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第68話 ゴブリン討伐戦2日目(前編)

 ゴブリンとの1回目の戦闘が終わり、その後2回目は無く夜が明けた。


 昨晩の戦闘では死者は0だったが、重傷者は多く出た、腕や足の欠損や内臓破裂といった大きなダメージを負った者、出血が多かった者は、回復魔法を掛けたとしても直ぐには全快しない、特に部位欠損者は再生に早くても20日、その後元の筋力を取り戻すまで数十日単位で時間が掛かるだろう。


 そういった戦闘不能になった人達は、町へ戻され治療が施される。


 町に戻って行ったのは250人ほど、戦闘に参加した人数から考えれば、少ないと言えるだろう。


 やっぱり、ロードに不意討ち喰らったのが大きかったな……まさか地中から現れるとは……ルーナさんとエリーさんが居なかったら被害はこんなものじゃ済まなかっただろうな。


 それにしても(くさ)い、昨日戦闘した場所から2kmぐらい離れてるのにゴブリンの血と死肉の匂いが漂ってきてる。


 お腹は空いてるのにこの(にお)いの所為であまり食欲が出ないけど、朝食を済ませたあとはゴブリンの死体の処理が始まる。


 食べとかないともたないよな……


「アステルおかわ…り」


「はーい、どうぞ」


 そんな中でもルーナさんの食欲は衰えない、朝からしっかり、おかわりも4回目だ。


 エリーさんもこの程度では、なんともないみたいだけど、フェリシアとアリシアは臭いにやられてるみたいだ。


 たまに、えずきながら無理やり食事を水で流し込んでいる。


 食べやすくあっさりした物にしたけど、あまり効果はなかったようだ。


 辺りを見渡してみると、フェリシアとアリシアだけじゃなく、あまり実戦慣れしていない鉄ランク冒険者や見習い騎士達は同じように食事が喉を通らないみたいだ。


 こんな中でも、朝からうるさい位テンションの高い人物達もいる。


 昨晩の戦闘で不意討ちに成功した第2軍の騎士達だ。


 新魔道具、持ち運び式の認識阻害結界の成果を喜んでいるようだ。


 この魔道具の元になったのはアレン誘拐事件の時に押収した、魔導学院で研究されていた認識阻害結界。


 エリーさんからしてみれば、出来の悪い失敗作らしい。ゴブリン程度には有効かもしれないけど、僕がもう少し魔力操作を修練すれば普通に見破れるようになるらしい。


 感知に優れたモンスターやルーナさんみたいな高い観察眼スキル、索敵スキルみたいなのを持っている人には通用しないだろうと、いうことだ。


 まあ、ルーナさんクラスの高ランク観察眼スキルを持っている人も少ないだろうけど、魔力操作をそれなりに修練すればスキル無しでも見破れるんだからまだ使い物にはならないんだろうな……


 それでも、今まで認識阻害結界も無かったこの国からしてみればかなり大きな成果かも知れないな。


 全員が朝食を終えると、各隊の隊長の指示の元、ゴブリンの死体の回収、処理が始まる。


 何故、朝からこんな事をするのかというと、理由は3つ、1つ目はゴブリンの死体を食べに辺りのモンスターが集まってくるから、まあ、死体を処理しても血の臭いで集まってくるんだけどね。


 二つ目は素材回収の為、使える部分は肝臓と睾丸だけだけど、これだけの部隊を動かしてなんの収穫も無いのは面白くないのだ。まあ、これを回収しても大したお金にはならない。喜ぶのはお酒好きの人と、色街通いの人くらいだ……せめて魔石が回収出来れば良かったんだけど、戦闘中に回収してると死ぬからね……


 そして3つ目、これが1番大きな理由なのだけど、このまま死体を放っておくと、腐敗し始めた段階で、腐肉に寄生するゾンビワームという小さなモンスターが死体に寄生する。ただ寄生するだけなら問題ないのだけど、このモンスターは寄生した死体で大量に増殖して、病原菌をばら蒔く。その上、新たな寄生先を作るために死体を動かし別な生き物を襲うのだ。


 これだけの死体を放っておいたら、数日後には数万のゴブリンゾンビが国中を徘徊することになる。


 まったく、厄介なモンスターが居るもんだ……


 まあ、全員でやれば1人1つから2つの死体を持ってくるだけなのでそんなに大変な作業でもない。


 これが終わればまた夜に備えて休憩だ。外ゴブリンは基本、日中に活動しないからゆっくり休もう。


 僕達が死体を集め終わると、魔法騎士団の人達が、山のように積まれたゴブリンの死体を火魔法で焼き払い、灰になったゴブリンが風に乗って飛んでいった。


 さて、休憩しようか……と、思っていたら、シルビア様から召集が掛かった。



「皆、昨晩はご苦労だった。今晩の戦闘は、ダルクス団長が率いる第3軍が中心になって行うが、私達は、不足の事態が起こった場合の援軍的役割だ、気を抜くなよ。では少しの間だが、しっかり身を休めるように」


