第83話 ルーナの物語 ルーナ、武具を新調する
ルーナが冒険者になって十数日が経ち、ルーナもダンジョン探索に慣れてきた。
今日もルーナはいつものようにギルドに顔を出すと、クエスト受付のすぐ側で、ギルド長と親しげに話をしている中年の男性が居た。
「ギルさん、最近じゃ子供がギルドに顔を出してるのか?」
ルーナに気が付いた男性は不思議そうにギルド長のギルベルトに尋ねた。
「はははっ、この娘は子供に見えるがこれでも成人してるんだぞ」
ギルベルトは笑いながらルーナを手招きする。呼ばれたルーナはギルベルトの元へ歩いて行き、ギルベルトの横に立つとワシャワシャと頭を撫でられた。
「こいつはうちの期待の新人ルーナだ。こっちは鍛冶職人のファゴットだ」
ギルベルトは2人にお互いを紹介し、ニカッと良い笑顔を見せる。
「ほう、期待の新人ね……にしちゃ装備がボロボロだな」
ファゴットはルーナのあまりに酷い装備を見て、呆れたように話す。
ルーナが身に付けているのは、数年前にガイとダルからプレゼントされた革の胸当て、アームガード、レッグガードだ。
あまり攻撃を受ける事のないルーナだが、ダメージの蓄積と経年劣化で、もういつ破れてもおかしくない。その上、多少のサイズ調整ができる装備ではあるが、今のルーナが身に付けるには少々小さいようだ。
「ルーナだったか。お前、武器は持ってないのか?」
「…ん、ある…よ」
ルーナは収納魔法から父の形見の斧を取り出しファゴットに見せる。
「……こいつも、もうダメだな」
ファゴットはルーナから斧を受け取り観察すると、小声でそう呟いた。
その声が耳に入りルーナは少し首を傾げる。
「この斧だがな、もういつ砕けてもおかしくない。早めに新しいのに買い換えろ」
「……直せな…い?」
「なんだ、大事な斧なのか? 買った方が安くすむぞ?」
「…ん、この斧…は、死ん…だお父さん…の斧。直して使いた…い」
「形見の品か……なら尚更買い換えろ」
ファゴットの言葉を聞いたルーナは説明の意図が理解できず、ファゴットの顔を見つめる。
「修繕は可能だが限度がある。それじゃ長持ちはしないんだ。溶かして打ち直す事も出来るが、そうなると、もう全く別の斧になる。形見の品ならこれ以上痛まないように手入れして、使わずに持っておく方が良いだろう」
「……」
ルーナは考えた。ファゴットの言うとおりだとすれば、近い内にこの斧は砕けてしまう。使い続けたいが、この斧が壊れるのは嫌だ。
「…ん、じゃあ、新しいの買う」
ルーナは新しい斧を買うことに決めそう言うと━━
「新しい武器買うならこいつに打ってもらえ。こう見えて凄腕の鍛冶職人だからな」
━━ギルベルトが2人の話に割って入り、ファゴットに作ってもらえとルーナに勧める。
「ちょっと待て、勝手に決めないでくれるか? ギルさん。さっき頼まれた仕事だってあるんだぞ?」
「あれはそこまで急がないから、先にルーナの武器作ってやってくれ」
ファゴットは反論したが、ギルベルトにそう言われ少し考え込んだ。
「……やれやれ、あんたがそこまで言うって事は本当に期待されてるんだな。このおチビさんは……で? お前はどうするんだ? 俺に頼むか、町で買うか、決めるのはお前だ」
「…ん、お願…い」
「俺が打ったんで良いんだな?」
「…ん」
「……仕方ねぇな。作ってやるから今からうちについて来い」
「…ん、ありが…とう」
少し困った表情を見せながらもファゴットはルーナの斧を作る事を了承する。
━━2人はファゴットの店に移動した。
「手見せてみろ」
「…ん」
