第65話 出陣前日
話の後半、三人称視点に変わります。
アタランテに到着した僕達だったが、どうやら早く着きすぎたようだ。ゴブリン討伐に向かうのは他の冒険者と王都からの正騎士団の到着を待ってからになる。
現在、ギルド専属の従魔士が鳥型従魔を飛ばしてゴブリンの状況を調べている最中らしい。
調べによるとゴブリン達は現在、森からこちらに向かって攻めてくる気配はないらしく、今のところ警戒はしなくても良いという事だ。
予定では、明日中に騎士団がアタランテに到着、作戦会議を経て、出発はその後になるという事だ。
現在僕達は、サトスさん達(特にサトスさん、ダナンさん)の強い希望でフェリシア達を連れに行ってくれたエリーさんの帰りをアタランテの町の中央広場で待っている。
エリーさんの話だと、3時間程で戻って来れるらしい。
いつもなら片道それくらい掛かるのに……本気で飛んだらどれくらいのスピードが出せるんだろう?……
「そろそろだな」
「ああ、楽しみだ」
やたらとウキウキしているサトスさんとダナンさんが気持ち悪い……
「アステル」
「何ですか? メインさん」
「その敬語なんだけどさ、私達に話す時も敬語なんか使わなくて良いわよ」
「そうよね。私達だって結構付き合い長いんだし、あんたも一々使い分けるの面倒でしょ?」
「それもそうですね」
「そうだぜアステル。俺達ダチだろ? だいたい、俺達がタメ語でしゃべってんのにいつまで敬語使ってんだよ」
「そうだな、名前も呼び捨てで良い」
うーむ、最初に会った時から敬語で話してたから気にした事なかったけど、敬語って案外不評なんだな……
「うん、解った。これからは敬語もさんも無しで話すよ」
僕がそう言うと、サトスさん達はニカッと笑って拳を突き出して来る。僕はその拳に1人ずつ順番に拳を合わせる。
敬語を止めた。ただそれだけの事なのに、サトスさん達との距離がぐんと縮まった感じがするな、もっと早くこうしてれば良かったよ。
「戻って来たみたいだ…ね」
日が沈んで辺りが暗くなってきた頃ルーナさんがエリーさんを発見したようだ……が、僕には全く見えない。
「どこ?」
「あの辺だ…よ」
ルーナさんが指差す方を見てみるが、やっぱり見えない……
ルーナさん、目の良さが半端ないな……
それから数秒後━━
「「いやあぁぁぁーーー!!」」
「ギァオォォーーーン!!」
悲鳴と共に上空からフェリシアとアリシアを両脇に抱えたエリーさんと、涙を流すティガが降ってきた。
「お帰りエリー、お疲れ様」
「早かった…ね」
「うむ、少々時間は掛かったが疲れてはおらぬぞ?」
予定より20分ほど早かった……これでもまだ全力は出していないらしい。
それでもフェリシアとアリシアには刺激が強かったらしく、立つことも出来ず、エリーさんに抱えられたまま、ぐったりしていた。
ティガは地面に伏せてガタガタ震えて、思念で『地面大好き、空嫌い、もう離れない』と、繰り返し伝わってくる。
思考が駄々漏れになってるな……
全員揃ったところで僕達は居酒屋に移動。ティガは歩けないほど腰を抜かしていた為、部屋魔法に入れた。
フェリシア達はまだエリーさんに抱えられたままだ。
━━エリーさんが2人(プラス1匹)を連れに行ってくれている間に予約していた居酒屋に到着し、個室に案内された僕達。
「紹介するよ。僕達のパーティーに新しく入ったフェリシアとアリシア」
「「宜しくお願いします」」
乾杯が終わって早速2人を皆に紹介した。
「どっちがどっち?」
「解らん」
「同じ顔ね」
「天使だ……」
サトス1人だけ意味不明な感想を漏らしているけど、皆2人の見分けがつかないみたいだ。
似てることは似てると思うけど見分けつかない程じゃないと思うんだけど?
