第76話 ルーナの物語 ルーナ、グランセルに着く
「しまった、魔石! ……なんてこった……ミノタウロスの魔石だったら結構高く売れたのに……」
互いの自己紹介が終わると、突然何か思い出したようにルスカが叫び、そして力なく項垂れた。
「…ん?」
その姿をルーナは何事かと首を傾げて見ていると━━
「ああ、すまないね。ちょっと惜しいことしちゃってね……せっかく倒したミノタウロスの魔石を取り忘れてたんだよ」
「魔…石?」
「モンスターの中にある黒い石の事だよ」
「ルスカ、ほらよ」
「そうそう、こんな石……って魔石!?」
ルスカが口惜しそうにルーナに魔石について説明していると、ルスカの横からガイとダルが魔石を投げ渡した。
「お前が話してる間に取っといてやったぜ」
「おおー、お前ら抜け目ないな。偉い」
それを見たルスカは喜びながら2人と肩を組み、ニカッと笑い掛けるが、2人はそれとは対称的に落ち着いた態度でいた。
「ルーナ、これ1つは君が倒したやつのだから君のね」
そう言ってルスカはルーナに魔石を1つ手渡す。
「…ん、これな…ら沢山…持って…る」
魔石を手渡されたルーナはマジックバッグを下ろし、中から数個の魔石を取り出して見せた。
「わぁー、しまってしまって」
すると、ルスカが焦ったように辺りをキョロキョロ見回し、ルーナに詰め寄ると、魔石をマジックバッグに片付けていく。
ルーナはルスカの行動の意味が解らなくて首を傾げた。
「良い? 大して知りもしない相手に金目の物をちらつかせたりしたら、盗まれたり命を狙われたりするんだよ? 特に町の外で会った奴は盗賊だったりする事があるんだから絶対に見せちゃだめだ」
「…ん、解っ…た」
真剣な顔で教えてくれるルスカを見て、ルーナは少しだけ心がホッコリするのだった。
「ミノタウロスのキレイな方もルーナのだから仕舞うと良いよ」
「…ん」
ルーナはそう言われてミノタウロスを解体し、食べられる部位だけを布にくるんでマジックバッグに仕舞うと、残りを地面を掘って埋めようとする。
「待て待て、なんで骨や角を埋めるんだよ?」
「これ…食べられ…ない」
「食べられなくても売ったら金になるから」
「…ん、でも入ら…ないから、要らな…い」
「そうか……マジックバッグだと入らないよね。じゃあ、俺達が持って帰ってあげるから町に着いたら一緒に売りに行こうか」
「…ん、でも、重たい…よ?」
ルーナの見たところルスカ達は物を入れる袋もマジックバッグも持っていない。とてもミノタウロスの骨を持って行けるとは思えなかった。
「心配ないよ」
そうルスカが言って、ミノタウロスの骨に手を当てると、一瞬にしてそれらは目の前から消えた。と、いうより、ルスカの手の中に消えたように見えた。
「……!?」
ルーナは驚き、動きを止めた。
「驚いた? 今のは収納魔法って言ってね。そのマジックバッグみたいなものなんだ。魔法屋で売ってるからお金が貯まったら買うと良いよ」
「魔法…屋?」
「ああ、それも知らないんだね。町にはそういうのがあるんだ」
ルスカはそう言ってニカッと笑うと、仲間達と近くに繋いでいた馬に乗り、ルーナを後ろに乗せ、町へ向かって馬を走らせた。
町へ向かう道中、ルスカは気さくに色々と話し掛けてきたが、ルーナは勢いに圧されてあまり話を返せずにいた。
━━馬を走らせて暫くすると、日が沈み辺りが薄暗くなって来た。
「今日はここで休もうか」
ルスカ達は街道沿いの岩影に馬を止めると、其所に杭を打ち、馬を繋いで、テントを張ったり、モンスター避けの魔道具を設定したり、休む準備をする。
食事中もルスカは気さくにルーナに話し掛け、ルーナも知らないことをルスカに質問しながら情報を得ていると、ユウリがなんだか奇妙なものを見るような顔をしてルスカを見つめている。
「どうしたんだい? ユウリ」
「ん? なんでも無いよ」
なんでも無いとは言いつつ目を背けるユウリにルスカは近寄ると━━