作業場で向き合いながらファゴットがルーナの手を見て、触って何かを確認している。
「次は装備と上着、脱いで見せろ」
手を確認し終わり、続いてルーナに装備と上の服を外すように促す。
「……おい、ちょっと待て」
ルーナが装備を外し、シャツを脱いでいると、ファゴットは呆れたように額を押さえルーナを静止する。
「…ん?」
「お前、なんで下に何も着てないんだ?」
ルーナがシャツを脱ぎ始めると、鎧下も下着も何も着けていない事に気が付いたファゴット。装備の下がシャツだったということで、少しおかしいとは思っていたが常識的に身に付けている筈の物が無いとは予想していなかった。
「一応成人してる女なんだ。下着くらい身に付けろ。それと、防具の下は普通のシャツじゃなくてそれ専用の服がある。ちゃんと買っておけ」
「…ん」
「まあ、いい。とりあえず向こう向いて前は服で押さえてろ」
「…ん」
ファゴットはルーナに背を向けさせ、肩や背中、腕を見て触って確認する。
『……見た目は幼いがこいつは確かに逸材だな。一見華奢に見えるがその実は筋肉の塊みたいな奴だ。筋肉の質も硬くなく、しなやかでバネもある』
ファゴットはルーナの体の質を見てその実力に気が付き驚く。
「次は下だな。ズボン脱いで見せろ……っと、パンツは履いてるよな?」
「…ん、大丈…夫」
ルーナの下半身も確認し、ルーナにあった装備を考えるファゴット。
「よし、もう服着ても良いぞ。武器は斧が良いのか?」
「…ん、それとナイフ…も欲し…い」
ルーナは服や装備を着ながらファゴットと話をする。
「防具はどうする? まとめてうちで作るか?」
「…ん、お願…い」
「よし、解った。ルーナ、鉱石とか持ってるか?」
「こうせ…き?」
「こういうのだ。冒険者やってるならクエストで取ってこいとか言われるだろ?」
ファゴットが作業場に置いてある鉄鉱石をルーナに見せるとルーナは鉱石が何かを理解し━━
「…ん、クエスト…は受けた事あ…るけど、持ってな…い。全部渡して…る」
━━首を振りながらそう説明した。
「そうか。次からは余分に採取したら持っとけ。新人の内は金が無いだろ? 材料を持ってきたら安く作れるからな」
「…ん、解った」
「今回はうちにある材料で作るから出来るまでこれ使ってろ」
ファゴットは店にあるダガーを1本ルーナに渡す。
「…ん、ありが…とう」
「あと、ちゃんと下着と鎧下買っとけ。紹介状書いてやるから商業区にあるホルンっていう、少しばかり騒がしい女がやってる洋裁店に行けば手頃なのを見繕ってくれるはずだ」
「…ん、解った」
「それと、ルーナ。お前、装備の手入れのやり方は知ってるか?」
「…ん、少しだ…け」
「そうか、だったらクエストが終わってから店に顔出せ、教えてやる」
「…ん、ありが…とう」
ファゴットから紹介状を受け取りルーナは店を出て、紹介されたホルンの洋裁屋に向かった。
「いらっしゃい。ようこそホルン洋裁店へ」
ルーナが店を探し、ホルンの店に入ると、ルーナより少し大きな若い女性が笑顔で向かえてくれた。
「こんに…ちは。これ……」
ルーナはファゴットから貰った紹介状を女性に手渡す。
「……あら、ファゴットさんの紹介なのね。私がこの店の店主ホルンよ。宜しくね、可愛い冒険者さん」
「…ん、宜し…く」
紹介状にはルーナの職業や現状も書かれていたらしく、ホルンはルーナの話を聞くまでもなく理解し、店の奥へと案内する。
「キャー、素敵、最高よルーナ。筋肉質で、それでいて筋ばってなくて、肌も張りがあって艶もあって羨ましいー。こんなに良い身体してるのにブラも着けないなんて勿体ないわ。形が崩れちゃうじゃない、もうっ」
