第66話 シルビアの姐さん
ギルド職員のルイルスさんが騎士団に相談に行ってから20分ほど経ったけど、冒険者達の指揮官争いは治まらない。
もめているのは金ランク冒険者だけ、銀ランク以下の冒険者達はその状況を静観している。
我こそはと、1人が名乗りを上げ、名乗りをあげる度、他の冒険者からお前には相応しくないと野次が飛び、言い争いを繰り返している。
何人かは殴り合いをしている人も居た。
「お待たせしましたルーナさん。騎士団から素晴らしい方が来てくれましたよ」
僕達が呆れながら争う冒険者達を眺めていると、後ろからルイルスさんがルーナさんに声を掛けてきた。
振り返ってみると、そこに居たのはシルビア様だった。
おや? この前と装備が違うな。
「シルビア様が来てくれたんですね。今日は先日と装備が違うんですね」
「ああ、今回の相手はゴブリンの群れだからな少し軽めの装備にしてみたんだ。変か?」
「いえ、カッコいいと思います」
「…ん、似合ってる…よ」
シルビア様の装備は少し青み掛かった銀色のドレスの様な鎧、鎧と同じ色のティアラの様な兜、逆三角形の長盾、武器は長剣だ。
「騎士団にはそういう鎧もあるんですね」
「そんなわけ無いだろう? これは私の私物だ」
「私物? ……ですか?」
「ふふっ、今回、私は冒険者の指揮官だからな、あんな不カ……もとい、見分けがつきやすい装備にしてみたのだ」
……今、不格好って言おうとしたよな? 騎士団の装備、気に入ってなかったんだ……
シルビア様の装備は、休日にコツコツ材料を買いに行ったり採取したりして集めて国家工房で特注で作ってもらった1品物で、見た目はヴァルキリーメイルを元にしているらしい。材料はミスリルとコバルトメタルの合金で耐物耐魔に優れた鎧、兜までがセットになっている。市販されているヴァルキリーメイルに比べると段違いの性能に仕上げられているらしい。盾はアダマンタイトとオリハルコンの合金、これは耐熱、耐冷、耐雷の術式を刻み込んだ魔法盾、剣はアダマンタイト製の真っ黒な剣身の火属性魔法剣。総額は、なんと300万ゼルを超えているらしい。
300万……うちの家を3軒建ててお釣りがくるな……それにしてもコバルトメタルなんてよく手に入れたよな、オリハルコンもだけど……
コバルトメタル。サファイアの様に綺麗な青い半透明の金属。強度としなやかさに優れた希少な金属で、岩山等に棲息するロックドラゴンと呼ばれる岩を食べる恐竜系モンスターが消化した残りの金属質が体内で変質し排出される言わばウン◯だ。ロックドラゴンは世界的にみても数が少ない希少なモンスターなのでコバルトメタルはオリハルコン並に入手難度が高いのだ。
「さて、話が脱線してしまったが、もめているというのは、本当だったようだな」
「…ん、ずっとやってる…ね」
「大規模戦闘の指揮官やって貢献ポイント稼ぎたいんでしょうね。白銀ランクになると稼げるクエストも増えますし」
「そういう仕事だから仕方ないと言えば仕方ないのですが……はあ……ちょっと止めて来ますね」
ルイルスさんが項垂れて頭痛でもしたかのように額を押さえ、もめている人達の近くへ歩いていった。
「皆さーん! 落ち着いて! 静かにしてくださーい!!」
ルイルスさんがもめている金ランク冒険者を宥め落ち着かせる事10分、やっと静かになった。
「はーい注目! 今回の皆さんの指揮は、このシルビア様にやって頂きます!」
「ウォルタナ正騎士団、防衛騎士副団長のシルビア・ラヴァンガだ。ルイルス殿とルーナ殿に依頼され君達の指揮を取る事になった。宜しく頼む」
ルイルスさんが全員の視線を集め、シルビア様が自己紹介をすると、冒険者達からどよめきが起こる。
「ちょっと待てよ。なんでお前らが勝手に決めてんだ? ルーナがやれねぇってんなら、金ランクの俺達の中から選ぶのが筋ってもんだろうが」
「そうだ。俺達は腕っぷし1つで成り上がってきてんだ。副団長だかなんだか知らねぇが、実力も解らねぇ奴に命令されるのは我慢ならねぇ」
「「「「「「「「そうだ、そうだ!」」」」」」」」
金ランク冒険者の1パーティーが前に出て来てパーティーのリーダー格2人がシルビア様を指差し文句を言うと、それに続いて他の金ランク冒険者達が同意する。
「ふむ、ではどうしろと?」
「まあ、簡単に言えば、俺たちゃ弱い奴には従えねぇ。上に立ちたきゃ俺達より強いって事を示せ」
「ふっ、解りやすくて良いな。君達4人はチームなのか?」
「ああ、そうだ」
「ならば君達4人纏めて倒せば文句はないな」
シルビア様が軽く微笑んで、文句を言ってきた冒険者達にそう言うと、彼らの表情があからさまに殺気を帯びる。
「あぁ!? 4人を相手にするだと? なめてんのか!?」
「実力を示せと言ったのは君達だろう? 他にも納得のいかない者はチーム単位で相手になろう」
顔を真っ赤にして睨みを利かせる男達を意に介さず、シラッと返事をし、他の冒険者達にまで挑戦を受けると宣言するシルビア様。
金ランク冒険者パーティー達は怒りを露にする者、馬鹿にしたように失笑する者、様々だけど、全員が不快感をもったようだ。
「クソが! 吠え面かかせてやる」
冒険者達は円を描くように広がり場所を開け、その中央辺りでシルビア様とさっきの金ランク冒険者パーティーが向かい合っている。
「なんか凄い事になっちゃったね。シルビア様、大丈夫かな?」
「…ん、問題な…い」
「そうじゃな、立ち振舞いを見る限り、あの4人が相手ならシルビアという者の方が強いのじゃ」
シルビア様は確かに強い……けど、相手は仮にも金ランク冒険者パーティー、全員が金ランクってわけじゃないけど、1対4は厳しいんじゃないかな?
