第69話 ゴブリン討伐戦2日目(後編)
この話はアステル視点ではなく三人称視点になります。
ゴブリンキングと共にゴブリンロードも2匹現れた。そして戦闘開始時と同じくらいの数のゴブリンの増援が現れた。
ゴブリンロードを先頭に魔法攻撃によって崩された第2軍の間を抜けると、挟撃されていたゴブリンの群が活気付く。
それに伴い、人間の軍が不利と判断したのか、様子を伺っていたモンスター達が動き始めた。
「さて、我らの出番じゃのう。行くぞ、ルーナ」
「…ん」
日中の作戦会議の時、もしゴブリンキングがゴブリンを壊滅寸前まで追い込む前に現れた場合どうするが、話し合われていた。
最初は、騎士団の主力を集中させて抑え込み、その間にロード以下を殲滅させ最後にキングを始末するという作戦だったのだが、ルーナとエリーがグランセルダンジョンでゴブリンキングをソロで討伐した実績があり、無駄に戦力をキングに集中させるより、自分達が抑えておく方が被害が少ないと、名乗りを上げたのだ。
最初は、その意見も一蹴されそうになったのだが、王都でのルーナとエリーの戦いを見ていたダルクスを始めとした数人の団長、副団長達が本当に可能なら2人に任せたいと、大役を任せたのだ。
「アレは我が抑えておくからお主はあの者共を助けてやるがよい」
「…ん。直ぐにエリー殺したらダメだ…よ」
「解っておるのじゃ」
エリーが背中に翼を開き、ルーナがシルフィードを解放させ2人が飛ぶ。
シルフィード解放の光る刃は実は脱着出来る羽で、ルーナは数kmなら飛ぶ事が可能なのだ。
2人が飛んで行ったと同時にアステル達も動き出す。
冒険者隊は北側を迂回し第2軍の増援、歩兵隊は南側を迂回し第2軍の増援、騎馬隊の半分は衛生騎士を乗せ被害の大きな場所へ送り怪我人の治療、そのまま戦闘に入る、残りの騎馬隊はアシッドパンサーの排除に向かい、魔法騎士はパラライバッドとダーククロウの排除を始める。第1軍の指揮官オルネルと防衛騎士は第3軍の増援に向かう。
━━各隊が迅速に動き、冒険者隊と歩兵隊が第2軍の元へ到着しかけたその時、地面が弾け、第2軍と援軍の間を割ってゴブリンロードが現れた。
その穴から次々とゴブリンの群が出てくる。そして、第3軍と戦闘をしていたゴブリンも援軍の後方から挟撃を仕掛けてきた。
シルビアを先頭に金ランク冒険者達がゴブリンロードを取り囲み、その他の冒険者は邪魔されない様にジェネラル以下を抑え、あっという間に乱戦状態になる。
銀ランク冒険者がジェネラルを抑え、青銅ランク以下の冒険者がホブ以下のゴブリンを排除していく。
アステルのパーティーは隊の最後尾辺りで後方から攻めてくるゴブリンと戦闘を開始した。
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隊を飛び出したルーナとエリー、ルーナは二分された第2軍の間へ降り立ち、第3軍に攻め入ろうとするゴブリンの群と戦闘を開始させた。
ルーナが6枚の羽を刃に変え戦場を駆け巡り、次々とゴブリンを排除していく。が、敵の数が多すぎる。
倒しきれないゴブリン達が続々と、挟撃されていたゴブリンの群に合流した。
そんな中でもルーナは優先的に上位種を排除している。ホブ以下なら何匹駆け付けようと脅威にはならないと判断したのだ。
━━エリーは真っ直ぐゴブリンキングの元へ飛ぶ。
飛び込み様にゴブリンキングの胸に蹴りを入れるエリー。
ゴブリンキングはそのまま後方へ数十m転げ起き上がり様にエリーを睨み付け━━
「ウガアァァーーーー!!」
━━肩を怒らせ激しい咆哮を上げた。
「お前とは我が遊んでやるのじゃ」
