第78話 ルーナの物語 ルーナ旅を再開する
ルスカにお金を渡して3日後の夕方、ルーナはいつものように町の外で狩りをして、魔石やモンスターの素材を換金して宿に戻った。
「おう、ルーナ。やっと帰ってきたか」
「…ん」
宿の扉を開けると入って直ぐの食堂で宿の女主人と話しているガイとダルが居た。
どうやらルーナを待っていたようだ。
「もう直ぐ出発の日だな」
「出発前にお前も防具くらい買っとかないとな。今から防具屋に行くぞ」
相変わらず怪しげな顔の2人だが、クエストが終わって戻って来たときには気さくにルーナに声を掛けている。
「…ん、防具…は今お金…無いか…らまた…で良…い」
「金の心配はすんな。前に助けてもらった礼に━━」
「おい、それはまだ秘密って……」
「「はあ? 金がない?」」
2人がどこか照れ臭そうに話しながら、ふと、ルーナの言葉に驚く。
「何処かに落としたのか?」
「あれだけ収納魔法に入れとけって言ったろ?」
ガイとダルが真剣な表情でルーナの目線に屈んで事情を聞くと、ルーナは経緯を説明した。
「野郎……」
「ルーナ、行くぞ」
ルーナの話を聞いたガイとダルは目に怒りを込めて立ち上がり、ルーナの手を引いて宿を出ようとする。
「…ん、何処…に?」
「ルスカの野郎のとこに決まってんだろ?」
「金を取り戻すんだよ」
「お金…はまた貯める…から良…い。あれ無い…とルスカが大…変」
「バカかてめぇは!?」
「んなもん嘘に決まってんだろうが! 本気で金に困ってたら子供になんか相談するかよ!」
「行くぞ!」
ルーナが2人を止めようとすると、ガイとダルはルーナが騙されてるんだと叱り、ダルがルーナを小脇に抱え、宿を出ていく。
3人が先ず向かったのはルスカが前に泊まっていた宿━━
「ルスカはもううちには泊まってないよ」
━━が、ルスカはもうその宿には泊まっていなかった。
次に向かったのは低ランク冒険者がよく飲みに行く居酒屋。
「ルスカ? 今日は見てないな」
「最近は別の店で飲んでるみたいだぞ」
ここでもルスカは見付からなかった。
ガイとダルは知り合いの冒険者にルスカを見掛けたら教えてくれと声を掛け、別な場所を探す。
商業区の武器屋、防具屋、薬屋等、ルスカが行きそうな場所を順に回って行くが、ルスカは見付からなかった。
そして、最後にギルドで探そうとギルドに向かって歩いていると1人の冒険者がガイに声を掛けてきた。
「おーい、ガイ。ルスカ探してんだってな、さっきギルドに戻ってたぞ」
「マジか? サンキュー、今度一杯奢るぜ」
ガイ達は冒険者の肩をポンと軽く叩いてニッと笑い、ギルドに向かって走った。
━━勢いよくギルドの扉を開け、ガイとダルがキョロキョロと中を見回す。
「居やがった……」
「ルスカーーー!」
ガイがボソッと呟き、ダルが大声でルスカの名前を呼ぶと、中に居た他の冒険者やギルド職員が一斉に振り返りルーナ達に注目する。
「ガイ、それにダル、久しぶりだね」
「どうしたの? 大声上げて」
ルスカとユウリがガイとダルに視線を送り、飄々と2人に話し掛け、ダルが抱えているルーナの姿を目にして、一瞬目付きが変わったが、直ぐにいつものように柔らかい表情に戻る。
『ちっ、まだコイツらと繋がってたのか……』
ルスカは内心で毒づきながらも平静を装っている。
「どうしたじゃねぇだろ? ルーナの金、返せ」
ガイは静かだが、怒りの込もった声でルスカに話し掛け、顔がくっつきそうな程、頭を近付けて睨む。
「な、なんの話しだよ」
「しらばっくれんじゃねぇ! てめぇがルーナから騙し取った2万ゼルをルーナに返せって言ってんだ!」
