第10話 闘技場
闘技場、観光娯楽都市に置かれている施設、剣闘士や冒険者がお金を稼ぐ為、又は腕自慢や腕試しの為に戦闘を行う国が運営している戦闘の場、対モンスター、対人、チーム対チームなど様々な形式があり、公営ギャンブルの場でもある、賭けをしない人でも格安で観戦することが出来、人気の観光スポットなのだ。
アステルは闘技場選手控え室で試合を控えていた。
「アステル、無理はしちゃダ…メ」
「そうじゃぞ? 我の事は気にするでない、お主が負けたところであの様な輩に好きにされるほど柔ではないからのう」
「……はい、絶対に勝ちます」
目は開いているが控え室の様子は目に入っていないアステル、二人の声も届いていない様だ。
アステルが何故闘技場での戦闘に参加する事になったのか、時間は前日の昼前に遡る。
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「アステル、これなんかど…う?」
「うーん、ちょっと重くないですかね? もう少し軽めなのが良いです」
僕達はカラコの大きな武具屋で、僕が装備する盾を物色していた。
「あれ? ルーナ、ルーナじゃねぇか」
狐目の如何にも陰険そうな男がルーナさんに声を掛けてきた。
「………?」
ルーナさんは男の顔を見て少し考え込んでいる。
「俺だよ俺、グウェンだよ」
「……おぉ」
「ルーナさんお知り合いですか?」
「…ん、何度かダンジョン…で一緒にクエストし…た」
「噂は聞いてるぜ、ドラゴン従魔にしたんだって? 相変わらず規格外だなぁおい。丁度良かったぜ、探してたんだ。ルーナ、またクエスト手伝ってくれよ。斡旋あと3つ位で金に上がれそうなんだけどよ、どれもキツくて達成できねんだ」
斡旋。ギルド斡旋クエストの通称で、ある程度貢献ポイントが貯まった冒険者が冒険者ランクを上げる為に、こなさなくてはならない特別クエスト。
「斡旋って確か自分より高ランクの冒険者の手を借りてはいけないんじゃ?」
「ん? おめぇも冒険者か? 何真面目な事言ってんだよ。黙ってりゃバレねぇんだ、皆やってる事だぞ?」
グウェンの話によると、多数の冒険者が斡旋クエストをこなす時、高ランク冒険者に高いお金を払ってこっそり手伝ってもらっていると言う。
「ダメですよ、規約違反は厳罰ですよ。手伝った方にだって罰則がくるんですから」
「おめぇに聞いてねぇ、青臭いガキは黙ってろ」
グウェンが眉間にシワを寄せ僕を睨みつけてくる
「アステル、やらないから大丈…夫」
「そんな連れねぇ事言うなよ。な、三回で良いからよぉ」
「無…理」
断るルーナさんにしつこくグウェンが食い下がる
「しつこいですよ、嫌だって言ってるでしょう?」
僕は二人の間に体を入れグウェンを遮った
「うぜぇガキだな! てめぇランクは?」
「鉄ですけど何か?」
「はっ! ひよっこが邪魔してんじゃねえぞ!? ああ!」
僕が格下だと解り、更にグウェンの態度か大きくなる。
「ランクは関係ないですよ。クエストは自分で何とかして下さい」
「んだ!? てめぇ! 生意気言ってっと、ぶっ殺すぞ!」
グウェンが僕の胸ぐらを掴み、拳を振り上げる。
「アステルに手を出した…ら……」
ルーナさんが僕の服を掴んでいるグウェンの手首を強く握りしめ、グウェンに目を向ける。
「じ、冗談だよ……そんな怒るなって」
グウェンは手を話し退き下がり僕達に背を向け立ち去ろうとする。
「けっ! 化け物のクセにお高く止まりやがって」
地面に唾を吐き立ち去ろうとするグウェン。
「待て!」
僕はグウェンの肩を掴み引き止めた。
「取り消せ!」
肩を掴む手に自然と力が入る。
「ああ!?」
「化け物って言った事取り消せよ!」
「るっせぇガキだな、化け物に化け物って言って何が悪いんだ! その小せぇのは化け物だろうが! 表情も感情もねえ気味の悪い化け物を俺様が有効に利用してやろうってんだ! 有り難く使われてりゃ良いんだよ!」
僕の手を振りほどき突き飛ばすグウェン、僕は怒りで言葉を忘れ拳を振り上げた。