僕がそんな心配をしている間に試合が始まった。
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冒険者達が囲む中央にシルビア様と冒険者達が対峙している。
冒険者達の武器は槍、双剣、弓、杖。前衛2人に後衛2人のバランス型パーティーのようだ。
「さあ、偉そうな口叩いた実力を見せてもらおうか?」
「いつでも掛かって来や━━ギャボッ……ン……」
パーティーの前に居た2人の内、槍を手にしていた冒険者が話している途中、5mほど離れた場所から一瞬にして距離を詰めたシルビア様が長盾を前に構えたまま突進、シールドクラッシュという技で猛牛の如くはね飛ばす。
槍の男も避けようと反応はしたものの、回避は間に合わず弧を描くように錐もみ状に回転しながら地面に激突、そのまま失神した。
「て、てめえ、汚ぇぞ!」
「汚ない? 掛かって来いと言ったのは彼だぞ? だいたい、実戦で対峙した相手が開始の合図を待ってくれると思うのか? 油断しすぎだ、馬鹿者!」
「屁理屈こいてんじゃねぇ!!」
全くの正論を返された双剣の男が斬りかかり、それをシルビア様が難なく盾で防ぐ。その隙に弓の男と杖の男が左右に移動し、シルビア様の死角に回り込もうとしていた。
その動きを見ていたのか、シルビア様は双剣の男に詰め寄り盾を押し込み双剣の男の体勢を崩すと、いつの間にか剣から持ち変えていた右手の投擲用ナイフを双剣の男からは目を離さず、3本同時に弓の男に向かって投げた。
「ぐあっ!!」
完全に不意を突かれた弓の男は1本は避けられたものの残りの2本を右肩と左足に受け、跪く。
「なっ!? てめえ、後に目でも付いて━━」
「無駄口が多い!」
「━━カッペッ!」
シルビア様の動きに驚いた双剣の男の頭部を、剣の腹で殴打するシルビア様。双剣の男がぶっ飛び、白目を剥いて地に伏す。
「さて、あとは君だけだな、どうする?」
「やめとくぜ、タイマンで勝てる気がしねぇ」
「そうか」
そう言ってシルビア様が杖の男に背を向けようとしたその時、杖の男がニヤリと口元を緩ませ杖を翳した。
「ボムブレッド!」
杖から放たれた火の中級魔法。4つの火球がシルビア様の背後から襲い掛かり、着弾と共に爆炎が舞う。
「なっ!? 卑怯だぞ!」
僕は思わず叫んだ。
しかし、爆炎が収まると僕の視界に飛び込んで来たのは、杖の男の首に剣を当てているシルビア様の姿だった。
首が少し切れているのか、男の首から血が滴っている。
「悪くない攻撃だったが、不意を突くなら顔に出さぬ方が良いぞ? それと、相手が油断しているかぐらいは判断出来ねばこうなる。まだやるか?」
「ま、参った。本当に降参だ」
杖を手放し力なく手を下ろす男、シルビア様が剣を離すと、男は腰から崩れ落ち座り込んだ。
あっという間に4人を倒したシルビア様。回りで見ていた冒険者達は固唾を飲み静まり返る。
「ルイルス殿! 怪我をしている者を回復術士に診せてやってくれないか?」
「いや、俺がやるよ。これでもパーティーの支援役だからな」
杖の男が立ち上がり、ルイルスさんを静止すると、メンバーの元へ歩いていき回復魔法で治療する。
「さて、他に納得のいかない者は居るか?」
誰も返事が出来ず、隣の人と顔を見合せ、金ランク冒険者を先頭にシルビア様の前に整列し始めた。
「「「「「「「シルビアの姐さん! 宜しくお願いします!」」」」」」」
全員が声を揃えて頭を下げる。
シルビア様は完全に認められたようだ。
まあ、金ランク冒険者パーティーを1人で相手にして圧倒出来る人なんて、この場には他にルーナさんとエリーさん以外には居ないから当然か……それにしても強すぎでしょ?
━━指揮官も決まり、シルビア様の采配で、金ランク冒険者がリーダーを務めるパーティーを中心に小隊が組まれる。
中心パーティーのリーダーを小隊長に任命し、18の小隊が出来上がった。
僕は当然、ルーナさんが小隊長の小隊。ルーナさんのサポートにはエリーさんが付く。残念ながらサトスのパーティーとは別の小隊になってしまった。
小隊長の下にはパーティーのリーダーをしている銀ランク冒険者が分隊長になり、シルビア様からトップダウン式で指示がスムーズに下りるようになっている。戦闘中の細かい動きはパーティー単位で判断する。
「いいか!? 実力に見合わない相手は上位ランクのチームに任せろ! 絶対に無謀な事はするな! 必ずリーダーチームを中心に小隊単位で動け! 良いな!?」
「「「「「「「「「はい! シルビアの姐さん!」」」」」」」」」
すっかり姐さんの位置に収まったシルビア様、特にシルビア様に倒された冒険者パーティーはすっかり惚れ込んだようで、雑事なんかは率先してやるようになっていた。
━━そして、シルビア様は騎士団の作戦本部に戻り、戦略会議が再開され、僕達冒険者隊は討伐第一陣に組み込まれる事になった。
昼食を済ませ、第一陣がアタランテを出発、その日の内に目的の森との中間地点にある小さな村に移動した。




