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第67話 ゴブリン討伐戦1日目

 アタランテの町を出発して9時間ほど経った頃、今日の目的地の村までやって来た僕達。


 村の人達はアタランテの町に避難しているのでこの村には今誰も居ない。


 今日はこの村の外に陣を張って一泊。明日の朝、サトス達がゴブリンに襲われた地点まで移動する予定だ。


 諜報員の獣魔士さんの話によると、ゴブリンの群れは森の中に潜んでいる者と、森から5kmほどの位置に、森を囲むように8つの集落を作って、時折辺りを見回っている者に分かれているらしく。


 サトス達は恐らくこの見回りをしているゴブリンに発見されたのだろうと、いうことだ。


 それにしても凄いな、僕とティガの思念通信の距離は精々5kmが限界だけど、獣魔士のスキルがあると最大100kmぐらい離れてても通信が可能なんだそうだ。


 この部隊に配置された獣魔士さんはこの場に居ながらゴブリン達の状況が手に取る様に解るらしい。



「旨ぇー! 久しぶりに食ったがやっぱりアステルの飯は旨いな」


「うむ、パーティーに1人アステルが欲しいな」


「そんな便利アイテムみたいに言わないでよ」


 テントを張り終えた僕達、サトス達も合流して一緒に食事を取っている。今日の料理は簡単に、先日取れたフロストバーンの肉を干しておいた物を数種の野菜と煮込んだスープ、町を出る前に買っておいたミノタウロス肉の串焼き、ロックウェル領産のお米と茸の炊き込み御飯。デザートは狂鶏(バーサックチキン)の卵を使ったプリンだ。


「うちにも、もう少しまともに料理が出来る人が居たら長旅のストレスも減るんだけどね」


「ダナン、あんた料理覚えなさいよ」


「な、なんで俺なんだ? こういうのは女の役目だろ?」


「それは女性蔑視だわ。男のアステルがこんなに上手なんだから料理番が女の子じゃなくても良いでしょ?」


「でもよぉ、ダナンみたいなむさい男が作るより、可愛い女の子が作った方が旨そうじゃないか? 気持ち的に。まあ、うちのパーティーに可愛い女の子が居ねんだけどな、ははははっ」