「アステル、相手にしちゃダ…メ。良いよ慣れてるか…ら」
今度はルーナさんが僕とグウェンの間に入り僕を止める。
「なんじゃ? 揉め事か?」
そこへ待ち合わせていたエリーさん達がやって来た。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「なんでもな…い」
「何でもない事はなかろう? アステルの興奮しきった状態、そうは見えぬぞ?」
『黒髪長身の美女……』
「ひょっとしてあんたがルーナの従魔か? 聞いてたより上物だな」
エリーさんを見たグウェンが唇を嫌らしく舐める。
「おいクソガキ、さっきの言葉を取り消してほしかったら俺と闘技場で勝負しろ。おめぇが勝ったら取り消してやる。但し俺様が勝ったらその従魔を寄越せ」
「ふざけんな!」
僕はグウェンに詰め寄ろうとするが、ルーナさんが抑え、びくともしない。
「なんじゃ? ルーナどう言う事じゃ?」
説明を求めるエリーさんにルーナさんが事の経緯を説明した。
「なるほどのう、それでアステルがこうなっておるのか……」
エリーさんは顎に手を置き少し考える。
「よし、乗ってやろう。アステル勝負するがよい」
「何言ってるんですか? エリーさん」
「エリー?」
「面白そうではないか」
エリーさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「決まりだ、早速登録申請しに行こうぜ。はっはぁ! 儲けたぜ」
グウェンはテンション高めに踵を返し、闘技場へ歩を進める。
少し冷静さを取り戻した僕は、エリーさんを止めようとしたけど、エリーさんは出した言葉は引っ込められぬと、グウェンについて闘技場へ僕達を連れていった。
「ようジル、久しぶりにやろうと思ってるんだが、スケジュール空いてるとこあるか? 相手はそこのお坊ちゃんだ」
闘技場に入って受付に行くなり、グウェンがジルと呼ばれる受付の男の人に話しかけた。
「……グウェンさん、またですか?」
「なんだよ? またって」
「あの方どう見ても、まだ子供か成人したてですよね? 冒険者ですか? ランクは?」
「なんだそう言う事か、冒険者ランク鉄の駆け出しだ」
「やっぱり……ダメですよ。貴方は銀の上位ですよ? そんな勝負誰が喜ぶんですか? 賭けにもなりませんし無理です」
「んな固てぇ事言うなよ。相手だって了承してんだから」
「了承しててもダメです、賭けにならなかったら売上取れないでしょ? 慈善事業じゃないんですから」
「賭けになれば良いのじゃな?」
見かねたエリーさんが収納魔法から大きな袋を取り出し、受付カウンターに置いた。
「これで足りるかのう?」
袋の中身は大量の貨幣、100万ゼルは在りそうだ。エリーさんが冒険者としてこれまでに稼いだお金だと言う。
「……しかし」
「なんじゃ? まだ足りぬのか?」
エリーさんは、以前母さんに渡そうとして返された、金塊を取り出しカウンターに置く。
「案ずるな、アステルはああ見えてそれほど弱くはない。面白い勝負になるやも知れぬぞ?」
「ああーもう! ちょっと待ってて下さい、上司に掛け合ってみますから」
ジルさんは厄介そうに立ち上がり、少し奥の机で書類仕事をしていた上司らしき男の元へ歩いて行き話始めた、暫くして戻ってくると、了承を得たと言い翌日の夕刻に空いている時間があったので、そこで試合をする事になった。
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半径25m程の円形の試合場土の床に高い石の壁、東西に大きな門があり、試合場を囲むように観客席が広がる闘技場、ここまで7試合が行われ、観客のテンションも最高潮に盛り上がっている。
「会場の皆様、長らくお待たせしました! 本日の第8試合冒険者対冒険者! 西側竜の門から登場するのは、最近流行りの新食材ジェリーを発見した期待のルーキー! アステルーーーーゥ・シュトラーーーーール!!」