エリーは腕を組み、悠然とゴブリンキングに歩みより、程よく警戒されるように適度に抑えた威圧を放つ。
ゴブリンキングがエリーを睨み魔法を発動させようとした瞬間、エリーは魔力が集まる一点にチラッと視線を向け、風の刃を飛ばしゴブリンキングの魔力を魔法発動前に霧散させる。
「遅い。魔法とはこうやって使うものじゃ」
エリーは腕を組んだまま、そう言うと同時に雷魔法を発動させ、小さな雷がゴブリンキングを撃つ。
ゴブリンキングは一瞬体を強張らせたが、何事も無かったかの様にニヤリと笑い、右手の斧を大きく振りかぶりエリーに打ち付ける。
エリーはそれをバックステップで躱し、今度は直径50cm程の氷塊を撃ち込んだ。
ゴブリンキングはそれを左手の鎚で砕く。
その隙を縫ってエリーはゴブリンキングの懐へ飛び込み、飛び上がりゴブリンキングの顎を蹴り上げた。
ゴブリンキングはヨロヨロと後方へ3歩ほど後退し頭を振る。
『やれやれ、手加減するのも疲れるものじゃのう。早く片付けてもらわねば間違って殺してしまいそうじゃ』
エリーのそんな考えを他所に、ゴブリンキングは大して攻撃も効かず、自分より弱く感じるこの相手に、チクチク攻撃を与えられる事に苛立っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ダルクス率いる第3軍は雪崩のように攻め混んでくるゴブリンの大群に圧され始めていた。
始めに戦っていたゴブリンはまだ2割ほどしか倒せておらず、ゴブリンロードも2匹とも生きている。
そこへ第2軍の崩れた隙を縫ってどんどんゴブリンの数が増え兵達が怯んだのだ。
ダルクスは騎馬隊を率いて前線に飛び込んだ。
迫りくるゴブリンの大群を蹴散らしながら自軍の兵が居ない辺りに移動し━━
「我が主から預かりし聖剣の力を見よ! 焼き尽くせフェニックス!」
━━右手に持った剣を翳し力を解き放つ。
ファゴットが王国に仕えていた際、先代国王の為に打った聖剣フェニックス。先代国王に奉納され、代々受け継ぐ事を約束され国宝に指定された。聖剣フェニックスは有事の際、騎士団長に預けられ戦場で国の威光を示す。
ダルクスの聖句と共にフェニックスは輝き眩い光を放ち金色の炎が渦巻く。
炎は数百のゴブリンを巻き込み一瞬にして焼き尽くした。
「怯むな! 勝利は我らが手にあり!!」
「「「「「「おおぉぉーーー!!!」」」」」」
魔力消費が激しい為、何度も使える技ではないが、その光景を目の当たりにし、ダルクスの檄を受けた兵達に力が漲る。
その直後だった。第2軍の間を抜け迫りくるゴブリン達の先頭を走っていたゴブリンロードの首が飛ぶとほぼ同時に無数のゴブリンが宙を舞う。
肉を飛び散らせ1人の少女が万を超すゴブリンを相手に奮闘し始めたのだ。
無人の野を駆けるが如くゴブリンの群の中を駆け、群を指揮しているジェネラルを駆逐していくルーナ。
「ルーナ殿1人に負担を掛けるな! 騎士団の底力を見せてやれ!!」
「「「「「「おおぉぉーーー!!!」」」」」」
更に活気付いた騎士団達がゴブリン達を圧し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
戦闘が激化し始め、人間の軍が勢い付き始めたその頃、アステル達も順調にゴブリンを倒していた。
たまに銀ランク冒険者達を掻い潜り、低ランク冒険者達に襲いかかってくるゴブリンジェネラルも居たが、青銅ランクの上位者達が協力して防ぎ被害は最小限に抑えられていた。
アステルもティガと協力し、数匹のゴブリンジェネラルを倒している。
