第77話 ルーナの物語 ルーナはお人好し
「ふざけるな!」
合流した食事処でガイとダルがルスカ達に向かって大声を上げたのは、食事が終わる少し前だった。
雑談をしながら食事をして、報酬の分配の話しになった時、ルスカとユウリから驚きの報告があったのだ。
「いや、本当にすまない。俺も予想外だったんだよ」
「本当にごめんなさい」
ルスカとユウリは必死に頭を下げて許しを請う。
そんな姿を見ながらルーナは食事の手が止まりどうすれば良いのか戸惑っていた。
ガイとダルが何に怒っているのかというと、今回のクエストの報告に行ったルスカとユウリが実は納品する品物を間違えていたらしく、クエストが未達成になり報酬が貰えなかったどころか、違約金が発生したと2人に話したのだ。
採取した物や4人が切り刻んだミノタウロスの素材はギルドが買ってくれたのだが、それを相殺させると1人辺りの報酬が雀の涙程にしか残らなかったらしい。
「これっぽっちじゃここの飯代にもならねぇだろ!? なんで早く言わなかったんだ!?」
「本当にごめん。言い出し難かったんだよ」
「私達の分も2人に渡すから許して」
ガイとダルに詰め寄られルスカとユウリは涙目になりながら自分達の分配分も2人に差し出した。
「くそっ! やっぱりお前らとはこれ以上くめねぇ。短い付き合いだったな!」
「ここの飯代も当然お前らもちだからな。ルーナ、行こうぜ」
出て行こうとする2人に一緒に行こうと言われるが、ルーナはどうすれば良いのか解らず、ルスカ達とガイ達にキョロキョロと交互に視線を送り、悩んでいる。
すると、ルーナが戸惑っていいる間に、ガイとダルが店を出ていってしまった。
「ごめんな。でもルーナの素材と魔石は別で売ってちゃんとあるから」
そう言ってルスカはルーナに収納魔法から取り出した小さな袋を差し出す。
「要ら…ない。ご飯…代で…使って」
「それはダメだよ。助けて貰った上にそんな事までしてもらえない」
「大丈…夫、お金…少しあ…る。それ無く…ても困ら…ないか…ら」
ルーナはそう言ってルスカに袋を押し付けると、ガイとダルを追い掛けて店を出ていった。
そんなルーナを見送るルスカとユウリが嫌らしい笑みを浮かべていたのをルーナは気付いていなかった。
店の外に出たルーナがガイ達を探してキョロキョロしていると「くそったれ!」と叫んでいるダルの声が遠くから聞こえていた。
ルーナは声のする方へ走る。
暫く走っていると、最初にガイ達と一緒に馬を預けに行った宿の近くで、文句を言いながら歩いているガイとダルを発見。
「ルーナ、追い掛けてきたのか?」
「悪ぃな、置いて行っちまって」
「…ん、大丈…夫」
ルーナの顔を見ると、ガイとダルは先程までのしかめっ面から少し表情が和らぎ立ち止まってルーナを待つ。
少しばかり2人の愚痴に付き合って状況を知るルーナ。
ガイ達は、冒険者になって半年程の新人鉄ランク冒険者で、ルスカが少し先輩にあたる鉄ランク冒険者。ユウリはルスカと同じ時期に冒険者になり、知り合ってそのまま恋人に。
数十日ほど前にルスカに誘われて一緒にクエストをやるようになったが、ルスカは自分達より強く助かっていたのだが、ユウリが失敗ばかりして迷惑をかけられる事が多かったと言う。
しかし、ユウリはルスカの恋人で、ルスカはユウリに甘かった為、あまり文句も言えず。色々と溜まっていたところに、今回の事で耐えられなくなり、パーティーを解消したと言う事だった。
「そういや、忘れてたがお前はちゃんと換金した金受け取ったのか?」
「…ん、あれ…は必要…ないか…ら、ご飯…代にあ…げた」
「バッカだな、お前。お人好し過ぎると集られるぞ?」
「世の中良い人ばっかじゃねぇんだからな」
「…ん、ありが…とう」
困った顔でルーナに注意をするガイ達にルーナは思わず礼を言った。
「まあ、俺達が1番怪しい面してんだけどな」
「「ははははっ」」
顔は怖いけど、何と無くホッコリする2人の雰囲気にルーナは少しだけ、両親やグリシナ一家を思い出す。
「あーあ、今回の報酬宛にしてたから急いで宿代稼がないと不味いぞ? ……そういや、俺達も助けてもらったら礼をしてなかったな」
「そうだな。俺達と同じ部屋で良けりゃ宿に泊まるか? 宿代と飯代くらいはあるからよ」
「…ん、大丈…夫。まだ、お金…あるか…ら」
「そうか、すまねぇな。代わりと言っちゃなんだが、困った事があったら声掛けろよ。金以外の事なら相談にのるからよ」
「まあ、大した事は出来ねぇけどな」
そう言ってガイとダルは宿へ入って行き、ルーナもその宿へ行き部屋を借りる事にした。
「お嬢ちゃんが1人で泊まるのかい?」
「…ん」
「お父さんかお母さんは居ないの?」
子供が1人で宿泊と聞いて恰幅の良い宿の女主人が不思議そうにルーナを見て質問をしていた。
「…ん、お父さん…とお母さん…は居な…い」
そう聞いた女主人はルーナが家出なのか孤児なのか解らず困っていると━━
「女将さんよぉ。俺達の知り合いだから泊めてやってくれよ」
━━ダルが話しに割って入り女主人を説得し始めた。
「あんた達の知り合い? 尚更怪しいねぇ」
「おいおい……どういう意味だよ」
