第9話 海でバカンス
僕の魔法の修行も一段落した頃
落ち着いて考えてみると、冒険者になって今日まで1日も休まず、ダンジョンに行ってるかクエストを受けているかだ……
あれ? 考えてみると母さんは父さんが死んでから今日まで仕事を休んでいないよな? 家の事もほとんど全部やってるし……最近はアイリスが家事を多く手伝っているとはいえ、このままじゃ過労で倒れちゃうかも知れない……
僕は部屋にルーナさんとエリーさんを呼び、相談を持ち掛けた。
「ルーナさんエリーさん、相談なんですけど少しの間、ダンジョンに行くのは休みませんか?」
「どうしたのじゃ? 突然に」
「働き詰めの母さんにゆっくりと休んでもらいたいから、旅行にでも行けたらと思いまして」
「…ん、良いと思…う」
「ふむ、そういう事か」
━━その日の夜
「皆、話があるんだけど」
僕はリビングに母さん、アイリス、アレンを集める
「あのさ、僕もだいぶ稼げるようになって、金銭的にもゆとりが出来たから、皆で旅行に行かない?」
「旅行!? 行きたい」「行くー」
アイリスとアレンは大喜びで賛成した
「母さん、良いよね?」
「そうねぇ、ずいぶん旅行なんて行ってなかったし、お店に休みがもらえるか相談してみるわ」
母さんの休みは簡単に了承してもらえた。と言うより、やっと休みを取る気になれた事に喜んでくれた店長さんが、涙まで流してゆっくり休んでこいと、特別に旅費までくれたと言う。
旅行が決定してからは、皆ウキウキ気分が収まらず、旅行の話ばかりしている。
「皆何処に行きたい?」
「海! 海に行ってみたい」
「僕もー」
「そうねぇ、アイリスとアレンは行った事なかったわね」
「ルーナさん達は何処か希望あります?」
「わたしも海が良…い」
「我は何処でも良いのじゃ」
全員一致で海に出掛ける事になった。
旅行に出発する日の朝、食事を済ませ僕達は家を出た。昨晩アイリスとアレンは興奮で眠れなかったらしく眠そうにしている。
僕達が馬車乗り場に向かおうとすると、ルーナさんとエリーさんは、馬車乗り場とは違う方向へ僕達の腕を引き、向かおうとする。
「あれ? ルーナさんエリーさん、こっちは馬車乗り場じゃないですよ?」
「馬車は使わな…い、町の外に出る…よ」
「そうなのじゃ。そんなもの使わなくても良い、我がひとっ飛びで連れて行ってやるのじゃ」
言われるままルーナさん達に着いて行くと、町の外に出て少し離れた広い場所で、エリーさんが竜の姿に変身した。
「凄ーい」「カッコいいー」
先程まで眠そうにしていたアイリスとアレンが大興奮ではしゃぎだす。
「背に乗るが良い」
エリーさんが身を伏せるとルーナさんが一人ずつ抱き抱えエリーさんの背に乗せていく。
「お、落ちないかな……」
「案ずるでない、落としたりはせぬ」
僕達がエリーさんの広い背中に乗り終えると、エリーさんは重力が無くなったかのようにふわりと空に舞い上がり、あっという間にグランセルが豆粒の様に見えるほど遠く離れた。
「凄い! こんなに早く飛んでるのにほとんど圧も風も感じない」
「風魔法で囲っておるからのう。どうじゃ? 空の旅は」
「気持ちいいー」「凄ーい」
流れる景色に目を奪われ、アイリスとアレンは眠気も忘れ大喜び、母さんも緩やかに流れる風を感じながら気持ち良さそうにしていた。
「最高ですエリーさん」
「…ん、気持ちい…い」
通常4日程かかる海の町カラコまでの道のりを、ほんの一時間半ほどで移動した。
エリーさんは速度を緩め海の見える位置を旋回する。
「わぁー大きな水溜まりー」
「お母さん、凄く綺麗だね」
「本当に綺麗ね」
日の光を反射してキラキラと光る海は、それはもう綺麗で、宝石が鏤められているかの様な景色に心躍る。
エリーさんが町の入り口に降り立つと━━
「ドラゴンだ! ドラゴンが出たぞー!」
エリーさんの姿を見たカラコの人々がパニックを起こし、あちこちから悲鳴が木霊している。
「あ、しもうたのじゃ」
「ははは、そりゃこうなりますよね」
「…ん、失敗失…敗」
守衛とカラコのギルドに説明し、詫びを入れて、混乱を収拾するのに一時間ほど掛かったものの、無事海に程近い宿を取ることが出来た。
早速、海水浴を楽しむ為、海に向かう。
先に水着に着替えた僕とアレンは、飲み物を買い女性陣が出て来るのをのんびり待っていた。
待っている間に砂浜に居た女の人達がチラチラこちらを見てくる。
アレンが微笑み手を振ると、幸せそうに微笑み手を振り返してくる。
アレンは昔からやたらと女性に好かれる、年齢に関係なく同年代から歳上まで幅広く。将来プレイボーイにならなきゃ良いけど……