そんな中、突然地面にヒビが入るのに気が付いたアステルはその場を離れながら叫ぶ。
「下だ! 避けて!!」
アステルの呼び掛けに気が付いた周りの冒険者達が足元の揺れに気が付き、その場から飛び退く。
「フェリシア!」
揺れに足を取られ足が止まるフェリシアに気が付いたアステル。
「〝アクセル〟! 間に合えー!!!」
疾風の鎧の起動句を唱え、駆け出すアステル。
フェリシアにタックルをするように飛び付き、地面を転がる。
直後、地面が弾けゴブリンロードが飛び出してきた。
アステル達や逃げ遅れた冒険者達が、その衝撃に巻き込まれ飛んで来た土や大きな石を受け数m飛ばされた。
「だ、大丈夫? フェリシア……」
「バカ! 大丈夫じゃないのはアステルでしょ……」
地面に倒れているフェリシアを庇うように四つん這いになっているアステルが頭から血を流しながらフェリシアに声を掛け、それを目にしたフェリシアが涙ぐみながらアステルに返す。
「グゴァアアアァァァーーーーー!!!」
飛び出してきたゴブリンロードは全部で3匹、アステル達の目の前と、第3軍の後方、それと南側から援軍に向かっていた歩兵隊の後方だ。
第3軍の後方へはオルネル団長率いる防衛騎士が、南側の後方へは血の臭いにつられてやっていていたモンスターを片付けた騎馬隊と魔法騎士の半分が、そして、アステル達冒険者隊への援軍には魔法騎士のもう半分と、冒険者隊の前方でゴブリンロードと対峙していた金ランク冒険者の一部が駆け付けようとしていたが、間にいた自軍の兵やゴブリンに阻まれ思うように移動出来ないでいた。
辺りに居た青銅ランクと鉄ランクの冒険者達は悲鳴を上げながら逃げ惑い、何人かは恐怖で動けずにいた。それを見たゴブリンが逃げる冒険者の後ろから襲いかかり、辺りには地獄絵図が広がる。
『ここを直ぐに離れるべきか……いや、同じことだ。どのみち殺られる……なら可能性に……』
アステルは決断した。
「フェリシア、アリシア、直ぐにこの場を離れるんだ!」
『ティガ、2人を守ってくれ』
「ガウッ?」
「何言ってるの!?」
「アステル1人置いていける分けないでしょ!?」
「邪魔だって言ってるんだ! 行け!」
険しい表情でゴブリンロードから目を離さず大声を上げるアステル。
フェリシア達は一瞬、ビクッと肩をすくませ、悲しい表情をみせると、涙を堪えながらその場を離れた。
アステルから距離を取ったフェリシア達はせめて他のゴブリンにはアステルの邪魔をさせまいと、歯を食い縛り奮闘する。
「お前の相手は僕だ!」
本当は邪魔だとは思っていないアステル。ただ仲間の命を守りたかっただけ、悲しげな表情を浮かべていたフェリシア達を思い浮かべ、心を痛めたが、気持ちを切り替え、ゴブリンロードを見据える。
「〝リカバリー〟」
生命の神珠を起動させさっき受けた傷を癒し、神剣ヴァーリを抜き、ゴブリンロードの懐に飛び込むアステル。
疾風の鎧の力で加速されているアステルは一瞬にしてゴブリンロードの足元を駆け抜け、腹に一撃を加えると、砂煙を上げながら地面を削り体を捻りゴブリンロードに正面を向ける。
魔力を込めた神剣ヴァーリの一撃はゴブリンロードの皮膚を切り裂いたのみで筋肉の壁を抜けることは無かった。
「ウガアァァーーー!」
ダメージは無いが、小賢しい蝿程度にしか見ていなかった人間に傷をつけられたゴブリンロードが怒りを露にし、目を血走らせアステルを睨む。
『よし、こっちに意識を向けさせたぞ。それに早さは僕の方が上みたいだ……これなら援軍が来るまで持ちこたえれるかも……』