歓声が鳴り響く中、アステルが試合場に入ってくる。
ルーナ達が落ち着かせようと色々話しかけたが、アステルの表情は固く、グウェンが出てくる東門を睨む様に見つめていた。
「続きまして東側虎の門から登場するのは、中堅銀ランク冒険者! 新人潰しの陰険野郎! グウェーーーーン・マクドウェーーール!」
会場にブーイングが沸き起こる、どうやらグウェンはこの闘技場でかなり評判が悪いようだ。
「ひゅー、良いねぇこの悪役感、ゾクゾクするぜ」
「ルールは相手を死に至らしめる意外は何でもありのデスマッチ! 失神するか敗北を宣言すると負けになります。なおこの試合の賭け率は9対1になっております」
9対1、当然グウェンが9、銀と鉄の冒険者で、グウェンが対戦するのはいつも試合にもならない格下ばかり、常連の観客はそれを知っているので当然アステルには賭けない、賭けるのは物好きな穴狙いの人間だけなのだ。
「はーはっはっ! 聞いたかよ9対1だってよ、ブーイング飛ばしておいてこの賭け率、観客は正直だねぇ」
アステルは無言でグウェンを睨み付けている。
「レディーーーー! ゴォーーーーーゥ!!!」
アナウンスの試合開始の合図と共にアステルが飛び出し、素早い踏み込みで一気にグウェンの懐に飛び込み、横一閃に風切りを振り切った。
「ひゅー、中々やるねぇー」
グウェンは軽々とバックステップで躱し距離を取り、アステルは直ぐ様追撃に飛ぶ。
「はっ! バカみたいに直線的な攻撃しやがって、手玉だぜ」
グウェン笑みを浮かべ、真っ直ぐ突進してくるアステルにカウンター気味に突きを放つ。
突然目の前に突かれた剣を首をひねり躱すアステル、少し頬を掠め頬から血が流れ落ち、アステルの動きが止まる。
ダメージを受けても、まだ冷静さを取り戻せないどころか更に頭に血が上り歯軋りをするアステル。
「馬鹿者が、頭に血が上りすぎて我を忘れておる」
「…ん、動きが、直線的過ぎ…る」
客席で見ているエリーとルーナが試合を見つめ声を漏らす。
「ねえ、お兄ちゃん大丈夫かなぁ?」
アイリスが不安そうにルーナ達に目を向け尋ねた。
「…ん、ちょっと危ないか…も」
「お主らちょっと耳を塞いでおれ」
エリーがルーナ達に一言言うと、大きく息を吸い込み始めた。ルーナに促されアイリス、ユミリア、アレンが急いで耳を塞ぐ。
「馬鹿者がぁ!! 冷静にならんか小僧!!!」
観客の声援を掻き消し、エリーの声が闘技場の外まで響き渡る。客は勿論の事、アナウンスや審判達までがエリーの声に驚き耳を塞いだ。
「ぐあっ! 何だ、あのバカデカい声は」
脳に響くほどのエリーの大声にグウェンの顔が歪む。
耳痛ぁ、エリーさん声デカ過ぎだよ。でも、ちゃんと聞こえました。僕は一回大きく深呼吸し、グウェンから少し距離を取り構え直す。
ありがとうございますエリーさん、お陰で落ち着きました。
僕はグウェンからは目を離さず、エリーさんに向かって小さくサムズアップする。
それに気付いたエリーさん達は、笑みを浮かべ座席に座り直した。
「ああ? 何余裕ぶっこいてんだ? てめぇはよぉ」
グウェンが剣を前に突き出し僕を睨み付ける。
僕は収納魔法から水袋を取り出し左腕に水を纏わせた。
ジリジリと間合いを図り 一拍
左腕を振り纏わせた水を刃に変えてグウェンに向け飛ばす。
「なろぉ!!」
突然飛んできた水の刃を、躱せないと判断したグウェンが盾を前に構え斜めに弾き飛ばした。
直後僕は死角に飛び込んみ風切りで突きを放つ━━
━━グウェンは直ぐにそれに気付き剣で受けるが、反応が遅れ脇腹を少し切った。
「ぐぉっ! てぇな!」
傷はかなり浅く殆どダメージは無い様だ。
互いに攻防は続き、僕はやや優勢に試合を進めていた。
不味いな、もう水袋がこれで最後だ……
「やっと切れたか、待ってたぜぇ?」
水が切れるのを待っていたと言うグウェン、不敵な笑みを浮かべ左手を前に突きだす。
「フレイムアロー!」
炎の矢がグウェンの左手から現れ飛んで来る。僕は咄嗟に纏わせていた水を炎の矢に巻き付かせ消火した。