 サトスが余計な一言を言った瞬間、メインとカレンの表情が氷点下まで氷ついたような無表情に変わる。


首跳ねて(殺って)も良いわよね?」


「一撃で仕留めるなんてダメよ。私の雷魔法でじわじわ痛め付けてからじゃないとね」


 おぉ、恐ろしい……目が本気だ。


 メインとカレンがゆらっとサトスに歩み寄り━━


「ちょっ、待て……冗談だ、冗談。うっぎゃああぁぁーーー!!」


 ━━サトスは一足先に眠りについた。


「ダナンさん、サトスさんっていつもあんな感じなんですか?」


「うむ、アイツは余計な一言が多いからな。まあ、あれはあれでカレン達のストレス発散になってるから必要な事ではあると思うんだが」


「へぇー、身を呈して良い雰囲気作りをしてるんですね」


 そんな光景を見ながらも食事の手を止めず普通にフェリシアがダナンに話しかけ、ダナンも普通に返事をしている。


「そんな深い考えなんか無いわよ。アイツはバカなだけ、アステルも余計な一言が多いからフェリシアちゃんもイラッとすること有るんじゃない?」


 サトスを深い眠りにつかせたカレンは、何事も無かったかのように食事を再開させ、僕の失言癖の有無をフェリシアに尋ねている。


「アステルはそんな事ないですよ?」


 その通り、僕だって学習するんだから、いつまでも失言して痛い目みたりしないもんね。


「楽しそうだな、君達は戦を前にしても気持ちにゆとりがあるんだな、見習い騎士達にも見習わせたいものだ」


 そこへ、シルビア様がやって来てにこやかに話しかけてきた。


「はは……緊張感なくてすいません」


「いや、適度に肩の力が抜けているのは良いことだ。気負いすぎても力は発揮できないからな。ところで、さっきからとても良い匂いがしているのだが?」


「良かったらシルビア様も一杯どうですか?」


「…ん、食べていくと良い…よ。アステルのご飯は美味し…い」


 どうやら食事がまだみたいなので、僕はシルビア様にフロストバーンのスープを進めてみた。


「悪いな、催促したみたいで。……おぉ、これは旨いな、アステルが作ったのか?」


 フロストバーンスープを一口食べたシルビア様の目が少し大きく開き、美味しそうに二口三口と箸が進む。


 気に入ってもらえたようで良かった。


「ここじゃ、簡単な物しか作れませんけどね」


「いや、大したものだ。討伐遠征でこんなに旨い食事が取れるとは思わなかったぞ?」


「…ん、アステルのご飯は誰のよりも美味し…い」


「いやぁ、そんな事ないよ。ルーナ、プリン食べる?」


「…ん」


 そう誉められるとちょっと照れるけど、ルーナさんに喜んでもらえるのは素直に嬉しい。


 シルビア様にもプリンをあげると、余程気に入ってくれたのか、今日一番の良い表情で舌鼓を打っていた。


 やっぱりシルビア様も女性だから甘いものは好きなんだな。



 ━━翌朝、村を出発した僕達、目的のゴブリンの蔓延る森の10km手前、サトス達が襲われた地点に到着。陣を張り、隊列を組んでそのまま夜までその場で体を休め、ゴブリンの群れがやって来るのを待ち構える。


 東向に先頭を防衛騎士1500人、その後方に魔法騎士2000人、北側に僕達冒険者隊約3000人、南側に前衛騎士(歩兵隊)3000人(約半数は見習い騎士)、そして最後尾に第一陣を率いる防衛騎士団団長のオルネイ様と前衛騎士(騎馬隊)1000人と衛生騎士500人、オルネイ様の隣には獣魔士が控え、薄暗くなってきた時刻から、獣魔のナイトアイ3羽が順番に上空を飛び、索敵を行っている。



 ナイトアイ。小型の梟の様な夜行性の妖鳥系モンスター。戦闘能力はゴブリン以下だが、夜目が利き、索敵範囲は半径5km以上あると言われている。肉食で主に小型の獣や虫等を食べるが、ごく稀に人間の子供も襲われる事がある。飛行速度は時速60kmほどで夜間の諜報活動によく使われる。



 僕達冒険者隊はその中心にシルビア様が位置し、それを各小隊が囲むような陣形をとっている。これはシルビア様のスキルを最大限に活かすための陣形だ。



 ━━すっかり日も落ち、辺りは暗く、僅かな篝火だけがうっすらと辺りを照す。


 ゆっくりと食事は出来ないので、携帯用の干し肉やパン、果物等で空腹を満たし、ゴブリンを待ち構える。


「ピェーーー!」


 静まり返る夜の空にナイトアイの鳴き声が響き渡った。


 来た!


 どうやらナイトアイの索敵範囲にゴブリンの群れが入ったようだ。


 オルネイ様の隊から各隊に伝令が走り、緊張感が高まる。


 ━━数分後


「ピェーーー! ピェーーー!」


 再びナイトアイの鳴き声が響き渡り━━


「「「「「「光源(トーチ)」」」」」」


「「「「「「氷の槍(アイスランス)」」」」」」


 上空に光魔法トーチが放たれ辺りが昼のように明るくなり、それと同時に中級氷魔法アイスランスが東側に向け扇状に放たれた。


 ゴブリン達の悲鳴があちらこちらから響き渡る。


 直後、防衛騎士団の前方からアイスランスを掻い潜ってきたゴブリンの群れが襲い掛かって来た。


「一匹たりとも通すな! 守りを固めろ!」


 前方のゴブリンを防衛騎士団が塞き止め、盾と盾の隙間からスピアを突き出し倒していく。その後方から迫り来るゴブリンを魔法騎士団のアイスランス第2射目が襲う。


「シルビア・ラヴァンガの名の元に力を示せ! 戦姫の士魂ヴァルキュリアスピリッツ!!」


 戦姫の魂。戦聖霊(ヴァルキュリア)の加護を持つ者が使える神聖術。使用者の半径250mに効果があり、範囲内の味方の士気が高揚する。


「掛かれ!!」


「「「「「「「「「おおぉぉーーー!!!」」」」」」」」」


 シルビア様の合図と共に僕達は防衛騎士団の正面から北側のゴブリンの群れに突撃した。


 戦姫の魂の効果で、戦闘意欲が掻き立てられるが、気持ちに乱れは生じない、ただやる気だけが満ち溢れてくる。


 事前に伝えられた情報では陣の南北や後方からゴブリンが襲ってくる可能性もあったけど、この戦闘では今のところ前方からの襲撃のみのようだ。


 各小隊、低ランクの冒険者がゴブリン、ホブゴブリンの相手をして、高ランク冒険者は状況を見ながら、危なそうな所に加勢。ゴブリンジェネラルを発見次第、優先して殲滅していく。


 戦闘が進むにつれ乱戦状態になってきた。


「フェリシア、アリシア、大丈夫? 足取られないように気を付けて」『ティガフェリシア達のフォローを頼む』


「うん、大丈夫」


「ゴブリンの死体だらけで動きにくいけどね」


「ガウッ(任せろなのだ)」


 ゴブリンの数が多過ぎて死体を処理する暇もなく、辺りには沢山のゴブリンの死体が転がっていた。


 今のところ、ゴブリンロードは出現してないみたいだな……サトス達が襲われた時は最前線に出てきてたって言ってたけど、今回はどうしたんだろ?