暫くすると男性の視線を釘付けにするグループがやって来た。ルーナさん達だ。
砂浜を歩くルーナさん達に見とれすぎて、柱にぶち当たる人、食べている物を落とす人、一緒に居た女性にひっぱたかれている人、様々だ。
ルーナさんは上下白のビキニにヒラヒラのスカート、アイリスは青と白のストライプのフリフリワンピース、母さんは上下黒のビキニ、エリーさんは……
「ぶはっ! ごほっ! ごほっ!」
「兄ちゃん、どうしたの?」
「な、なんでもない、けほっ」
ひ、紐? 思わずジュース吹き出しちゃったよ……
それにしても我が家族ながら凄い集団だよな、エリーさんは誰もが見とれる程の美人だし、母さんは近所の男どもを夢中にさせるほどだし、アイリスも何度も告白を受ける程の人気者だし、ルーナさんは……ルーナさんは可愛いな、癒されるな。
「お兄ちゃん、何じろじろみてるのよ」
「アステルの、エッ…チ」
「な、何言ってるんだよ……別に見てないし」
「ははは、男の子はそれぐらいが良いのじゃ、ほれどうじゃ?」
エリーさんは胸元を寄せ僕の目の前に近づいてきた。
「え、エリーさん、危ないです、み、見えそう……」
見たいけど見ちゃだめだ、僕は両手で目を被ったけど、つい指の隙間から谷間を見てしまう。
母さんがその光景を微笑ましく眺めている
僕をからかうのに飽きたエリーさんはサマーベッドを借りてきてのんびりお昼寝、母さん、アイリス、アレンは浅瀬でボール遊び。
僕はと言うと、ルーナさんと二人で海水浴場の端で水魔法の修行。
……あれ? おかしいぞ? 確か遊びに来た筈だよな? まあ良いか、水着のルーナさんと二人で修行、最高に幸せだ。
僕はルーナさんの可愛さに目を奪われ、横目でチラチラとルーナさんを見てしまう。
「アステル集中す…る」
ルーナさんが水弾を僕の顔面に撃ち込んできた。
「ぶはっ! ふふっ、やりましたね。お返しです」
僕もルーナさんに水弾をるに撃ち込むが軽く躱される。
「甘…い」
互いに水弾の応酬、僕の水弾は尽く躱され、ルーナさんの水弾は全弾僕に命中する。
ああ、これだこれが海だよ。ルーナさんと戯れるこの感覚、僕の水弾は当たらないけど、水弾浴びすぎで溺れそうだけど楽しいなー
「面白そうな事をしておるのう、我も混ぜるのじゃ」
僕達の楽しそうな姿に誘われ、エリーさんがやって来た。
「良い…よ」
「ルーナよ、前回は不覚を取ったが今回はそうはゆかぬぞ、魔法勝負なら負けぬ」
「今回も、私が勝…つ」
ルーナさんが手のひらを上に向け、クイクイッと手招きしエリー挑発している。
「あれ? ちょっと二人とも? 目が本気ですよ?」
嫌な予感がする……
「皆ー! 逃げろー! 巻き込まれるぞー!」
僕は危険を悟り、大声で海水浴を楽しんでいる人達に呼び掛けた。
砂浜に居た人達がこちらに振り向く。
一拍
二人は水面を駆け水弾の応酬が始まる、飛び上がり放たれる水弾は海面に穴を明け海を割る、だが互いに全てを躱し、弾く
慌てて砂浜から避難する人々
「二人ともダメです! やめて下さーい! ごぼぁー!」
僕は浅瀬に入り、大声で二人を止めようとしたが、波に巻き込まれ沖へと流されてしまった。
「お兄ちゃーん!!」
叫ぶアイリス
「ははは、楽しいのう。やはりお主とやり合うのが一番楽しい、ルーナお主もそうじゃろう?」
「…ん、否定はしな…い」
二人に周りの声は届いていないようだ。
「バカー! いい加減やめなさいよ! お兄ちゃんが死んじゃうでしょ!」
暫く遊んでいる二人に、叫び続けるアイリスの声がようやく届く。
「…ん、エリーちょっと待…つ、アイリスが何か言って…る」
「なんじゃ? アステルが死ぬとかどうとか聞こえるのう?」
二人が辺りを見渡すと、少し離れた沖の方で浮かんでいるアステルを発見した。
慌てて僕を救出しに来たルーナさんとエリーさん。
「や、やっと気付いてくれました? ホントに死ぬかと思いましたよ」
僕は水魔法を駆使し何とか溺れるのを回避していたが、魔力も尽きかけギリギリで踏みととどまっていたのだ。本当に危なかった……
「…アステル、ごめんなさ…い」
「すまぬ、つい夢中になってしもうたのじゃ」
ルーナさんとエリーさんに肩を貸り、砂浜へと戻り始める。
「いえ、僕の方は問題ないです。でも、あっちはだいぶ怒ってる見たいですよ」
僕はフラフラになりながら視線を集まっていた人達に向けた。
この後、ルーナさんとエリーさん、何故か僕まで町のお偉いさんとギルドのお偉いさんにしこたま叱られ、浜辺には《魔法禁止》の看板が立てられた。




