第79話 ルーナの物語 ルーナ伝説を作る
ただただ、ほのぼの回です。
グランセルを出発して、最初にルーナがやって来たのは闘技場がある、海と観光の町カラコ。
町に着くと馬車から下り、グランセルの時と同じ様に、町の入り口で入町税を払い門を抜けると、落ち着いたグランセルの町並みとは対照的に、楽しそうに賑わう人々で溢れていた。
『今日はお祭りの日?』
「お嬢ちゃん、そんなところに立ってたら邪魔になるから端に寄って」
ルーナが賑わいに圧倒され、町の入り口でボーっとしていると後から入ってきたおじさんに注意されてしまう。
「ごめんな…さい」
ルーナは1言謝り、歩きだした。
露店が立ち並ぶ大通りを進み、先ずは宿探し。
『海の近くが良いな』
そんな事を考えながら海水浴場になっている砂浜近くで宿を探すが、ここで少し問題が……
「うちは1泊3500ゼルからだよ」
宿代がグランセルで泊まっていた女将さんの宿よりかなり高いのだ。1番安い宿の1番安い部屋でこの値段、しかも食事は夜1食だけ。
「お嬢ちゃん1人かい?」
「…ん」
「この辺りの宿は2人以上で宿泊するように出来てるから、1人なら商業区か冒険者ギルド辺りの宿を探すと良いよ」
親切な宿の受付のおじさんが丁寧に宿の場所まで教えてくれた。
商業区にある宿は1人1泊1500ゼル~、冒険者ギルド近辺の宿は1泊1000ゼル~、どちらも女将さんの宿より高い。
受付のおじさんのお勧めは商業区の宿だ。理由は冒険者ギルド近辺の宿は冒険者が多く宿泊するからだ。
冒険者は気性の荒い人間が多く、度々酔って暴力沙汰が起きるのだ。
「…ん、ありが…とう。安い方…に行ってみ…る」
「お嬢ちゃん、話し聞いてた? 危ないから商業区にしときなって」
「…ん、大丈…夫。ありが…とう」
宿の受付さんの心配を他所にルーナは冒険者ギルド近辺の宿に泊まることに決め、少し困ったような顔をしている受付さんに手を振りこの宿を後にした。
━━教えてもらった宿に行ってみると、先程までの綺麗な宿とは違い、古びたそれでいて頑丈そうな造りの宿だ。
中に入ると直ぐに女将さんの宿と同じく、受付兼食堂があり、受付には筋肉ムキムキの30代くらいのお兄さん?が居た。食堂には昼間からお酒を飲んでいる人が数人楽しそうにしている。
「あーらいらっしゃい。お嬢ちゃん1人?」
『お兄さんだと思ったらお姉さん?』
予想外の言葉使いに驚き、ルーナは少し固まる。
「どうしたの? ボーッとして」
「…ん、ごめんな…さい。ちょっと驚い…ただ…け」
「「「「だーっはっはっはっ!」」」」
「そりゃ驚くわな。お嬢ちゃんは間違ってねぇぞ」
ルーナの言葉に、食堂で酒を飲んで酔っている怖い顔の数人が爆笑し、その中の1人がルーナに話し掛けてくる。
「失礼ね。何が驚くことあんのよ」
「ケビン、解んねぇこたぁねぇだろ? 誰でも驚くぜ?」
「だな、俺も初めてここに来た時は同じ様に固まったぜ。なんせ、受付にゴリ漢女が座ってんだからな」
「「「「だーっはっはっはっ」」」」
「あっ!? んだ? おろすぞ?」
酒を飲んでいた怖い顔の男達が笑いながらからかっていると、突然、受付の漢女さんが鬼の様な形相とドスの聞いた声で男達に睨みを効かせる。
「「「「すいません。調子にのりました」」」」
男達は直ぐ様、姿勢を正し深々と頭を下げる。
「ほほほっ、驚かせてごめんなさいね。それで、お嬢ちゃんはご宿泊?」
「…ん、暫…く居る予…定」
少し戸惑いながらもルーナは受付を済ませ、ケビンに宿2階の1室に案内された。
「貴重品は自分で管理する事、出掛ける時は受付に鍵を預ける事、あとお風呂はないから大衆浴場に行くか、体拭くなら湯桶くらいは用意するから声掛けてね」