 そんな事を考えながら戦闘をしていると、数分後、突然地面が弾け、隊の中心付近に大きな影が飛び出して来た。


 ゴブリンロードだ!


 どうやら地中を掘って進んで来たらしい。


 ナイトアイの索敵能力は優れているけど、地面の中までは見通せない。完全に不意を突かれた。


 僕達の所以外の場所からもゴブリンロードの雄叫びと、悲鳴が木霊する。


 どうやら、魔法騎士団と南側の歩兵隊の所にもゴブリンロードが現れたようだ。


 直後、僕達冒険者隊の所に現れたゴブリンロードが空高く舞い上がり、そのまま誰も居ない地面に向け弾き飛ばされ、頭から地面に突き刺さった。


 ゴブリンロードに素早く反応したエリーさん。ルーナさんも気付いていたみたいだけど、近くにいたエリーさんが逸早くゴブリンロードの懐に踏み込み、蹴り上げ、そのままジャンプしたかと思うと、部分竜化した右腕でゴブリンロードをぶん殴り、地面に叩きつけたのだ。


 流石と言うか……あっという間だったな……ちょっとだけゴブリンロードが可愛そうに思える。


「ルーナ! 南側を頼む!」


 シルビア様が状況を見て、一番不安な南側の部隊の救援をルーナさんに頼んだ。


 ルーナさんは1度だけ頷くと、小隊を離れ南側の部隊へ向けて走り出し、シルビア様はルーナさんが抜けた僕達の小隊の指揮を兼任して細かい指示を出す。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 軍の中心に現れたゴブリンロードは、本隊が素早く動き、オルネイ団長を中心とした騎馬隊が取り囲み、不意を突かれ怪我をした魔法騎士は素早く移動させられ、衛生騎士の元に運ばれる。



「お前達はコイツが魔法を使わぬよう絶えず打て! 此方を向け、化け物が! 虚偽の脅威(オウルフルグランデ)!」


 ゴブリンロードの相手をするのはオルネイと40名程の近衛騎士、馬から飛び降りたオルネイはゴブリンロードの前に立ち、自身を見過ごせない脅威だと錯覚させるスキル、オウルフルグランデを発動させ、ゴブリンロードの意識を自分に向ける。


 前面に大楯を構え、右手に持った長槍(ロングスピア)で急所を狙い攻撃を放つ。


 ゴブリンロードは歪な杖の打撃でオルネイ攻め、オルネイは攻撃を受ける度、少しずつ体を後方にずらされる。


 少し距離が空き、オルネイが攻撃範囲から出た瞬間、ゴブリンロードは杖を掲げ魔法を撃とうとするが、周りを囲んでいる近衛騎士がそれをさせまいと脇腹や腕を弓や槍で攻撃し阻止する。


 その隙を突いて、再びオルネイが距離を詰め長槍で攻撃を加え、更に魔法騎士達が魔法を撃ち込む。


 他の騎馬隊はオルネイ達が他のゴブリンに邪魔をされないように取り囲み、ゴブリン達の侵入を防いでいた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 南側、見習い騎士を含む歩兵隊は突然のゴブリンロードの襲撃に浮き足立ち、見習い騎士達の連携に乱れが生じ、少しゴブリンの群れに圧されていた。


 ここを指揮しているのは第2前衛騎士団副団長のウルヒム。


 ウルヒムは乱れる陣形を素早く立て直し、見習い騎士達を下がらせ、近衛騎士30名と共にゴブリンロードを取り囲んでいた。


「見習いどもは雑魚の相手に専念しろ! 各小隊長は見習いどものバックアップとジェネラルの殲滅! 所詮ゴブリンだ落ち着いて対応すれば問題ない!」


 ウルヒムは決してゴブリン軍を侮っている訳ではない、ただ突然のゴブリンロードの襲撃に怯える見習い騎士の気持ちを鼓舞させるために余裕な態度をとって見せているのだ。


「貴様の相手は俺達だ! 醜い面しやがって、おらっ! 此方を向きやがれ!」


 ウルヒムはわざと大声を上げゴブリンロードに大剣を叩き付ける。ゴブリンロードはその大剣を持っていた大剣で軽々受け止めニヤリと気味の悪い笑みを浮かべている。


 普通、ゴブリン族が使う武器は雑な作りの物が殆どがだが、このゴブリンロードが持っている大剣はゴブリンの物とは思えないほど良い作りの物だった。


 人間なら両手で扱う大剣もゴブリンロードからしてみれば片手で扱うのに丁度良い大きさで、まだ手に入れて間もない武器の感触を試すかの様にゴブリンロードは大剣を振り回す。