「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」


 おぉっ、知らなかった。今日は最前線じゃないんだ。ちょっとだけ気が楽になったな。


 話が終わり、各隊交代で仮眠を取る。


 昼過ぎくらいに第3軍が到着、全員に傷回復魔法薬(ポーション)疲労回復魔法薬(スタミナポーション)が配られた。


 怪我はしてないからポーションは今は使わないけど、スタミナポーションは有難い。なんといってもタダなのが嬉しいな。


 冒険者は全員が喜んでいたけど、騎士団はこれが普通の事らしく、嬉しそうな反応すらせず普通に受け取っていた。


 せっかく持ってきてくれたんだから嘘でも喜ぼうよ……


 ポーションが配られ、そのあと、現在のゴブリンの群の情報が共有される。


 現在、ゴブリンは西、南、北の集落や森から全てが東側に集められているらしい。


 今、解っているだけで、ゴブリンロードが2匹居る。ゴブリンキングはまだ姿を見せて居ないようだ。


 こういった同種のモンスターが集まっている場合、最上位種のモンスターを討伐するまで、戦闘が終わることはない、逆に言えば最上位種を倒さない限り逃げられる事もないので、殲滅戦の時は1番最後に最上位種を倒さなければいけないのだ。


 今回の場合、ほぼ全部を始末したいので、9割くらい倒しきるまでキングには出て来てもらわない方が有難い。


 最悪でもジェネラルは全部倒しきっておきたいよね。



 ━━そして、ゴブリン殲滅戦の第2夜が始まった。


 今回、僕達第1軍は第3軍の500mほど後方にて待機、第2軍は昨夜と同じく認識阻害結界に隠れ、今日は第3軍が戦闘を開始した後に後方へ回り込み、挟撃する作戦らしい。


 1つ驚いた事が……ダルクス団長が身に着けている鎧、先日僕達が国に買ってもらった騎士王の鎧だった。それと、第3軍の防衛騎士を率いる中心に居る人が持っている盾は断絶の大楯、どうやらこの戦闘で性能実験するみたいだな……


 早くも売ったものが騎士団で戦闘デビュー、役に立って良かった。


 ダルクス団長の第3軍はかなり優位に事を運んでいるようだ。どうやら見習い騎士が居たのは第1軍だけらしく、動きに無駄がない。


 シルビア様の話では、2日目以降の戦闘の方が激化すると予想されていたらしく、1日目に見習い騎士に実戦経験を積ませようという事だったらしい。


 その予想はどうやら当たっている。今日は最初からゴブリンロードが2匹戦闘に参加していた。


 それに昨日より攻めて来ている数が多い。またロードが地中から飛び出して来る可能性もあるので地上だけに意識を向けている訳にはいかない。


 今日は昨日の教訓を生かし、地中の気配も察知出来る従魔も使って索敵を行っているらしい。


 ゴブリンロードは1匹は防衛騎士団に抑え込まれている。断絶の大楯がかなり役に立っているようだ。魔法攻撃も物理攻撃も完全に受け止めている。それに盾の後方からの攻撃は通る様で一方的に攻撃が当たっている。


 もう1匹は、左翼の騎士団が相手をしていた。この部隊は第3前衛騎士団団長のガルシア様が率いている。


 総大将が率いる軍だけあって、各隊の隊長も騎士団長クラスが務めていて第1軍より精鋭揃いだ。かなり善戦している様子が伺える。


 しかし、今日厄介なのは、昨日の戦闘で地面に染み込んだ血の臭いにつられてやって来たモンスター達、上空にはパラライバッドの群とダーククロウの群、戦地から少し離れた場所にアシッドパンサーの群が隙を伺っていた。


 今のところ襲ってくる様子は見られないけど、いつどうなるか解らない、僕達はいつでも援護出来るよう第3軍との距離を詰め、警戒を高めていた。


 パラライバッド。麻痺の状態異常攻撃を仕掛けてくる蝙蝠モンスター、敵を痺れさせた後、ゆっくり相手が死ぬまで血を啜る。


 ダーククロウ。盲目の状態異常攻撃を仕掛けてくる烏モンスター、視界を奪った後、いたぶるように相手を殺し、死肉を貪る。


 アシッドパンサー。唾液が強い酸になっている大型の猫系モンスター、唾液で相手を溶かしながら骨まで食べる。唾液を飛ばす攻撃を仕掛けてくる事もある。


 どのモンスターも厄介だ。しかし、これらのモンスターは人間だけを襲う訳ではない。ゴブリンにとっても敵になるモンスターだ。


 襲われる可能性はどちらも五分五分といったところだな。


 戦闘開始から15分ほどたった頃。ゴブリンの群の後方からデルゼイ団長率いる第2軍が現れた。


 突然、現れる筈の無い後方から第2軍が現れた事により、ゴブリンの群の統率が乱れる。


 今日もこちらの快勝か? そう思った直後だった。


 血の気が引くほどの殺気と共に、激しい咆哮が辺りに響き、落雷が雨の如く第2軍に降り注いだ。


 第2軍と戦っていたゴブリンも巻き込み、凡そ3割の騎士が倒れた。


 現れたのは一際大きなゴブリン。


 口元には胸辺りまで伸びた長い髭、体はオーガ以上に隆々な筋肉、右手には歪な斧が握られ左手には鎚が握られている。


 体長は周りのゴブリンから予想するに8mぐらいだろう。両手の武器は人間の体より大きい筈なのに普通の武器に見える。


 体に合う防具は無いようで、上半身は裸、腰には獣の皮で作ったであろう腰巻きが巻かれていた。


 ゴブリンキングだ! どうやら2日目で早くも総力戦を仕掛けて来たようだ。

うーむ、自分でも予想外の展開になった。

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