「なんだよ、ひょっとして焼きもち妬いてんのか?」
「そんな訳無いじゃないよ。バーカ」
「心配すんなって、別にルーナを口説こうとか思ってないから、俺にはユウリだけだよ」
「知ってる」
ユウリはハニカミながら頬を少し染める。
「俺達は先に休むから交代の時間になったら呼んでくれ」
ルスカがユウリの肩に手を回し、2人はテントの中へ入っていった。
突然の事に意味が解らずボーっとするルーナ。
「やれやれ、まただ……」
「あの2人毎日だな……せめてクエスト中は控えてほしいもんだぜ」
「ホントだよな、呼びに行くのも気を使うし、面倒だよな」
「このクエスト終わったら組むのやめるか?」
「だな……どうもあいつらとは合わねぇしな」
「おい、ルーナっていったか?」
「…ん」
「お前も気を付けろよ」
「そうだぜ。アイツはあまり良い噂聞かねぇからな」
2人がテントに入った直後から、ガイとダルが小声で文句を言いながら、ルーナにも注意を促すが、ルーナはよく解らなかったので、とりあえず聞かなかった事にして、2人から少し離れた場所で空を眺めていた。
それから3日ほど、キャンプを繰り返し毎日の様に同じようなやり取りを見ながら進み、5日目の昼前━━
「見えてきた。あれが俺達が拠点にしてる町、グランセルだよ」
━━進行方向に大きな壁に囲まれた町が見えてきた。
ルーナが住んでいた村とは比べ物にならないほど高く広い壁に囲まれた町。
近付くほどその大きさに圧倒され、ルーナは言葉を失う。
向かう先には幾つかの大きな門が見える。ルスカ達はその内の1つに馬を走らせ、町に入る人達の列にならんだ。
列に並んで30分ほどすると、門の前に到着。
ルスカ達は胸元にぶら下げたタグを門番に見せる。
「冒険者か、ご苦労さん。通って良いぞ。で? その子は?」
「クエスト先で会った子なんだよ」
「そうか、なら身分証見せて」
「身分…証?」
門番が身分証の提示を求めるが、ルーナは身分証の事を知らず、首を傾げる。
「この子はずっと1人旅してたらしくて持ってないみたいなんだよ」
「ふむ、ならちょっと此方で幾つかの質問に答えてくれるか?」
「ルーナ、大丈夫だからこの人達に付いて行って。門の向こうで待ってるから……ああ、そうだ。ルーナ魔石持ってたよね? ミノタウロスの素材と一緒に換金してきてあげるから渡して」
「…ん」
ルーナは馬から下りると、マジックバッグから魔石を10個取り出しルスカに渡し、門番に連れられ門に隣接する部屋の中へ入っていった。
「ガイ、ダル。ルーナを待っててやってくれ、俺達はクエストの報告済ませてくるから」
「……解った。後で食事処に集合で良いか?」
「ああ、じゃあまた後で」
ガイとダルは少し面倒そうな表情をしながらも、ルスカの指示に従い、ルーナを待つことにした。
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門横の部屋に連れてこられたルーナは門番から幾つかの質問を受けていた。
「出身は?」
「出…身?」
「ああ、生まれた町か村の事だよ」
「…ん、リーテン…の村」
「リーテン? リーテンって何処だっけ?」
「ちょっと待ってろ。リーテン、リーテンっと……グランセル領にそんな村ないぞ?」
「何言ってんだ、こんな小さな子が1人旅だってんだから近くだろ?」
「でも、書いてないぜ?」
「ちょっと貸してみろ……本当だな」
門番達は不思議そうに何かの本のような物を調べ、あーだこーだと話している。
「お嬢ちゃん、本当にリーテンって村?」
「…ん」
「あった! あったぞ、ロックウェル領だ」
「何バカな事言ってんだ、ロックウェル領からこんな小さな子が1人で来れるわけないだろ?」
「でも嘘発見魔道具には反応ないんだろ?」
「ああ」
「なら嘘は言って無いって事だよ」
2人は信じられないものを見るようにルーナを見つめる。
「……じ、じゃあ、次に年齢は?」
「たぶ…ん、12…才」
「「たぶん?」」