「…ん」
見た目のコワさとは違い、とても優しく丁寧に対応してくれるケビン。
ルーナはこの宿にして良かったと心から思った。
「あと何か質問はある?」
「…ん、大丈…夫」
ケビンが男なのか女なのか疑問に思ったが、ルーナは聞かないことに決めた。
マジックバッグは部屋に置いておき、早速町を見て回るルーナ。
『いいか? 金や貴重品は使う分だけ持ち歩いて、残りは収納魔法に入れとけよ』
グランセルでガイ達に教えられたように、無くして困る物は収納魔法に入れているので、マジックバッグをいつも持ち歩かなくて良くなったルーナ。
小さな普通のポーチを肩に掛け、中には3000ゼルだけ入れている。
町を見て回る時は、エルフ村で貰ったローゼのお下がりのシャツと膝丈のズボン。スカートも貰ったのだがヒラヒラして動き難いので履いたことはない。人間の子供の服装とは少し違うが、エルフの服は丈夫で破れにくく肌触りも良い。少し大きめなのだがルーナは気に入っている。
パッと見、少し変わった服装の普通の子供に見える格好で、賑やかなカラコの町を歩き回り、向かった場所はルーナの父が行ってみたいと言っていた闘技場。
見上げるほど大きな円柱状の建物。中からは歓声が聞こえていた。
ルーナは意気揚々に入り口に向かう。
「お嬢ちゃん、お父さんかお母さんは一緒じゃないのかい?」
「…ん、居な…い」
「悪いけど、子供だけでは中に入れないんだよ」
この町での1番の目的である闘技観戦だったのだが、成人を向かえていない子供は大人と一緒でなくては観戦出来なかった。
「いやっ、そんな目で見られても規則だから入れてあげられないんだよ。親御さんと一緒にまたおいで」
困ったような顔をしながらルーナを宥める守衛さん。
ルーナは別に、入れてほしくて守衛を見ていた訳ではなく、入れないのがショックで、ただボーッとしていただけだったのだが、無表情な顔が守衛の方を向いていたので守衛が勝手に勘違いをしただけなのだ。
守衛はルーナに「ごめんな」と言って飴玉を1つ渡し、ルーナはちょっと得した気分で闘技場を後にした。
『入れないなら仕方ないね。また大人になったら来よう……ん、飴美味し』
口の中で飴をコロコロ転がしながら他のところを見て回るルーナ。
闘技場の周りには食べ物の露店が立ち並び、所々で催しも開かれ、闘技場の中に入れなくてもかなり楽しめる。
あちらこちらから色んな食べ物の匂いが漂い、ルーナのお腹がグーっと大きな音を鳴らした。
『お腹空いた……何か食べたいな』
そう考えながら辺りを見ていると、ある飲食露店の1角で、20人ほどの人に囲まれ、人間の大人の顔がすっぽり入るほど大きな皿に盛られたご飯を食べている大柄の男性が居た。
『美味しそう……』
ルーナはその大盛ご飯に引かれ、その店に立ち寄る。
「残り20分。さあ、あと半分、食べられるのかー?」
その店の店員らしき人が時計を見ながら見ている人と食べている男性を盛り上げる。
「残り10分。どうした? 手が動いていないぞ?」
男性は今にも吐きそうな顔で口をモグモグさせながら鼻息荒くスプーンを口に運ぶがどうやらもう限界のようだ。
そして10分後、完食ならず男性は撃沈した。
「ざーんねーん、完食ならず! さあ、他に挑戦者は居ないか? 特製オーク飯。食べきったら賞金5000ゼルだよー」
そう言って盛り上げる店員の服の裾を引っ張り、ルーナが声を掛けた。
「私…もあれ食べた…い」
「お嬢ちゃんが? 食べれなかったら2000ゼル払うんだよ? お金ある?」
オーク飯を食べたいと言うルーナに店員が座って目線を合わせて心配そうに話し掛ける。