「ぐぅっ! 化け物のクセに中々やるじゃないか……」


 ゴブリンロードの大剣を大剣で受け止めウルヒムは苦笑いを浮かべながら隙を窺う。


 ウルヒムと一緒にゴブリンロードを取り囲んでいる近衛騎士も攻撃を試みるが、ゴブリンロードが振り回す大剣に弾かれ、盾は砕け剣は折れる。


 なんとか致命傷は免れたものの、近衛騎士の中からも重傷者が続出していた。


 この場でゴブリンロードとまともに戦えているのはウルヒムだけだ。それもそのはず、ゴブリンロードは本来、金ランク冒険者パーティーが数パーティー集まって相手をする強モンスターなのだ。


 傷付いた者は下がらせ、駆けつけた衛生騎士の治療を受け、軽症だった者は治療後戦線復帰させ、重傷者は軍の後方に運ばれる。ウルヒム隊は苦戦を強いられながらも、じわじわとゴブリンロードの体力を削っていた。


 クソが! ダンジョン訓練以来、久々に相手したが厄介なモンスターだな……


 ウルヒムはそんな事を考えながらもゴブリンロードの攻撃を反らし、近衛騎士達に致命傷が及ばぬようにフォローを入れている。


 そんな無理な戦闘も長くは続かない、騎士達の包囲網を抜けてきたゴブリンがウルヒムの背後から一撃を加え、装備のお陰でダメージこそ無かったものの、ウルヒムに致命的な隙が生まれた。


 その隙を見逃さなかったゴブリンロードがウルヒムに向かって横一線に大剣を振った。


 クソが!


 迫り来るゴブリンロードの大剣を視線で捕らえ顔を歪めるウルヒム。


 ギィーーーン!!


 ウルヒムが死を覚った直後、目の前を影が通り過ぎ、激しい金属音が響いたかと思うと、迫って来ていたゴブリンロードの大剣が打ち上げられゴブリンロードが体勢を崩す。


「お待た…せ」


 そこに居たのは淡い金色の髪の小柄な女性。その体程もある大斧を肩に担ぎ、ウルヒムに背を向ける形で立っていた。


「ルーナ殿、恩に着る」


「…ん、これは任せ…て」


 そうウルヒムに声を掛けたルーナは聖戦斧シルフィードを軽々と片手で一振り、ゴブリンロードを袈裟斬りにし、振り抜いた斧を返し、前のめりに倒れるゴブリンロードの首を切断した。


「ははっ……俺達が苦戦したゴブリンロードをたったの2発で……」


 これでまだ18才の女の子だってんだから嫌になる……俺も負けてらんねぇな。


 そんな事を考えながら苦笑いを浮かべるウルヒム。


「押し返す…よ」


「おう! 頼れる御仁が来てくれたぜ! てめぇら奮闘しやがれ!!」


 ルーナが救援に駆けつけ、ゴブリンロードを倒した事により、隊の士気が一気に上がったウルヒム隊。見習い騎士も含め、恐怖から解放された騎士達がゴブリン軍を押し返す。


 数分後、中央の魔法騎士団を襲ったゴブリンロードも片付き、その直後、撤退の合図が鳴り響く。


 騎馬隊が戦闘中の軍と、押し寄せるゴブリンの間に割り込み分断すると、騎馬隊以外の隊が目の前に居るゴブリンを片付け、一斉に撤退を始めた。


 敵が逃げた事により調子づいたゴブリン達が追撃を掛けようとするが、騎馬隊が撹乱して後を追わせない。


 他の隊がゴブリンから一定の距離離れたのを見計らって、騎馬隊も撤退を始め、その後をゴブリンが追ってくる。



ーーーーーーーーーーーーーーー



 ━━撤退する軍の中央を走る僕達冒険者隊、撤退を始めて1kmほど進んだ辺りで僕の横を走っていたティガが話し掛けてきた。


「ガウッ、ウガウッ(おかしいのだ、気配は無いのに其処ら中から人間の匂いがするのだ)」


「人間の匂い?」


「ふむ、認識阻害結界に隠れ潜んで居るようじゃな」


 僕達がそこを通り抜け、騎馬隊が僕達に追い付いて来た直後、追い掛けて来たゴブリン軍の中央を分断するように左右から突然騎士団が現れ挟み撃ちにした。


 そして再び進撃の合図が鳴り響く。


 僕達は踵を返し、再びゴブリンの群れに突撃した。援軍と共に追い掛けて来ていたゴブリンを殲滅する。


 不意を突かれゴブリン軍はあっという間に壊滅。この日、僕達は快勝し、怪我人は出たものの死者は0だった。


 そして、凡そ3万のゴブリンの死体が地面を埋め尽くした。

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