とぼけるルスカにダルはルーナを床に下ろして詰め寄る。
「人聞きが悪いな。あれはその子がくれるって言ったから貰っただけで、別に僕が取った訳じゃないよ?」
「ふざけんな! こんな小さなガキが2万も貯めるのにどれだけ苦労したと思ってやがる!」
「今直ぐに耳揃えて渡せ。さもないと」
悪びれる様子もなく返事をするルスカにダルが怒鳴り付け、ガイが静かに睨みながら腰の剣に手を掛ける。
「なんだい? こんな所で剣なんか抜いたら問題になるよ? それに、剣抜いたら正当防衛って事で遠慮なく斬らせてもらうからね」
ルスカはガイよりも強い。その為、全くガイを恐れる様子はなく、逆にガイを威圧的に見つめる。
周りに居た冒険者達は、こういった事がよくある事なのか、あまり慌てた様子もなく冷静にやり取りを眺め、近くにいた冒険者と会話していた。
「ちょっと、ギルド内で喧嘩しないで下さい」
3人の間に割って入ったギルド職員は喧嘩を止めようとガイ達を宥めている。
「何騒いでるんだお前達!」
そこへ、1人の男性が階段を下りてきて一括した。
「ギルド長、丁度良い所に来てくれました。新人冒険者達が喧嘩してるんです」
やって来たのは、グランセル冒険者ギルドの長を務めるグランセル領の領主兼ギルド長のギルベルト。
「剣に手を掛けて喧嘩か……お前らちょっと奥に来い」
ギルベルトがそう声を掛け、一睨みすると、ガイ、ダル、ルスカ、ユウリが気まずそうな表情をして大人しくギルベルトに付いて行だした。
ルーナはガイ達の後を付いて行き、ギルベルトに案内された部屋に一緒に入る。
部屋に入り、椅子に座らされ、ガイ達にギルベルトが事情を説明するよう求め、ガイ達はルーナから聞いた話をそのままギルベルトに説明した。
「……で? ルスカといったか? 反論はあるか?」
「……」
ルスカはギルベルトと目を合わせようとせず、下を向いたまま黙っていた。
「無いんだな?」
「……ありません」
再度確認されると、ルスカは小声で返事をする。
そこへ、ギルド職員がノックをして部屋に入りギルベルトに何かの書類を渡して部屋を出ていった。
暫く沈黙が続き、ギルベルトが静かに口を開いた。
「ルスカ。調べによると、お前さんに借金は無いと出ているんだが、どういう事か説明してくれ」
「……え……あのぅ……」
「冒険者になって1年足らずでパーティーが4回変わってるな。内3回はメンバーが死亡している」
続けて話すギルベルトの言葉に、ガイとダルが驚きの表情を見せて固まる。
直後、ルスカが立ち上がり、部屋を出ようと扉に走りだし、扉を開けた所で外で待機していた警備に取り押さえられた。
「ふむ、この情報だけで逃げようとすると言う事は、何か有るようだな」
ギルベルトが静かに立ち上がりゆっくりと取り押さえられているルスカに歩みより、ルスカを見下ろした。
冒険者の死亡はこれと言って珍しくはない。しかし、その事に触れただけで逃げ出すルスカには何かあるギルベルトはそう考える。
ギルベルトはガイ達を部屋に連れていく前に、ギルド職員にガイ達4人の関係と冒険者としての記録等を調べるように指示を出していた。
そして、その記録の中から気になった点を聞いただけだったのだ。
ルスカは警備からグランセル正規兵に引き渡され罪がないか調べられる事になった。
「お前達はもう行って良いぞ」
ガイとダルは静かに立ち上がり、一礼してルーナの手を引き部屋を出て行く。ユウリはルスカと同じく取り調べを受ける事になったようだ。
「結局金は戻って来なかったな」
