第80話 ルーナの物語 奇妙な出会い
変なお話です。
「ルーナちゃんおかわりは?」
「…ん、お願…い」
カラコに来てから十数日が経った。ルーナは今日も朝からおかわり5回目だ。
ルーナに声を掛けたのはこの宿の主人の妻であるフィリル。
フィリルはおっとりとした見た目の小柄な可愛らしい奥さんで、もう直ぐ2人の第1子が誕生するらしい。
この宿の客からは「何故ゴリ漢女にこんな可愛い嫁さんが……神は死んだ」と、ヒソヒソされているという。
ケビンはしゃべり方はあれだが、どうやら性的にはノーマルだったようだ。
「ごちそう…さま」
「お粗末様。今日も狩りに出掛けるの?」
「…ん、お金無…いと旅出…来ない…から」
「アンタも大変ね。はい、お弁当」
「…ん、ありが…とうケビン」
「良いのよ。うちのご飯そんなに美味しそうに食べてくれんのはアンタだけなんだから」
「ケビン…のご飯…は美味し…い」
「嬉しい事言ってくれるわ。気を付けていってらっしゃいね」
「…ん、いってきま…す」
ここ数日、毎日のようにこんなやり取りを繰り返し、ルーナはいつものように町の外へ狩りに出掛けた。
今日はカラコの北にある森に薬草の採取に来ていた。薬草についてはエルフの村で、どれがどのような効果があるかは教わっていたものの、それが売れる事を最近になって知ったのだ。
狩りよりも安全で、物によっては高く売れる。旅の資金稼ぎには欠かせなくなっていた。
ルーナはモンスターを警戒しながらも森の奥へと進んでいく。
━━そして森に入ってから2時間ほど経った時、ルーナは異変に気が付いた。
モンスターの警戒はしていた。それなのに、いつの間にか多くの気配が自分を取り囲んでいたのだ。
木の枝から飛び降りてきたそれは焦げ茶色の毛に被われた二足歩行のモンスター。手は脚より少し長く、体長は小さいものでルーナより少し小柄、大きいものでルーナの2倍ほどだ。
「ウキーッ」
凡そ50匹程の猿のようなモンスターがルーナを囲み、その内1番小さい1匹がルーナの前に立つ。
そして、武術の構えのようなポーズをとり、蹴りや突きをルーナに見せて一声「ウキッ」と鳴く。
ルーナがこのモンスターに気が付かなかった理由を本人は理解していた。
このモンスターからは殺気が感じられないのだ。
これまでに遭遇した獣やモンスターは食す為、身を守る為、縄張りに入り込んだ敵を排除する為、様々な理由から殺気を込めてルーナに襲い掛かるものばかりだったのだが、このモンスターからはそれが感じられない。
なら何故ルーナはモンスターに囲まれたのか?
『私と遊びたい?』
モンスターの態度を見たルーナがそんな考えに至った。
このモンスター。国発行のモンスター図鑑に登録されている名前をグレイシーモンキーと言う。
グレイシーモンキー。珍獣指定されている奇妙な習性を持つモンスター。人の様に格闘武術を使い、1対1の戦闘(力比べ)を好む。時折縄張りに入った人間等を取り囲み、戦闘に誘ってくる。
現在ルーナは「バトルしようぜ」と、誘われているのだ。
このグレイシーモンキーの誘いを断る方法は戦意が無いことを態度で示すだけ。
腹を向けて大の字に寝転がるか、土下座のポーズをとるか、武器を捨てて両手を上げるか、どうにかしてやる気が無いと教えると何もせず去っていく。
間違っても不意討ちをしたり、目の前に居るグレイシーモンキー以外に攻撃を加えてはいけない。怒って全員で襲い掛かられるからだ。
モンスター図鑑にこの対処法は書かれているが、ルーナはそんな事を知らない。
『遊びたいなら遊んでも良いかな?』
ルーナは動物が嫌いではない、生きる為、身を守る為に狩りをするが、基本的に動物と戯れるのは好きな方なのだ。
斧を収納魔法にしまい、目の前のグレイシーモンキーと同じ様に戦闘の構えを取ってしまった。
これでバトルを受けたと判断される。
「「「「「「「ウッキー!」」」」」」」
「キキッ!」「ウキョッ!」
グレイシーモンキー達が嬉しそうに小躍りを始め、ルーナの前に居たグレイシーモンキーがルーナに襲い掛かって来た。
鋭い踏み込みから中段に真っ直ぐ突きを放つグレイシーモンキー。ルーナはそれを素早く躱す。
『━━!? いきなり攻撃された』
殺意は無いのに攻撃を仕掛けて来られ、ルーナは少し戸惑う。
戸惑っている間もグレイシーモンキーの攻撃は止まない。
