


 女性陣のストレスが溜まらないように各種甘いものも用意して、現地で作れるように材料も準備万端だ。


 夕刻になり日が沈み始めた頃、フェリシア達が戻ってきた。


「「アステル、ルーナ、エリー、ただいま」」


「お帰り、って、なんでリオンさん達が?」


 フェリシアの話を聞くと、町から出ようと歩いていたら偶然に会ったらしい。


 で、僕が地図に行くなと、書いておいた大鋏岩蟹の生息域に蟹狩りに行って、そのまま戻ってきたと……そんなに蟹が食べたかったのか?


 フェリシアとアリシアはリオンさんパーティーともすっかり仲良くなったらしく、特にアリシアはリイナさんに弓の使い方を教わったらしく、すっかりなついている。


 僕達は再会を喜び挨拶を済ませる。


「ところで、なんでサトスはチュン助の上で寝てるの?」


「ああ、あれね。フェリシアに良いところ見せようとして蟹にやられたのよ。馬鹿だから」


 うーむ、カレンは相変わらず厳しい……


「で、面倒だからチュン助に運んでもらったわけ」


 なるほど、相変わらずの扱いを受けてる訳か……サトスらしいな。


「アステルはなんで外に居るの?」


「宿変わるからフェリシア達を待ってたんだよ」


 2人に事情を説明すると━━


「本当に? 私達もそこ泊まって良いの?」


 ━━と、目を丸めて少し嬉しそうだ。


「リオンさん達は宿はどうするんですか? もう僕達が泊まる高級宿以外空いてるとこ無いと思いますよ」


「なら、そこで良いんじゃねぇか?」


「ええっ!? い、1泊1万ゼルもするんですよ?」


「い、1泊1万ゼル……」


「冗談でしょ?……」


 ダナンとメインが血の気の引いた青い顔で驚いているが━━


「問題ねぇよ。お前らの分も俺が出してやるから行くぞ」


「リオンの兄貴」


「お兄様」


 ━━さらりと宿代は任せろと言うリオンさんに目を輝かせながら祈りのポーズをとるダナンとメインが少し気持ち悪いと思ったのは内緒……


 それにしても、1泊1万ゼルを軽く任せろと言うリオンさんは、流石最高ランク冒険者だ。


 8人分だよ? 8万ゼル……いつも泊まっている宿80人分以上の宿代……恐ろしい。


 高級宿に移動し、早速リオンさん達が部屋を取る。


 2人部屋を4つ。部屋割りはリオンさんとクリュスさん、リイナさんとクレアさん、メインとカレン、ダナンとサトスになった。


 今、初めて知ったのだけれど、リオンさんとクリュスさんは昨年末に結婚したらしい。


 因みに、リイナさんとクレアさんにも、それぞれ恋人が居るそうだ。


 うちのメンバーは僕、ルーナ、エリーが3人部屋で、フェリシアとアリシアが2人部屋で一緒。


 高級宿だけあって、お風呂は各部屋に付いている。共同浴場も有るらしいけどあまり使う人はいないそうだ。


 で、今日フェリシア達が捕ってきた蟹は、宿に頼めば調理してもらえるらしい……10匹も誰が食べるんだろ? まあ、ルーナとエリーが居るから大丈夫か……?


 大鋏岩蟹《ビッグシザーロッククラブ》。人間大の大蟹。右の鋏が本体と同じくらい大きく、鋏む力は、かしの木がウエハースの様に砕ける程。荒れ地や岩場に生息し、土や岩(正確にはその中の微生物)、植物が主食。普段は地中に隠れ住み、索敵スキルには反応しない。水気の少ない場所に生息している為、身はパサついているが味は濃厚。蒸し料理や煮込み料理に向いている。


 蟹を調理場に預け、食事の時間まで各自分かれて部屋で寛ぐ事になり、僕達が部屋に向かっていると━━


「おい、そこの平民」


 ━━聞き覚えのある男性の声が後ろから聞こえてきた。


「何か御用でしょうか?」


 振り向くと、立食パーティーの時に話し掛けてきた偉そうな貴族らしき男性が立っていた。


「あ、ルーナとエリーは先に部屋に行ってて」


「なんじゃ? 面倒事なら我が直ぐに片付けてやるのじゃ」


「わあー! 良いから、気にせず部屋に行ってて」


 エリーが軽く殺気を出して言ってきたので、面倒事が起きる前に落ち着かせて部屋に行かせた。


「失礼しました。御用件はなんでしょうか?」


 僕は頭を下げて再び聞き直す。


「う、うむ、大した用では無いのだが、先程のエリー殿に取り次ぎをせよ」


 おや? 態度が少し大人しくなった? ……多分エリーの殺気に当てられたんだな……


「申し訳ありませんが、そういった用件はギルベルト様を通してお申し下さい」


 と、言うようにギルベルト様に言われている。大抵の貴族はこれで引き下がってくれるらしい。


「それが出来ぬから貴様に頼んでいるのではないか」


 頼んでたの? 今の言い方だと命令だよね? 「せよ」っていったじゃん。


「そう申されましても、ギルベルト様にそう指示をされているもので、僕の一存では良い返事は出来かねます」


 あー面倒くさい……引き下がってよ。


「そこをなんとかしろと言っているのだ。子爵である私がここまで頭を下げているのだそ?」


 ……1ミリも下げてないよね? むしろふんぞり反ってるよね? 頭大丈夫ですか? 声を大にして言ってやりたい……


 って子爵だったの? かなり御偉いさんだったんだね。若そうなのに……もしかして見た目以上に年輩なのか?


「なんと申されましても僕の一存では良い返事は出来ません。御用件がそれだけなら失礼します」


「あ、貴様っ……」


 これ以上話をしても平行線で進まなそうなので、話を切り上げ、一礼して自分の部屋に向かった。


 余談なのだけど、あとで知った話。この人、子爵家の長男であって、まだ家督は継いでいないので正確には子爵ではない。



 その後、2時間ほど部屋でのんびりして、お風呂も済ませ、この日は、フェリシア達が捕ってきてくれた蟹を一流料理人の調理で皆で美味しく頂いて明日は早いので、早々に就寝した。

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