「こっちの少し髪の色が明るめで、目の細いのがお姉さんのフェリシアで」
「フェリシアでーす」
「こっちの髪の色が少し暗めで、目が大きいのが妹のアリシア」
「アリシアだよ」
「……違いが解らん」
「同じにしか見えないね。カレン解る?」
「無理、見分けがつかない……」
「天使だ……」
4人ともフェリシア達をマジマジ見つめて考え込んでいる。
「よく見て、はっきり違うから」
「いやいや、あんたがおかしいのよ。これだけ似てたら見分けつくわけないでしょ?」
「アステルが特異体質なだけよね。ルーナさんの表情の違いが解るわけだし……」
「そうだな、まあ、どちらも可愛い娘だというのは解った」
「可愛いだなんて照れますよぉ」
「お上手ですねダナンさん、誉めても何も出ないですよ?」
「ルーナの表情の違いだって解らない方がおかしいんだよ。凄く解りやすいだろ?」
「「「「「「それが解るのはアステルだけだ(なのじゃ)」」」」」」
「あうっ、エリーまで……」
メイン達だけじゃなく、うちのパーティーメンバーまで声を揃えて責めてくる……なんで? 解りやすいよね? ルーナさんの表情……
そんな中でサトスだけはボーっとしたままフェリシアとアリシアを見つめて心ここに有らずといった感じだ。
「サトス? おーい、サトス君?」
呼び掛けても返事がない……
「なーに呆けてんのよアンタ」
あ、酷い……呆けているサトスの後頭部をカレンが、とても良い音で平手打ちする。
「ダメだね。聞こえてないみたい」
「惚れた! フェリシアちゃん、好きだ俺の嫁になってくれ!」
「「「「「「「「ええー!!?」」」」」」」」
初対面で何もかもすっ飛ばし、いきなり求婚を迫るサトスに全員が度肝を抜かれた。
「落ち着けサトス」
「何、馬鹿な事言ってんのアンタは」
「初対面でいきなり求婚とか、付き合いの長い私達でもドン引きだよ?」
「初対面とか関係ねぇ、運命を感じた。俺にはフェリシアちゃんしか居ねぇ」
ダナン、カレン、メインの3人が正気を失っているサトスを宥めようとしているがサトスは全く聞き入れる気配はない。
そのセリフを聞いたフェリシアとアリシアは黙ってマジックバッグを持って部屋の外に出ていってしまった。
「アンタが馬鹿な事言うから怒って出ていったじゃない!」
「サトス、ものには順序ってものがあってだな」
「はあー……処置無しね」
怒って出ていったって感じじゃなかったけどな……
この状況で、エリーさんとルーナさんはあまり気にする事なくお酒と食事を楽しんでいる。
ルーナさんとエリーさんも2人が怒って出ていったんじゃないと解ってるみたいだ。
5分ほどして戻って来た2人は髪型と服を同じに揃えていた。
「さて、どっちがフェリシアでしょう?」
「解るかな~」
一目瞭然なんだけど……
「当然、愛する人を間違える訳ないじゃないですか、君がフェリシアちゃんだ」
立ち上がってよく解らない香ばしい決めポーズしながらアリシアを指差すサトス……ダメじゃん。
「サトス、そっちはアリシア……」
「「アステルが正解」」
いや、普通に間違えないから……
「……愛する人を間違えるのは無いわぁ」
「ここは当てなきゃダメだよ?」
「この場面で2分の1を外すか……」
香ばしいポーズのまま固まったサトスから哀愁が漂っている……
「私達の見分けもつかない人にお姉ちゃんは任せられません、諦めてください」
「残念でした~」
「グファッ!!」
残念でしたと言われて崩れ落ちるサトス━━
「もう1回、もう1回チャンスをくれ」
「うーん、しょうがないですねぇ、もう1回だけですよ?」
そう言って再び部屋から出て、戻ってくる2人。
「君がフェリシアちゃんだ!」
「ざーんねーん、またハズレですー」
再び間違うサトス。この後5回チャレンジしたけど全部「ざーんねーん」と、言われてサトスが立ち直れなくなったところで終了。
本当は1度だけ当たってたんだけど、7回やって6回外す時点で終わってる恋だった。と、言う事で教えてあげなかった。
「うちのメンバーは私達を間違えて呼んだ事ないんですよ」
「親以外で私達の見分けついた人って居なかったから驚きですけどね」
「本当? 凄いわね。ルーナさんやエリーさんはどうやって見分けてるの?」
「…ん、見れば解る…よ」
「我は顔の違いではなく魔力の色じゃな、これは指紋等と同じで全員違うからのう」
「魔力に色が有るの?」
「全く見えないけど……」
「人間族には見えぬようじゃな」
この後、2人の見分けがつかない人の為にフェリシアがカチューシャを着けて交流を深め、宿に泊まった。
━━2日後の朝、アタランテの町の西門の外に正騎士3万人(見習い含む)、冒険者約3千人が集まった。