暫くグレイシーモンキーの攻撃は続き、ルーナはそれを避け続ける。
すると、グレイシーモンキーが動きを止め「ウキッ」と一声鳴き、身ぶり手振りでお前も攻撃しろと伝えてくる。
『ああ、こういう遊びなんだ』
やっとグレイシーモンキーがやりたい事を理解したルーナ。
素早くグレイシーモンキーの目の前に踏み込み脳天にチョップを落とす。
その一撃でグレイシーモンキーは脳震盪を起こしそのまま意識を失った。
「ゥキキー!」「ウキョッ!」「ウッキョウッキョ!」
ルーナが勝利した事でグレイシーモンキーは楽しそうに沸き立つ。
倒れたグレイシーモンキーを他のグレイシーモンキーが引き摺って群れの中に戻り、ルーナに向かって黄色い果物が投げ渡される。
「ゥキキッ」
グレイシーモンキーが身ぶり手振りでルーナに食べろと伝える。
「…ん、ありが…とう」
ルーナは素直に果物を食べ、食べ終わると同時に次のグレイシーモンキーがルーナの前に構える。
このグレイシーモンキーの厄介な所は、1度バトルを受けてしまうと、負けるか全員に勝つかしないと、解放されないところだ。
そして、グレイシーモンキーが挑んでくる順番は弱い順。勝てば勝つほど相手が強くなる。
ルーナはそんな事を知らない。
次の相手もあっさり倒したルーナ、今度は木の葉に包まれた木の実を渡される。
『勝つと食べ物をくれるんだ』
面白いなと思いながらルーナは木の実を収納魔法にしまう。
更に次のグレイシーモンキーが挑んでくる。
5匹、10匹と相手にするにつれ、グレイシーモンキーの格闘技術が上がり、ルーナはその動きを見て動きを真似、自然と格闘技を身に付ける。
砂が水を吸収するように技術を吸収し、グレイシーモンキーが強くなるにつれ、ルーナもまた強くなり、ご褒美がルーナに渡され、ルーナの手元には果物、木の実、綺麗な石等、物が増えていった。
そして、ついに最後の1匹。群れのボスであろう大きなグレイシーモンキーが目の前に立ちポージングをして自慢の筋肉を見せ付ける。
体長は2mを優に超え腕は丸太の様に太い。最早、猿と呼ぶには大きすぎるその巨体で力強く構えをとった。
ルーナはその自身の2倍はあろう巨体を前にして、恐怖でははなく、愉悦を感じている。
殺し合いではなく純粋な力比べ、これがこんなに心踊る事なのかと、ルーナは初めて戦闘の喜びを感じているのだ。
互いに同時に踏み込み、ルーナは蹴り、ボスモンキーは拳を突き出す。
ルーナは蹴りと同時にボスモンキーの突きを腕で払い、ボスモンキーはルーナの蹴りを腕で受け止める。
互角の戦闘は暫く続き、15分を過ぎた頃、均衡が崩れ始めた。
少しずつルーナが押し始めたのだ。互いの実力はほぼ互角だったが、ルーナが押し始めた理由は、戦闘スタイルによるもの。
ルーナは攻撃を受け流し、ボスモンキーは受け止める。この差によってボスモンキーに多くのダメージが蓄積されていた。
そして、ついに、ボスモンキーの膝が落ちルーナの右中段突きがボスモンキーの鳩尾へクリーンヒットする。
この一撃で勝敗は決し、ボスモンキーは両手をついてひれ伏し、ルーナを囲っていたグレイシーモンキー達もボスモンキーの後に並び同じ様にひれ伏し、ルーナに何かを話す。
しかし、ルーナには「ゥキッ」としか聞こえないので何を伝えたいのかはさっぱり解らなかった。
「楽しかっ…た。また…ね」
戦闘を楽しみ満足したルーナは、グレイシーモンキー達に手を振り、カラコへ戻る。
━━宿に戻ったルーナはケビンとフィリルに、そんな事があったと話した。
「あはは、なにそれ、面白いわね」
「変なモンスターがいるのね」
「…ん、色々貰っ…た」
ルーナはテーブルの上に貰った木の実や石を置いていく。
「あら、これ鉱石よ」
「こっちは宝石の原石みたいね」
ルーナが綺麗な石だと思っていた物は希少金属の鉱石や宝石の原石だったらしく、ケビン達の勧めでそれらを売却し、多くの旅の資金を得た。
━━そして、数日後。
ルーナはカラコを後にし、次の町へと旅立ち、国中を旅し━━
━━故郷の村を出て、まる7年が過ぎた。
アステルとルーナを6月から書き初めて、もう半年。趣味で書いてる小説に、ブックマークが50以上も付いて、評価してくれる人も居て、嬉しい限りです。
今年の更新はこれで終わりですが、来年も楽しく書きますので、楽しく読んでもらえれば良いなと思っています。
それでは皆さん良いお年をお過ごし下さい。