「すまねぇなルーナ」
「…ん、2人…は悪くな…い。お金…はまた貯める…から大丈…夫。ありが…とう」
ルーナ落ち込むガイとダルに礼を言って、3人は宿へと帰って行った。
━━それから数日後
ルーナがいつものように狩りを済ませ宿に戻ると━━
「君がルーナちゃんかい?」
━━鎧を来た男が、ルーナに声を掛けてきた。
「…ん」
その直ぐ後ろで、ガイとダルがルーナに向かってニヤッと、いつもの怪しげな笑みを浮かべていた。
「はい、これは君がルスカに騙し取られたお金だよ。確かに渡したからね」
男は優しく微笑むとルーナに小袋を渡して頭をポンポンと軽く叩き、そのまま宿を出ていった。
中にはルーナがルスカに渡した金額より多くのお金が入っていた。ルーナが意味が解らず考えていると、ガイとダルから事情が話された。
今の男は、グランセルの正規兵で、ギルベルトの使い。ルスカは取り調べを受け、あちらこちらで同じ様な手口でお金を騙し取っていた事が解った。
騙し取った総額は凡そ50万ゼル。その殆どはルスカの装備やユウリとの遊びで使われていたそうだ。
そして、前パーティーまでのメンバー死亡の件に関しては、最初に組んだパーティーの時は、調子に乗ってダンジョンの深部に入り、メンバーが死亡。
その時のメンバーが持っていた装備や道具が思いの外高く売れた事により、味をしめ。その後に組んだパーティーは、ある程度信用を得るまで組んで探索をし、知らないふりをしてわざと新しく組んだメンバーが倒せない程度の強さのモンスターが居る所に連れていき、モンスターに襲わせ死んだメンバー道具や装備を売って金を得ていた事が解った。
ガイとダルの時も、ルーナが助けに入らなかったら2人が瀕死になった後で、ミノタウロスをユウリと2人で倒して、瀕死の2人から道具を受け取り装備を剥ぐ予定だったらしい。
ルスカはその行動が悪質な為、魔法を消去されスキルを封印され死ぬまで鉱山で働かされる事が決まった。ユウリは今回のガイ達の件には絡んでいたものの、前の2つには絡んでいなかった為、魔法を消去され数年牢獄に入れられ徹底的に善行教育を施される事になった。
鉱山でルスカが稼いだ金は、騙し取られた人に返す為に使われるらしく。ルーナが受け取った金はギルベルトが立て替えたものらしいと説明を受けた。
「マジでルーナには感謝しても足りねぇな」
「ああ、あの時ルーナが助けに来てくれなかったら、俺達は今ここに居なかったからな。サンキューな」
ガイとダルは何処と無く照れ臭そうに礼を言ってポリポリと鼻や頬を掻いている。
「…ん、良い…よ。私…も、2人に…は色々助…けてもらったか…ら」
「そういや、あの時の話が途中だったな」
「ルーナ、防具屋に行くぞ」
ルーナはガイとダルに商業区の小さな防具屋に連れて行かれ、防具をプレゼントされた。
ガイとダルはルスカとパーティー解消してから後、ルーナに恩を返す為にコツコツと2人でダンジョンに潜りお金を貯めていたのだ。
決して質の良い防具とは言えないが、2人が買える中でも精一杯の、旅をするのに違和感のない動きやすく軽い革製の胸当て、アームガード、レッグガードを身に付けたルーナは何処か嬉しそうにしていた。
━━それから3日後の朝
「またグランセルに戻って来いよ」
「そん時は俺達は銀ランク冒険者ぐらいにはなってるからよ」
「…ん、頑張っ…て」
「これ持って行きな」
「…ん、ありが…とう」
ルーナはマジックバッグを背負い、ガイとダルに見送られ、宿の女主人に弁当を渡され、宿を後にし、馬車に乗ってグランセルを出発した。