ルーナの服を脱がせ採寸しながらキャーキャー騒ぐホルン。
『うぅ……仕事より疲れる』
頭のてっぺんから足の先まで撫で回されルーナは少し疲れを見せ、ぐったりと椅子に腰を掛けた。
「ちょっと待っててね」と、言われて30分程待っていると数点の服や下着を用意したホルンが戻ってきた。
「はい、これ着けてみて」
「…ん、これで良…い?」
「ダメよ。ちゃんとこうやって……はい、これで良いわ」
生まれて初めてブラジャーというものを身に付けたルーナ。不思議と違和感は感じなかった。
「どう? キツくない?」
「…ん、大丈…夫」
「次はこれね」
続いて鎧下を渡され、それを身につける。
今までの服と違い、ピッタリ身体に貼り付くような服だった。しかし、今までより動きやすい感じがしている。
「どう?」
「…ん、動きやす…い」
その上から革の装備を身に付けると、これまでのように中でシワになってゴワゴワした感じが無い。
「…ん、これな…らズレない…ね」
「うーん、でも少し体のラインが出過ぎるわね。はい、これ履いて」
ホルンはルーナにショートパンツを渡した。
「悪くないけど……やっぱり防具がボロボロだからおしゃれじゃないわね」
「大丈…夫。動きやすい…よ」
「女の子なんだから見た目にも気を使わなきゃダメよ。とりあえず、今はこれくらいにして、防具が出来たらまたいらっしゃい。良いの見繕ってあげるからね」
「…ん、ありが…とう」
ホルンにすっかり気に入られたルーナ。下着数点と身に付けた服を購入し、また来る約束をして店を後にした。
ルーナが購入して身に付けている鎧下は防刃加工がされているらしく、少々の斬擊や攻撃では破れない。
値段も良心的で新人冒険者が手軽に買える価格。少し店員のテンションが高めで疲れる店だが良い店だったとルーナは思っていた。
━━それから7日。ルーナはファゴットに借りたダガーを持ってクエストをこなし、毎日ファゴットの店に顔を出し、武具の手入れを学び、ついにルーナの新装備が完成した。
斧はこれまでの斧に近い形だが、少し重量が多い。しかし、持ちやすく扱いやすく軽く感じる。ダガーは切れ味鋭く、手に吸い付くように持ちやすく重みを感じない。鎧は動きを阻害しない軽装鎧。モンスターの素材と鋼を使い、肩、胸回り、腰回り、両腕両足と、使っていた革の装備より守れる箇所も多く、衝撃斬擊耐性も遥かに優れている。身に付けてないのかと勘違いするほど軽く違和感も感じない。
「…ん、動きやすい…ね」
「ルーナに合わせて作った装備だからな」
ルーナは装備を身に付け、体を動かして感触を確めてファゴットに感想を言うと、ファゴットは当然のように返事をする。
「お金、いく…ら?」
「そうだな。本来なら50万ゼルってところだが━━」
「お金、足りな…い」
「最後まで聞け。本来ならって言っただろう?」
「…ん?」
「今回は20万にまけといてやる。それでも足りないだろうから分割で良いぞ」
「…ん、ありが…とう。でも、なん…で?」
破格の値段にしてもらい、感謝をするルーナだったが、何故そんなに安くしてもらえるのか疑問に思い尋ねた。
「そうだな。ギルさんからの紹介だからってのもあるが……俺がお前を気に入ったってのが1番の理由だ。職人ってのはな、自身の作った物の性能を遺憾無く発揮してくれる奴に使ってもらいたいもんなんだ。どんなに良い武具を作っても未熟な奴に持たせたら宝の持ち腐れだからな。ルーナなら問題なく性能を発揮出来るはずだ」
「…ん」
「また、いつでも来い」
「…ん、ありが…とう。宜し…く」