この国では大きい方であるアタランテの町でも、この数の人を宿泊させるだけの設備は無く、殆どの騎士団員と冒険者は町の外で野営している。
僕達冒険者は騎士団が集まっている北側に集められギルドの職員さんから説明を受けていた。
集まった冒険者は、白銀ランク1名、金ランク46名、銀ランク540名、青銅ランク1872名、鉄ランク597名、計3056名。
ダンジョンの難易度が高い所為か、一番多いはずの鉄ランク冒険者の数が少な目だ。
今回、残念ながらリオンさん達は別の依頼でダンジョン奥地に行っているので、ここには居ない。
冒険者の指揮を取るのは最も高いランクの冒険者になるので、白銀ランクのルーナさんが指揮をとる。と、いう事になるのだけど、ルーナさんはそういうのが得意ではない……と、言うより苦手だ。
冒険者を纏める事も騎士団と作戦について話し合う事も難しいルーナさんは指揮を辞退。代わりの誰かを選ばなくちゃいけないんだけど、金ランク冒険者から選ぼうにも、立候補者は居るけど誰になっても納得出来ない人が居て纏まらない。終いには喧嘩が始まったりする始末……
「困りましたね。ルーナさん、本当に難しいですか?」
「…ん、無理だ…ね」
ギルド職員さんに尋ねられルーナさんはあっさりと無理だと言い切った。
「騎士団から指揮出来る人に来てもらうっていうのは無理なんですか?」
「うーん、どうでしょう? 頼んではみますけど……」
結局、冒険者の中からは選出が難しいという事で、僕の意見をしぶしぶ採用してギルド職員さんが騎士団に相談に行ってくれた。
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その頃、騎士団の仮設本部ではゴブリン討伐における作戦会議が行われていた。
「ゴブリンごときに我々が出る必要はなかったのではないか?」
「ゴブリンといってもキングも居るのだ。油断していると足元をすくわれるぞ」
「キングなんて言っても所詮はゴブリンだろう? 構え過ぎるのも如何なものかとおもうのだが? オルネイ」
「デルゼイ、数年前にベルンゼムがゴブリンキングの発生で大打撃を受けたのを知らぬようだな」
「それは知っているが、所詮は小国の話」
「デルゼイ、分団長のお前がそんな事では困るな、我々がゴブリンキングの群と対峙するのは今回が初めての事、未知の敵を侮るな」
会議の場で、防衛騎士団長オルネイと口論していた前衛騎士団長デルゼイに正騎士団総団長ダルクスは厳しい表情で叱責する。
「はっ、申し訳ありません」
「特に今回は、見習い騎士も多く実戦に参加しているのだ。誰1人欠ける事なく戻って来れるよう、全力を尽くさねばならぬ」
「今回はアレの検証もするのでしょう」
「アレですか……上手くいけば対人戦でも役に立つでしょうな」
「今回のゴブリンどもは索敵に優れているようだからな、上手くいけば今後かなり有用になるだろう」
「失礼します」
集まった団長、副団長達が話し合いをしていると、1人の騎士に連れられ男性が入ってきた。
「私は冒険者ギルドのルイルスと言います。実は騎士団の方にお願いがあって参りました」
入って来たのは、先ほどルーナ達と話し合いをしていたギルドの職員、ルイルス。ルイルスは冒険者の状況を話し、指揮する人を借りられないかダルクス団長に視線を送り頭を下げる。
「はあ……そんなに纏まりが無いなら騎士団だけでやれば良いでしょう? 冒険者など大した役にも立たないのだから」
「馬鹿な事を言うなデルゼイ。冒険者はモンスター退治のエキスパート、彼らの協力は不可欠だ。お前は戦闘に関しては優秀だが、他を見下すのが悪いところだぞ?」
「……失礼しました」
「さて、指揮する者か……我々との連携も取れなくてはいかんからな、団長、もしくは副団長クラスでないと厳しいか……」
そう呟くダルクス団長の言葉にその場に居た分団長、副団長達の殆どが、あからさまに拒否の表情を浮かべる。
「私がやりましょう。オルネイ団長、構いませんか?」
そんな中で防衛騎士副団長のシルビアだけが立ち上がり直属の上司であるオルネイに声を掛ける。
「シルビア、本当に良いのか? 冒険者はこういった大規模戦闘には不慣れと聞く、纏めるのも厳しいぞ?」
「問題ありません。幸い知った者もおりますし、なんとかなるでしょう」
「ダルクス様、シルビアがこう申しております。任せても宜しいですかな?」
「面倒事を押し付けてすまぬな、頼むシルビア。では会議は一時中断するとして、1度冒険者達に顔見せをしてくると良い」
「はっ、お任せ下さい。行って参ります」
シルビアはダルクスとオルネイに頭を下げ、ルイルスに連れられ本部を後にした。