コイツは俺が殺る。そう言いたげにゴブリンロードが一声唸るとジェネラル以下のゴブリンがアステルとゴブリンロードの周りから離れ、怪我をして動けない者を除いてこの場ではアステルとゴブリンロードの1対1の状況が出来上がっていた。
ゴブリンロードの足元を、這いずって逃げようとする冒険者に、ゴブリンロードの無慈悲な杖の一撃が振り下ろされる。
ゴブリンロードはこれまでの経験で人間とは殺されそうな仲間を助けに入るものだと学習していた。その知識から足元の人間に攻撃をすれば目の前のアステルは無様な隙を見せて助けに入ると予想したのだ。
しかし、アステルは動かない。ここで下手にゴブリンロードに隙を見せる訳にはいかないからだ。
動じないアステルを見て、この相手にこういった行動は無駄だと判断したゴブリンロードは怪我をしている者を無視してアステル1人に意識を向ける。
アステルは「ふっ!」と、息を吐き走り出すと同時に土操作でゴブリンロードの目の前に壁を作り視界を遮ると、右に方向転換した。
ゴブリンロードは土の壁を凪ぎ払い、目の前からアステルが居なくなった事に気が付くと左右をキョロキョロ見渡す。
その後方からアステルは鋭く尖らせた氷の槍を撃ち込む。
自身が撃てる最大威力の氷の槍。しかしゴブリンロードの硬い筋肉はアステルの魔法では貫けなかった。
瞬時に振り向いたゴブリンロードはアステルに杖を向け火魔法を放つ。
一瞬判断が遅れ体が硬直したアステルに、直径1m程の火球が襲いかかり、アステルは躱せないと判断し反魔の盾を目の前に構えた。
火球は反魔の盾に吸い込まれる様に消え、直後ゴブリンロードに向かって反っていく。
思わぬ反撃を受けたゴブリンロード。火球はゴブリンロードに直撃すると燃え上がり高い火柱が立つ。
火柱が収まると全身からプスプスと煙を上げ、怒りに満ちた表情のゴブリンロードが激しい咆哮を上げながらアステルに襲いかかってきた。
振り回される杖の猛攻。力任せに振り回される杖はアステルの想像を越えて速く、紙一重で躱しきれず、掠める杖に皮膚を削られ、リカバリーによって再生される。
意識を集中させ避ける事だけに専念してやっと躱せているゴブリンロードの猛攻。
必死に躱し続けるアステルだったが、ゴブリンロードが飛び出してきた時に出来た地面の亀裂に足を取られ一瞬動きが遅れてしまった。
その隙を見逃さなかったゴブリンロードの杖がフルスイングされた。
「があぁぁーーー!!」
アステルはギリギリ盾で受け止める事には成功したものの、斜め上から振り下ろされた杖の衝撃で、地面に叩き付けられるように転がり、左腕は折れ、肋骨は数本砕け、内蔵に刺さっているのか、大量の血を吐き出した。
『不味い! 最悪の一撃を喰らった……くそっ!』
フラフラと立ち上がり、力の無い表情をゴブリンロードに向けるアステル。
それを見たゴブリンロードが勝利を確信し、下卑た笑みを浮かべた。
その時、ティガから自分を助けに来ようとする思念が伝わってくる。
『来るな! 僕は大丈夫、考えがあるから来ないでくれ』
そう思念を送り、アステルは効かない事を承知で魔法を撃ち続ける。
その行動を嘲笑うかの様に避けることもせずゆっくりアステルに近付いてくるゴブリンロード。
アステルの目の前にやって来たゴブリンロードは大きく杖を振り上げ口を開けて笑った。
「バーカ……」
アステルが弱々しく一言呟くと同時にゴブリンロードの口から何かが飛び込んだ。
アステルは起き上がってから、ずっと狙っていた。敵が決定的な隙を見せるのを。
『外からは効かない魔法も内側からならどうだ? これが効かなきゃ、今の僕には打つ手がない……』