「鏡で顔見た事あんのかい? そのまんまの意味だよ」
女主人はニヤニヤとからかう様にガイとダルを見て半笑いで答えた。
「かぁー、一応客だぞ? 俺達」
「宿代値切る様な客はそれほど大事でもないからねぇ」
「それを言われると……返す言葉もねぇな」
「「「ははははっ」」」
「まあ、良いか……それで金はあんのかい?」
「…ん、少しだ…け」
ルーナはマジックバッグから袋を取り出し女主人に渡す。
「おや、コイツらよりちゃんとしてるじゃないかい。何日泊まるんだい?」
「…ん、どれく…らい泊ま…れる?」
「そうさねぇ、朝晩食事付きで10日泊まれるけど、全部使っちまったら困るだろ?」
「…ん」
「ならとりあえず5日くらい泊まって様子見なよ」
「…ん、お願…い」
ルーナは女主人に勧められるまま5日分の宿代を渡して部屋に案内される。
「店の外に出るときはアタシに鍵を預けるんだよ? 風呂は共同のがあるから、入るなら19時~22時に済ませる事、良いね」
「…ん、解っ…た」
女主人は部屋の鍵を渡そうとしたがルーナは鍵を受け取らず、女主人に用事を済ませて戻ってくることを伝え、先に門番に教わった役場に向かい、身分証と住民登録を済ませる。
ここでも門番や宿屋の時と同じ質問をされ『ちょっと面倒だな』とルーナは思ったのだが、仕方ないから同じ様に答えた。
そして、両親と来てみたいと話していた目標の1つ。グランセルを暫く見て回る事に決め、町の外で獣を狩りながらガイ達に教えてもらった小さな道具屋で魔石や素材を売りながら生活して、40日が過ぎた。
宿暮らしにもすっかり慣れ、少しずつお金貯まり、ガイ達や女主人に馬車乗り場の利用法や他の町の情報を教えてもらう。
この日は次に行く場所を考えながら町を歩いていた。
「ルーナ、ルーナじゃないか」
聞き覚えのある声がルーナを呼び止めた。
「…ん、ルスカ。久しぶ…り」
「まだグランセルに居たんだね」
「…ん、少しした…ら、違う町…に行…く」
ルーナを呼び止めたのは町まで連れてきてくれたルスカとユウリの2人だった。
「ルーナ、あの時はごめんな」
「…ん、良い…よ」
「ルーナはここでどうやって生活してるんだい?」
「…ん、外…で狩りして…る」
「そっか……ルーナは凄いんだね」
ルーナの話を聞いてルスカがどこか落ち込んだ様に元気なく俯く。
「何…かあっ…た?」
「いや……情けない話しなんだけどね。前に俺達がクエストの納品物を間違えたじゃないか」
「…ん」
「あの時と同じ事を新しい仲間とのクエストでやっちゃってさ……怒った仲間に「報酬代わりだ」って無理やりお金借りさせられて返済に困ってるんだ」
「沢…山?」
「うん、5万ゼルくらい……」
鉄ランク冒険者にとって5万ゼルは大金だ。借りた店にもよるが、余程効率良く稼がないと中々返済出来ない。
ルーナは考えた。ルーナの宿泊している宿の宿代が、1日700ゼル。今は長く借りている事もあり、1日600ゼルにしてくれているがその数十日分を返すのに困っていると言う。
「少しな…らお金…ある…よ」
ルーナはそう言ってマジックバッグから袋を取り出しルスカに渡した。
「だ、ダメだよ! これが無いとルーナが生活に困るだろ?」
ルーナがルスカに渡した金額は凡そ2万ゼル。
残っていた魔石と狩りで取った獣を売って稼いだ全財産だ。
宿代は10日分まとめて払っているので、あと6日は宿と食事には困らない。しかし、次の町に向かう資金は無くなってしまうのだ。
「大丈…夫、また稼…いだら良い…から」
ルーナはそう言ってルスカにお金の入った袋を押し付けた。
「ありがとう……絶対に返すから」
ルスカとユウリは目に涙を浮かべ袋を握り締めて頭を下げる。
「…ん、大丈…夫だ…よ」
ルーナはそう言ってその場を後にした。
ルーナが見えなくなり、暫くするとルスカとユウリはゆっくり頭を上げ━━
「ぷっ……あはははっ! 簡単に騙されたね」
「ルスカは悪い人だよね」
━━先程までの弱々しい態度が嘘の様にルスカとユウリが嫌らしい表情でルーナを嘲笑い始めた。
「ね? 最初に会った時に優しくしといて正解だったろ?」
「ホンとね。あの時はルスカがロリコンに目覚めたのかと思ったよ」
「そんな訳ないだろ? 何と無く直感で解るんだよ。お人好しの匂いって」
「変なの。でも良かったね。じゃあ美味しいもの食べに行こうよ」
「そうだね」
ルスカ達はルーナを騙していた。実はガイ達ともめた時も、演技をしていたのだ。
クエストの失敗は本当の事だったが、後で調べられても良いようにわざと失敗をして、別な場所で採取品を売り、金額を誤魔化していた。
ルーナに渡そうとしていた素材や魔石の金額も半分抜いていたのだが、ルーナが残りの半分も押し付けてきたので味をしめ。再びルーナを見付けて金をせしめたのだ。
「ユウリ、凄いよ。2万ゼルは入ってる」
「本当? この短期間にどうやって稼いだのかしら?」
「ルーナってミノタウロスを一撃で倒せるくらい強かったからね。また暫くしたらお世話になろうか?」
「ああー、悪いんだルスカはぁ」
うーむ、バレバレだったかも……まあ、推理ものじゃないから良いか……