店員が心配しているのは食べれるかどうかではなく、お金を持っているかということなのだが、ルーナは気付かない。
「…ん、大丈…夫」
ルーナはそう言ってポーチから2000ゼル取り出して見せた。
それを確認した店員は満面の笑みで立ち上がる。
「さあ、次のチャレンジャーはこの可愛らしいお嬢ちゃんだ!」
店員が盛り上げようとするが、明らかに先程の男性の時とは違い、回りの人達が盛り上がっていない。
誰1人としてルーナが完食出来るとは思っていないのだ。
ただ金儲けの為に子供に挑戦させようとする店に、少しばかり嫌悪で退いているのだ。
店員は内心冷や汗をかきながらも顔には出さずニコニコと、ルーナを席に案内し、ルーナは大盛ご飯を楽しみに待っている。
━━そして十数分後。ルーナの前には、ルーナが隠れて見えなくなるほどの量のオーク飯が置かれた。
山盛りの白いご飯の周りに厚切り肉が何重にも張り巡らされ、半熟目玉焼きがその頂上を埋め尽くし、たっぷりのタレが掛けられ、その横には気持ちばかりのスープが添えられていた。
「制限時間は40分。お嬢ちゃんのチャレンジ、スタートだ!」
店員の合図と共にルーナの小さな口に最初の1口目が運ばれた。
「…ん、美味し…い」
パッと見特に早いとは言えないスピードで、ルーナの食事は始まった。
テンポ良く食べ進め、どんどん減っていくオーク飯。
「おおーとぉ! これは凄いぞ、この小さな体の何処に入っているのか? 開始15分。もう半分を食べきったぁ!」
先程の男性より5分早く半分まで食べたルーナ。一向にペースは衰えず、周りに居た人達が騒ぎ始める。
「こ、これは凄い! 開始25分、残りはもう僅かだ! 初の成功者はこのお嬢ちゃんになるのか?」
この店の大食いチャレンジサービスが始まって約1年。誰1人として完食者は現れなかった巨大オーク飯。
まさか食べきれるとは誰も思っていなかった大食いチャレンジ。
そもそも、店がどんな大喰らいが来ても食べきれない量に設定してた為、店員も内心焦っているのだが、そんな事は顔に出せない。
食べ進めるにつれ、騒ぎを聞き付けて人が集まり、ルーナの周りには50人ほどのギャラリーが押し寄せていた。
開始からずっと無表情で食べ続けるルーナが、どこか人とは思えない。そんな感想を持ちながらも期待に沸き立つ人々。
そして、開始30分を少し過ぎた頃。
「ごちそう…さま」
添えられていたスープを飲み干し、満足したルーナが手を合わせ。席を立つ。
「「「「おおーー!」」」」
「すげぇー」
「あれ食べきれる奴居たんだな」
「おかしい……あの小さな体の何処にあれが入ったんだ?」
盛り上がる人々に対し、何故騒がれてるのか解らないルーナは少し戸惑う。ルーナにしてみれば、普通ご飯を食べていただけなのだ。
その姿を見ていた店主らしき男性が、唖然とした顔で青ざめていた。
「はい、お嬢ちゃん。賞金の5000だよ」
少し震える声、完全に作り笑いだと解るひきつった笑顔で、店主から賞金が手渡された。
「…ん、ありが…とう。ごちそう…さま」
ルーナは賞金を受けとると、店主に手を振って店を後にした。
店主はガックリしていたのだが、ルーナの完食を期に挑戦者が増える。そして誰1人として完食することは出来ず、この店は失った賞金以上に潤った。
ルーナの食べっぷりを見ていた人々や店の従業員や店主から噂は広まり「異次元の胃袋を持った妖精が現れた」と、暫くの間語られるのだが、ルーナはそんな事は知らない。
ルーナの物語。年内に書き終える予定だったのですが、もう暫く続きそうです。
どこまで広げて良いものか解らず、ここまで書きました。が、そろそろ冒険者編に突入したいな……と、思ってます。