無駄に見えた攻撃を繰り返しながらアステルは限界まで小さく集中させた氷魔法を作っていたのだ。自分に作れる最大の大きさの氷魔法。水にして凡そ200L、それを1cmの大きさにまで凝縮させ、口から放り込んだのだ。
ゴブリンロードの体内で解放された氷魔法は無数の刺を形成し、内蔵に突き刺さる。
勝ちを確信していたゴブリンロードが体の穴という穴から大量の血を吹き出し声も出せず後ろへと倒れ込んだ。
アステルは意識を飛ばしそうになり、なんとか立っている状態だったが、体は限界を向かえ、その場に両手を付いて座り込んでしまった。
ゴブリンロードが倒れ止める者が居なくなった途端、無数のゴブリンがアステルに向かって走り出した。
「ウオオォォーーーン!!」
「「殺らせるかぁーーー!!」」
「〝サンダーブラスト〟!!」
「でやぁーー!」
群がるゴブリンを遮って4人の冒険者と2匹のモンスターがアステルを囲む。
「遅くなってすまねぇアステル」
「サト……ス?」
「私達も居るわよ」
「メイン……みん……な……どうして?」
「どうしても何もないわよ。バカアステル」
「そうだ。無茶しやがって」
アステルが顔を上げると全身傷だらけでボロボロのサトス達がそこに居た。
サトス達が戦っていた場所からアステルの戦っていた場所は凡そ300m、戦闘中にゴブリンロードが飛び出したのを確認した4人がそちらを気にしながら戦っていると、ゴブリンロードと対峙しているアステルに気が付いた。
サトス達は防御も忘れゴブリンを蹴散らしながら必死に駆けつけたのだ。
そこへ、ティガ、フェリシア、アリシアも駆け付ける。
「アステルのバカ!」
「もう邪魔なんて言わせないんだから……」
「ガウゥ……(心配したのだご主人……)」
フェリシア達は涙を浮かべアステルに背を向ける。フェリシア達もアステルにゴブリンを近付けないよう必死に戦っていたのだろう。体のあちこちが傷付いている。
アステルはゆっくり立ち上がり剣を構える。
「バカ、今は休んでろ! 本当に死ぬぞ」
ゴブリンを蹴散らしながらサトスが声を掛ける。
全員が1匹たりともアステルには近付けさせないとゴブリンと戦っていたその時、大きな影がアステル達の視界に映る。
「まだ……生きてたのか」
生きているのが不思議なほど全身血塗れのゴブリンロードが足を引き摺りながら立ち上がり、血走った目でアステルを睨む。
「フェリシアちゃん達はアステルを連れて離れてくれ。ティガ、ユキ、チュン介! 護衛を頼む」
サトスの言葉を理解した3匹。フェリシアとアリシアがアステルの両腕を肩に掛け離れた場所に移動し、3匹がそれを護衛する。
サトス、ダナン、メイン、カレンは立ち塞がるようにアステルとゴブリンロードの間に構えた。
「死にかけのコイツにビビってちゃ冒険者の名が廃る」
「アステルには指一本触れさせないわよ」
「〝サンダーブラスト〟!!」
「お前ら無駄口叩いてないでメインを見習 えっ!」
メインのサンダーブラストの直後、ダナンがサトスとカレンに一言もの申しながら横一戦に大剣を振り切った。
「えっ!」の、声と共に振られた大剣がゴブリンロードの膝に弾かれる。
「グァオオーー!」
ゴブリンロードが咆哮を上げ、ダナンが後ろへ飛び退く。直後、サトスとカレンがそれぞれ、ゴブリンロードの腹部に武器を突き立てた。
しかしゴブリンロードの分厚い筋肉の壁に阻まれ刃は通らない。
怒りが限界を超え痛みを忘れて杖を地面に叩き付けるゴブリンロード。
地面が弾け、衝撃波がサトス達を襲う。
4人は素早く後方へ飛び退きゴブリンロードを目にすると、その怒りに満ちた表情と激しい殺気で冷たい汗が背中を伝う。
「ちくしょう……なんでこんな状態のコイツに勝てる気がしねぇんだ……」