「水と火じゃ相性悪いからな、待ってたんだお前の水が無くなるのをよぉ。変わった技だが水さえ無くなりゃこっちのもんだぜ」
グウェンは僕の状況を読み、勝利を確信し不適な笑みを浮かべている。
くそっ!優勢だと思ってたのに……やられた、アイツの作戦だったなんて……
ここから戦闘は、じわりじわりとグウェン優勢に進み始めた。
火魔法を防ぎ蒸発させられ、完全に水も尽き、僕は盾と風切りでなんとかグウェンの火魔法を打ち払い身を躱す。
グウェンは弄ぶ様に、じわりじわりと僕の体を焼き、嬲り続ける。
「どうだ? 敗けを認めるならこの辺で勘弁してやる」
攻撃の手を止め左手を前に突きだしたまま、剣で肩を軽く叩き嫌な笑みを浮かべるグウェン。
「ふざけんるな! 絶対にお前なんかには負けない!!」
くそっ! 言ったは良いけどどうしたら良いんだ! ……落ち着け、こんな時こそ冷静にならなきゃ……そうだ! もしかして
僕がある事を考え付いたその時、グウェンがフレイムアローを撃ち込んできた。
僕は右に飛び退き地を転がり膝を付き、左手を地に着けグウェンに視線を向けたまま地面に魔力を流した。
やっぱりそうか! 水の時と同じなんだ……これならやれる。
グウェンには気付かれない様に流した魔力で土を操作し僅かに動く地面の土を確認する。
あとはこれをどう使うかだよな……正面からやっても躱されるし……
地面を転がりグウェンの攻撃を躱しながら、必死に考え1つ作戦を思い付いた。
「なあ、あんたさあ」
僕は地に手を付き、土を操作している事をグウェンに悟られないようにニヤけながらグウェンを見る。
「ああ? 何ニヤついてんだ? 気でも触れたか?」
「モテないだろ? 絶対そうだよ、間違いない。可愛そうだねぇ、こんな勝負で女の子を自分の物にしなきゃ相手にしてもらえない人は……ぷぷっ」
あんまりこう言う作戦は好きじゃないけど、たぶんこの人は乗ってくる。
「んだ!? 挑発のつもりかぁ、くだらねぇ」
グウェンは冷静に振る舞っているつもりの何だろうけど、明らかに表情が変わっているのが判る。
「いやいや、別に挑発してるつもりじゃないですよ。こうやって試合してるとねぇ……嫌でもあんたの不細工な顔が見えるし、性格も悪いし、昨日の件でも思ってたんだけど、彼女出来たこと無いんだろうなぁって」
僕はわざと可愛そうな者を見つめる様な目でグウェンを見る。
「か、彼女くらい出来たことあるし、今も居るしぃ」
グウェンの声が明らかに上擦っている。
「ああ、良いの良いの解ってるから……ぶほぉっ!」
少し間を開けて軽く吹き出すしてみた
「んぎぃーー!! 馬鹿にすんじゃねぇぞ!!」
顔を真っ赤にして、血管が浮き出るほど頭に血を上らせたグウェンが、僕の方へと直進してきた。
僕はグウェンの攻撃を躱す様に見せかけ、その場から一歩後方へ下がり舌を出す。
作戦は成功グウェンの姿が地上から消えた。
僕はグウェンの隙を見て、地面に流した魔力で表面の土だけを残し、その下に空洞を作っていたのだ。
落ち着いて入れば経験の高い冒険者なら気が付くのだが、頭に血を上らせたグウェンは見事に落とし穴にハマった。
僕って結構人を怒らせる才能があるのかも……あまり嬉しくない才能だけど。
僕は直ぐにグウェンの落ちた穴に近付き、地面に手を当て穴を塞ぐ、そのままでは窒息死するので頭だけは地面から出してやった。
「どうです? 敗けを認めるなら勘弁してあげますよ?」
僕はグウェンの髪を掴み喉元に風切りを当てた
「くそがっ! 誰がてめぇ何かに!」
強がるグウェンだが土の圧力で身動き1つ取れない。
「あっそ」
僕は当てていた風切りを勢いよく引いた。
「ああああぁぁぁーーーーー!!」
グウェンが大きな悲鳴を上げ白目を剥いて失神した。
「バーカ、刃の無い方だよ」
「勝者ぁ!! アステルーーーーゥ! シュトラーーーーール!!」
闘技場全体から大歓声が上がり、ハズレチケットが舞い散る。
僕はルーナさんとエリーさんに向かって高々と右腕を上げた。