「…ん、8才か…ら1人で旅し…てるか…ら、今、いつ…か解らな…い」
「「はあ!?」」
門番達は驚きを隠せず、ハモって声を上げるが、嘘発見魔道具に反応が無いため、ルーナが本当の事を言っている事を信じるしかない。
ルーナに生まれた正確な年日を聞き、現在の暦と照らし合わせると、ルーナはまだ11才だった。
「お嬢ちゃんはまだ誕生日来てないから今は11才だったよ。あと8日で12才な」
「…ん、解っ…た」
この後、更に数個の質問をされ、問題が無いことが解ると、ルーナに仮の身分証を渡し━━
「これを持って役場に行けば身分証を作ってくれるから3日以内に役場に行くようにな」
「…ん」
「それから町に入るのに50ゼル要るんだが、お金は持ってるかい?」
「少しだ…け」
ルーナは家を出る時にマジックバッグにしまっておいたお金を取り出し、門番に50ゼル渡す。
「もし、この町に住むなら役場に行った時に住民登録をすると良い。500ゼル程お金を払わないといけないけど、入町税……って言っても解らないか、この町に入る時のお金が要らなくなるから」
「…ん、ありが…とう」
「ああ、解らない事があったら役場で質問すると教えてくらるから聞くと良いよ。じゃあ、ゆっくりとしていきな」
ルーナは門番に手を振り、部屋を出ると、ルスカが待っていると思っていた場所にはガイとダルの2人が居た。
「問題無かったみたいだな、行くか」
「…ん」
「じゃあ、とりあえず……どうする? ミートソルトに行くか?」
「そうだな……ルーナ。まだ魔石は持ってるのか?」
「…ん、持って…る」
「なら先にそれの換金を済ませといた方が良いな」
そう話をするガイだったが、ルーナはどういう事か意味が解らずキョトンとしていた。
「良いから来な」
ガイはルーナを馬に乗せると、先ずは宿に向かい馬小屋に馬を預けて商業区画の裏路地にある小さな店にルーナを連れていった。
「おーっす。店長居るか? 売りたい物があるんだが」
店に入るとガイは、店の主人に声を呼ぶ。
「おお、久しぶりだなガイ」
すると、店の奥から小太り細目の目付きの悪い男がニヤケながら出て来てガイに声を掛けた。
「ルーナ、魔石全部出しな」
ルーナは何故ガイがこんな事を言うのか理解できず、少し戸惑っていた。
「心配するな。店長は顔は怪しげだが、良心的な商売やってる。ガイ、そんな言い方してたらルーナが警戒するだろ?」
「ダル……誰が怪しげな顔だ。お前ら2人の方がよっぽど怪しげな顔だろ?」
「ちげぇねぇ」
「「ははははっ」」
変だなとは思いつつも、ルーナはとりあえず持っていた半分の魔石を取り出す事にした。
「こいつは驚いたな。何処でこんなにてにいれたんだ?」
驚く店長の前に置かれたのは約200個の魔石だった。
「やっぱり結構持ってたな」
「ふむ、密度の薄いのも混ざってるけど、そこそこ上物なのも結構あるな、ちょっと待ってな。直ぐに見積り出してやるから」
そう言って店主は魔石を袋に詰めて奥の部屋に入っていった。
「全部でこのくらいでどうだ?」
5分程して戻って来た店主は紙に金額を書いてルーナに渡す。
「ははっ、すげーな。15300ゼルか」
「数が纏まってたからな、ギルド価格より少しばかり色付けさせて貰ったぞ」
「ルーナ、これなら売っといた方が良いぞ。どうする?」
「…ん、お願…い」
ルーナは言われるままに、魔石を売ることにした。
「じゃあ、次は魔法屋だな」
「行くぞルーナ」
「…ん」
続いて魔法屋に連れていかれ、ルーナは収納魔法Dを勧められるまま購入し、所持金が半分以下になった。
「何日かしたら使える様になるから普段使わない物は入れとくと良い」
「暫くの間は他の奴に使える様になった事黙ってろよ?」
「…ん?」
「良いから他の奴には黙っとけ、それと金持ってる事も言わない方が良いぞ。お前結構騙されそうだからな」
「…ん、解っ…た」
不思議に思いながらもルーナはガイとダルの言うことに従うことにした。