「なに言ってんのよ。アステルは1人で戦ってたんだから……」
どの攻撃も全く効かず、ゴブリンロードの気迫に圧され弱気な発言をするサトスに反論するカレンだが、その言葉には力がない。
サトス達がゴブリンロードの気迫に圧され半歩下がった━━
「もう、ちょっとだけ、無茶するから……後は宜しく……ね」
━━その時、後方からサトス達に話しかける声がした。声のする方を振り返ると、避難させたはずのアステルが立っている。
生命の神珠とポーションの効果で致命的な傷は回復したのだろう。先程よりは顔色が良くなっている。しかし、まだダメージの色は濃かった。
「何言って━━」
「力を貸してくれヴァーリ」
メインが静止しようとしたその時、アステルは神言を唱え相互強化を発動させた。
神剣ヴァーリとアステルが光に包まれ━━
「〝アクセル〟、〝ダブルアクセル〟」
━━続けて疾風の鎧のスキルを2段階目まで解放させる。
ミックスアップの効果で身体能力と全ての感覚が強化され、2倍にまで強化された瞬発力にも対応出来るようになったアステル。
光の残像を残しゴブリンロードの後方へすり抜け、すり抜け様に剣を一線、強化された切れ味により、簡単にゴブリンロードの皮膚や筋肉を切り裂き、深い傷を与える。
アステルは止まらない、ゴブリンロードが反応出来ない速度で縦横無尽に駆け、切り刻む。
数秒後、アステルの動きが止まり全身を被っていた光が消える。
後に残ってきたのはバラバラに切り刻まれたゴブリンロードの肉塊。
無理に無理を重ねて動けなくなったアステルが前のめりにその場に倒れ込み意識を失った。
その後もゴブリンの攻撃は止まらない。サトス達6人と従魔3匹はこの後、アステルにただの1匹もゴブリンを近付けることなく最後まで守りきった。
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戦闘が始まってから約2時間、被害を出しながらもゴブリンを駆逐していく騎士団と冒険者達、その多くを倒したのは1人の少女。ルーナだ。
苦戦している戦場に移動してはゴブリンロードを瞬殺し、また移動を繰り返し、ゴブリンロードが片付くと今度はゴブリンジェネラルを駆逐していく。
この活躍により、時間が経過するほどに戦況は人間優位に運んだ。
そんな中、ふと戦場の一角で対峙するゴブリンロードと怪我をしたアステルの姿を視線の端で捕らえる。
アステルが危ない! ルーナは脇目も振らずそちらへ駆けようとした。
その時、ゴブリンロードが血を吹き出して倒れた。そして、そこへ駆けつけたサトス達を確認。暫くして再度立ち上がったゴブリンロードをアステルが倒したのを遠目で見届けると、アステルの状態は気になるものの、ルーナは歯を食い縛り自身に与えられた役割をこなす事を優先させた。
その後、凡そ9割りのゴブリンが片付いた時、合図が鳴り響く。
「待ち兼ねたのじゃ」
襲いくるゴブリンキングをあしらいながら多くのゴブリンを駆逐していたエリー。
エリーもアステルの状況には気が付いていた。しかし、ルーナが駆け付けるのを止めた事に気が付きアステルは無事だと確信し持ち場を離れる事はなかった。
しかし、アステルが危険な目にあっているのを知りながら駆け付けられない事への憤りを感じていたのだ。
その気持ちをぶつけるようにエリーは力を解放させた。
その圧倒的な圧力にゴブリンキングの動きは止まり、瞬間、自分の死を幻想する。
一拍、ゴブリンキングの意識は永遠の闇の中に沈み、後に残されたのは首から上の無い巨大な体のみだった。
残されたゴブリンも早々に殲滅され、戦いは人間の勝利に終わった。




